モモンとナーベの冒険~10年前の世界で~   作:kirishima13

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第2話 ブレイン・アングラウス

 俺の名前はブレイン・アングラウス。

 俺はリ・エスティーゼ王国の王都へ続く街道を歩いていた。なぜこんなところを歩いているかというと単純な話で田舎暮らしが嫌になったからだ。

 

 辺境の農村で生まれた俺はこの国の身分制度というものが嫌というほど身に染みている。農民はどんなに頑張ってもその作物のほとんどが税金と称して奪われ、代わりに国が何をしてくれるかと言えば偉そうに兵士を引き連れてきた徴税官が民を罵倒し、蔑み、虐げるだけ。

 

 俺たちにしてみれば何もせずに金や作物だけ奪っていくあいつらは野盗と大差ないとさえ思っている。

 

 そんな農村に生まれた俺だが剣の才能があったらしい。それは農作業の途中、村に野盗が現れた時に気づいた。武装した野盗10人ほどが村を襲ってきたのだが……当然この時も国は何もしてくれはしない、税金を払っているにも関わらずだ……この俺はやつらをこの手に持っていた鍬一本で撃退できたのだ。

 

 その後も同じようなことが何度かあり、村どころか周辺には俺に勝てるような者は一人もいないことに気が付いた。

 そこで俺は村長に頼み込んで貸りた徴兵された時に拾ってきたという剣を片手に今王都へと向かっている。

 

 

 

───王都御前試合

 

 

 

 これまで貴族のみに門戸が開かれていた御前試合がなんと王の意向で平民の参加も認められたのだ。それが数か月後に開催されるということを旅人から聞いて俺は名前も知らない王に生まれて初めて感謝した。平民でも一旗揚げる機会が得られるのだ。

 そして意気揚々と王国へと向かったわけだが……。

 

「確かこの道をまっすぐって言ってたよなぁ……」

 

 街道の途中で出会って道案内を頼んだものの口うるさいため置いてきたリグリットと名乗った老婆の言葉を思い出す。冒険者のような恰好をした奇妙な老婆で、腰には俺のものなんかとは比べ物にならないような立派な剣を携えていた。

 

「御前試合ならあたしも見学させてもらおうかと思ってんだよ。どうだい?一緒にいくかい?」

 

 そう言われたがこんな婆と王都まで寝食を共にするのなんて御免こうむるということで礼を言って方向だけ教えてもらった……のだが。

 

「こっちで本当にあってんのかよ……」

 

 疑いつつも獣道らしき道を進んでいく。都市間を結ぶ街道ならまだしもこんな田舎の村への道などこの国が整備するはずもなく森なのか道なのかも判別が付きづらかった。

 

 そんな道を歩くこと数日、そこで信じられない光景を見る。

 

 豪奢なローブに身を包んだ骸骨がこのあたりでは珍しい黒髪で完璧な美貌を持つメイドの胸を揉みまくっていたのだ。

 

「なんだぁこりゃ!?こんな森の中にメイドと……アンデッドだと!?」

 

 状況を理解できない俺が叫ぶと骨とメイドがこちらを見る。

 アンデッドは生きとし生きる者の敵であり、生者を憎むという。だが襲われているにしてはどうも様子がおかしい。メイドの顔は紅潮しており恍惚とした表情をしている。なんというか……エロい。

 

 そして骨の方はというと慌てたようにメイドから離れ、まるで何もしていませんというように手を振って違う違うと言っている。

 導き出した結論は……。

 

「あんた……死霊術師(ネクロマンサー)ってやつか?魔法でアンデッドを操ってお楽しみ中だったとか?」

 

 アンデッドを使役して意のままに操る術師がいるという話を物語で聞いたことがある。確か13英雄の一人にもいたという話だ。

 

 そう、恐らくこのメイドは死霊術師であり、そういった性癖を持っているのだろう。若いのに可哀そうに……自分には理解しかねるがこんな美人なのにまったくもったいない。

 

「なんですか?虫けらごときが至高の御方に語り掛けるなど分を弁まえなさい!」

 

 メイドがまるで見下すような目をしてこちらを睨め付けてくる。ゾクゾクとした悪寒が背筋を震わせるがこれは俺がそういう性癖というわけではないだろう。

 強者の気配だ。

 

「<雷撃(ライトニン……)>」

「ちょっ!ちょーっと待て!待つんだ!ナーベラル!」

 

 メイドから感じるのは完全な殺気だ。村を襲った野盗など比べようもないほどの殺気と強者のオーラのようなものを感じる。

 しかしその前になぜか立ちふさがった骨の方から不思議なほど何も感じなかった。

 

「モモンガ様、お下がりを!虫けらの分際で(こうべ)を垂れて這いつくばらないとは!この者も殺してご覧にいれます!」

 

 メイドがどこからともなく煌びやかな杖を取り出すとそれを俺に向けて構える。 

 俺はというと殺気を感じた時点ですでに抜刀はすませている。体が僅かに震えているがこれは武者震いだろう。

 待ちにまで待った強者との戦いがこんなところで訪れるとは僥倖だ。おそらくこの女も御前試合への参加者なのだろう。参加前に対戦相手が一人減ってしまうことになるが……やむを得ない。

 

「はっ!上等!来……」

 

 言い終わる前にメイドの杖が上段から振り下ろされる。魔法詠唱者(マジック・キャスター)じゃないのか!?

 構えも何も関係ないまるで虫をつぶすための箒のような動作だが、その速度は尋常ではない。

 金属同士がぶつかる音と剣が折れそうなほどの衝撃が手を伝わる。なんなんだこのメイドは……。楽しくなってくるじゃねえか。

 

「ちょっ!?いきなりなにしてるんだ!?ナーベラル!待て!本当にちょっと待って!」

「はっ!御意!」

 

 そこに横やりが入った。使役されているはずの骨が止めに入ったのだ。それを見てメイドも引き下がる。これから楽しくなるっていうのに余計なことをする。しかし一つの疑問が生じた。

 

「なぁ……えっと……あんたアンデッド……なんだよな?」

 

 骨が喋ったことにも驚くがまるで敵意を感じないその態度に猛烈な違和感を感じる。村にもスケルトンが現れたことがあったがいきなり村人を襲って来る会話の成立しない何の知性もないモンスターだった。

 この骨はアンデッドの皮を被った一般人と言われても信じてしまいそうだ。

 

「えっ……それはまぁそのとおりなんだが……。ところで君はプレイヤーなのかな?」

「は?」

 

 骨が訳の分からないことを言いだす。その言葉に首をかしげていると骨は言葉を続ける。

 

「やはり違うのか……では普通に生きてる人間なのか?これはどうしたものか……」

 

 骨が一人でぶつぶつをつぶやいている。これはこのメイドが話をさせているのだろうか。喋るアンデッドなど初めて見た。

 

「あー……なんだ。この近くに人の住んでいる場所とかはあるのか?君はなんでこんなところにいるんだね」

 

 主人であるメイドの意をくんだのか使役されている骨が質問をしてくる。ここがどこかなんてのはこっちが聞きたいというのに。

 

「あんたこそなにもんだよ。こんなところで何してんだ?」

「なんというか……単刀直入に言うと迷子だ」

「はぁ!?」

 

 俺も似たようなものだがこの死霊術師と骨も道に迷っているらしい。それを聞いてどうにも馬鹿らしくなってしまった。戦う気がなくなり、俺は剣をおろす。

 

「俺は王都に向かってるところだ。もうすぐ御前試合があるんでな。そこで自分の腕を確かめるために向かっている。場所はたぶん……向こうだ」

 

 婆に教えてもらった方角を指す、たぶん合ってる……と思う。それからは御前試合の日程はいつかだとか、この周辺の地理とか国の名前とかいろいろと聞かれたが適当に答えておいた。

 

「じゃあな、姉ちゃん。もしあんたも御前試合に出るっていうんなら次は容赦しねーぜ。あとその特殊な趣味は人のいないところだけにしとけよ」

「……」

 

 王都であんなことをしていたらただではすまないだろうと忠告はしておく。

 眼光だけで殺せそうなほどメイドが睨んでくるが、無視して俺は王都への歩みを再開させた。こんな森の中でさえあれほどの強者に出会うのだ。

 御前試合が楽しみでしかたがない。

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