モモンとナーベの冒険~10年前の世界で~   作:kirishima13

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第17話 六本の剛腕

 俺の名は囚人ナンバー0。今俺は闇闘技場のオーナールームの血だまりの中にいる。

 部屋の中心に倒れているのはこの地の領主アームストロング伯爵だ。周りには洗練された装備を身に着けた元ミスリル級冒険者の護衛たちが散らばっていた。

 『散らばっている』という表現に間違いはない。俺の拳を食らって五体が満足にくっ付いているはずがないのだから。

 

「ひゃー……派手にやったわねぇ!胸に風穴空いてるじゃない」

「コッコドール、やっと来たか」

 

 約束した時間にやや遅れる形で現れたオカマ野郎。協力者のコッコドールだ。

 

「約束は果たした。今度はお前たちが約束を守る番だぞ」

 

 俺は裏闘技場を取り仕切っていた男から引きちぎった親指をコッコドールへと放り投げる。

 

「もっちろんよ!うふふふふ、この国は変わるわよぉ。古い組織は倒れて裏の組織が一新されるんだから。麻薬、密輸、奴隷、暗殺、窃盗、金融、賭博、警備、それら8つの新しい裏組織みんなが手を組むの。どんなことだってできるわ」

「麻薬というとお前が言っていた新しい薬か」

「ええ、これがもうすっごいの!黒粉っていうんだけどね。うちの娼館の女たちに使ったらそれはもうキまっちゃって嫌がっていた娘も喜んで腰を振るようになったわ。薬欲しさに何でも言うこと聞くから逃げられる心配も減ったのよね」

「そりゃ儲かりそうだな。俺たちにも一枚かませろよ」

「んー?それはあなたたちの活躍次第じゃない?」

「ちっ……」

 

 簡単に言質は取らせない、油断のない野郎だ。だからこそ手を組むに値すると判断したのだが。

 

「んもうっ、そんな怖い顔しないでよ。今まで大きい顔していたお馬鹿さんはあなたが殺してくれたしね。あなたたちの武力期待してるわよぉ。私の娼館ももーっと奴隷を入れて稼ぎたいのにこの間は変な女に部下をほとんどやられちゃってねぇ……」

「それで俺たちの出番というわけか」

 

 俺たちの役割はもちろん警備部門だ。この闇闘技場で俺に賛同した猛者たちのすべてを引き抜く手はずになっている。

 

「おい、牢屋の方は片付いたぞ」

 

 扉から新たな影が現れる。囚人ナンバー1、いや、今はデイバーノックと本名で呼ぼうか……。

 デイバーノックはアンデッド……リッチだ。自らが強くなるための魔法道具(マジックアイテム)を求め、それを買う金を稼ぐためにここに潜っていた。

 

「逆らうやつはやはりいたか」

「ああ、少しな。全員殺したが問題は?」

「もちろんない」

「地下二階の闘技場も終わったわ。貴族の連中がいたから部屋に閉じ込めて部下達が見張ってる」

 

 デイバーノックに続いて現れたのは囚人ナンバー2、エドストレーム。

 薄布を身にまとった身軽そうな出で立ちで整った容姿をしている。魔法武器の複数のシミターを操る女だ。その美貌とは裏腹に殺してきた相手は数知れない。

 

「地下一階も制圧完了したぞ」

「一階部分も終わった」

 

 続々と報告が上がってくる。囚人ナンバー3、マルムヴィストと囚人ナンバー4、ペシュリアンだ。マルムヴィストは凄腕のレイピア使い、ペシュリアンは空間を斬り裂く技<空間斬>を操る。二人とも恐るべき戦士たちだ。

 

「金庫のカギ見つかったぞ。ボスがそいつを殺しちまうから吐かせるのに苦労したぜ」

 

 カギを放り投げて渡してきたのは幻影魔法を使った<多重残像(マルチブルビジョン)>という技の使い手、囚人ナンバー5ことサキュロントだ。

 俺は投げられたカギを受け取りオーナールームに備えられた巨大金庫へと向かう。金に飽かせてアダマンタイトで作らせたのか、ドワーフにでも作らせて魔法でもかかってるのか、この金庫は俺の拳でもぶち破れなかった。真っ先に領主を殺したのは俺の失態だ。

 

「よし、開けるぞ」

 

 重い金属製の扉が開くと中から黄金の煌きが溢れてくる。溢れんばかりの金貨がつまった袋が部屋いっぱいに置かれており、壁沿いの棚には明らかに魔法の輝きを持つ武具が何十と並べられていた。

 

「これは素晴らしい……ボス、手にとってもいいか?」

「好きにしろ」

 

 急くように部屋に入ってきたのはデイバーノックだ。よほど魔法道具が気になるらしい。他のメンバーも歓声を上げて金庫の中を物色している。

 

「ん?なんだこりゃ?ボス」

 

 金庫の中でもとびきり豪華な宝箱を開けたペシュリアンがひとつの書類を取りだして俺に渡してくる。

 

「これは……御前試合の賭札……か?おいおい、とんでもねえ金が賭けられてるな」

「へぇ……ちなみに誰にかけてるんだい?」

「漆黒の戦士モモン……」

「モモン?だれだそりゃ?」

「まず間違いなくあいつのことだろうな。囚人ナンバー41だ」

「ああ!そういえばあいつどこにもいなかったけど御前試合に出てたのか!で、戻ってきたら仲間に加えるのか?」

「いや、あいつはおそらく戻ってこないだろう」

 

 なんとなく確信めいたものを感じる。俺がこの場所で唯一勝てなかった相手だ。奴は去り際にこんなことを言っていた。

 

『ある意味お前には感謝している。お前たちのおかげで武術というものを学べた。仲間になる気はないし、復讐するつもりもない。ここを出たいのであれば勝手にすればいい。俺はアームストロングという人間に恩も借りもないからな』

 

 あれほどの男が床で倒れているこんな貴族の手におさまるわけがないだろう。だがもし戻ってきたらもう一度声をかけてみるのも悪くはないかもしれない。

 

「まったく最後までおかしな男だったな」

「もし戻ってきて敵対したらどうするんだい?」

 

 心配そうにペシュリアンは聞いてくる。こいつは何度かあいつに負けていたな。いや、俺以外は全員あいつに負けている。

 

「心配するな。俺たちはこれだけの組織になったんだ。あいつ一人ではどうしようもない。それに俺も()()は出してないからな」

 

 そう言って俺は腕の刺青を光らせる。あいつとは引き分けに終わったが俺は切り札である武技は一切見せていない。本気でぶつかれば壊れるのはあいつだ。

 

「しかしこの賭け札はとんでもねえな……」

 

 あらためて賭け札の金額を見る。俺が勝てなかったあいつが御前試合で負けるはずがない。この賭け札を換金すれば小さな領地であれば買い占めてしまえるのではないかというほどの金額が転がり込んでくると言うことだ。

 

「コッコドール!」

 

 俺は金庫の中の大きな皮袋の一つを掴むとコッコドールに向けて放り投げる。床に落ちた袋の中からぱんぱんにつまった白金貨が溢れ、チャリチャリと小気味のいい音が部屋に響く。

 

「わぉ、すっごいお金ね」

 

 コッコドールは目を丸くしている。この貴族が何年も貯めこんできた金にこの賭け札も加えれば国庫に匹敵するほどの財産になるだろう。一袋程度渡しても何の問題もない。

 

「持っていけ。お前には世話になったからな」

「い、いいの?」

「手土産だ。派手に行こうぜ。傀儡を作るにも金が要るだろ」

 

 この糞貴族の代わりに影武者を用意することになっている。その前にこのアームストロング伯爵の関係者や邪魔な奴らは皆殺しにする予定だ。

 

「ありがと。他の幹部にもよろしくいっておくわ。囚人ナンバー0……じゃなくて……そういえばあんた本当の名前はなんていうの?」

「名前なんてねえよ……。だが俺はもう囚人でもねえな。だったら……そうだな……」

 

 この国を暴力と血で染め上げてやる。力の強いものこそが報われる。それこそ理想の世界だ。金も権力も名声も全部全部力で奪いつくしてやる。

 

「はははははっ!さらに上へ……もっと上へか。だったら俺のことはゼロと呼ぶがいい。これ以上の上のない頂点!ゼロだ!」

「ふーん。じゃあよろしくゼロ。あんたを幹部として迎えるわ。それで警備部門なんだけど……。その名前はどうするの?」

 

 『警備部門』でもいい気もするがそれでは確かに何の捻りもない。俺は目の前で倒れ伏している男を見下ろす。この国で貴族と言う地位につきながら力の前に敗れ去った男。この男から奪うものなどすべて奪ってしまったと思っていたがこいつは分不相応なものを一つ持っていた。

 

「ふんっ、こいつの名前が豪腕(アームストロング)とは笑わせてくれる。おい、おまえら腕を出せ」

「お、おう……」

「どうした?」

「ボス?」

「なになに?面白いこと?」

「これでいいのか?」

 

 俺の丸太のような腕につき合わせるように5本の腕が差し出される。俺の腕とあわせて6本だ。こいつらは裏組織の警備部門を仕切る俺が認めた実力者たち。

 

「こんな糞野郎に豪腕なんて名前はもったいねえ!俺たちこそ組織の豪腕!『六腕』だ!!」

 

 俺の言葉に5人は互いの目をうかがった後にニヤリと笑って頷く。

 麻薬、密輸、奴隷、暗殺、窃盗、金融、賭博。この国は犯罪の宝庫となるだろう。そこで俺たちの暴力は絶対的な力となる。暴力の時代の始まりだ。俺たちは今まさに手に入れた血と力に酔いながらこの国の新しい夜明けを祝うのだった。

 

 

 


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