モモンとナーベの冒険~10年前の世界で~   作:kirishima13

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第16話 暗殺者襲来

 私の名前はラキュース・アルベイン・デイル・アインドラ。またの名を闇を駆る狩人……おっとそれは昼の間は秘密にしなければならない。今は闇を照らす光がこの身を封じているがゆえに。

 それにしてもこの間は楽しかった。また今夜もひと狩り行きたいものである。はやる気持ちについ手元にある仮面とローブを撫でていると妄想の世界に入ってしまいそうだ。

 

「んふっ……んふふふふふふ」

「どうした?ラキュース、ご機嫌だな。何かいいことでもあったのか?」

「い、いえ! 別になんでもないわ! ガガーラン。えっと……そう! あの時会った冒険者はどうしてるのかなーって考えていたのよ」

「ああ、漆黒の美姫ナーベのことか。聞いたかラキュース、あの冒険者が王宮に呼ばれたっては話を」

「ええ、ラナー様をお助けしたって話ね。それにしてもそんな危険な道を通るなら私たちに依頼すれば良かったのに」

 

 ラナー・ティエール・シャルドロン・ライル・ヴァイセル、彼女はリ・エスティーゼ王国の第三王女である。貴族として知り合いではあるが今いちよく分からない少女だ。いつも暗い顔をして驚くほど痩せている。心配して何度かお見舞いに行ったことがある。

 

「何でもエ・ランテルまでの街道で数日で魔物数百匹を一人で倒したとか聞いたな。それで王女様の馬車が襲われてるのを助けたってよ、さすがラキュースがライバルと呼ぶだけあるな」

「ま、まぁね!でも最近は私も負けてないけどね!」

「そうか?でもあいつもうアダマンタイト級になったって話だぞ」

「え!?」

 

 それは初耳だ。彼女と初めて会ったのが数ヶ月前。その時彼女は冒険者でさえなかった。そんな彼女がもうアダマンタイトになった?

 

「私たちもう追い抜かれてしまったの!?」

「ああ、最初の依頼達成で一気に銀級までなってその後も危険な依頼ばかりをこなして異例のランクアップだ。最後はあれだ、王都御前試合に出て準優勝したってさ」

「御前試合にまで出てたの!?」

「ああ、噂では試合会場が復元不可能になるほどの魔法を使ったらしい。ちっくしょう!見に行けばよかったな!」

「そ、そうなんだ……さすがね……。そういえばあなたはなんで出なかったの?」

「いまさら御前試合なんて出てどうするよ。俺は貴族とか王族へ仕えるつもりなんてさらさらねーぞ」

 

 午前試合といえば王侯貴族に仕官するための登竜門としても有名だ。自由な冒険が好きなガガーランは確かに出場する意味があまりない。しかしあの漆黒の美姫は出場したという。

 

「それにしても意外だな、あの女がそんなことに興味あるとは思わなかった」

 

 ガガーランも私と同じ意見らしい。あれは私と同じく身の内に闇を飼う獣。あの漆黒の美姫がその闇の力で誰かを従えることはあっても誰かに仕えるようなことがあるとは思えない。もし彼女が仕えるとすれば……。

 

「真の闇に潜めし者がいるのね……」

 

 

 

───そうつぶやいた瞬間

 

 

 

「ラキュース!後ろ!!」

「ガガーランも!!」

 

 ガガーランの言葉で()()に気づき、彼女にも即座に私に警告する。

ガガーランはハンマーを、私は浮遊する剣群(フローティング・ソーズ)の一つを自分の背後へと叩きつけた。するとギャリギャリという金属を引っ搔くような音が部屋に響き渡る。

 

「驚いた……」

「完全に気づかれてた……そう、闇に潜んでいた……」

 

 私とガガーランの影の中から現れた人物。小柄なその二人の女はよく似た顔だちをしていた。双子だろうか。

 

「警告助かったぜ!さすがだな、ラキュース。影に潜まれてたなんて全然気づかなかったぜ!」

「え、ええ……そ、そうね!」

 

 今更妄想をつい口走りましたとは言い出せない。ごまかすようにその暗殺者たちに向けて戦闘態勢を取る。

 

「よく見つけた、褒めてやる。でも死んでもらう」

「覚悟」

 

 言葉少なに殺害を予告する暗殺者。両手に持った小太刀やその黒で統一された独特の服装は南方で使われる布で作られた忍び装束というものだろうか。

 

「<影分身の術>」

「<空蝉の術>」

 

 聞いたことのない魔法だ。その魔法が発動すると双子の片方が二人に増えた。もう一人は体が薄っすらと透けている。

 

「人違いで襲ってきてるってわけじゃなさそうね!私は分身したほうをやるわ!ガガーランはもう一人を!」

「了解だぜ!」

 

 私に向かって複数に分裂した女がゆらりゆらりと揺れるように向かってくる。どちらが本体なのか、それともどちらも実体なのか。確かめる方法ならばある。

 

「ならば……射出! 浮遊する剣群(フローティング・ソーズ)!」

 

 私を中心に周囲に浮いている剣。これは飾りではない。魔法を付与されたこの剣群は私の意志で敵に襲い掛かる。叫ばなければ襲い掛からないというわけではないが、技名は重要だ。叫ぶことに意味がある。

 

「くっ……」

 

 浮遊する剣群の攻撃を受け、2体に分かれていたうち1体の体が掻き消え、もう一人が襲い掛かる3本の剣をさばいている。

 

「踊りなさい!浮遊する剣群(フローティング・ソーズ)!!」

 

 顔を片手で隠すポーズを決めながら残り5本の剣を追加で襲い掛からせる。何度も言うが技名を叫ぶことに意味がある。

 これで足止めしたところを超技<暗黒刃超弩級衝撃波(ダークブレードメガインパクト)>で決めよう。いや、それでは宿屋に被害が出るかもしれない……。でもこの階には私たちしかいないはず。人的被害は出ないだろう。それに決め技で決めたほうがかっこいいし……どうしよう。

 悩みながらガガーランの方を見るとそちらも勝負がつきそうだった。

 

「くっ……ふざけた腕力。本当に女?」

「うっせー!おっと手癖が悪いぜ!」

 

 ガガーランのハンマーの衝撃で手が痺れた女は何とか距離を取って飛び道具を取り出そうとするが、ガガーランが接近して蹴りを放ちそれを許さない。

 さすがの相棒ガガーラン。よし、ここで超技を放ってまとめてやってしまうのがカッコいいかもしれない!

 

「ガガーランあれを決めるわよ!」

「なっ……うそだろ!?ここであれぶっ放すのか!?」

 

 有利に戦闘を進めているはずなのになぜか驚いているガガーラン。それを見て暗殺者二人も何事かと顔を見合わせた。

 

「なんかやばそう」

「逃げる?」

 

 暗殺者は私の迸る闇の波動に不安を感じたのか、ジリジリとお互いの背を合わせながら後ずさっている。もうちょっとだけ待ってほしい!もうすぐ私の真の見せ場なのだから!

 

「「<影渡り>!!」」

 

 あとは暗黒刃超弩級衝撃波を発動するだけだと言うのに、二人の暗殺者はズプンと自らの影に飲み込まれ姿を消してしまった。

 逃げられた!なにより私の見せ場がなくなってしまった!そう思ったのが……。

 

「おっと逃がさないよ」

「なんだこいつら?」

 

 部屋のドアが開き、床に2本の剣が突き刺される。中に入ってきたのはリグリット様ともう一人、白い髭を蓄えた老人だ。

 

「な……何?」「これは……暗殺術?」

 

 剣が突き立った影の中から暗殺者たちが現れた。

 

「ああそうだよ。『影縛り』だ。もう動けまい?」

「なぜ忍の技をおまえが……」

「忍びの技がお前たちにしか使えないとでも?これでも顔は広い方でね。あんたらのところの頭領とも知り合いなんだよ」

「戯言を……」

()()()()()()の女頭領は元気かい?」

「「!!?」」

 

 リグリット様の言葉に暗殺者たちの顔が固まる。イジャニーヤとは世界を股にかける有名な暗殺組織だ。なるほど私とガガーランを苦戦させるだけはある。

 

「リグリット様どういうことでしょうか?彼女たちを知っているのですか?それにそちらの方は?」

「こっちの爺は後で紹介するよ。あたしらを消すためにイジャニーヤの暗殺者が雇われたって聞いて待ってたんだよ」

「え?知ってたのですか?それならなぜ教えてくれなかったのですか?」

「なぜ教えなかったって?アダマンタイトを目指そうってあんたたちに丁度いい相手だと思って放っておいたのさ。でも詰めが甘かったね、もうちょっとで逃げられるところじゃないかい……っていうかラキュース、あんたこの宿ごとやっちまうつもりだったろ」

「す、すみません……」

 

 どうも私とガガーランを鍛えるためにあえて教えてくれなかったらしい。そして私のこともお見通しだった。見せ場だとか思っている場合じゃなかったかもしれない。

 

「おいおい、婆さんそりゃねーんじゃねーの。分かってたなら教えてくれよ」

 

 ガガーランはいまいち納得していないらしい。床にハンマーを押し付けたまま仁王立ちしている。

 

「教えたらあんたたち二人とも警戒しただろ?そうしたらこの双子は襲ってくることさえなかっただろうさ。それじゃつまらないじゃないか」

「「……」」

 

 リグリット様の言葉に暗殺者たちは苦い顔をしている。図星なのだろう。

 

「さて、あんたたちの処遇だけどね……」

「「……」」

 

 暗殺者たちの顔に緊張が走る。ミスリル級冒険者を襲ったのだ。よくて牢獄行き、場合によっては処刑もありえるだろう。

 しかしリグリット様の決定は意外なものだった。

 

「あんたたち二人とも『蒼の薔薇』に加わりな」

「「は?」」

 

 双子の暗殺者はぽかんとしてる。私だってぽかんだ。だってそうだろう、どこに今さっき殺そうとしてきた相手を仲間にしようとする人間がいるのだろうか。

 

「どうせ帰ってもあんたたちの掟じゃ粛清されちまうんだろ?」

「なぜそれを……」

 

 確かにイジャニーヤは非常に厳しい組織だと聴いたことがある。裏切り者や任務に失敗したものには厳しい粛清が待っている。だがそれゆえの精鋭であり、依頼者からの信頼に応え続けているとも言える。

 

「っていうかあんたらの頭首にもう話はついてるよ」

「「!?」」

「あとあんたらの依頼主……えっとなんて言ったっけ。そうそう、アームストロング伯爵だったかね、そいつはもう死んでるから。あたしらを狙っても意味がない」

 

 リグリット様は淡々と話されているがそれはとんでもない情報だ。いつのまに暗殺組織の幹部と話をつけていたのか。いつのまに依頼主を屠っていたのか。

 

「リグリット様が依頼主を殺したのですか?すべてを見越して?」

 

 私は尊敬の目をリグリット様に向けるが首を振られる。

 

「いや、もう殺されていた。まぁやった連中の目星はつくけど……まぁ依頼もないのにあたし達がどうこうすることはないね。自滅ってやつさ」

 

 もう暗殺組織からの襲撃はないらしい。嬉しいようなほんのちょっぴり残念なような気がする。

 

「で、どうするんだい?ちなみに頭首は戻ってきたら容赦しないそうだ」

「くっころ……」「心まで好きに出来ると思うな」

「そうかい。じゃあイジャニーヤの頭首に……」

「わかった仲間になる」「異議なし」

 

 どうやらイジャニーヤの頭首と言うのはそれほど恐ろしい存在らしい。しかし『蒼の薔薇』の新しい仲間が暗殺者と言うのはどうなんだろう。闇を抱く私にふさわしい仲間だろうか。

 そんなことを考えていると今まで黙っていた老人が口を開いた。

 

「リグリット。その二人はもう売約済みか?才能ありそうなのに残念だな」

「あの、リグリット様。そちらの方は?」

「ああ……こいつは一緒に御前試合を見に行った友人さ」

「お初にお目にかかる。元冒険者のローファンという」

 

 ヴェスチャー・クロフ・ディ・ローファン!元アダマンタイト級の高名な冒険者である。引退したと聞いていたがどうしてこんなところにいるのだろう。

 

「ローファンは弟子候補を見つけるために。あたしは『蒼の薔薇』の追加メンバーを探しに。あたしたちの目にかなう奴らはいないかと思って御前試合を見てきたのさ」

 

 高名なローファン様と知り合いというだけでも驚きだがその二人が同時に後継者を探しているというのも驚きだった。少なくとも私たちはその眼鏡にかなったようだが、御前試合で誰に目を付けたのか興味がある。

 

「準決勝以上に残った4人は見所があるね。声をかけてみようと思ってはいる」

「おいおい、リグリット。俺の分を残しておいてくれよ。あのガゼフとかいう剣士は俺にくれ。あとは優勝したモモンってやつもな」

「何いってんだい!それを決めるのはあたしたちじゃないだろ。私の希望を言えば決勝に出た二人が欲しいね」

「あの二人か……?確かにあいつらはやばかったな。全盛期の俺に匹敵する。特にあのモモンってやつは鍛えようによっては俺を超えるかもしれん。だが多少は武術の心得があるようだがあのレベルから言えばてんでダメダメだ。自分の腕力で無理やり技を成立させてるに過ぎない。俺が弟子にして一から鍛えなおしてやろうじゃないか」

「でも大丈夫かい?あのモモンは一筋縄じゃいかなそうだよ」

「ああ、決勝でのことか。降参して泣いてる女をさらに殴ろうとかいう腐った根性は俺が叩き直してやるから安心しろ。最初からガツンと言ってやるさ」

「人の性根についてあんたにとやかく言えるってのかい?」

「んだと!」

 

 わいわいと喧嘩を始めるリグリット様とローファン様。二人とも詩人(バード)の歌に謳われるほどの伝説の人物だ。その二人が認めるほどの強者、そしてそのうちの一人はあの漆黒の美姫だという。

 もしも彼女が『蒼の薔薇』に加わったらと想像する。うん、良い……。闇の神官たる私に、闇よりの暗殺者姉妹、そして闇の君たる漆黒の美姫。この布陣は完璧なのではないだろうか。

 頭の中のガガーランが『俺は?』と言っているけど、今いいところだからちょっと黙っててガガーラン。私はますます楽しくなってきた妄想……闇の遊戯にふけっていくのだった。


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