モモンとナーベの冒険~10年前の世界で~   作:kirishima13

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第12話 邪眼

 私の名はラキュース・アルベイン・デイル・アインドラ、いえ今は闇を駆る仮面の狩人とでも言っておこうかしら。

 

「風が……泣いているわね……」

 

 私は王都リ・エスティーゼ、中央広場にある時計塔の上から王都を見渡していた。時計塔に登ったことに意味はない……いや、これも我が内から湧き上がる闇の波動が望んだこと。

 

「うふふふふ、静まれ……静まるのよ。まだその時ではないわ……」

 

 私は顔に手をやり仮面のそのつるりした表面を撫でる。

 

「うん……なかなか良いわね!」

 

 今の私はリグリット様から預かった仮面で顔を隠し、頭から被った赤いフードを風に羽ばたかせていた。この何もない真っ白な仮面にただ一つだけ付けられた真紅の宝玉は我が闇の邪眼といっても過言ではないだろう。

 装備も普段とはすべて変えてある。両手のすべての指につけていたアーマリングは外し、代わりに指なしの黒手袋をつけた。

 

「アーマリングもいいけど、この指なし手袋もなかなかいいわね」

 

 服装も普段の白と青を基調としたものから黒一色に変えており、腰にはシルバーのチェーンを巻いてみた。もちろんこれにも意味はない……いえ、これは我が内に眠る獣を解き放たないための枷。そう、枷なのである。

 この格好であれば私を『蒼の薔薇』の冒険者と思うものはいないだろう。

 

「さて……獲物を狩りに行くとしましょうか」

 

 私は手袋を握りしめる。向かうのは王都のスラム地区だ。この国では人間狩りが絶えない。なぜなら王国は奴隷制度を認めており、不法な奴隷狩りを見逃しているからだ。

 当然、無差別に奴隷を認めているわけでなく、金銭的に身売りされた者、犯罪者が奴隷として売り飛ばされたなど理由があって奴隷の身分に落ちる者のみを認めているわけであるが、その法の縛りは極めておざなりなもの。

 それなりの身分の者を攫って奴隷にすればさすがに捕まるが、平民やスラムの人間を攫っても何のお咎めもなしである。もちろん攫われた者の家族は訴え出るのだが、相手が貴族や上流階級の商人では勝ち目はない。

 

 私たち『蒼の薔薇』や一部の冒険者や衛兵たちが巡回をしているのだが、犯罪者があまりにも多く、捕まえられるのはそのごく一部であり、捕まっても貴族の横やりが入って解放されてしまう。

 

「ならばこそ!目には目を!闇には闇で対抗してさしあげますわ!とうっ!」

 

 高らかに時の(とき)の声あげると私は時計塔の屋根からスラムへ向かって飛び立つのだった。

 

 

 

 

 

 

「キャアアアア!」

「うるせえ黙れ!」

「っ!」

 

 今日もスラム街は相変わらずの平常運転である。汚い格好をした男達が婦女子を襲っていた。目的は誘拐なのか強姦なのか、いずれにしてもろくな者ではないだろう。

 

「ったく、大声出しやがって!あの美姫とかいうのが来たらどうすんだ」

「ありゃやべえって話だよな……いきなり足の骨折られたって言うぜ」

「しかも王家のお墨付きまでもらってるとか……容赦ねえって話だよな……ああ、くわばらくわばら」

 

 どうやらここの住民にもあの美姫の噂は伝わっているらしい。確かにあの高潔で気高い冒険者がこの光景をみたら許しておくことはないだろう。

 

「まぁ『蒼の薔薇』とかに捕まるほうがよっぽどマシだよな」

「そうそう。俺もうあいつらに2回も捕まってんだけどさ。馬鹿だよなー、金さえ積めばいくらでも釈放されるってのによ」

「いや、あれも衛兵と癒着かなんかしてんじゃねえのか?釈放してまた捕まえればあいつらも金になるんだしよ」

「ぎゃははははは。持ちつ持たれつってか?」

 

 なんと私達が過去に捕まえた犯罪者たちだったらしい。冒険者組合経由で引き渡したと言うのにこの国の腐敗はどこまで進んでいるのか。

 自分のいままでしてきたことへの無力感とともに堪えないようのない怒りを感じる。

 

「そこまでだ!闇に住まう者どもよ!」

 

 もっと格好のいい登場方法を考えていたのだが、我慢できず私は屋根の上から彼らの前に飛び降りる。

 

「何もんだ!……て本当に何もんだよ……!?はぁ!?」

 

 どうやら私のこの溢れ出る闇の波動に戸惑っているらしい。そうだろう、そうだろう今日の私は一味も二味も違うからね。

 

「ふふふっ……名乗るほどのものではない。今宵この身に宿る邪眼が疼いただけのこと……闇を駆る邪眼がお前たちの悪事を見抜いたまで」

「……何言ってんだこいつ」

「何言ってんだとか言うな!!」

 

 私は素人では視認できない程の速度で男に駆け寄るとその鳩尾に一撃を食らわせる。『蒼の薔薇』の時のような手加減は一切しない。

 冒険者として、そして貴族としての立場であまりむちゃくちゃなことは出来なかったがこの闇の仮面はそれを可能にするのだ。

 ボキボキという音は男の肋骨の折れる音だろう。これで数ヶ月は足腰がたたないだろう。

 

「て、てめぇ!いきなりなに……うごぁ!」

 

 振り向きざまに右ストレート。強化魔法により加算された腕力がもう一人の男が顔面を崩壊させる。顎があらぬ方向に曲がってしまった男はしばらく針金であごを吊らなければ生活もできないだろう。

 

「成敗!!」

 

 予め決めてあったポーズ、右ひざを曲げ左脚はまっすぐにそして片手を天高く上げたもの……を被害者の女性の前で決める。

 決まった!……のだが思ったようは反応がない。なぜ拍手喝采がないのだろうか。

 

「あ……まず怪我の治療よね……」

 

 怪我した相手に拍手喝采を求めるなんてどうかしていた。思わず素に戻って治癒魔法を発動させる。

 

「<軽傷治癒(ライト・ヒーリング)>」

 

 信仰系治癒魔法で殴られて腫れあがっていた傷は綺麗に治ったようだ。顔を触って痛みがないことを確認すると女性は頭を下げた。

 

「あ、あの……ありがとうございます。お名前を教えていただけますか……?」

「ふふふっ、私のこの邪眼の導きで現れたまでのこと。名乗るほどものではない。さらば!!」

 

 私は跳躍して壁を蹴りながら建物の屋根へと駆け上がる。そんな私に後ろからかすかな声が聞こえたような気がした。

 

「邪眼……イビルアイ様……」

 

 私は屋根から屋根へと移動しながら次の獲物を探す。この仮面を被っていればなんだって出来そうな気さえする。何だか気分が乗ってきた。

 

「今宵の月には我が闇の仮面がよく映えるわ!この王都を我が闇の邪眼の波動で染めてあげて見せよう!はーっはっはっはーーーー!!」

 

 私の名はラキュース・アルベイン・デイル・アインドラ14歳、私の冒険はこれからだ!!

 


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