モモンとナーベの冒険~10年前の世界で~   作:kirishima13

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第26話 陽光聖典

「モモン殿。協力に感謝する」

「……気にするな」

 

 友好的に接しているがモモンガはリザードマンたちを全面的に信用したわけではない。リザードマンたちが何らかの報復に毒を流されたという可能性もあるからだ。

 しかし、安住の地を見つけることや、仲間たちの情報を得るという目的のためにはわざわざ敵対する必要はない。

 

「それに毒が流れてきたとしてそれが人為的なものか、自然発生的なものか。気になるではないか」

「自然発生することなどあるのか?」

「鉱毒という可能性もあるのではないか?銅が溶け出した場合や水銀が溶け出して昔大勢の人が死んだことがあったと聞くからな」

 

 ラナーが何かすごく嬉しそうに『さすがモモン様』とでも言いたそうな表情でモモンガの言葉に頷いている。

 

(そんな目で見ないでー……。こんな知識は小学校で習うようなことだろう……)

 

「その可能性もあるというだけだ。誰かが流している可能性もあるがその場合は理由が不明だな。お前たちはどこかと敵対したりしているのか?」

「他の部族との小さな衝突はあるが、いつも正々堂々とした戦いで決着をつけている。毒を流すような誇りのない行為をするリザードマンなどいない」

「ほぅ?」

 

 どんな種族にも善人や悪人はいるものだがリザードマンにはいないらしい。それとも悪事を働くだけの余裕がないということだろうか。

 

(昔ぷにっと萌えさんが何かいっていたな……歴史ゲームの話か何かだったか?)

 

「閑人蟄居して不正をナス?」

「なんだそれは?どういう意味だ?」

「なんだったか……暇を持て余すと悪いことをするということだったか。忙しくしていれば悪事を働く余裕などない。リザードマンは勤勉だなと思っただけだ」

 

(でもナスが不正をするってなんだ?……暇なほどナスを作ったということか?)

 

 モモンガが思い出そうと頭を捻っているとザリュースが口を歪めた。不快な感じはしないので恐らく笑ったのだろう。

 

「ザリュースといったか?リザードマンは人間と比べてずいぶんと好感の持てる種族なのだな」

「モモン殿は人間と会ったことがあるのか?俺も聞きたいのだが、あなたたちにとって人間とはどのような種族なのだ?」

「私もそれほどこのあたりの人間には詳しくはないが……人間の国、リ・エスティーゼ王国には魅力を感じなかったな。ラナーの話によると国の危機であるというのに貴族同士で足の引っ張り合いをしているとか……」

「一族の危機にもかかわらず争いあっているのか?それは口減らしということか?」

「いや……違うだろうな。誰かより楽をしたい、贅沢をしたい、自尊心を満足させたいといった感情か? だがそのために誰かを傷つけ、時に殺すことさえあるのはいただけないな」

「そんなことのために殺すのか!?」

 

 ザリュースは眉をしかめる。生きるため、食べるため、誇りを守るために戦って死ぬことは何も恥ずべきことではなく誇り高いことでさえある。

 しかし人間はそれ以外の欲望のためだけに相手を殺すというのだ。警戒すべき種族とザリュースは心に刻む。

 

「モモン様、それらしき反応を見つけました。周りには人もいるようです」

 

 ラナーからの声にモモンガは口に人差し指を当てる仕草をする。静かにしろということだ。

 

 ラナーには習得した2つの魔法を発動して周囲を探査するように言ってあった。一つは<魔法探知(ディティクト・マジック)>、もう一つは<生命探知(ディティクト・ライフ)>である。

 

「ここのやや上流のあたりに魔法の波動を感じます。その周辺に30人ほどの生命反応がありますわ。体力を<生命の精髄(ライフ・エッセンス)>で確認しますか?」

「いや、さすがにそろそろバレるだろう。私が不可視化の魔法をかけるのでそれで接近してみよう。会話はここまでだ」

 

 完全不可知化でないことがモモンガにはやや不安はあるが、それを看破できるほどの相手ならば今の時点で見つかっているはずだ。なので見つかることも前提にして近づいていくと声が聞こえてくる。

 

「ニグン早くしろ。破滅の竜王の捜索が優先と言うことを忘れるな」

「お待ちください。もう少し……」

「まったくお前は執拗というか……やりだしたらとことんだな」

「当然です。亜人どもは人類の敵と聖書には謳われております。聖書に従うのであれば躊躇など必要ありません。徹底的に一匹残らず排除せねば……毒で数が減らなかったら次は直接薄汚いリザードどもを皆殺しにしてやりましょう」

 

 どうやら探すまでもなく犯人が自供したようである。横を見ると不可視化しているから見えないがリザードマンたちの体から怒気が上がっているような気がする。

 

「おまえらか……」

 

 ザリュースの怒りに震えた声がその場に轟く。

 

「何!?誰かいるのか!?」

 

 きょろきょろと周りを見回す男たちの様子にもはや不要とモモンガは不可視化を解除する。

 

「なっ……リザードマン!?」

「どうやって……」

「お前らが川に毒を流していたのか!祖霊たちが守りし偉大なる川によくも……」

「……」

 

 ニグンと呼ばれていた男はシャースーリュー達を無視して視線をモモンガ達へと変えた。

 

「お前たちはリザードマンの仲間なのか?見たところ人間のようだが……」

 

 言われてみて考える。

 モモンガにとって彼らは別に仲間というわけではない。人外というくくりで言えばその中に含まれるかもしれないが、協力を約束したのは犯人の特定までだ。リザードマンに味方するかと言われればそれはメリットとデメリット次第である。

 

「ふむ……難しい質問だな……仲間ではないが……通りかかって偶然会った関係というのが正確だな」

「そうか……。ではお前たちが我々人間側につくというのであれば殺さないでやろう。その亜人どもを殺すのに協力しろ」

「は?」

「亜人というだけで生きている価値のないゴミだ。亜人、魔物、アンデッド……我々は人類以外をすべて駆逐し、その居場所をなくしてやる!お前も人間ならわかるだろう!これはすべて人類のためなのだ!」

 

 居場所をなくす……その言葉にかつてのユグドラシルでの自分を思い出す。

 

 

 

───アンデッド狩り

 

 

 

 特定の職業(クラス)を習得するために必要とされるアンデッドプレイヤーの討伐数、それを稼ぐための人間のプレイヤーにモモンガはキャラクター喪失寸前まで殺され続けた過去がある。

 

『異形種が!』

 

『キモイんだよ!』

 

 そんなことを言われながらゲーム内のどこに行っても狩られ続け、ユグドラシルに居場所などないと思っていたかつての自分。

 そんな状況をかつての仲間たちが救ってくれたから今のモモンガがある。ニグンの言葉はそんな仲間たちの行為さえ否定するものに思えた。

 

「勘違いするな……。ここにお前たち以外に人間などいない」

 

 身の内からにじみ出る不快感とともにそう告げるとニグンたちは顔を青くして一歩下がった。

 どうやら意識せずにスキル『絶望のオーラ』が発動してしまったようだ。リザードマンたちも最初にいた場所から一歩引いている。

 

「だが……そうだな。私はお前たちとは違う。彼らリザードマンに謝罪し、食料について賠償を行い、今後二度と罪もない亜人や異形種を迫害しないと約束するのであれば私は手を出さないがどうする?」

 

 ナーベラルが信じられないというような顔でモモンガを見ている。

 

(気持ちは分かるが毎回その調子で殺しまくってたら困るだろうが……クライムは……何もわかってない顔だけどラナーは何で楽しそうに笑ってるんだ!?怖いんだけど!)

 

 しかしモモンガのその慈悲深い提案も相手には一切通じることはなかった。

 

「愚かな……亜人の味方をするか!身の程を知らないとは厄介なことだな。隊長、殲滅でよろしいでしょうか」

「やむを得ん。各位戦闘態勢!」

「「「はっ!」」」

 

 30人はいるだろう奇抜な神官服の集団が一斉に杖を取り出す。対するリザードマンたちも剣を抜き放った。ナーベラルは残酷な目つきをしながら杖を抜く。

 

「待てナーベ。私とお前は見学だ。人間どもが向かってくるというのであれば是非もないが……ここは我が部下たちの(経験値)としてやろう」

 

 相手は多い。そして相手のレベルも考えるとこの人数は二人にはやや厳しいがそれも経験だ。モモンガは念のため自身の姿を幻術によるものに切り替えて魔法を発動可能にするとともにラナーとクライムを解き放った。

 

「<第3位階天使召喚(サモン・エンジェル・3rd)>!」

 

 陽光聖典の隊員たちが次々と天使を召喚する。ラナーたちに襲い掛かってきたのは炎の上位天使(アークエンジェル・フレイム)だ。ユグドラシルと同じ魔法もあるようだ。

 そのため強さについては予測できるが複数で来られると戦力は天使の方が上だろう。

 

「ふむ、少し力が足りないか。では……<竜の力(ドラゴニック・パワー)>」

「な、なに!?」

 

 強化魔法の光がラナーとクライムを包み込む。すると天使たちの剣により防戦一方であったクライムの盾が徐々に剣を弾き返すようになった。

 

「か、囲め!魔法を使うんだ!」

「<衝撃波(ショック・ウェーブ)>!」「<聖なる光線(ホーリー・レイ)>!」

 

 天使による直接攻撃では分が悪いと感じたのか陽光聖典の隊員が次々と魔法で攻撃を始める。さすがにその魔法のすべてが命中してはラナーたちでも厳しいだろう。

 

「ふむ、第3位階までの魔法しか使わないのか。<聖域加護(サンクチュアリプロテクション)>、<月光の帳(ベール・オブ・ムーン)>」

 

 高位の物理防御上昇と魔法防御上昇の魔法がラナーとクライムを包み込み、飛んでくる魔法効果によるダメージが目に見えて減少した。

 

「た、隊長!効きません!」

「くっ……おいニグン!頼む!」

「はっ!お任せください!<第4位階天使召喚(サモン・エンジェル・4th)>!いでよ!監視の権天使(プリンシパリティ・オブザベイション)!」

 

 監視の権天使はニグンが自身で召喚できる最強の天使である。その能力は視認できる自軍構成員すべての防御力を上昇させるというもの。さらにニグンには自身の召喚対象の能力を向上させるという稀有な才能(タレント)を有している。

 監視の権天使の登場に他の天使たちの防御力も上昇し戦線を持ち直した。

 

「ほぉ、第4位階の召喚魔法か……。ではもう少し手助けが必要か?<天界の気(ヘブンリィ・オーラ)>、<無限障壁(インフィニティ・ウォール)> 、<自由(フリーダム)>」

「な、なんだ!?力が湧き上がってくる」

「兄者もか……俺もだ……」

 

 モモンガがラナーとクライムに加えてリザードマンたちにも強化魔法を飛ばす。一方、監視の権天使で戦力を持ち直した陽光聖典は再び窮地に立たされるが、モモンガは容赦しない。

 

「もっと必要か?<超常直感(パラノーマル・イントウイション)>、<感知増幅(センサーブースト)>。<不屈(インドミタビリティ)>」

 

 モモンガが駄目押しに強化魔法を飛ばす。それにより4対30という圧倒的不利であった構図が一気に書き換わった。

 

「モモン様ありがとうございます!<盲目化(ブラインドネス)>!」

 

 攻勢の機と見のがさずラナーが魔法を発動すると陽光聖典たちの視界が真っ暗に染まる。

 

「くっ……状態異常か……<盲目治癒(リムーヴ・ブラインドネス)>!」

「な……治癒が効かないだと!?」

「こっちもだ!」

 

 次々と視界を奪われ混乱する陽光聖典たちを見ながらモモンガはラナーの戦略に感心する。

 

(今のは<盲目(ブラインドネス)>ではなく<暗闇(ダークネス)>の魔法だな。あえて違う魔法名を叫んで相手を混乱させるとはなかなかやるじゃないか)

 

 モモンガは戦いとは騙し合いだと思っている。より正しい情報を掴んで対応した方が有利に戦闘を進めるのだ。そのため相手に虚偽の情報を流すのはとても有効である。

 

 ラナーの魔法は状態異常魔法ではなく幻術系魔法で空間を暗闇で包んでいる。そのためその場を移動するか<閃光(フラッシュ)>などの魔法で暗闇自体を消し飛ばせば視界は回復するのであるが……。

 単純なことなのだが経験不足による思い込みというものは恐ろしい。

 

「目が……目がああああ」「ぎゃああああ!」「誰か助けてくれえええ」

 

 

 

───数分後

 

 

 

 死体の山が出来ていた。モモンガの強化魔法とラナーの幻術系魔法などにより戦力差は覆り、陽光聖典は一気に殲滅されてしまった。

 そして残ったのは一人の男。一番の実力者と思われるニグンが情報収集のために殺されずに残されていた。

 

「さて、敗北を認めるかね?」

「み、認める!ゆゆゆ許してくれ!」

「許しを請う相手が違うと思うが……まぁいい。聞かせてくれ。お前たちは何者だ?」

「……」

「答えないか……では手足の一本くらい……」

「は、話す!我々はスレイン法国の特殊部隊『陽光聖典』だ」

「陽光聖典?ああ……」

 

 ラナーから聞いていたスレイン法国の特殊部隊である。亜人討伐を主な任務としている狂信者集団らしい。

 

「なるほどな。それで君たちがここから帰らなかった場合どうなる?」

 

 ニグンは顔を青くする。それはニグンを生きて返すつもりはないという明確なる殺害予告だ。でなければこんな質問をする必要はない。

 

「……」

「どうした?」

 

 ニグンがなぜか苦し気に胸のあたりを押さえていた。

 

「お、おそらく捜索隊が出される……。風花聖典あたりがな……」

「見つからなかったらどうなる?」

「人外に殺されたと思われるだろう。そしてリザードマンやダークエルフへ報復が行われ……ぐっ!」

 

 報復という言葉にリザードマンが殺意を睨めた目を向けた瞬間……ニグンが胸を押さえると血を吐いて倒れ伏した。

 

「なんだ?どうしたんだ?」

 

 ニグンの顔を掴みあげてみるが白目をむいて泡を吹いておりピクリともしない。生命力も0だ。

 

「死んでいる?お前たちが何かしたのか?」

 

 リザードマンやラナーたちを見るが双方とも首を振る。逆に彼らが半目でモモンガを見つめていた。その眼は口ほどに物語っている。あなた(モモンガ)がやったのでしょう、と。

 

「いやいやいやいや、私じゃない!私じゃないぞ!確かに無詠唱で即死魔法を使えばこのくらいは出来るしスキルを使えば一瞬だがやってない!もしかしたら時限式の魔法を仕掛けられていたんじゃないか!?質問に答えたら死ぬような……」

 

 『出来るけどやってない』と言ってしまったがそこは『出来ない』と言うべきだったと後悔する。

 モモンガがさらなる言い訳を続けようとしたその時……。

 

「なんだいこりゃ?」

「……死体いっぱい」

「血まみれじゃねえか」

 

 森の中から老婆が引き連れた若い女冒険者集団が現れた。

 

 

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