綾小路side
村上が森に消えていった後、残ったオレ達も平田の提案で森に入る事になった。拠点を決めるとなれば先程いた浜辺は不向きである事と、日陰に入って体力を温存させる為だ。
平田は支給されたテントを嫌な顔せず運んでいる。
「ね、ねえ平田くん。本当に良かったの? その……村上くんを自由にさせて」
するとここでクラスの心境を代弁するかのように平田の彼女である軽井沢が恐る恐る質問した。村上の単独行動を許したことは誰しもが疑問に思ったからだ。
「大丈夫だよ軽井沢さん。無理矢理引き止めても混乱が生じるだけだから、一人で動くならそうさせておくのが一番だよ」
「そ、そうなの? でも、もし遭難してペナルティでポイントが減るかもしれないし」
「その事については心配ないと思うよ……よし、ここなら日差しも遮られるし、周囲に誰かいても話を聞かれなさそうだね」
平田はそういうと一旦止まり、クラス全員に腰を据えるよう促した。それを確認すると平田は話を続きを再開した。
「みんなも疑問に思っているだろうから話すけど、村上の単独行動を許したのにはちゃんとした理由があるんだ」
「理由? それって、スポットを探させるためかよ」
「その通りだよ山内くん。どの道拠点を決めるために探索するべきだったしね。どこに腰を据えるかでポイントの消費にも大きく関わってくるから。その危険を一人で勝手に負うって言うんだから好きにさせた方がいいと思ったんだ」
そこまで聞くと生徒達も納得していった。確かに村上を制御できる者はこのクラスには存在していない。能力で言えば高円寺が同等かもしれないが奴も唯我独尊を貫いているので村上と同種だ。無理に誰かを同行させても村上が何かをする危険性がある。そうなるとあの時の平田の判断は間違ってはいないだろう。
「勿論村上一人にやらせるつもりなんてないさ。この後僕らも志願者を募って探しに行こうと思う」
「だが平田。仮にそれが目的だとしても村上自身が遭難する可能性だってあるだろう」
するとここでまたもや幸村が指摘してきた。
「それもさっき言ったけど、心配ないはずさ。思い出してみてくれ。さっき村上が一人で森に入る前『他のスポットを探しに行った方が生産的だ』って言っていたんだよ」
「……あ」
それを聞いて一人の生徒が何かに気づくと他の生徒らも理解した。そこで堀北がその推察を口にする。
「他のスポットということは……彼は既にスポットを見つけていたとでもいうの?」
「恐らくはそうだろうね。そして奴が言った『すぐに見つけられるさ』っていうのも僕らが浜辺から移動して初めに見つけるであろうスポットの目星はついてるんだと思う」
「マジかよ……」
まだ試験は始まったばかりだというのに鍵となるスポットを見つけたであろう村上を異質に感じ、生徒達に響めきが広がった。
だがオレはそれよりもその仮定にまで行き届いた平田に感心を覚える。
「(平田洋介……思っていた以上に優秀だ。須藤の件で精神面に不安があったが何とか立て直している。これなら問題ないだろう)」
オレがそう思っていると一人の女子生徒に新たな疑問が生まれた。
「でもどうやって気づいたのかな? スポットの位置なんて誰にも分かるはずないのに……」
「いや、それは違う。学校側はスポットに関するヒントを与えていた」
「え……」
オレが言った一言でDクラス全員の視線が集まる。本来ならここで、というより卒業するまで目立つ行為はしたくなかった。しかし、ここまでの流れがあるのならオレの狙いが叶うかもしれない為発言する事にした。
「どういう事かしら、綾小路くん」
「船は桟橋につける前、島の外周を一周した。アレが学校側が用意したヒントだったんだろう。観光で回るにしても旋回が速すぎた。それにアナウンスも『意義ある景色〜』なんて変な言い回しは普通しない。他クラスの移動が早いのもそれを見抜いた生徒がその場所に行ってるんじゃないのか?」
「そんな意味があったなんて……」
「す、すげえよ綾小路! お手柄じゃねえか!」
「本当っ、綾小路くん頼りになる〜!!」
クラスメイトから賞賛されるとこそばゆい気持ちになった。慣れない事でオレも少なからず動揺してしまう。
「たまたま島を見てて気付いただけだ。確証はなかったから言わなかったが平田の推察を聞いてピンときたんだ」
「それでも凄いよ綾小路くん。という事はスポットに目星はついているのかな?」
「ああ、それらしい所に一つ心当たりがある。案内するからついてきれくれないか?」
「勿論さ! ならまずは偵察として少数で行ってみよう。僕が同行する。みんなはそれまでここで待っていてほしい」
そんな事があってオレは平田と共に目的としていた洞窟へと向かうのであった。
◇◇◇
村上side
無人島の森は様々な植物が生い茂っていて自然豊かな環境だった。俺はその中を最初に予定していた目的地まで異世界で培った身体能力をフルに使って移動していた。
「……やっぱりここはただの無人島とは違うみてえだな」
移動している中で島の様子を見た俺が抱いた感想だ。異世界にいた頃もこうした森で探索したことがあったが、熱帯気候に生えている植物は伸び伸びと成長しているせいで人の行手を阻んでしまう。しかしこの島の植物は所々生えない場があり正直不自然だった。
そこから導き出される結論は一つ、この島は学校によって生活できるよう手を加えられているのだろう。
「まあスポットを設置してる段階で薄々気付いてたけど……よし、ついたついた」
そう言って俺は目的地に到着して移動を止める。現在俺がいるのはこの島で一番大きい山頂の上だ。ここからだと島全体を見通せる事は勿論、海の上で停泊する客船の姿まで把握できた。
「(これを他の奴が見たら絶景とか言うのかね……俺には理解できないけど。まあいいか。さっさと始めちまおう)」
そう決めると俺は前髪をかきあげ、両眼の瞳孔を開いた。
ーーその《眼》の奥には紅い五芒星があった。それは微かに照らす光により線を浮き彫りにしていて五芒星を囲う三重の円には所謂魔術文字と言われる文様が幾重にも刻まれていたーー
「ーー求むは魔の根源、理を読み解き境界の祖を我の元に示せーー」
俺は起動となる一節の呪文を唱える。すると俺の《眼》に宿る紅い光はその輝きを増していく。すると俺の視界にある島から段々と淡い光が浮かび上がった。
その光は俺が魔法を行使する際に消費する『魔力』そのものである。
この世界の空気中には魔素は存在しない。この世界と異世界の法則は全くの別物であり、俺は異世界から戻って以降魔法の行使を制限されいた。
しかしこれには補足がある。それは大地・水・植物……こうした自然の摂理に存在するものには一定の魔力を宿しているのだ。
つまりこの世界には解明されていないだけで魔力自体は存在している。当然それは人間にも言える事であり【鑑定】にある魔力値も一定の数値が示されている。
だがそれを認識する事はこの世界の人間にはできない。だから魔力を持っていたとしても魔法は使えないのだ。
そしてこの眼はそんな魔力の量や質を視認する事ができる。異世界の人間でもできない力ーーこれが俺が持つ《眼》の力である。
だがこの《眼》には、いささか欠点がある。それは常時赤い光を放ってしまうのだ。使用しなければ抑えられるのだが《眼》に刻まれている五芒星は消える事がない。
故にいつもは前髪で目元を隠しているのだ。船に乗っていた時に使わなかったのもその為である。佐倉が驚いたのも眼に光をもった五芒星のマークが見えたからだろう。
そんな力を何故使おうとしたのか……理由は2つ。試験の要である新たなスポットの把握と各クラス生徒達の発見である。
まずはスポット。俺が《眼》で捉えられる自然の魔力には雷ーー現代風に言えば電気も含まれている。島全体を見渡して様子を探ると雷の魔素の特徴である黄色のオーラを捉えた。
「1、2、3、4、5……全部で40箇所か。結構あるもんだな」
元々見つけていた場所に加えて森の陰で見えなかった箇所も判明し、俺は無人島に存在する全てのスポットを把握した。
次に各クラスの生徒達だが…これは集まった人間の魔力がいくつか見えたのですぐに分かった。【視覚拡張】と併用してよく見てみる。
まず確認したのはCクラス。海辺のスポットに全員集まっていて何やら話し合いをしているようだった。
次にDクラスが森の中で固まっているのが見えた。平田の指示で移動したのだろう。しかしそこで高円寺が一人集団を離れ海に向かって行った。どうやら指示を無視して遊びにいくようだ。
Bクラスはまだ探索中のようだったが向かう先に滝壺のスポットがあるのでそこを拠点にするだろう。
そして探していた本命であるAクラスは他とは違い特殊だった。Dクラスと同じように一箇所に固まっているのが半数。残りは2〜3人のグループをつくり船から見えていた各スポットに向かっていた。
「なんだあれ、偵察グループの編成が少なすぎるな。スポットの確認とは言えそんな少数で散らばるとか不用心にも程があるーー襲ってくれって言ってるようなもんじゃねえか」
俺は三日月の弧を描くような笑みを浮かべた。働いていない半数の生徒と少なすぎるグループ編成に違和感を覚えたがすぐに思考を止める。俺の目的はAクラスを潰す事なので関係ない事は考えないことにしたのだ。
「さあて、じゃあ早速やるか。一番近いAクラスの奴は……」
そうつぶやいて島全体を見渡しているとふと俺の目に止まったのは禿頭の頭とゴミの顔ーー葛城と戸塚が洞窟のスポットに向かう姿だった。
「あはははっ! こりゃあいい。本命の二人が孤立してるなんて好都合だ。よし、まずはこいつらにしよう」
そして俺は《眼》に眠る
ーーした直前。葛城達以外の魔力が近づいている事に気づいた。
「あ? あれは……綾小路と平田か?」
予想外の人物らがいたせいで俺は力の解放を中断させ首を傾げた。何故あの二人が行動しているか疑問だったが、あそこにいては葛城達を秘密裏に襲う事ができなくなる。
そんな事を考えていると葛城達は洞窟の手前で綾小路達と鉢合わせてしまった。これにより俺の暗躍が邪魔される結果となる。
「はあ? ふざけんなよこの野郎。とんだ災難じゃねえかっ……」
俺は不機嫌な声を上げながら何をしているのか気になったので洞窟のスポットへ向かった。
異世界の身体能力で洞窟のスポットにものの数分で着くとどうやら会話をしているようだった。俺は【気配遮断】で木の陰に隠れ【聴覚拡大】で会話を聞き取った。
「一直線に来たつもりだったんだが……成る程。Dクラスにも学校側の意図を見抜いた生徒がいたという訳か」
「まあね。といってもこれじゃあお互いに占有は難しそうかな。今ここで占有してしまえばクラスのリーダーを二人に絞り込めるからね」
「へっ、そんな事ねえよ! 俺たちのクラスの半数はこの近くにいるんだ。そいつらを呼んじまえば済む話なんだよ!!」
葛城と平田が互いに分析しながら話す中で戸塚は得意げ叫ぶ。あいつ、かませ犬みたいな態度しか取らねえな。
「余計な事を言うな弥彦。既に試験は始まっているんだ。余計な事を話すな」
「で、でも相手はDクラスですよ? 知られても問題ないですって」
「Dクラスだろうと情報の露見は避けるべきだ。ここにいるという事は彼らも俺と同じくらいの知略を持ち合わせていることになる。だとすれば油断は命取りだーー村上の件もある。Aクラスの生徒であるなら他クラス全員から常に狙われていると考えておけ」
「す、すみません……」
戸塚は葛城の叱咤にシュンとなり大人しくなる。あいつ、事あるごとにDクラスを馬鹿にするな。レストランで俺に恐怖したのを忘れているのだろうか。おかげで俺は戸塚に対する憎悪が余計高まった。
葛城は戸塚を仕方なさそうにみるとその場で頭を下げる。
「クラスメイトが失礼な事を言った。謝罪する」
「構わないさ。この学校の仕組みならそう思うはずだよ。でも君が言った通り油断はしない事だね。僕らだってAクラスを諦めたわけじゃないから」
「そうか、それは頭に留めておこう。弥彦、いくぞ。残っている生徒を呼びにいく」
「は、はい分かりました! じゃあなDクラス! スポットなら他所を探すんだな!」
葛城が洞窟から離れると戸塚は懲りずに捨て台詞を吐き葛城の跡を追った。そのままAクラスが去っていくのを確認すると平田は肩の力を抜いた。
「まさか葛城くん達Aクラスがいたとはね。最初見た時は肝を冷やしたよ」
「それにしては冷静だったように見えたぞ。オレなんて何も話せなかったからな」
「あれでも精一杯だったさ。それにしても残念だね。戸塚の話を信じるなら今からキーカードをつくっても間に合わなそうだ」
「すまない。オレがもう少し早く指摘するべきだった」
「謝らなくていいよ。綾小路くんが学校側の意図を見抜けただけでも収穫さ。でもここはやめておこう。戸塚くんの言っていた話が本当かどうかはさておいてAクラスと事を構えるのは避けた方がいい。拠点は班を作ってみんなで探そう」
「そうだな」
平田の結論に綾小路が同意する。話を聞く限りこの場に来たのは綾小路が洞窟のスポットを発見したからだろう。それはつまり島の周りを回った意図を見抜いた上でそれを報告したことになる。
実力を隠していだはずなのに今になって何故その片鱗を見せてきたのか、俺は疑問を抱いた。
ポイントを得るため? だとしたら4月時点で動いているだろう。堀北の指示? 自ら名乗り出る動機としては弱いな。いろいろ考えてみたが全然分からなかった。
とはいえ彼らが何を話していたのかは把握したので俺は【気配遮断】を解いて陰から出た。
「残念だったなお前ら。折角スポットを見つけたのにAクラスに先を越されてよ〜。一応ドンマイッて言っておくぜ」
「!?……村上っ」
平田は警戒心丸出しの表情でこちらを見る。同じクラスだというのに失礼な奴だ。まあ心当たりはありまくりだけど。
そんな事を考えながら平田達の前に歩み寄ると綾小路が質問してきた。
「いつからいた? そして何で隠れてたんだ?」
「葛城がスポットに来たお前らを感心してた時からだな。隠れてたのは別に顔を出す理由がなかったからだ」
「ここにいたのは偶然なのか?」
「違う。スポット探しをしてたらお前らと葛城共がいるのに気づいただけだ。もう全スポットは探し終えたし興味が湧いたからな」
「何だと……?」
「なんだって…ッ!」
俺の言葉に綾小路と平田は驚きの声(綾小路は相変わらずの無表情だけど)を上げる。
まあ俺がクラスと分かれて数十分と経っていないからな。そう反応しても無理はない。
「疑うんだったら証拠を見せてやるよ。今から拠点にするのにベストなスポットへ案内する。それで真実と分かるはずだ」
「……いいだろう。着いていく」
平田は警戒を緩む事なく俺の言葉に頷く。綾小路もそれに従う。それを見た俺は拠点に最適なスポットがある場所に身体を向けた。
因みに俺の胸の内は葛城達を潰せなかった事による不完全燃焼で埋め尽くされていた。
「(……まあいい。今日の所はAクラスの拠点が洞窟なのを知れただけでよしとしてやろう。試験はまだ始まったばかりだしな)」
俺はそんな事を考えながら歩みを始めるのであった。
スポット数は作者の都合上40箇所にしました。原作では何個か厳密にはなかったと思うのでここはオリジナルです。まあこれからの話で変わる可能性はありますけど。