モモンとナーベの冒険~10年前の世界で~   作:kirishima13

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第20話 グリーンシークレットハウス

 ラナーとクライムを仲間に加えることを認めたモモンガはまずは二人の状態を確認することにする。重要なのは二人の装備とステータスだ。

 

「<上位道具鑑定(オール・アプレイザル・マジックアイテム)>、<生命の精髄(ライフエッセンス)>、<魔力の精髄(マナエッセンス)>」

 

 モモンガは判明した情報を見ながら唸る。

 

「うーむ……ラナーは体力の大きさから言うといくらかのレベルはありそうだが……」

 

 ちらりとクライムを見る。問題はクライムだ。

 

「あー……クライムはどう見ても初期値に近いな……年齢から言って当然かもしれないが……」

 

 クライムの体力はユグドラシルにおける初期値、レベルがない状態に近かった。おそらく何の職業レベルも種族レベルも持っていないのだろう。

 

「このままだとまず確実にすぐ死ぬな……持っている装備にも大した付加能力はなさそうだし……ある程度の装備が必要か……よし!」

 

 モモンガのインベントリにはイベントで手に入れたままの放置していた装備や仲間が捨てる装備をもらったものなどが無駄に死蔵されている。それらを使えば当面は何とかなるだろう。

 

「……といってもこんなところでは着替えもできないか。お前たちの話も聞きたいところだし場所を移そう。<要塞創造(クリエイト・フォートレス)>!」

 

 モモンガが発動したのは創造系魔法である<要塞創造>。高さ三十メートルを超える巨大で重厚感のある塔が出現する。拠点を創造させる魔法の中でも防御力に優れたものであり、この中でならば安心して夜を明かせるだろう。

 

「さあ、では中で話をしようか」

 

 モモンガはその重厚な扉を押し開くと中に入る……が誰一人として後ろを続いて来なかった。心配になって入り口に戻るとナーベラルが扉を開けようと四苦八苦しているのが見えた。

 

「どうしたんだ?」

「そ、それがモモン様。扉が開きません……」

「なんだと……?」

 

 モモンガが扉に手をかけるとそれはあっさりと開く。しかしナーベラルたちが押そうが引こうが扉はビクともしなかった。

 

「これは……仲間(パーティ)判定のルールが違うとでもいうのか?この世界に来た影響なのか……どちらにしろこのままでは使い道がないな……」

 

 全ての扉の開閉をモモンガが行うわけにもいかない。右手を振って魔法を解除すると要塞を消し去る。

 その代わりのものがないかとインベントリを探り、あるアイテムを展開した。グリーンシークレットハウス、拠点作成用の魔法道具(マジック・アイテム)だ。初めて見るラナーとクライムには建物がいきなり出現したように見えただろう。

 

「こ、これは……」

「すごい!なにこれ!」

「ちょっとクライム!失礼でしょう!」

 

 クライムが突然現れた建物に目をキラキラとさせて飛び出した。それはそうだろう、何もない空間に一瞬で建物を建てたのだ。

 

「別に砕けた話し方でも構わないぞ。無理してかしこまって話すこともない。子供は子供らしく話さなくてはな。ナーベラル、お前も砕けた話し方で構わない」

「はっ!かしこまりました!」

「わかりましたわ」

「わんっ」

 

 出来ればギルドの仲間たちのように気の置けない関係になりたいと思うのだが、前途は多難なようだ。

 

(ナーベラルはもう駄目だ諦めよう。ラナーは最初からこうなることが分かってたような気がするが……。問題はクライムだな。何でわんわん言っているんだ……)

 

「クライム、仲間になるのだから普通に話していいのだぞ」

「えっ……でもラナー様の犬ですわん」

 

 クライムにはなぜだかそのことが誇らしそうに見える。下僕扱いされて喜んでいるナーベラルに似たものを感じる。

 

「それで……いいのか?」

「わん!」

「ま、まぁそれでいいならこれ以上は言わないが普通に話したくなったらそうしてくれ。この魔法道具の話だったな。これはグリーンシークレットハウスという拠点作成用のアイテムなのだが……立ち話もなんだ。この中で話をしようじゃないか」

「はっ」

「はっ」「うん!あっわん!」

 

 展開された建物に入る。中は白を基調とした高級そうな家具の数々が置かれた過ごしやすそうな空間が広がっていた。ナーベラルたちも問題なく扉の開閉ができている。

 その神秘的なまでの空間にラナーやクライムの足が止まっているが、モモンガは慣れた様子で中に入って状況を確認した。

 

「ふむ……ユグドラシルとの違いはないようだな……こちらの部屋にテーブルがあったはずだ。そちらで話をしよう」

 

 モモンガは扉を開けてリビングへと向かう。ナーベラルがそれに続き、ラナーとクライムは恐る恐ると言った様子で付いてきた。

 リビングに入ったモモンガは中の様子に若干違和感を覚える。

 

「なんだ……?何かが足りないな」

 

 調度品は文句のつけようのないものばかりなのだが何かが物足りない気がする。

 

「ああ……花瓶に何も入ってないな」

 

 ユグドラシルでは装飾品の花瓶には花が飾られていたはずだがそれがない。生物については道具として扱われないということなのだろうか。ユグドラシルとの違いを調べる必要があるかもしれない。

 

「確かに花がありませんね……!モモンガ様!このままではモモンガ様の居城としてこのままでは相応しくありません!すぐに手に入れてまいります!」

 

 ナーベラルが部屋に入ったばかりだというのに止める間もなく、子供たちを連れて飛び出していってしまった。

 

 

───数十分後

 

 

 両手にいっぱいの花を持ったラナーとクライムを連れてナーベラルが戻ってくる。

 

「モモンガ様、私には植物に関する知識がないためこの者たちに選ばせましたがいかがでしょうか」

 

 ナーベラルたちの手にある花々は見たところタンポポや水仙に似たような花が多いように見える。しかしモモンガにはユグドラシル時代のアイテム作成に使う植物くらいの知識しかなく、美的センスについては言わずもがなだ。ならば言うべきことは決まっている。

 

「お前たちに任せる」

 

 丸投げである。

 その言葉にナーベラルはテキパキと指示を出して部屋の中を飾り立てていく。こういったところはまさに出来るメイドである。

 花々が飾られてみると部屋の家具とも色合いが合っており良い感じに思えた。それに友人のNPCと子供たちが一生懸命取ってきた花であるということが微笑ましい。

 

「ご苦労だったな。さて、落ち着いたところで座って話をしようか」

 

 部屋が整ったのでモモンガは椅子に座って話を進めようとしたのだが誰も座ろうとしなかった。見るとラナーがナーベに小声で話しかけている。

 

「どうした?ナーベ」

「はい、モモンガ様。ラナーが言うには今後の方針を決められるのであれば周辺の地理について詳しく情報提供をさせていただきたいとのことです」

「なるほど……それは確かに必要だな」

 

 ラナーからもらった地図は素晴らしいものだが、モモンガには基礎知識が足りない。直接いろいろと尋ねたいこともある。いい機会だ。

 

「では王国の周辺の国について聞かせてもらえるか」

「はっ」

 

 ナーベラルが元気よく返事をするとラナーと小声で話する。そしてモモンガへと向き直ると報告を始めた。

 

「ここから一番近い国であればバハルス帝国という国があるそうです。帝政の国家でリ・エスティーゼ王国との関係はよくありません。それから……」

「ちょっと待てナーベラル」

 

 モモンガが待ったをかける。何かがおかしい。

 

「なぜお前が説明する?なぜラナーが直接説明しない?」

「ラナーを配下に加えたとはいえ序列で言えば最下位の下僕。モモンガ様と直接会話を交わすなど不敬ではないかと……ラナーもそう申しております」

 

(なんなのその伝言ゲーム……。直接話をすればよくない?)

 

 モモンガはそう思うが、確かに会社の社長などに平社員が直接話す機会などほとんどない。上司を通して話をするのであればこれが普通ともいえるが、平社員でしかなかったモモンガは勘弁してもらいたかった。

 

「ナーベ。途中に誰かを挟めば挟むほど話した内容が曲解されたり誤解されたりして正しく伝わらないということも考えられる。もしその必要があるのであれば書面にするという方法もあるが些細なことで字を書く手間も無駄だろう。直接話すことを許す」

「ですが……私程度の虫けらがモモンガ様に直接話をするなど……」

 

 ラナーが顔を伏せながらナーベラルの意見に賛同する。

 

「私はラナーもクライムも仲間に加えると決めたのだ。虫けらなどと自分を卑下するな。そういうわけだ、ナーベ。お前の中継はいらないぞ」

「かしこまりました」

 

 なぜか寂しそうな顔で頷くナーベラル。

 

(え?なんで?なに?あの伝言役やりたかったの?)

 

 NPCの価値観とモモンガの価値観があっていない。ふと見るとラナーがニヤリと笑っていた。

 

(どうしたの!?……何か面白いことでもあった!?)

 

 ラナーの頭の中を覗いたモモンガは彼女が計算高いということは既に把握している。ならばあえてそうしたのだろうと思うがその理由が分からない。天才の考えは凡人たるモモンガには分からない。分からないならとりあえず笑って誤魔化すしかなかった。

 

「ふふふっ……なるほどな。ではラナー、この世界の情報を教えてくれ」

「は……はいっ!」

 

 一方、ラナーは自分の目論見がすべて見通されたと感じ冷や汗を流した。

 直接モモンガに話をしなかったのには訳がある。ナーベラルの存在だ。おそらく最初からモモンガへ直接話しかけたらナーベラルは下僕失格だと見なしただろう。もしかしたら殺されたかもしれない。そんな打算があったのだがモモンガから鼻で笑われてしまった。

 

(やはりこの御方は私の頭脳さえ超える絶対的な御方……)

 

 ラナーの頭の中を読んだとはいえその考えを一瞬で理解してのけたのだ。輪作にしても工業製手工業にしてもさすがのラナーも一瞬で閃いたわけではない。思索の末に導いた答えを一瞬で理解する。まさに超越者だ。

 

「まずは……」

 

 ラナーのこの世界の情報を語り、その情報量にモモンガは頭の中で喝采を送った。

 リ・エスティーゼ王国はトブの大森林を境としてバハルス帝国、スレイン法国という国と接している。またその南方にはローブル聖王国、そして都市国家連合といった国がありこれらが人間のおさめる国らしい。

 大陸全土から言えば人間の生活圏は極めて狭い範囲だ。それ以外には獣人たちのおさめる国や竜王のおさめる竜王国など人間以外のおさめる国が多くあるとのことだった。

 

「なるほど、参考になった。ちなみにアンデッドや悪魔のいる国はないのか?」

「アンデッドや悪魔ですか?そのような国の存在は確認できてませんわ」

「そうか……お前たちには明かしておこう。私の目的はかつての仲間たちを探すこと。そして私たちを受け入れる居場所を見つけることだ」

 

 モモンガは覚悟を決めて魔法を解除する。その姿が漆黒の鎧の戦士から骸骨の魔法詠唱者へと変わる。

 

「やはりモモン様は人間ではなかったのですね……」

 

 それを見たラナーの第一声がそれだった。驚いた様子はない。クライムもキョトンとした顔をしているだけだ。そもそもアンデッドという存在自体を知らないのかもしれない。

 

「私は超越者(オーバーロード)、ナーベラルは二重の影(ドッペルゲンガー)という種族だ。私のかつての仲間には悪魔やゴーレム、スライムに鳥人、蟲人など様々な異形がいた。我らを受け入れてくれる国というのはあるのか?」

「申し訳ありません、モモン様。私では分かりかねます。少なくとも人類の守護を標榜し他種族の排斥を行っているスレイン法国は難しいでしょう。またリ・エスティーゼ王国はそれ以前の問題です。人間ですらこの国でまともに生きていくのは難しいかと思いますわ」

「まぁ……そうだな」

 

 ラナーから詳しく聞いたリ・エスティーゼ王国の現状は一言でいえば「詰んでいる」である。貴族の腐敗が横行しすぎてもはや歯止めが利かない。

 

「分かった。では順に回ってみるか。近いところで言えばバハルス帝国か。まぁその前にやることがあるのだが……。まずお前たちの持ち物を見せてくれ」

「えっ……あ、はい」

 

 戸惑ったようにラナーが返事をし、クライムが背負っていた大きいバックから荷物を出していく。

 着替えや靴の替え、食料、野営関係の道具類等に加えて魔法道具と思われるものも一部ある。モモンガは一つずつ興味深く鑑定を行っていく。

 魔法道具はとるに足らないものばかりだが、ユグドラシルになかったものもあり、現実世界ではしたことのない野営の道具などは使い方をぜひ知って体験してみたいものだ。

 

「なるほど……いろいろ考えて持ってきたのだな」

「いえ、モモン様にとっては価値の低いものばかりかと……。このような強大な魔法道具があれば野営などする必要もありませんし……」

「そ、そんなこともないぞ!時にアンダーカバーとして野営の真似事をする必要があるかもしれない!うん、ぜひ今度やってみよう!」

 

 ラナーは少し考えこんだ後頷く。

 

「なるほど……さすがモモン様。深淵なるお考えがおありなのですね」

 

 モモンガはちょっとキャンプ気分を体験したいというだけのつもりだったのだが何故か深淵な考えにされてしまった。尊敬の眼差しが痛い。

 

「ごほんっ!これらの道具ではお前たちが外敵からの攻撃から身を守れるのかは不安だろう。さすがにそのままの装備ではすぐ死んでしまうだろうからな。まず装備を渡しておこう。まずは維持する指輪(リングオブサステナンス)だ。これで疲労・睡眠・食事は無効になる。だが成長期だろうから食事はしっかりとるように。睡眠もだぞ。夜9時には寝るように。それから相手の体力魔力鑑定用の指輪、移動阻害防止の指輪、恐怖防止の指輪、麻痺防止の指輪、即死耐性の指輪、毒耐性の指輪、暗闇耐性の指輪、沈黙耐性の指輪、時間対策の指輪……これで装備個所は埋まってしまうか」

 

 モモンガはインベントリから出した指輪をテーブルに並べていく。魔法の輝きを放つそれらは装飾品としても一級品と呼べるものであり、ラナーもクライムも目を見開いてそれらを見つめる。

 

「それから首に会得経験値増加の首輪は……もうちょっと後だな。今は滑落防止のために<飛行>の魔法を込めたネックレスを渡しておこうか」

 

 さらにゴツゴツした鉄製の首輪と翼の装飾が付けられたネックレスが机に置かれた。

 

「それから身体防具についてはどうするか……。確かイベントで無駄にもらったものがあったな」

 

 モモンガはインベントリの奥を探る。<無限の背負い袋>と違ってショートカットが割り振れず即座に取り出せないのがインベントリの欠点だ。

 

「ラナーには……これはどうだ?」

 

 モモンガが取り出したのは真っ赤な衣装だ。頭巾のついた上着もズボンも一部の白い装飾を除きすべて真っ赤であり、これをラナーが着れば赤ずきんと呼ばれるかもしれない。

 

「クリスマスのイベントでその日限定のアイテムを特定数集めると交換してもらえるサンタセットだ……50レベル程度の微妙性能なんだが今のレベルのうちはまぁ使えるだろう」

 

 ユグドラシルでは各種季節ごとのイベントというものがあった。クリスマスイベントも同様であり特殊アイテムと交換で限定アイテムが貰える。

 そのイベントではその日のみ敵を倒すと一定確率で特殊アイテムが手に入る仕様だった。得られるアイテムは敵のレベル帯毎に異なりモモンガがこのアイテムを手に入れるために倒していた時敵のレベルは優に80レベルを超えていた。

 完全に見た目だけのファン装備のためのイベントである。

 

(それでもクリスマスに恋人もなくゲームにログインしてる仲間と敵を倒して一応取ったんだよな……一回も着なかったけど……)

 

 ユグドラシルは十数年運営を続けたが、クリスマス限定の強アイテムやモンスターが出現という話は聞かない。

 しかし考えてみれば当然かもしれない。ユグドラシルの課金層の多くは富裕層であり、生活に余裕がある人々がクリスマスに一人でいることなど運営が想定するはずもない。逆に限定の強アイテムなどを出したら苦情が殺到することだろう。

 

(いや、あの糞運営ならやりかねないか……見つからなかっただけで……)

 

 そんな悲しい思い出とともに手元に残ったのがそれであった。

 

「クライムにはどうするかな」

 

 モモンガはクライムを見つめる。ワクワクしたような表情をしているが、そこまでいいアイテムを渡すことは出来ないのに若干罪悪感を覚える。子供なのだし子供らしい衣装がいいだろうか。

 

「うーん……これでどうだ?」

 

 インベントリから取り出したのは犬の着ぐるみだ。何かのゲームとのコラボ装備でこれも50レベル程度のものだが全身装備ということで防御力は高い。

 

「すごい!これをくれるの!?」

 

 クライムにとってテーブルに並べられた指輪など装飾品の数々と同じように犬の着ぐるみもキラキラして見えた。クライムにとってはまるで宝石箱の中身である。

 

「そんなにすごいか?」

「うん!すごい!これはモモン様が作ったんですか?」

「いや、私と私の仲間たちが手に入れたものだ。まぁ大したものではないから気にするな」

「すごい!モモン様のお仲間もすごいです!」

 

 かつての仲間たちを褒められたモモンガは破顔する。確かに大したアイテムではないのだが、ユグドラシルでの仲間たちとの思い出が詰まっているといえる。

 気分を良くしたモモンガはその無骨な骨の手でクライムの頭を撫でる。

 

「よしよし、ならばまずそれらに着がえてくれ。今の装備は防御力が弱すぎる」

 

 モモンガの言葉にラナーとクライムは目を見合わせるとモモンガの目の前で服を脱ぎだした。6歳の男女の初々しい肌が露出する。

 

「ちょっ、ちょっと待て。着替えるなら隣の部屋でやれ。べ、別にやましいことなど何もないが人前で肌を晒すものじゃない」

 

 ペロロンチーノなら大喜びでガン見していたかもしれないが、さすがに幼女や男児の裸を目の前で見るのは色々と不味いだろう。通報されてしまう。

 モモンガの言葉に二人は装備を持って隣の部屋へ移動すると着替えて戻ってくる。

 

「まぁなかなか似合うな」

 

 見た目は赤ずきんと犬。魔法道具であるためサイズは自動的に調整され二人にフィットしている。イベントの仮装用衣装ということもあって特に子供にはよく似合っている。

 

「これで多少の攻撃には耐えられるだろう。次に所持している特殊技能(スキル)や魔法は……まぁさすがにないか」

「モモン様、私は第0位階が1つだけ使えますわ」

 

 モモンガの予想に反してラナーは一つだけ魔法を使えるらしい。第0位階魔法というユグドラシルで聞いたことのない位階に興味を覚える。

 ラナーの話によると第0位階魔法というは『生活魔法』とも呼ばれるもので、『水をお湯に変える』、『砂糖や塩を生み出す』、『水を桶いっぱいだけ出す』など攻撃力が皆無で生活に密着したものらしい。

 

「私の使えるのは<(アシッド)>です。飛ばすことも出来ず桶いっぱい程度の酸を生み出すだけですが……使い道としては始末した人間を溶かして……」

「いや、いい。もうわかった」

 

 ラナーの記憶にそんな感じのものがあったと思い出す。記憶を共有したモモンガとしてはあまり思い出したくない記憶だ。

 

「武器については職業(クラス)適性を見ながら渡してレベルを上げていくか……」

 

 モモンガが説明を続けようとしたその時、ぐーっと大きな音がなる。クライムが恥ずかしそうに顔を赤らめていた。

 

「ああ、もうそんな時間か」

 

 気が付けば外が暗くなっている。アンデッドであり寝ることも食べることも出来ないモモンガはもはや『食べる』という感覚さえ忘れかけていた。

 そしてラナーとクライムのリュックの中に入っていた携帯食料を思い出す。

 

(あれは……俺の世界の食料より酷かったな)

 

 カチカチになったパンや干し肉などさすがに成長期の子供に食べさせるものではないだろう。

 

「何か食べるものは持っていたかな……」

 

 モモンガがインベントリの中で探るのはイベント用の特殊アイテムだ。交換用アイテムとして食料品があったはずである。食べても体力の回復量が微妙でバフ効果もさらに微妙なのだが、ただの食料としてなら問題ないだろう。

 

「クリスマスイベントの『七面鳥のロースト』にバレンタインイベントの『チョコレート』、ホワイトデーイベントの『クッキー』、ハロウィンイベントの『パンプキンパイ』……」

 

 恋人たちのためのイベントの際もゲームにログインしていたということの証明であり、それを数千個単位で持っているという事実に何だか悲しくなってくる。

 

「これらはお前たちの《無限の背負い袋》に入れておこう。水が飲みたくなったらこの無限の水差し(エターナル・オブ・ウォーター)を使うといい」

「こ、これらの品は……なんていうことなの……」

 

 ラナーは驚愕していた。どことも分からない空間から取り出した大量の料理が作りたてのように湯気を出していることも驚愕だが、その出されたものそれぞれが完全に何もかも同じだったのだ。形から色合い、焦げの付き具合など寸分の狂いもなくすべてを同じにするなどどんな料理人にも不可能だ。

 

(こんなことが可能なのは……)

 

 ラナーはモモンガへの評価をさらに一段階引き上げる。神の所業、それを目の前に見せつけられて。

 

「こんなところだ。大したものがなくて悪いが食べるといい」

 

 モモンガの言葉にラナーはよだれを垂らしているクライムを押さえつける。まずは上の立場であるナーベラルが口にするのを待たなければならないだろう。

 

「ありがとうございます。さすが至高の御方の食べ物。素晴らしい出来です……」

 

 並べられたナイフとフォークを使いナーベが恍惚とした表情で食べ始める。その仕草はマナーの見本のようでとても美しい。おそらく味よりもモモンガから与えられたということを喜んでいるのだろう。

 

「どうした?お前たちも食べるといい」

「おいしい!」

 

 言われた瞬間かぶりついたクライムが叫ぶ。ラナーも初めて食べる鳥の料理だがその甘辛い味わいが口の中に広がり噛みしめる度に肉汁が口の中に溢れてくる。

 クッキーも王城でラナーに与えられたものとも比べ物にならない。色とりどりのジャムやクリームが挟まったそれらは絶妙な甘さをサクサクとした感触を歯と舌に伝えてくる。

 チョコレートは口の中に入れたとたんに蕩けるような甘さとわずかな苦みが口の中に広がる。

 王城で高級料理を食べていたラナーでさえこれらの食べ物に一つの欠点も見つけることが出来なかった。完璧な仕事である。

 

「うまそうだな……」

 

 あまりに美味しそうに食べる3人に一人食べられないモモンガは若干の寂しさを感じる。

 

「ナーベ。ちなみにその七面鳥のローストはどんな味なんだ?」

「そうですね……アルフヘイム産のワイバーンロードの肉の味に近いかもしれません」

「……」

 

 ゲーム内の肉に例えられてますます興味をそそられるが余計に分からなくなった。なんで俺だけ食べられないんだという嫉妬の視線がナーベラルに刺さる。

 

「ところでナーベ。今日の人間への対応はよくなかったな」

「んぐっ……」

 

 思わず鶏肉をのどに詰まらせ手を止めるナーベラル。急いで口の中のものを飲み込むと頭をテーブルに叩きつける。

 

「申し訳ございませんでした!」

「いや、私の言い方も不味かったところはある。お前と私の間での常識が違うようだ。まず初対面であれば人間であれ何であれ丁寧に対応する必要がある。いきなり上から目線で見下すなどしてはならない」

 

 これでもモモンガは小学校を卒業してから会社員として生活してきたのだ。社会人の先輩として対人関係にはある程度の自信はある。相手が他の会社の人間だろうと取引先だろうと横柄な態度を取れば会社の評判は一気に下がってしまうだろう。

 

(このパーティーはナザリックと一緒で俺がまとめ役、つまり上司だ。部下にそんな態度を取らせるわけにはいかない。ナーベラルには若干……いやかなり常識が欠如している。上司である俺が手本にならないとな……ならば……)

 

「よし……分かった!次の対人交渉は私に任せるといい。正しい人との接し方というものを見せてやろう!」

 

(ふふふ、見ているがいい!ナーベラル!普通の社会人の対人能力というものをな!)

 

 新しく仲間になった子供たち、そしてかつての仲間の娘、彼らに必要なのは強さよりもまず常識だ。そして普通の対応などは一般人であったモモンガのお手の物と言える。

 モモンガは立ち上がるとその瞳にやる気を漲らせるのだった。

 

 

 

 

 

 

 その頃、リ・エスティーゼ王国のロ・レンテ城には複数の貴族たちが集まっていた。彼らはラナーの工作により王女が失踪したとは誰一人考えていない。議題の中心は先の御前試合の出場者についてだった。

 

「王都での爆破事件ですがモモンとナーべ殿の両名がやはり現場で目撃されているそうです」

「だが被害者はいないのだろう?」

「攻撃を受けた元冒険者の老人は衣服が焼け焦げておりましたが無傷でした」

「怪我人はなしか……だがそんな者たちを王家に仕えさせて本当によろしいのですかな?」

 

 発言力がある貴族たちから様々な意見が出される。その中には件のブルムラシュー侯をはじめ四大貴族の面々も含まれていた。

 

「父上、彼らを他国に渡してはなりません。ぜひ我が国に取り込まねば禍根を残します。被害者が出なかった以上その件は不問にするのがよろしいかと」

「珍しく気があったなザナック。父上、ぜひナーベ殿は王城に招きましょう。そして従者とし私の部屋の離れに部屋を与えてはいかがでしょうか?」

 

 二人の王子は同じようなことを言っているが、ザナックのそれは王国の未来を考えてのもの、パルブロのそれは己の欲望を満たすためのものである。しかしランポッサは兄弟仲が良いことだと顔を綻ばせる。

 

「おまえたちの意見は正しい。ただし彼らに事情は聴かねばなるまい。問題がなければ不問とする。そして返事は保留されているが今一度王城に招き、正式にこの国に仕えるよう勅令を出そう」

「父上、それであれば適任の者がおります。フォンドール男爵!」

「はっ、ここに」

 

 一歩前で膝をついたのはパルブロお抱えの貴族の一人、アルチェル・ニズン・エイク・フォンドール男爵だ。その人間性は上へは媚びへつらい、下には極めて横柄で残酷な対応をする人物である。その人選にザナックは顔をしかめる。

 

「父上、モモン殿もナーベ殿もあれだけの力の持ち主。引く手は数多でしょうし、帝国にでも引き抜かれたら多大な損失です。国賓としてもっと立場のある人間を出すべきではないですか?」

「何を馬鹿なことを言っておるのだ、ザナック。聞けばあのモモンという男は平民であると答えたそうではないか。そんな男がナーベ殿のような方と一緒にいたというだけでも腹立たしい。いや、そんなことより貴族の品位が疑われるぞ」

「そのとおりです。陛下の名代としてアルチェル殿が出るだけで十分な礼儀でしょう」

「平民程度に舐められては今後にも秩序維持にも差し障りますからな」

「……」

 

 数々の貴族たちがいるにも関わらず誰一人自分に同意しないことにさすがのザナックも黙り込むがその顔は納得しているものではない。

 

「よし分かった。ではフォンドール男爵に命じる。モモン殿とナーベ殿を説得し王城まで連れてくるように」

「はっ、私にお任せください。モモンとナーベの両名を必ずや連れてまいります」

 

 王国の貴族らしい尊大な笑みを浮かべながらそう答えるアルチェルにザナックは不安な顔を隠しきれずにいた。

 

 

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