モモンとナーベの冒険~10年前の世界で~ 作:kirishima13
鈴木悟が没頭することになったそのゲームが発売されてからはや12年、ユグドラシルはサービス終了の時を迎えようとしていた。
システム開発当初それは画期的な発明であった。
脳波を感知し、脳とゲームサーバ双方向の情報通信技術の開発により現実世界と混同しないよう味覚と嗅覚の情報はないものの現実世界とほぼ変わらない仮想世界を実現させたのだ。
そして発売されたユグドラシルは未知を楽しむことを目的とした膨大な世界を冒険するという運営方針で瞬く間に前人未踏のシェアを獲得し、業界トップクラスの売り上げを叩き出した。
そして数々の伝説を生んだそのゲームに鈴木悟を含めたギルドメンバーたちも熱狂していたのだが、それも今は昔。
時の流れとともにライバル会社の台頭や新技術の開発などにより、かつては持て囃されたゲームも時代の流れには逆らえず終わりを迎えることは必然であった。
そしてそのサービス終了の日しがないサラリーマン鈴木悟は骸骨の姿でゲーム内にいた……といっても死亡したというわけではなくゲーム内のキャラクターを操作している。
「はぁ……いよいよユグドラシルのサービス終了かぁ……」
『モモンガ』、それが鈴木悟の操作するキャラクター名である。漆黒の豪奢なローブを纏った骨しかない体。そのひび割れた骸骨の眼には赤い光が宿っている。
レベルは最高である100レベル、アンデッド系最強種族である
「いろいろあったけど……この玉座も久しぶりに使ったな」
サービス終了が数分後に迫っている中、キャラクター『モモンガ』がいるのは、現実にはあり得ないような絢爛華美な空間であった。
天井にはためく旗の数々には金糸の刺繡が施されそれぞれにギルドメンバーのサインが彫られている。床には深紅の絨毯が玉座まで続き、物々しい漆黒の玉座に座るのは死の象徴ともいえる禍々しい存在だ。
しかしその禍々しい存在の口から洩れるのは疲れたサラリーマンそのものの声であった。
そこはモモンガたちが作り上げたギルド『アインズ・ウール・ゴウン』のギルド拠点にある玉座の間である。
現在モモンガがいるのはゲーム内に9つある世界の一つ『ヘルヘイム』のグレンデラ沼地。そこにモモンガたちの作ったギルド
「今日会えた人もいたけど……最後まで残ってくれた人はいない……か」
一番遅くまで一緒にいてくれたヘロヘロさんでさえ明日4時起きということでログアウトされてしまった。広々とした広大な玉座間には豪奢なローブをまとった骸骨のみ。
「最終日だし誰か攻め込んできてくれてもいいんだけどなぁ……」
モモンガは襲撃者を期待する。
アインズ・ウール・ゴウンはいわゆる悪役ロールを行っているギルドであり数々のPK行為により悪のギルドとしてプレイヤー間では認識されていた。
ギルドマスターであるモモンガに至っては『非公式ラスボス』と呼ばれるほどである。
最終日の本日、今まで攻略されたことのないナザリックに攻め入ろうとすろプレイヤー達がいるのではないかと期待していたのだが、それさえ来ない現状に一抹の寂しさを感じる。
「誰もいない中でサービス終了か……最後は派手に終わろうと思って花火とかも用意してたのになぁ……」
モモンガのインベントリの中にはこの日のために用意した花火が大量にしまわれていたのだが、一人で打ち上げるのも寂しく結局死蔵されたままだ。
しかしナザリック地下大墳墓にモモンガ一人であるというのは語弊があった、モモンガの周囲には人影が少なからずあるのだから。
玉座の間の脇に控えるのは漆黒の翼を腰から生やしたサキュバスたるアルベドだ。右前方には執事服の老人とそれぞれが独特の意匠を凝らしたメイド服を着たメイドたちが控えていた。
それに気づいたのかモモンガはふと呟く。
「いや、まだお前たちが残っていてくれたか……」
話しかけている相手は人の姿をしているが人ではない。
誰にも見られていないこともありモモンガはNPC相手の独り言を続ける。
「アルベド……ついにここまで攻めてくる敵はいなかったが……いままでご苦労だったな。いつか防御特化のお前を前面に出して戦ってみたかったな」
アルベドはナザリックにおける各階層守護者の統括という設定であり、100レベルの盾職として玉座の間を守護している。
モモンガはその美しいフォルムに感嘆の声を漏らしつつその顔を見つめる。さすがはギルドメンバーである『タブラ・スマラグディナ』が設定にも造詣にも凝りに凝った傑作NPCだ。
「お前は……セバスだったか。変身して戦う機会はついになかったが……いや、最後くらいはやらせてみるか!コマンド《竜人化実行》!」
セバスはギルドメンバーである『たっち・みー』の作成したNPCだ。人間のように見えるが実は竜人という異形種のモンクであり100レベルの実力を持っている。普段は第9階層から10階層を守護しているナザリックの執事という設定であった。
セバスはモモンガの言葉に反応し、両手を揃えて目の前で一回転させる。
すると眩い光とともにセバスの姿が竜人へと変わった。その体はキラキラと光る鱗に覆われ、執事服もヒーローモノの戦闘服のように変わっている。
「ぶっ!?エフェクト凝りすぎでしょ!ああ……そういえばたっちさんは変身ヒーローマニアだったか……。それにしてもコマンドにポージングまで仕込んでたとか……でも最後に見せてもらえて良かったよ。セバスおつかれさま」
笑いながらもセバスの肩をポンと叩き、続いて戦闘メイドと設定された
「ごくろうさん」
そして次に目を向けたのは黒髪のメイドだ。
三女と設定されたナーベラル・ガンマである。切れ長の黒く美しい瞳をしており、長い髪をポニーテールにまとめていた。メイド服もスタイルを強調するように非常に凝った作りをしており、作者のギルドメンバー『弐式炎雷』のこだわりを感じるものがある。
「うわー……ナーベラルも美人だよなぁ……まぁ正体は
モモンガがナーベラルの肩をポンと叩いた時、すでにユグドラシルのサービス終了時刻が迫っていた。
そして時計が時刻の0時0分を指したその瞬間……周りの景色は一変しモモンガは深い森の中に立っていた、肩に手をかけたナーベラルとともに……。