モモンとナーベの冒険~10年前の世界で~ 作:kirishima13
御前試合の決勝戦、モモンガはナーベラルと対峙していた。
モモンガは<
『ナーベラル聞こえるか』
『はっ、モモンガ様』
『私が何を言いたいか分かるか?』
報告の中にナーベラルが御前試合に出るという話はなかった。取るに足らない依頼をこなしているという話だったのに報連相が出来ないのは問題だ。ここは厳しく言った方がいいだろう。
『はい……虫けらの催しとは言えモモンガ様と敵対することになり誠に申し訳ありません!今すぐ責任を取り自害を……』
『待て待て待てそうじゃない!』
何を勘違いしたのかナーベラルは手に持った剣を首に充てて俯いている。流れとは言え至高の存在と敵対しているということがナーベラルの中では許しがたい罪となっているのだろう。
『私が言いたいのはなぜこの大会に出場することを報告しなかったのかということだ』
『はい……モモンガ様から名声を得よとのご命令を賜り行動していたのですが……虫けらの催しに出場する程度では名声と呼ぶには程遠くご報告するまでもないと……』
モモンガとしてはそれは十分な名声だと感じるのだが、一体ナーベラルはどこまでを求めているのだろう。
『ナーベラルよ、お前の考えている私たちの名声とはどの程度のものを想定しているんだ?』
『それはもちろんこの世界のありとあらゆる者たちがモモンガ様を称え、地にひれ伏し、モモンガ様をこの世界の神として信仰する讃美歌が流れるくらいの名声です。それこそが正しい世界の在り方ではないでしょうか』
「ええー……」
ナーベラルとモモンガの中の名声における基準が違いすぎた。モモンガとしてはこの世界での居場所を探すために、いるかもしれないギルドメンバーの情報が得やすいように、ある程度の情報が入ってくるだけの地位と名声が得られたらいいなくらいの気持ちだったのだ。
これは説明を怠ったモモンガも悪い。上司の指示がいい加減では部下が間違うのも仕方のないことである。
『ナーベラル、私はそこまでは求めていない。これは私の言い方が悪かったな。許してくれ』
『何をおっしゃるのです!愚かな私が悪いのです!』
『いや、私が悪い。もっと細々とした説明をしておくべきだった』
『そんなことはございません!やはりここは自害して謝罪を……』
『やめろ……私が言いたかったのはこの試合の決勝で注目される程度の名声があれば十分ではないのかということだ』
『そうなのですか?』
『まぁな。ちなみにナーベラル。冒険者ランクはどのくらいになった?』
『確かアダマンタイトかと』
『アダマンタイト!?』
事前調査の情報ではアダマンタイトとは冒険者ランクの最高位だ。この国では『朱の雫』という冒険者チームただ一つしかないらしい。
『至高の御方であればヒヒイロカネなどの七色鉱が相応しいというのに残念ながら私の力が及ばず……』
ナーベラルは悔しそうに唇を噛みしめるが、モモンガとしては十分すぎる成果だ。最高位の冒険者ということであれば情報を得やすいだろう。
『十分だ。ナーベラル、おまえはよくやってくれた。これだけの名声があれば任務達成だ』
『は、はい!ありがとうございます!』
『それならばもうこの試合にそれほど意味はないのだが……どうするか。そうだな……せっかくだ、お前の実力を見せてくれるか』
NPCとしてのナーベラルの設定は知っている。だが自我を持ち動き出した一個人としてはどうなのだろうか。実際のところモモンガはもしかしてこいつはポンコツなのではないかと一抹の不安を覚えている。
(いつまでもモモン様と言って様をとらないし、たまに間違えてモモンガ様と呼ぶし……それともそういう設定なのか?)
設定であれば仕方ないがそうでないかもしれない。それに戦闘能力についてもはっきりと知っておきたい。もしかして61レベルだというのにその力をまったく発揮できないかもしれないのだ。それを知らないせいで弐式炎雷さんの娘を失うような真似は絶対に避けなければらならない。
『私はこの鎧があるから武器はなしで攻撃魔法も使わない。上位物理無効化や低位の魔法無効化の
『そ、それはご命令なのでしょうか……』
『ああ、命令だ。私を殺す気でかかってくるといい』
ナーベラルに命令すると<伝言>の通信を切る。そして我々の会話の終了を待っていたようなタイミングで司会者が試合開始の合図を告げた。
「それではいよいよ決勝戦です!向かって左側はみなさんご存じ!この御前試合における紅一点でありながら見事決勝まで進出したナーベ様です!」
「「「うおおおおおおおおおおおおおお」」」
「ナーベ」「ナーベ」「ナーベ」
会場から割れんばかりの拍手と歓声が響き渡る。そして巻き起こるナーベコール。もともと依頼なしで困っている人々を救う冒険者として国民的な人気を得ている上に準決勝でやや特殊なファンまで増えてしまったためものすごい人気だ。
「そして右手にはあの優勝候補筆頭!ガゼフ・ストロノーフを下して決勝まで進出した拳闘士モモン!」
「「「……」」」
会場になり鳴り響いていた拍手がピタリと止まる。誰一人としてモモンガを応援しようとするものはいない。
(何……このアウェー感……)
冒険者としての人気の違いだろうか。それとも見た目が原因だろうか。いつのまにかナーベラルが会場の人々を魅了していた。
「試合開始!」
腑に落ちない気持ちはあるものの試合開始と同時にモモンガはナーベラルへ向かって駆ける。
正直モモンガはこの試合は分が悪いと思っていた。一つは魔法がほとんど使えないこと。魔法でなければ物理で戦わなければならないが魔法詠唱者であるモモンガの物理攻撃力は高くない。
そしてもう一つは……。
「<飛行>」
「そうくるよな……」
ナーベラルはモモンガの接近に反応して<飛行>の魔法を唱えて距離を取る。魔法詠唱者が戦士とまともに接近戦をする必要などないのだ。<飛行>などの魔法で遠距離から魔法を叩き込むのが正しい戦い方だ。
「ならば……」
モモンガが次の手に打って出ようとしたその瞬間、足元が光り出す。
「これは……まずい!!こっちに来い!」
「へ?ちょっとモモン殿!?」
モモンガはナーベラルへの歩みを止めて横っ飛びに飛び去り、さらにそこにいた司会の男を掴むと観客席まで放り投げる。
───次の瞬間
先ほどまでモモンガたちがいた地面が爆発した。火炎と黒煙が舞い上がり硬い石の闘技上の舞台が大きく抉れてしまっている。
「今のは無詠唱化……しかも遅延化した<
開始の瞬間に仕掛けていたのだろう。<飛行>で距離を取るのと同時に魔法を発動し、モモンガを誘導した地点で発動するように遅延発動させたのだ。
「なかなかやるな……ってやばい!」
<爆裂>で破壊された舞台の数mもある瓦礫がよりにもよって王族の貴賓席へと向かって飛んでいくのが見える。
先ほどモモンガと一緒に司会も爆裂させようとしたり、どうもナーベラルはものの程度というのを理解していないようだ。
モモンガは脳内ノートにマイナス点をつけつつ、瓦礫を追い抜き、さらに壁を駆け上がる。そしてなんとか貴賓席に瓦礫が当たる直前でそれを掴むことに成功した。
(ふぅ……間に合ったか。こんなことで王族を殺してしまっては名声も何もあったものではないからな……)
危うく手配犯になるところである。
「ああ……ええと……失礼しました。陛下」
偉い人との会話などどうすればいいか分からず適当に声を出したが、余りの事態に王族たちは皆固まっている。警備兵まで大口を開けて固まっているのだがそれでいいのだろうか。
そんな中で一人だけまともに返事をした人間がいた。とても小さな少女だ。金色の髪をしており綺麗な衣装を着ているがその顔は伏せていて表情は見えない。
「モモン様。助けていただきありがとうございます」
「う、うむ……」
感謝しているということはこれはセーフということでよいだろうか。良いとしよう。モモンガはその巨大な瓦礫を持ったまま舞台に戻る。
『ナーベラル。人間を殺してしまうような戦い方は控えるように』
『あ……申し訳ございません!』
『分かったらよい。さて、次はこちらから行くぞ』
ナーベラルへ<伝言>で声をかけ、試合を再開する。そのための第一手として持ち上げていた舞台の瓦礫をナーベラルへ向かって投げつけた。
「モモン様なにを!?」
(だから様をつけるな……ってもう言っても無駄か)
投げつけた瓦礫はモモンガの予想通りナーベラルが<飛行>であっさりと躱すが……。
「え……」
地上にはもうモモンガはいなかった。投げつけた瓦礫の死角に隠れて一緒に飛び上がったのだ。さらにナーベラルより上空まで投げられた瓦礫を足場にして上下逆さまの状態で瓦礫をさらに蹴りつける。
「くっ……」
ナーベラルが避けようとするがもう遅い。腕をつかんだ。このまま両手両足を極め地面に叩きつける。あの囚人ナンバー0が使った技だ。
「<
しかし次の瞬間ナーベラルの体の感触がモモンガの手から失われる。
「まぁ……そうなるよな……」
転移のできる魔法詠唱者と対峙すればこうなるのは目に見えていた。それでもせめて一撃をと思っていたが予想通り無理だったようだ。
「<
すかさずナーベラルから最強化された6本の<魔法の矢>が撃ちだされる。転がりながらそれらをかわそうとするが必中不可避の矢は誘導されるように体に突き刺さってモモンガを弾き飛ばす。
「<
間髪いれずに3連発で範囲電撃魔法が向かってくる。さすがに隙がない。接近されることのデメリットを十分分かった上での立ち回りだ。
「なかなかやるではないか。だがまだまだ私の体力は削れていないぞ?」
「くっ……」
悔しそうにナーベラルは唇を噛むと次々と多種多様な魔法を放ってきた。まるで絨毯爆撃だ。魔法が発動する度に闘技場は爆発し、熱風が吹き荒れ、地面が陥没する。
「そらどうした?どんどん撃って来い」
正直言ってモモンガは戦士としての自力勝利はないと思っている。だからこそ自滅を狙うことにした。MPが尽き、魔法が使えなくなってしまえば地力の差で勝てる。実に消極的な作戦だが勝利のためには手段を選ばない主義だ。
もちろん隙あらば一撃食らわせようとは思っている。
(でも負ける可能性の方が高いんだよな……まぁ一撃でもナーベラルに当てられたら勝ちと思っておくか)
「……さすがですモモン様」
「お前もな。それで、次はどうする?」
ナーベラルは自嘲気味にふっと笑うと地面に手を当てた。
「<
まさかの防御系魔法。しかも不可視の風属性の壁は触れてもダメージはないもののノックバック効果を与えてくる面倒なものだ。しかしそれらはなぜかナーベラルを守ることなくモモンガの周囲に壁が作られていた。
「なに!?」
(逃げ道を塞ぐためか!?……よく分からないがここにいるのは不味い……)
「<
次にナーベラルが発動したのは相手を口から肺にかけて水を詰め込む魔法だ。当然呼吸が必要な種族であればダメージを与え場合によっては溺死する魔法であるのだがアンデッドであるモモンガには何のダメージもない。
「どういうことだ?いや……まさか!?」
「<
いつのまにか土壁からの逃げ道を塞ぐように空中に浮かんでいるナーベラルの両手に激しく暴れる雷の竜が現れていた。そしてそれは当然のようにモモンガへと牙をむいて襲い掛かってくる。
「ぐっ……ぐうううううううううううう」
第7位階魔法というモモンガにさえ届く魔法の雷撃により体の表面を焼かれると同時に<溺死>によって濡れた体内にまで電流が届き、体の内と外から電流で焼かれる。あまりの高熱に飛び散った火花は周囲の瓦礫を溶解するほどだ。
「これが……痛みか。なるほど痛みによる行動阻害はないか……」
結構なダメージを受けたがそれでもモモンガは100レベルの魔法詠唱者だ。魔法防御力も高いので魔法1発くらいで倒れるほどのダメージは受けない。
モモンガが自らの状態を確認していると空中にいたナーベラルが地面に両手をついてうずくまっていた。
(……どうした?ついに魔力切れか!?チャンス!!)
そう思った瞬間にモモンガは闇闘技場で盗んだ技術の粋を使い、全体重を乗せた綺麗な掌底打ちをナーベラルの腹に叩き込んだ。
「~~~っ!?」
ナーベラルは何ともいえない声とともに吹き飛びそのまま闘技場の壁へと突っ込む。そして瓦礫とともに地面へ崩れ落ちた。
「よし!」
思わずガッツポーズをする。たとえこのあと引き分けに終わってしまったとしても一撃もダメージを与えなかったとしたら情けなさ過ぎる。
正直ナーベラルがこれで終わるとは思っていない。きっと立ち上がって反撃してくるだろう。
(HPが全然減っていないからな……。魔力は……えっ!?)
攻撃に夢中で気にしていなかったナーベラルの体力と魔力を確認する。体力は十分の一も削れてなかった。そして魔力は……。
(魔力も半分以上残っているだと……)
魔力が残っているならなぜあのような隙を作ったのがが謎だった。追撃の魔法を放つことも出来たし、転移や飛行で距離をとる事も容易かったはずである。
(いや、これもブラフという可能性もある……もしかして<
かつてのギルドメンバーの言葉を思い出しつつモモンガは膝を突いて俯いているナーベラルに向けて拳を振り上げ……。
「うっ……ううっ……」
ナーベラルの両目から涙が流れていた。悔しそうに顔しかめ何かを我慢するように唇を噛みしめている。
「えっ!?なんで!?」
モモンガの感情が振り切って精神沈静化がおきる。しかし泣き続けるナーベラルを見る度に精神が揺さぶられ混乱は収まらない。
「おゆ……お許しを……。御身を傷つけ痛みを与えるなど……。うっ……。お許しください……。どうかお許しください……」
「いや、ちょっ、まっ」
どうやらモモンガを傷つけるという行為自体が嫌だったらしい。涙で顔を濡らして許しを請うその姿にモモンガはドン引きであったのだが……。
「てめええええええええええ!何をナーベ様を泣かせてんだごらああああああああ」
「謝って降参してんだろうが!それをまだ殴るってのか!!」
「うわぁ……最低!!」
「父上、あのモモンとか言う男は失格にして死刑に処すべきではないでしょうか」
「う、うむ……いや、しかし……」
「ナーベ様がんばって!負けないでえええええええええ」
「ナーベ!」
「ナーベ!」
「ナーベ!」
会場の観客たちの感情あらわにその怒りをモモンガへと向けていた。二人のあまりの攻防に言葉を失っていた観客たちだったが、ナーベラルの涙を見たとたん我に返ったのだろう。
そして目の前で行われているのは泣いている美姫への虐待。
「えっと……。ナーベ様は降参と言うことでよろしいのでしょうか?」
吹き飛ばされていた司会が顔だけ客席から出して問いかけるとナーベラルはこくんと首を縦に振る。
「えー……勝者モモン……」
「「「BOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!」」」
司会の投げやりな勝利者宣言とともに会場に怒号のようなブーイングが鳴り響き王都の御前試合は幕を閉じた。