モモンとナーベの冒険~10年前の世界で~   作:kirishima13

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第24話 トブの大森林へ

 モモンガの一言により始まったパワーレベリング。トブの大森林には強大な力を持つモンスターがいるらしいとラナーから聞いたモモンガは周辺を探したのだが期待していたほど強い相手はいなかった。

 

(せめて80レベル程度の魔物や人間がいたらよかったんだけどな……)

 

 結局見つかった中で敵意のない者や逃げ出す者を除外した結果、選ばれたのがこのトロールだった。

 

 『グ』と名乗ったトロールは非常に好戦的でモモンガたちの名前を聞くなり『長い名前は臆病者の証拠だ』などと言って襲い掛かってきたのだ。

 モモンガの薫陶のおかげか主人を侮辱した愚か者にナーベラルたちは容赦することはなく、めでたくレベル上げの生贄へとしてエントリーし今に至る。

 

「ラナーはそこそこレベルが上がったな。もう20レベル程度か?この相手ならば恐らくもう少し上まであげることが出来るだろう。その杖で限界になったら次はこちらの杖を使え。呪術系の職業の取得条件だ」

 

 当初は罪悪感に苛まれていたモモンガであるが、レベルが上がり始めて様々なスキルや呪文を次々と得ていくラナー達の様子に楽しくなってきていた。

 ラナーには魔法詠唱者の才能があると考え、希望を聞いたところ呪術系それも錬金術師や幻術師などの創造・幻術系魔法を覚えたいらしい。今のところビルドは希望通りに進んでいる。

 

 一方、ラナーはモモンガにひたすら感服していた。この短期間でこれだけの強さを得る方法を当たり前のように提案できるなど尋常ではない。ラナーにとって初めての常識を超越した知恵者との遭遇である。

 武器を変える、アイテムを使用するなど職業の変更条件、それぞれにおける限界レベルの存在、そして1レベルにつき3つまで魔法が取得できること、言い換えれば3つ取得してしまうとそれ以上の取得が不可能になる事などなど。それは神のみぞ知る叡智の欠片と思えた。

 

「クライムは……また止まっているな。ほら、次はこの双剣を使ってみろ」

「う、うん!」

 

 クライムはというと剣を渡しては1レベルで上限を迎え、槍を渡しては1レベルで上限を迎え、他にもいろいろと戦士系に魔法系と武器を変えながら適性を見ているが今のところすべて体力の増え具合から判断するに1レベルで限界を迎えている。

 

(総合レベルは恐らく15はあるだろうけどそのすべてが1って……)

 

 まごうことなきゴミビルドだ。総レベルは上がっているため体力や魔力は増えていっているが、平均的で器用貧乏の状態になってしまっている。

 

「クライム……お前には何かやってみたいこととかないのか?」

 

 得意なことを聞いてみたりしたが適性がさっぱり分からないので、何かのヒントになればとなんとなしにやりたい事を聞いてみる。

 

「えっと……ラナー様を守る!」

「誰かを守ることが好きなのか?」

「わかんない!でも……ラナー様を守るって決めたんだ!」

「ほぅ?守るね……」

 

 モモンガはふと思いつき一つの盾を出す。バックラーと呼ばれる小型の盾だ。大型の盾も持っているがさすがに6歳では体の大きさ的にも扱えないだろうと思ってのチョイスである。

 

「試しにこれでアレを殴ってみろ」

「うん!あ……わん!」

 

 双剣の替わりにバックラーを手にしてトロールを殴りつける。その瞬間クライムの体力がわずかに増えた。1レベル上昇したのだろう。

 

「よし、もう一回いってみろ」

「わん!」

 

 クライムが何度か殴ると体力がさらに上がった。

 

「おっ、これはいけたか!?よし!クライムもっといけ」

「わんわん!」

「ぐぼぼぼぼぼ」

 

 トロールの悲鳴にならない悲鳴が上がる中、クライムのレベルは順調に上がり始めた。

 

「盾職に適性ありか……。確かぶくぶく茶釜さんのいらなくなった装備をもらっていたな」

 

 『ぶくぶく茶釜』はアインズ・ウール・ゴウンの中でも盾職を持っていたスライムだ。さらに治癒魔法も使うことができ、相手を殴りながら自分を治癒する殴りヒーラーとしてヘイトを稼ぐなどといった戦法を取る味方ながらに頼れる仲間だった。

 

(ぶくぶく茶釜さんのビルド……参考にしてみるか)

 

 何でも取っておく主義だったモモンガのインベントリには仲間からもらった装備からイベントで手に入れて一度も使ったことのない装備までそのままに入っている。これは活用するいい機会だろう。

 

「ぐぼぼぼぼ」

「よーし、グ君安心しろ、そんな心配そうな目で見ることはないぞー?終わっても殺したりしないから……もう1セット行ってみようか!」

「「おー!」」

 

 どうも社会人としての常識というか仲間以外への情というものが薄れているような気がするが楽しくなってきたモモンガは気にしないことにした。

 そして元気よく返事をする子供たちと一緒にレベリングを続けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 トブの大森林を境としてリ・エスティーゼ王国とバハルス帝国の西側に一つの国が存在する。

 

 

 

───スレイン法国

 

 

 

 他国では地神、火神、風神、水神の4大神を奉る宗教が主流である中、闇と光の神を加えた6大神を奉り、それらを束ねる最高神官長が国の政治の頂点に立つ宗教国家である。

 

 そして彼らは自分達のことをこう呼ぶ、『人類の守り手』と。

 

 彼らがそう呼ばれる理由、それは6大神になぞらえて作られた6つの特殊部隊『六色聖典』に由来する。

 

 彼らは世界各地から勧誘された敬虔な信仰心を持った強者を集めた団体であり、表の顔は各教会の聖職者であるが、裏の顔は完全なる戦闘員であった。

 

「ニグン、人間への影響は本当に大丈夫なのだろうな」

「はっ、ドミニク隊長!問題ありません」

 

 その六色聖典の一つ、亜人の討伐を主な職務としている陽光聖典がトブの大森林を訪れていた。

 ニグンと呼ばれた若者はその若さにして陽光聖典の副隊長まで上り詰めた逸材である。その黒い瞳を森の中の小川へと注いでいた。

 その横で心配そうな顔をしているのはいずれ神官長になるのではと目されている陽光聖典の隊長のドミニクだ。

 

 今回の任務で陽光聖典はトブの大森林にいる亜人を駆逐するために訪れていた。その隊員数は30人。揃いの特殊な神官服に身を包んだ彼らは一騎当千の戦闘力を持つ魔法詠唱者であり、30人という数は並みの人間の一軍にも匹敵する。

 そんな彼らの目的はトブの大森林を人類の手に取り戻すことである。

 

 『トブの大森林』。そこは薬草や野生動物などの宝庫であり、開墾すればそれこそ豊かな土壌により豊富な作物の実りが期待できるまさに人間にこそふさわしい土地である。しかし、そこは未だに人外の支配下にあり、力のない人間が踏み入ればその餌食になるのは間違いない。

 

「私たち陽光聖典は亜人を殲滅し人間の土地を取り戻すための部隊です。そんなヘマはしませんよ」

 

 今回トブの大森林での任務には複数の目的があるがその一つがリザードマンの駆逐である。

 この森には様々な人類の脅威となりうる存在がいる。トロルやナーガ、ゴブリンやオーガ、そしてリザードマン。特にリザードマンは知能が高く、魔法の武器を所持している者もいるという。魔法詠唱者や戦士としての能力の高い個体もおり群れで襲い掛かられては脅威である。

 

「本来であればリザードマンどもを即死させるほどの毒を流してやりたいのですが……」

「馬鹿を言うな。下流には人間の村落もあるのだぞ」

「はい。ですので弱い毒を定期的に流す魔法道具を作成しました。下流につく頃には希釈され生物に影響はないでしょう。まぁそのおかげでリザードマンの命にも影響はないと思われますが……」

「……だがやつらの食料である魚は殺しつくせる」

「さようでございます」

「しかしニグン副隊長……いくら亜人とは言え川に毒を流すなど……」

 

 ニグンがこれからの飢えて死んでいくだろう亜人の運命を想像しニヤリと笑みを浮かべているところに、一人の隊員が顔に嫌悪感を浮かべながらつぶやいた。

 

「なんだと……?貴様はそれでも敬虔な神の使徒か?」

「いや、しかし毒を流すなどと……」

「亜人をかばい立てすると言うのか?貴様も漆黒聖典……あの第9席次のようになりたいのか?」

「ひっ!?い、いえ!亜人は殲滅すべき対象であります!」

 

 ニグンの言葉に前言を撤回する隊員。力はあるものの神への信仰心に欠ける漆黒聖典第9席次への扱いは他の聖典でも有名な話だ。

 隊員が信仰心を取り戻したことを確認したニグンは満足そうに続ける。

 

「やつらの主食は魚。そして農耕やそれ以外の狩猟をしている様子もない。飢えて数を減らすのもよし、少ない食料を奪い合ってお互い殺しあうのもよし。我らが手を下さずとも滅びへと向かうでしょう。そして弱り切ったところを攻め込めばいい」

「だが川はここだけではあるまい」

「はい、ですのでこれから順に支流に魔法道具を設置していくつもりです」

「分かった。だが、急げよ。今回来た本来の目的を忘れるな」

 

 隊長に厳しい顔で睨み付けられニグンは気を引き締める。もう一つの任務はこのような命の危険がない簡単な任務ではない。場合によっては自分達だけでなく周辺国を巻き込んで大災害へと発展するかもしれない。

 

「リザードマンへの対応が終わり次第、森の最奥部に向かうぞ」

「破滅の竜王……本当に存在するのですか」

「やめろ、その名をみだりに口に出すな!」

「申し訳ございません!」

 

 名を呼ぶことすら憚られるほどの恐ろしい化け物。その名には強大な魔物に付けられる『竜王』の称号まで付けられている。トブの大森林最奥部に封じられているという異世界の魔物。様々な呼ばれ方をするがそれが人類の敵であることには間違いない。

 

 その破滅の竜王が近く復活するという予言があったのだ。

 破滅の竜王については過去にアダマンタイト級冒険者ローファン率いる冒険者チームが命がけで戦っても討伐できず、封じたのみだという。それから数十年、更なる力を蓄えたそれが復活することになれば人類の存続の危機となるだろう。

 

「そのためのケイ・セケ・コゥクだ。見つけ次第カイレ様に連絡する」

「は、はい……」

 

 その言葉にニグンは安堵の吐息を吐く。神の遺産と呼ばれる神器『ケイ・セケ・コゥク』。それはあらゆる存在を意のままに魅了すると言われている。人類の脅威たる破滅の竜王が人類の守り手の手に落ちるわけだ。

 

「さあ、いくぞ。我らの信仰に神のご加護があらんことを」

「我らの信仰に神のご加護があらんことを」

 

 この任務には人類の存亡がかかっている。ニグンは気を引き締めると光の神アーラ・アラフへ人類の繁栄と異形種の滅びを願うのだった。

 

 

 

 

 

 

「ローファンがやられた」

「は?」

 

 突然にリグリットから言われた言葉に蒼の薔薇の面々は困惑する。その面々にはラキュースとガガーランに新たに双子の忍者ティアとティナも加わっていた。

 

「あの爺さんがやられた?モモンとガゼフを弟子にしてやるって息巻いてたじゃねぇか」

「いや、あたしにもよく分からないんだが……たぶんやったのはモモンとナーベだろうね」

「何であの二人がローファンの爺さんをやるんだよ」

「さぁね?何か怒られることでも言ったんじゃないのかい?あれでスケベジジイだしね」

 

 美姫と称えられるナーベを前にしてセクハラでもしたのだろうとリグリットは呆れるようにやれやれと両手を広げる。

 

「それでローファン様は無事なのですか?」

「心配しなさんな、ラキュース。怪我一つないらしいよ」

「なんで怪我してねーんだよ。やられたんじゃねえのか?」

「死ぬかと思ったって言ってたから大怪我したんだろうけど気づいたら治ってたとさ」

「は?」

「誰かが治癒魔法でもかけていったんだろうね」

「それもあの二人か?ぶっ飛ばしておいて治して逃げるって……ったく、どういうやつらなんだよ」

「それは分からないけどね……くくっ、ぜひうちに欲しいね」

「あの……リグリット様。モモン殿とナーベ殿を私たちのパーティメンバーにということでしょうか?」

「そうしたいところだけどね……どこを探してもいないから今のところは保留だね。それよりローファンからの頼みがある」

「ローファン様から?」

 

 リグリットが言うローファンからの頼み。それはかつて仲間達とともに封印したトブの大森林の魔物の様子を見てきて欲しいというものであった。

 

「なんで自分でいかねーんだよ」

「あれで結構な歳だからね。それに若い二人にコテンパンにされたのが決め手だったんじゃないかね」

「はぁー歳は取りたくねーなー。で、その魔物の名前は?」

「ザイトルクワエと言うらしい。何でも昔その森で会ったドライアドに名前を聞いたということだよ。そして復活した際にはまた封印してやると約束したらしい」

「それで俺らが代わりに約束を果たすってわけか」

 

 アダマンタイト級冒険者でさえ封印するのがやっとだった魔物。それを封じるなり討伐するなりすればアダマンタイト級への昇格は確実だろう。

 蒼の薔薇の面々の顔にやる気が満ちる。

 

「異論はないみたいだね。じゃあトブの大森林に出発だよ!」

 

 


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