モモンとナーベの冒険~10年前の世界で~ 作:kirishima13
(どうしてこうなった……)
『仲間への侮辱者には死すら生ぬるいほどの報復を与える』
モモンガの教えはなぜかこうなってしまっていた。モモンガの教えに感銘を受けたと目を輝かせるナーベラルたちにとても反対できなかった。それでも何とかモモンガ自身が侮辱された場合は自分で何とかするからと説明したのだが……。
(でも俺が侮辱されたらやってやっちゃうぞって雰囲気なんだよなぁ……)
事実ナーベラルを含めた3人はあまりにも苛烈な報復を行った主人を見習って『あそこまでやっていい』という認識にしか思えない雰囲気に包まれている。
「えい!」「やあ!」
「やめろ!くそがあああ!!」
あの時はついカっとなってしまったがモモンガ自身は平和を愛する普通のサラリーマンの精神を失っていないつもりだ。
多少感情の起伏が抑制されているようだが初対面の相手には人間だろうと魔物だろうと平和的に接するし、相手から攻撃してこない限りは殺したりするつもりはない。
「えい!えい!」「やあ!やあ!」
「この臆病者どもが殺してやるぞ!!」
「黙りなさい、舌を引き抜きますよ」
ブチブチと言う何かを引きちぎる音が聞こえてくるが気のせいだ。きっと気のせいに違いない。心に棚をつくりモモンガは思索を続ける。
(さすがに死体を散らかしたままじゃ不味いから召喚したアンデッドに後片付けはさせておいたけど……貴族が失踪したら絶対疑われるよな……)
リ・エスティーゼ王国にはもう戻ることは難しいと言うのがモモンガの考えだ。追手が送られてくるかもしれないし、何より国として何の魅力もない。
ラナーに聞いた話ではあまりの政治腐敗でこの国はもう長くはないらしい。
「ぐぞ!やめろ臆病者!このグ様の餌にしてやる!」
「さすがトロール。もう舌が再生しましたか」
「ナーベ様。私がやりますわ<
「ごぼぼぼぼぼぼ」
「口内や肺を焼かれてはさすがに話せませんわよね。あ、悲鳴や呪詛であれば大歓迎ですわよ」
ナーベラルはよくやったと言わんばかりにラナーに笑いかけている。いつの間に二人は仲良くなっていたのだろう。意外と性格が合っていたのだろうか。
「……」
後ろで行われている捕獲したトロールへのあまりに残虐な行為から現実逃避していたモモンガは仕方なしに振り返る。
そこにはモモンガの
ナーベラルはというと、トロールが死なないように<
(本当にどうしてこうなった……)
♦
時間は遡り、王国の貴族を始末してから数日。モモンガはラナーとクライムの教育に時間を使っていた。
ある程度の装備を与えたもののモモンガはラナーとクライムの弱さが心配だったのだ。そこでまず育成を優先することに決めて様々な注意を与える。
「戦いにおいてまずは何より相手の情報を調べることが重要だ。渡した指輪の効果で<
モモンガの注意は長く執拗なものであったが、それを聞いたラナーは実に理にかなっているものだと感心していた。
ユグドラシルでの経験や『ぷにっと萌え』などの仲間から聞いた話をもとにしているだけなのだが、ラナーとクライムの目から尊敬の光が失われることはない。
「これからレベルを上げていくが、その前に
「びるど……ですか?」
「職業の構成のことだ。ユグドラシルでは一つの職業について最高でも15レベルまでしかなかったし、合計レベルの上限は100レベルだった。だからこそ厳選する必要があるし人によって向き不向きもある。ああ、間違っていらない職業のレベルが上がってしまったらあとで死んでレベルダウンする方法もあるから気にするな。まぁそれはもっとレベルのあがってからの話だが……とりあえず希望する
ラナーとクライムは首を振る。そもそも職業毎のレベルという概念が理解の範疇外である。
「では私が最初は決めさせてもらうか。ラナーは
モモンガはラナーに枯れ枝のような歪な形の杖を渡す。ユグドラシルにおける魔力系魔法詠唱者の初期装備だ。
「クライムはおそらく現在職業無しだろうな。ふふふっ……ゼロからのビルドとはなかなか面白い。戦士がいいか、魔法詠唱者がいいか、鍛冶師や彫金師などの生産系も面白そうだし、特化型か万能型か、さて……どれがいいか。ふふふふふ……」
「あの……モモン様。いったい何をはじめられるのでしょうか?」
「それはな……」
それはMMORPGにおいては禁じ手とされるもの。人によっては寄生と叩かれ、人によっては効率厨の余計なお世話だと怒られる。しかしゲームではないこの現実では生きるすべとして有効だろう。
モモンガはニヤリと笑うと高らかに宣言した。
「パワーレベリングだ」