モモンとナーベの冒険~10年前の世界で~ 作:kirishima13
貴族の私兵たちに大人しく捕った後、その後どんな制度で裁くものかと知りたかったのだが、司法制度どころか結局裁判も何もなく彼らはモモンガを囲んで殴りつけてきた。
しかしモモンガは
どれだけ殴りつけられていただろうか。結局殴り疲れたのか私兵たちは諦めてモモンガを馬車に乗せるとモモンガは王都から遠く離れた場所まで連れて去られ、地下にある牢屋に入れられていた。
(あれ……裁判は?)
♦
数日が経過した。
この国には法律がないのだろうか。結局裁判というものはなかった。
しかしここに来てモモンガにも分かったことがある。まずここにはモモンガ以外にも囚人がたくさんいるということだ。それも皆屈強な肉体をした者ばかりである。
そして時折彼らは牢から出ていくと疲れ切って帰ってくる。そして中には帰ってこない者もいた。
その間、暇なのでずっとインベントリの整理をしたりナーベラルへ<
ナーベラルの報告によると冒険者としての名声はまだまだ得られていないらしい。『虫けら程度の依頼しかなく、成果を出せずに申し訳ありません』とのことだ。
(まぁ最初は最低ランクから始まるんだし簡単な仕事しか回してもらえないのかもなぁ。荷物持ちとか力仕事とかでもやってるのかな……。いきなり王族とコネクションが取れたりするわけもないし……)
モモンガとしてもそろそろここで情報収集を始めないといけないと思いながらインベントリの整理を続けていたその時、隣の房に入ってる体の大きいハゲ頭の男が話しかけてきた。
「よう、新入り。地獄の底へよく来たな」
「ん?ちょっと待て……これをここにしまってっと。よし。ああ、よろしく先輩。で、ここはなんなんだ?」
モモンガが禿げ頭にそう返すと大声で笑われる。<
「うはははははは。聞いてたとおりキモの太え新人だな」
「そうか?俺の名前は……」
「あー、ここじゃ名前なんて必要ねえよ。お前の呼び名はもう決まってるからよ」
「は?」
「そこの房の上に数字が書いてあるだろう。お前の名前は囚人ナンバー41だ。まぁ短い付き合いだろうがよろしくな」
「囚人ナンバー?なんだそれは?詳しく教えてもらえるか?」
何のことだか分からないが41とは縁起がいい。アインズ・ウール・ゴウンのギルドメンバーの数と同じではないか、とモモンガは気分を良くする。
気分良く男の話を聞いているといろいろと分かったことがあった。
まずはここは貴族が秘密裏に経営している闇闘技場であるらしい。そこには犯罪者や借金で首が回らなくなった者、誘拐され無理やり連れてこられた者など様々だが、囚人としてここでそれぞれ戦わされるらしい。
しかし本来なら国のためも使えるだろうこれだけの戦力をこんなところで使いつぶすなど許されるわけもなく、当然違法だ。
「それであんたの名前は?」
「俺は囚人ナンバー0。まぁおまえが生き残っていればそのうち対戦で当たるかもな。ははははは」
そう言って大男は大声で笑った。
♦
さらに数日語、大男の言う通り数日後に試合が組まれていた。もっとも相手は囚人ナンバー0ではなく、囚人ナンバー30~32の3人だ。
闘技場と聞いてモモンガは1対1のPVPを予想してたのだがそうでもないらしい。試合としてだけでなく虐殺ショーとしての意味もあるのだろう。
「殺せ!殺せ!殺せ!」
闇闘技場という場所はそれほど広くはなかった。ナザリックの
賭けも行われているようでチケットを売っている人間もちらほらと見られた。
「お前はこれからあの3人と戦ってもらう。勝てば賞金が出て、その分刑期も少なくなる。まぁ、ありえないことだけどな。へへへっ、どうせ死んじまうんだ。その前にその高そうな鎧は脱いでもらおうか」
モモンガを案内してきた男は闘技場の囚人ではなく関係者なのだろう。モモンガの兜を引き抜こうとするが、取られたら中身が骨だとばれてしまう。
「無駄だ。この鎧は脱げない」
「んなわけねえだろ……この……あれ、おかしいな……」
例え脱げたとしても魔法で作られたものなので魔法を解除すれば消え去ってしまうし、男の行為そのものが無駄であるのだが……。
「おい、はやくしろ!」
「へ、へい!……ちっ」
他の関係者に急かされて男は兜から手を放した。無実の罪の者を囚人としたり無理やり戦わせたり、着ているものをはぎ取ろうとしたり、思ったよりこの国は腐っているようである。
「みなさま!お待たせしました!この度は闇闘技場による格闘ショーをお楽しみください!」
闘技場の真ん中で司会と思われる人間が大声を上げる。審判兼司会者というところか。
そして司会による試合の説明によるとモモンガの相手は3人でどちらかが死ぬか試合続行不可能になるまで戦わせるようだ。
「それでは試合開始!」
審判の掛け声に前方の相手を見る。剣を構えた男二人と無手の男が一人がこちらを睨みながら構えている。HPも低く大した相手には思えないのだが……。
「ふむ……どうするかな」
相手の構えを見るにレベルは低いようだが剣や武術の心得があるように見える。
たっち・みーもリアルが警察官ということで剣道や柔道をやっていたのだろう。ユグドラシル内でも美しい構えをとり、それゆえに恐ろしいほどのプレイヤスキルを持ちワールドチャンピオンにまで昇り詰めた。あの技術には憧れたものだ。
一方、モモンガは武術の心得などないしがないサラリーマンである。魔法詠唱者としての技量はユグドラシルで鍛えただけあって自信はあるが武術はまったくの素人だ。構えも何もなく棒立ちである。
「うっしゃあああああああああ!」
男の一人が剣を中腰の構えのままモモンガへと向かってくる。街で自分に向かってきた兵士は威嚇のためか剣を振り上げたまま襲ってきたのでその動きを読めた。
しかしこの男は直前まで動きを読まれないようにしているのだろう。確かに直前まで手を隠しておくのは有効だ。
「なるほど……勉強になるな」
「しゃあ!」
剣が中段から下段に下ろされるとそこからモモンガの首に向かって斬り上げられる。喉を掻き切るコースだろう。
しかしモモンガは魔法詠唱者といえども100レベル。肉体能力だけでも30レベルの戦士以上はあるため見てから避けることは容易だった。
「はぁ!」
そう思ったのもつかの間、二人目の男が反対側に回り込んで腕の付け根を狙い剣で突きを放ってくる。それをモモンガはぎりぎりで躱すもそこには無手の男が待ち構えていた。
(やっぱり複数人相手だといくらレベル差があろうが手数では負けるなぁ……)
ユグドラシルにおいても数の力というのは個人の力を何倍にも増幅させる。強大な力を持ったレイドボスなどは仲間との連携なしに倒せないものだ。
もし同格の相手複数なら迷わず逃げるところであるがこの程度の相手ながらその必要はない。しかし、その手数はさすがに面倒である。
まずは無手の男を倒してしまおうと足を踏み出したところ……。
「あれ……?」
モモンガが地面に倒れ伏していた。
踏み出した瞬間、反対側の足を相手の足で押さえられ、手首を軽く引っ張られただけなのにクルリと体は一回転し背中から叩き付けられていたのだ。
(動きを誘導された……?)
これは俗にいう空気投げというやつだろう。相手の動きを利用して最低限の動きで投げられたのだ。
観客たちは投げられたということすら気づかずにモモンガが勝手に転んだように見えたことだろう。
「すごい……」
これは素直なモモンガの感想である。どう見ても男たちの膂力や素早さはモモンガに敵わないだろう。それに
ということはこれは純然たる技術であり、技であるということである、つまりモモンガでも習得が可能であるはずだ。
相手の技に感嘆しながら倒れていると、残った二人の男が剣をモモンガの鎧には突き立てようとして弾き返される。
困惑する男たちを余所にモモンガは笑いだす。
「あはははは。面白いな!」
ユグドラシルでもやろうと思えばできないことはない技術だが、ここまでの芸当を出来るのは『たっち・みー』クラスだけだろう。
ほとんどのプレイヤーは
それはそのはずだ。ユグドラシルにおけるプレイヤースキルと言うのはたっち・みーのような例外を除けば、技術より弱点属性をつくことや強大な威力の攻撃スキルや防御スキルを使用するタイミングといった知識の方が重要であったのだから。
だがモモンガの持ってない《技》が得られるならもっと上を目指すことができることだろう。
「今の技……もう一度やってもらおうか。俺にも習得できるか試してみよう!」
そこから会場は大いに盛りあがった。
いくら投げようが斬りつけようが立ち上がる不死身の戦士、囚人ナンバー41。その試合は、やがて対戦相手が疲れ果て動けなくなるまで続き、審判がモモンガの右手を天に突き上げる。
その日、闇闘技場に新たな人気選手が誕生した。