モモンとナーベの冒険~10年前の世界で~   作:kirishima13

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第33話 冒険者チーム漆黒

 ジルクニフ達との邂逅の後、モモンガ一行はバハルス帝国の首都、帝都アーウィンタールを目指していた。

 ラナーの情報によると各地方領にも冒険者組合はあるのだが、ミスリル級以上の冒険者は通常大都市を拠点とするものらしい。

 アダマンタイト級であるナーベラルを必要とするほどの依頼は帝都くらいにしかないということだった。

 

 その後アーウィンタールに到着したモモンガたちは冒険者チームとしてあらためて4人で登録しようとした際には、ナーベラルは『モモンガ様であればヒヒイロカネ級以上は間違いありません!』などと言っていたが4人チームとしてアダマンタイト級として登録することにした。

 

 いきなり新人がアダマンタイトと合流など解散した場合どうなるのかと思ったが、実際に個人でアダマンタイトと認められているのはナーベラルということらしい。モモンガたち新しく登録する3人はチームから外れた時点でランクは再度査定されるとのことだ。

 

「まずは活動拠点となる宿を取るのがよろしいと思います。帝都の最高級宿であればモモン様にも相応しいかと」

 

 テキパキと宿の手配などの手続きを進めてくれるラナーはもはや6歳児とは思えない。一方『子供たちに宿代まで出してもらう』という大人(モモンガ)は……。

 

(くぅっ……)

 

 あまりの情けなさに歯を食いしばる。モモンガは未だに現地通貨を持っていないのだ。仕方なく屈辱を受け入れた。

 

(早くお金を稼がねば……)

 

 案内された宿に入ってみるとまるで高級ホテルのような豪華さであった。贅を凝らした部屋であり得ないほど広い。モモンガの現実世界の部屋の10倍以上はあるだろう。

 

(いやいや……こんな金のかかった部屋必要か!?)

 

 1階には広いレストランが併設されており当然食事も最高級の食材をふんだんに使った料理の数々が食べられるようでまずはそこで食事をすることにした。

 

(良い匂いだし旨そうだな……)

 

 ナーベラルとラナー、そしてクライムが食事を楽しんでいる中、一人だけ水のみを頼んで座っているモモンガ。

 湯気を上げて良い香りが漂ってくる料理には興味が尽きない。現実世界の料理ともユグドラシルの料理とも違うのだ。どんな味がするのかと気になって仕方がないのだが……。

 

「なぁ……クライム。それは美味いのか?」

「うん!」

 

 モモンガの質問にクライムが口にソースを付けながら元気に無慈悲な返事をする。

 

(そうか、美味いのか……)

 

「ちなみにどんな味がするんだ?」

 

 今テーブルに並んでいるのは何かの煮込み料理のように見える。モモンガは食べたことがないが現実世界でのビーフストロガノフに似ているだろうか。クライムではうまく説明できないと思ったのかラナーが代わりに答えてくれた。

 

「野菜は人参とたまねぎ……それから牛肉でしょうか?じっくり煮込まれていますから野菜の旨味が牛肉に染み込んでますわ。フォンは鶏ガラでしょうか。二重に下処理をしてありますのでより濃厚な味わいですね」

「そうか……」

 

 モモンガの脳裏に『飯テロ』という言葉が浮かぶ。これだけ美味しそうな料理が並び、味について説明を受けているというのに食べることは出来ないのだ。

 

「この飲み物はカフェシェケラートにミルクを多めにしたような味に似ていますね。ナザリックのものには劣りますがなかなかかと」

 

 ナーベラルも感想を教えてくれてありがたいのだがそれを確かめるすべはない。

 

「そうか……」

 

 もはや『そうか』としか言えない置物と化したモモンガとは対照的にナーベラルもメイド視点での料理談議に花を咲かせ、前菜、スープから始まりメインの肉料理に食後のデザートに至るまでまで料理を楽しむのだった。

 

 

 

 

 

 

 こうして帝都で行動を開始したアダマンタイト級冒険者チーム『漆黒』。

 突如現れた新星のアダマンタイトチームは次々と依頼をこなしていくこととなる。

 北進してきたオーク軍団の殲滅、ギガントバジリスクの討伐、カッツェ平野から溢れた強大なアンデットの処理などなど困難な依頼をいとも容易く解決していくその様は英雄として人々に歓迎された。

 

 一方、やっと現金を手に出来る喜びを嚙みしめるモモンガ。現金欲しさにやる気も上がり、あり得ないほどの早さで活躍し続ける『漆黒』の名は帝都では知らない者はいないまでになっていた。

 

 

 

───そして数か月後……。

 

 

 

「『漆黒』のみなさまに指名依頼が入っております」

 

 既に顔なじみとなった帝都冒険者組合の受付嬢から指名依頼の要望が告げられる。

 

「指名依頼?」

「モモン様。指名依頼とはチーム指定で依頼されるもので通常のものより依頼料が高くなっています。その分難易度も高い可能性もありますが……。内容次第では受けてもよろしいのではないでしょうか」

 

 ラナーが後ろからこそっと教えてくれる。ラナーの知識は本当に役に立つ。

 知らないことなどないのでは、と思うこともあるが、ユグドラシル由来のモモンガが当然知っているような知識は持っていない。

 お互いに持ちつ持たれつの関係だ。

 

(逆になぜかラナーは俺が何でも知っていると思っているような気がするんだよな……)

 

「現在、帝国内で正体不明の狼型の魔物による被害が増えているのです。そこでぜひ冒険者チーム『漆黒』にご依頼したいと。もしご依頼主とお会いになるのであれば3日後に指定した場所で話をさせていただくそうです。依頼料は……」

 

 その依頼書には家が買えるのではと思わるような金額が書かれている。モモンガは心でゴクリと唾を飲み込む。

 

「ふむ……受けても問題はないな?」

「モモン様の御意に」「よろしいかと」「わん」

 

 チラリと後ろを振り向くが3人とも問題はないらしい。

 そもそも彼女達がモモンガの言うことに反対するところを見たことがない。

 

 モモンガは若干不満に思う。モモンガが何もかも正しい行動をしているとは限らないだからだ。むしろ間違った行動を戒めてくれる存在が欲しいくらいであるのだが……。

 

(喧嘩したいとは言わないけど……もっと仲間っぽくならないものかなぁ)

 

 かつてのギルドメンバーたちのいた頃はよく揉め事が起こっていたものだ。クエストの行き先をめぐっては喧嘩して最終的にコイントスで決めていたのは今となってはいい思い出だ。

 

 残念ながら今の仲間たちにはそこまでの気安さはない。結局意志の決定は今回もモモンガが行うしかなかった。

 

「分かった、この依頼を受けよう。では3日後、指定の場所で」

 

 モモンガは少し寂しく思いながらも帝都での新たな依頼を受けるのだった。

 

 


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