この学校のシステムを上級生から聞き出し、既に数週間が過ぎようとしていた。いつものように一人で席に座っていると普段とは違う事が起きた。
「おはよう山内!」
「おはよう池!」
なんと登校が遅い池や山内が既に来ていて、気味の悪い笑顔をしていたのだ。
「いや〜授業が楽しみすぎて目が冴えちまってよ〜」
「わかるぜ? 何てったってこの時期から水泳があるなんてさ! 水泳って言ったら女の子! 女の子といえばスク水だよな!」
……成る程。女の子のスク水姿目当てで早起きしたって訳か。別にその考えが悪いとは言わない。だが、池や山内程度の人間が女を手にしたいなら時と場合を選んだ方がいいと思った。現に二人の姿を見ていた一部の女子生徒もドン引きしている。
「おーい博士ー。ちょっと来てくれよー」
「フフッ、呼んだでござるか?」
そう言って池に呼ばれた外村ーー通称『博士』はパソコンで色々と操作をして、キーボードを叩いている。どうやら女子の胸のサイズをランキング付けして賭けをするようだった。何とも馬鹿馬鹿しいが、男子生徒たちはそんなこと気にせず群がっている。お前ら、教室に女子がいるの分からないのか…?
因みに俺はその賭け事に誘われなかった。まあ入学早々あんな事をした為仕方がない。それに俺個人としても参加したいとは思わない為、気にしないことにした。
それから数時間後、水泳の授業となり俺たちは更衣室に向かった。池や山内の元気はとどまる事を知らないかのように盛り上がっている。
そんな事を気にせず、俺は制服を脱いだ。
「……て、おわっ!? む、村上。お前その身体傷だらけじゃねえか」
俺の身体を見たとある男子生徒が驚きの声をあげ、他の生徒も見て驚く。俺の身体の至る所には大きな切り傷、火傷跡があり見るからに痛々しい。気になるのは当然だろう。
「まあ…中学時代色々あったからな。話しても面白いもんでもないし気にすんな」
俺は適当にあしらい、着替えを再開する。異世界で戦った後の傷ですとか言っても信じるわけないし説明も面倒だ。それにこうしておけばこれ以上深追いはしてこないだろうし、話題にも上がらないだろう。
そしてついにプールにつきしばらく待っていると、女子生徒達が更衣室から出てきた。
「長谷部がいない! ど、どういう事だ!? 博士……て、後ろだ!!」
「ンゴゴッ!!」
どうやら池達の目論見は失敗したようだった。言わんこっちゃない……黙ってたけど。
「ね、ねえ見てあれ……」
「どうしたの…て、うわっ!」
そんな事を考えていると女子生徒達が俺を見てヒソヒソと話をしていた。おそらくは俺の身体の傷のことだ。彼女達は俺を見て何を思っているだろうか、同情? 嫌悪? 少なくとも良い感情を向けてくることは無いだろう。
と、ここでクラスのアイドルである櫛田がスク水姿でやってきた。
「村上君、凄い傷だけど大丈夫? 水で滲みたりしない?」
「大丈夫だ。昔の傷だし問題ない。てか痛かったら普通に休んでる」
「そっか〜良かった〜。というか傷で分からなかったけど、よく見たら筋肉がしっかりついてるね。中学では何かやってたの?」
「まあ素振りとか体力作りはしてたからな。色々と試してたら自然とこうなった」
「剣道部だったって事? 凄いな〜、私も運動はできるんだけど得意なものがないんだよね……ちょっとさ、筋肉触らせてもらってもいい?」
「あ? 別にいいけど…」
「ありがとう。じゃあ早速…お〜硬いね〜。ちゃんと運動してた成果が出てるよ」
そう言って櫛田は俺の身体を触って来る。俺はそのまま何もできないので櫛田のスク水を見ることにした。こうしてみると彼女の身体はスク水によりラインが浮き彫りになっていて扇情的だ。
この子のスク水を脱がしたらどんな表情をするのか……そんな気持ちが頭によぎる。池達と似たような思考で嫌だが俺の女子に対する欲望は普通に存在していた。そんな事を考えていると櫛田が顔を赤く染めこちらを見ている事に気づいた。
「む、村上くん。そんなにジッと見られると恥ずかしいな……」
「あ、バレたか。目の前にあるもんでな。むしろ櫛田は俺の身体を触ってるんだしおあいこだろ」
「そ、それはそうだけど……何だか変な気持ちになっちゃうから…」
「お、おい村上っ! 俺の櫛田ちゃんをガン見すんじゃねえよ!」
「そうだそうだっ!」
池達は殺意を持った表情で俺につっかかってくる。こういう時だけいつものように怯えないから困ったものだ。俺はため息を吐きながらも殺意を持った目で池達を睨みつける。それに一瞬たじろぐが怒りがおさまりはしなかった。
「よーしお前ら集合しろー」
そんなふうに騒いでいると体育教師から声がかかり、生徒達は集まる事になった。
「見学者は16人か。随分と多いーーて、おおっ。村上、その傷は……」
「あー気にしないでいいっすよ。別に問題ないんで」
「そ、そうか。ならいいんだが……よし、なら準備運動をして泳いでいくぞ」
「あの先生、俺あんまり泳げないんですけど…」
「問題ない。俺が担当すれば克服させる。それに泳げるようになっておけば必ず役に立つ。必ず、な」
何とも含みのある言い方だ。ここにもSシステムのヒントがあるのだと感じる。他の生徒は全く気づいていないようだった。
そんな訳で水泳の授業が始まりしばらく泳いでいると先生からまた号令がかかった。
「よし、一通り泳いだ事だしこれから競争を始める。1位になった生徒には特別に俺から5000プライベートポイントを支給しよう。1番遅かった奴は補修だ」
「え〜マジすか」
池がそんな悪態をつくがポイントが貰えるという事で割と盛り上がり競争が始まった。
まずは少数の女子から始まっていき最終結果は水泳部の小野寺が一位。そして忌々しきクソアマの堀北が2位という結果になった。
何とも気に入らずイライラしていると男子の番になり第一走者が台の上に立つ。みると須藤や綾小路が立っていた。
その結果は須藤が一位。綾小路が10位だった。
「25秒…早いな。須藤、水泳部に入らないか? 練習すれば大会も狙えるぞ?」
「俺はバスケ一筋なんで。水泳なんて遊びですよ」
そんな声が聞こえたが、俺は別のことで頭がいっぱいだった。言わずもがなそれは綾小路の事。能力が優れているにもかかわらず、あいつは本気を出さずに競争したのだ。俺からしてみれば舐めプ以外の何者でもない。
「(実力を隠す方向性なのか……馬鹿が。力を持っていながらそれを使わないなんて、愚か者のクソ野郎じゃねえか。駄目だ、見ててイライラしてくる)」
俺は本気を出さない奴が大嫌いだ。舐めてかかってろくな結果も出さない癖に最終的にいい所だけを持っていくような人種はロクな奴がいない。異世界で過ごしてきた俺の持論である。
すると第二走者の準備がかかり、俺はジェラシーを払拭させるようにプールの飛び込み台に立つ。俺の隣のレーンには平田がいて、女子は平田に向けての歓声しかしていなかった。しかし、それもすぐに無くなることになる。
笛が鳴り、生徒達は一斉に飛び込んだ。一心不乱にばた脚を早く振り俺は一着を取ることに成功した。
だがそれは当たり前。俺の本当の目的はタイムにあった。
「2、22秒57……だと」
タイムを測っていた教師は驚いたようにタイムを宣言する。圧倒的な数値に驚いたんだろう。みれば見ていた生徒達も陰キャの見た目をした俺が出した結果に呆気にとられていた。まさに異世界スペックの肉体だからこそできる芸道だ。
「村上、お前水泳部だったのか? この速さは尋常じゃないぞ」
「昔泳ぎまくっただけですよ(海のモンスターと戦う為に散々泳いだからな……)」
内心でそう言いながらも俺は自分の泳ぎに満足した。そんな心境でいると、2位で泳いでいた平田が話しかけてくる。
「凄かったね村上君。僕じゃ全然叶わなかったよ」
「別に平田は水泳部じゃねえんだし気にすることでもないだろ。俺は経験者だからできただけだ」
そんな事を話していると、またもやプールが騒ぎ出す。みると第三走者の泳ぎが終わっていて高円寺が髪についた水を払っていた。
「こ、こちらも22秒台!?」
「いつも通り私の腹筋、背筋、大腰筋は好調のようだね〜。悪くない」
高円寺は満足したように頷く。どうやらこちらの実力者は本気でかかってくるようだった。
「む、村上も高円寺も早すぎるだろう。須藤、いけんのか」
「お、面白えじゃねえか。全員叩きのめしてやるよ」
池の言葉に須藤は意気込んでいたがその声にあまり覇気は感じ取れなかった。
そしてついに決勝戦。俺、高円寺、須藤は飛び込み台に立つ。
「やあ村上ボーイ。君がまさか私と同等の泳ぎを見せるとは思わなかったよ。久しぶりに私も楽しめそうだ」
「…随分と上から目線だな。お前に吠え面かかせてやるよ」
「おいお前らっ! 俺を忘れてんじゃねえぞ!」
そんな会話が発せされ、全員がスタートの体勢になると、笛の合図で一気に飛び込んだ。
この時点で須藤は出遅れるように距離を離されていき、俺と高円寺がアンカー争いになる。
俺は異世界の肉体スペックがあるにも関わらず、高円寺を離せないでいた。このまま拮抗するかのように俺たちはゴールまで泳ぎ、ついに決着がつく。
「21秒…村上と高円寺の同着だ」
『おおおおおおおおッ!!!』
プールに驚きの声が上がる。結果としては勝負がつかなかったが俺としては負けた気分だ。
「ドンマイ須藤。頑張ったぜ」
「……クソがっ!!」
須藤は励まされながらも悪態をつくのだった。
「村上、やっぱり5万ポイントやるから今からでも水泳部に……いや、事情があるのが分かるが…」
先生は俺を水泳部に勧めようとしたが傷跡のこともあり口籠ると最終的には断念したようだった。5万ポイントは魅力的だったが三年間拘束されると考えると割りに合わないのでそのままスルーした。
……しばらくして、俺は突然堀北への仕返しを思いついた。それは今しか出来ない事で堀北を確実に不快にさせる行動。それをスク水を着ているこの状況でできる事に気づいたのだ。
俺は堀北がプールサイドを歩いているのを確認して、移動速度を見極める。そして利き手の人差し指と中指を立てると魔力を込めた。
(いまだ。……“エアロスラッシュ”)
そう言って俺は風属性初級魔法である風の刃を堀北のスク水に目掛けて放った。
この学校が指定する女子のスクール水着は旧型とは違い、パイピングという紐が肩にかかっているタイプだ。故にその肩にかかる紐に向けて極小の風刃が放たれると……
ブチンッ!
「へ?」
ブルンブルンッ……。
「……き、きゃあああああああッ!!??」
「「「「「うおおおおおおッ!!!」」」」」
堀北のスク水の紐は風刃により切られ、胸が露わになったのだ。
堀北はその場にしゃがみ込み、男子生徒達は熱狂する。他の女子生徒は彼女の周りを隠すように囲んだ。
「こっち見るな男子っ!」
「堀北さん大丈夫?」
「え、ええ……問題ないわ」
堀北は強気に言っているが顔は真っ赤に染め上がり少しだけ涙ぐんでいるようだった。
「(へっ、ザマァ堀北〜。そのまま男子共のオカズにされるんだな)」
クズすぎる考えをしながら、俺は内心で歓喜する。ともかくこれなら誰かが何かをしたなどと疑われる心配もないだろう。我ながら魔法は便利で最高だ。
因みに俺も知らない櫛田の心境はというと……
(は! ザマァ堀北! 男子どもに胸を見られるなんてご愁傷様ね。そのまま男子共の妄想のネタにでもされろ!……)
偶然にも俺と同じことを思っていたが、誰も気づくことはなかった。
画してこの授業は堀北のオッパイがボインボインした件という事もあり、頭文字を取って『OBB事件』という名前で男子生徒の話題となったのであった。
出ました! 櫛田のスク水描写と堀北のトラブル展開!
これが書きたくて書きたくて仕方がありませんでした。