モモンとナーベの冒険~10年前の世界で~ 作:kirishima13
私の名前はナーベラル・ガンマ。今は冒険者ナーベにしてモモンガ様の下僕である。昨日モモンガ様に下僕が増えた。
至高の存在たるモモンガ様の下僕にナザリックに属さない者が増えたことに不満はないと言えば噓になる。しかし、モモンガ様が認めたことであるし、そもそもモモンガ様ほどの御方に傍仕えが一人では少なすぎるのは事実だ。
「それでは第1回下僕会議を始めます」
モモンガ様による
その後、私たちは新たな下僕の一人ラナーの提案により私に割り当てられた部屋へと集まっていた。役割は議長が私、書記ラナー、会員クライムとなっている。
「ナーベ様、今の時刻は20時05分30秒です。残り54分と30秒しかありませんわ」
「分かったわ。では手短に話しましょう」
モモンガ様の方針によりラナーとクライムには午後9時就寝が義務付けられていた。成長期に睡眠不足は絶対にダメだということで午前7時の起床まで寝なければならない。ちなみに私は24時までは寝なくてもいいとされている。
さすがはモモンガ様。私が下僕として格上と認めてくれているのだろう。
「モモンガ様は私たちに手本を示すべくあの虫けらを地獄へと送りました。これをどのような教訓として活かすべきか、あなたたちも知恵を貸しなさい」
そうなのだ。私がラナーの提案に乗ったのはこの疑問を解決するためである。ラナーはモモンガ様が認めるほどの知見を有しているらしい。協力させればこれまでのモモンガ様の行動の意味を少しでも理解できるかもしれない。
「ナーベ様……私たち程度が発言してもよろしいのですか?」
「構わないわ。モモンガ様が認めたのですもの。私のこともナーベラルと呼ぶことを許します。あなたたちは末端とは言えナザリック入りを約束されたのです。そのことに自覚を持って行動しなさい」
「はっ!かしこまりました!クライムも分かったわね」
「わん」
この犬……クライムはどのような意図があって下僕にしたのか理解しかねるがモモンガ様なりの深淵なお考えがあるのだろう。
「それでモモンガ様が与えてくださった教訓についてですね……。あの時のモモンガ様はなんというか本当に恐ろしかったですわ……死してもさらに地獄で業火に焼かれ続けるとは……」
「あれこそがモモンガ様の本当の御姿なのよ。この世界のあらゆる存在に畏怖される絶対なる死の象徴そのもの……なんと神々しいことか」
あの時のモモンガから発せられる気配は私をして恐怖に顔を上げられないほどのものだった。
まさに死の支配者たる一面をお見せいただいた瞬間であり、あの時のモモンガ様から感じた畏怖と言ったら筆舌に尽くしがたいほどだ。今思い出しても身震いがする。
「それほどお怒りだったということなのですね。やはりモモンガ様のお仲間を侮辱するということが許せなかったのでしょうか?ナーベラル様」
「それは当然よ。至高の御方々を侮辱するなど万死に値しますから」
「ですがモモンガ様はご自分が侮辱された時は殺すなと言われてたのですよね?……と言うことはこういうことではないでしょうか?あの時もおっしゃっていましたが『死すら生ぬるい』と」
「そ……うね。そうとしか考えられないわ……ね」
なるほど、さすがモモンガ様の認めた下僕だ。ラナーの言葉に私は目から鱗が落ちた。
モモンガ様は度々『殺すな』とおっしゃっていた。私はそれをモモンガ様の慈悲であると思っていた。しかしそれは間違いだったのだ。
もしかしたらモモンガ様は人間を殺すのが嫌なのではないか……などと一瞬でも考えてしまった自分が恥ずかしい。
「つまりラナー。あなたはこう言いたいのね? 目の前の虫けらを殺すだけで済ませるなど甘すぎると……」
「はい、そうとしか考えられませんわ」
確かにモモンガ様は先ほど虫けらに対してただ殺すのではなく、死しても身を焼き続けられるという過剰と思えるほどの対応をなされた。
それは至高の御方々への虫けらの言動を考えるとそれも当然であろう。
至高の御方々を侮辱されてただ殺すだけで済ませるなどやはり私は甘かったのだ。これからはより凄惨で残酷な罰を与えなければなるまい。
「結論を言うわ。モモンガ様は慈悲深い方ですのでご自分が侮辱されても許してしまうかもしれない。しかし下僕としてそれをそのままにしておくのは不敬!モモンガ様や至高の御方々が侮辱された場合、ただ殺すだけで許してはいけないわ!『死すら生ぬるい』ほどの苦痛を与え続ける、これこそがモモンガ様の言いたいことだったのです!」
「異議なしですわ」
「わん!」
モモンガ不在のグリーンシークレットハウスの一室。そこで秘密裏に行われた会議の一つの議決がなされた。そしてちょうどその時、時計のアラームが鳴りラナーたちは就寝時間を迎えるのだった。