モモンとナーベの冒険~10年前の世界で~ 作:kirishima13
私の名前はナーベラル・ガンマ。今は冒険者ナーベとして御前試合などという虫けらの大会に出場している。
虫けらの分際で『御前』とはなんと不敬であることか。モモンガ様の許可があればその玉座に住み着いた害虫を駆除してやるものを。
「へっ、また会ったな。死霊使いの姉ちゃん」
目の前の虫けらが話しかけてくる。しかし死霊使いとは何のことを言っているのだろうか。そしてまた会ったとはどういうことだろうか。
「また?」
またも何も目の前の虫けらのことなど一切記憶にない。
「え……あの時のスケルトンに乳を揉ませてた姉ちゃんだろ?覚えてないのか?ブレインだ。ブレイン・アングラウス」
「……?」
虫けらの名など覚えるはずがないのに何を言っているのか。そんな当たり前のことも理解していない虫けらの態度に首を捻っている虫けらは何やら諦めたらしい。
「ま、まぁいい。死霊使いかと思っていたがあんた剣も一流だったんだな。これまでも俺と同じで一撃で終わらせてるし、あんたと戦うのを楽しみにしていたんだ」
虫けらの言う通りこれまでの対戦者は剣撃だけですべて倒してきた。別に剣が得意だというわけではない。殺すなという命令を守るには魔法で手加減することが難しかったからだ。
「それにしてもさっきの試合すごかったよな。決勝でモモンってやつと戦うのも楽しみだが負けたストロノーフってのも相当やるよな。ちっくしょう、両方と当たりたかったぜ」
まさかこの虫けらは私に勝ってモモンガ様と戦えるとでも思っているのだろうか。身の程知らずも甚だしい。
「まったく虫けらごときが……。ごちゃごちゃ話をしていないでかかってきたら?煩わしい」
「いや、まだ開始の合図されてねーだろ」
「は?あなたは殺し合いの最中でもそんなこと言うつもり?開始の合図してないから待ってくれって?虫けららしい甘えた考え方ね」
「……」
瞬間、虫けらの体が揺れたかと思うと目の前に迫っていた。虫けらのレベルではありえない動きだ。恐らくモモンガ様がおっしゃっていた武技とか言うものを使ったのだろう。
虫けらの剣撃をこちらも抜刀した剣で受ける。この剣は市販のものだ。虫けら程度を倒すのにモモンガ様から武器を賜わるわけにはいかない。
「ちょっ、ちょっと!まだ開始の合図をしてないですよ!」
「俺の<縮地>を見切りやがったか!だがこれならどうだ?武技<能力向上>!」
虫けらの司会者の言葉を無視してさらに速度を上げた虫けらの剣撃が続く。
「ああもう!準決勝第二試合!冒険者ナーベ 対 剣士ブレイン・アングラウス!試合開始ー!」
虫けらの司会者がごちゃごちゃいっているがどうでもいい。この調子に乗った虫けらをどのようにすり潰してやろうか。
「どうしたどうした?さっきまでの威勢は。防戦一方じゃねえか。あの時のスケルトンは出さねえのか?」
「くっ」
「ほれほれ、まぁあんなスケルトンを呼んでも俺には勝てないけどな。顔はおっかなかったが全然強そうには見えなかったしな。でもあんな見掛け倒しでも呼び出せば盾代わりにくらいにはなるんじゃねえか?」
「なん……ですって……」
まさかそのスケルトンとはモモンガ様のこと?それを強そうに見えなかった?見掛け倒し?虫けらの分際でそのような言動が許されるわけがない!
「どうやら死にたいようね。いいえ……死すら生ぬるいわ!」
「言うじゃねえか!だったらどうするってんだよ」
次第に斬撃の力を強めながら虫けらが笑っている、己の命がもう僅かもないことにも気づかずに。
「<
転移魔法で虫けらの後ろに回り込む。一方虫けらの剣は私がいた場所で空を斬りつけていた。転移対策をまったくしていない愚かな虫けら……呆れ果てながらその背中を斬りつける。
「っとお!!」
なんと虫けらは生意気にも後ろを振り向かずに剣だけで背中への攻撃を防ぎきった。
「なんだ!?いつの間に後ろに回った!?嘘だろ?俺の<領域>でも捉えきれなかったぞ!?」
また武技か、本当に面倒くさい。<りょういき>とやらは恐らく探知系の武技だろう。ならばと魔法のターゲッティングを行う。狙うは……。
「<
「うおっ!いってえええええ!」
狙い違わず指先から飛び出したら第三位階魔法は金属製の虫けらの剣へと向かいバチバチと紫電を散らした。手が痺れたのか虫けらは剣を取り落とす。
「魔力系
文句を言いつつ虫けらは取り落した剣を見やる。その剣から雷撃の影響が消えたと見たのか再び拾おうとする虫けら。
「やらせると思うの?<
次に放ったファイアーボールが虫けらの剣を包み込む。燃え上がった剣からは持ち手や鍔は焼け落ちる。残った刀身は真っ赤に輝いていてとても掴める状態ではない。
「ちょっ!?何しやがる!?」
「虫けらが道具を使うなんて分不相応。さぁ、地べたを這いずり回りなさい」
真っ赤に燃えた刀身に触ることも出来ない虫けら。武器破壊対策もしていないなんて本当に下等生物だ。
「上等だ!武技……」
「<
「ぐおっ!」
面倒な武技を発動する前に次の魔法を叩き込む。重力魔法に耐えられないのか虫けらは膝をつき、さらには地面に倒れ伏した。
「どうしたの?その程度?さっきまでの大口はどうしたの?虫けら」
「ぐっ、ぐぅ……」
私は一歩、また一歩と虫けらへと近づいていく。そんな私を虫けらは無理やり顔を上げて睨めつけてくる。
「ほら、どうしたの?ねぇ?何か言ったらどう?」
私は虫けらの元までたどり着くとそのままその見上げてる顔を踏みつけた。
「ぐっ」
「この芋虫が……あなたのような虫けらはそうやって地面を這いつくばってるのがお似合いなのよ」
会場の虫けら達から「おおっ」っという声が聞こえてくる。これは至高の御方に創造された私の力を以ってすれば当然の帰結にすぎないというのに何を驚いているのだか。
「さっき生意気なことを言っていた口はこれ?どうしたの?ほら、何か言ってごらんなさい?」
「ち、ちくしょう……てめ…がっ!?」
虫けらが余計なことを囀ろうとしたので不快な顔をぐりぐりと足で踏みつける。
「ほらほら、その汚い舌で私の足でも舐めたいの?このゴミムシが!」
顔を上げようとすれば蹴りつけ、手を動かそうとすればそれを踏み潰す。重力で身動きができない虫けらだが、モモンガ様に働いた不敬はこの程度で許されるものではない。
「わ、わかった。こうさ……」
「<
降参しようとする相手の声を魔法で封じる。降参などさせてなるものか。まだまだ痛めつけ足りない。
「~~~!?」
「何を言ってるの?降参なんてさせてあげると思って?何も聞こえませんよ?この芋虫!」
───それから数十分
虫けらへの蹂躙はそれはもう執拗に続けた。出来るだけ意識が失わせないための手加減が難しい。ビクンビクンと痙攣しているがこれは意識があるのだろうか。治癒魔法をかけてから続けた方がいいだろうか。
そう考えていた矢先……。
「えー……非情に……本当に非常に残念ですが時間切れです!」
「「「BOOOOOO!」」」
なぜか会場から大ブーイングがあがる。
「審判団で協議した結果、ええ……みなさまもお分かりのとおりだと思いますが……勝者!ナーベ様あああああああああああああ!」
「「「おおおおおおおおおお!」」」
割れんばかりの歓声。そしてなぜか私を様付けにしている司会者。よく分からないが虫けらたちも少しは分を弁えたということだろうか。
目の前でピクピクしている対戦相手の虫けらへの制裁はまだ足りないが仕方がない、次は……と考えて顔が青くなる。
次の相手は……モモンガ様……?