モモンとナーベの冒険~10年前の世界で~ 作:kirishima13
その日、ジルクニフは帝国主席魔術師フールーダとともに帝城の一室にて今後の帝国の行く末について協議をしていた。もっともそう思っているのはジルクニフのみでフールーダについては魔法研究についてのみに関心が向いていたのだが……。
「それで殿下……アンデッド支配に関する研究施設の方はご用意いただけそうですかな?」
「ああ、順調に進んでいる。ところで爺、なぜそれほどアンデッドの支配にこだわる?爺ほどの力があればアンデッドに頼らずとも大概のことはできるだろう?」
ジルクニフの考えはもっともである。帝国の国民はフールーダのことを守護神のごとく信頼しており、人を襲うアンデッドをわざわざ調伏しなくてもフールーダのために働こうとする者はいくらでもいるだろう。
しかしフールーダにとっては視点そのものが違っている。
「むろん魔法の深淵を覗くためです! 古の記録にはあまたのアンデッドを支配した英雄譚や人には支配不可能と思われるほどの強大なアンデッドを支配した記録さえあります。それらは恐らく魔法による支配! 死した魂がどのように変異し、魔法がそれらにどのように干渉するのか! それらを知ることにより私の魂を一つ上の位階へと昇華するヒントとなると確信しておりまして……。そもそも魂というものの本質を知ることで……」
「あーもういい分かった。爺の想いは十分伝わった」
普段は聡明であるのだが、魔法が関わるとフールーダは人が変わる。その長くなりそうな魔法談議をジルクニフが遮る。フールーダが残念そうに口を閉じた後、ジルクニフは本題に入った。
「それで爺、皇后の様子はどうだった?」
「そうはもう大変なお怒りで周りの者たちが気を静めるのに四苦八苦しておるという話を陛下からは聞いておりますぞ」
「そうか……」
ジルクニフが皇后の実子である第二皇子を殺したのだ。その恨みは計り知れないだろう。しかし怒りのあまり軽率な行動を取らないところはさすがと言える。もし直接兵を送ってきたとしたら簡単にジルクニフの謀略の餌食となっていただろう。
「にも拘らずこんなものをよこすとはな……」
ジルクニフの手にあるのは晩餐への招待状だ。これまで皇后はジルクニフのような側室の子とともに食事をとるようなことはなかった。確実に何らかの狙いがあるのだろうが、無下に断るわけにもいかない。
「陛下も気にはしていましたが、特に怪しい様子はないようでしたな」
「いや、罠には違いないと思うが……何が狙いだ?彼女の工作を片端からつぶしたのがよっぽど効いたのか?」
皇后はジルクニフが第二皇子を断罪したことを罪に問おうとありとあらゆる手を使ってきたが、その度にジルクニフは先回りしてその工作をつぶしてきた。今現在もお互いが用意した数々の権謀術数が宮廷内で行われているはずだ。
「陛下も共謀しており、その面前で殿下を断罪しようとしているのでは……?」
「父はそれほど愚かではない……と信じたいな。ともあれ断るわけにもいかないだろうな……」
ジルクニフは窓の外を見ながら熟考する。外はもう深夜になろうとしていた。このところ寝る間も惜しんで働き詰めであり、窓に映った自分の目元にはうっすらと隈まで出来ている。
「ふおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
突然叫び声が部屋に響き渡った。何事かと振り返ると声の主はジルクニフとともに窓の外を見ていたフールーダである。
「あ……あれはなんだ!?なんなのだ!?第9位階?いや、10位階?それ以上なのか!?な、なんなんだあれはなんなんだあああああああああああああああ!!」
発狂したように叫び続けるフールーダ。ジルクニフは何事かと窓を開けて周囲を確認するが何かが起こっている気配はない。
「爺?突然どうした?」
「恐るべき!恐るべき魔法の力が見えますぞ!あちらです!」
フールーダははるか先の山々を指さす。深緑に覆われたそこには何もないように見える。しかしジルクニフはフールーダの
(爺は
「もしかしてそれはナーベというアダマンタイト級の魔法詠唱者ではないか?王国の御前試合で高位の魔法を使用したという報告がある。ちょうど私が彼女たちに魔物の捕獲依頼を出しているところなんだが……。」
「なんですと!?」
「帝国に現れた狼の魔物について聞いたことはないか?確かあちらの方向で出没したという話もあったが……爺!?」
ジルクニフの言葉が終わるのを待たずフールーダは窓枠に手をかけて飛び降りようとしている。
「殿下!お話は後程に!ナーベ殿!今行きますぞおおおおおおおおおおおお!<
フールーダは<飛行>の魔法を唱えると唖然とするジルクニフを置いて闇の中へと飛び去って行くのだった。
♦
数時間後……フールーダが気を落とした様子で戻って来た。その間ジルクニフは一睡もしていない。相手はジルクニフの側近をして強者と認める相手だ。フールーダが負けるとは思わないが、無礼を働いて帝国から出ていかれでもしたら目も当てられない。
心配のあまりただでさえ職務に忙殺されているというのに目の下の隈がさらに濃くなってしまった。
「殿下……起きていらっしゃったのですか……」
「あんな様子で出ていかれて寝られるはずがないだろう!会えたのか?おかしなことはしていないだろうな?」
「いえ、途中で気配がなくなってしまいまして……探し出せませんでした」
いつになく気落ちしているようだ。こんなフールーダを見るのも珍しい。しかし何もなかったという事実にジルクニフは安堵する。相手が非常に優秀な冒険者であるということはこれまでの依頼達成の速さや精度から分かっている。今度もぜひ帝国のために働いてもらいたい。敵対することは極力避けたい。
「いずれにせよ依頼した私へ報告に来るだろう。その時に爺と話をする機会を作れないか聞いてみようか」
「本当ですか!?殿下!!」
フールーダが老人とは思えない勢いでにじり寄ってくる。その様子に思わずジルクニフは後ずさった。顔が近い。
「お、おい。そんなに興奮するな」
「これが興奮せずにおれますか!あれこそが!あれこそが我が望みを与えてくださる方かもしれないのですぞ!そもそも人類史上あれほどの高位の位階を極めたものなど……」
「分かった!分かったから離れろ!それとじい、私との約束も忘れてくれるなよ」
「もちろんでございます!」
即答するフールーダに本当にこいつ分かってるのかとジルクニフは心配になる。普段は帝国の未来を考えられる優秀な魔法詠唱者にして歴代皇帝の相談役、そして今はジルクニフの協力者であるのだが、魔法が絡むとポンコツになるときがあるのだ。
そんなジルクニフの不安をよそに朝日が昇ろうとしていた。