モモンとナーベの冒険~10年前の世界で~   作:kirishima13

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第37話 決闘

 帝国闘技場。

 古来より毎年、人対人、人対魔物など数々の熱戦が繰り広げられ、その血と暴力の競演に観客が沸き上がる場所。

 それは国民のストレス発散となるだけでなく、帝国にとってスカウトすべき強者を見つけるための場でもあり、そして参加する者達からすると命を懸けて大金を手にするチャンスをつかむ場でもある。

 

 その伝統的な場所を中心に、一振りの大剣を与えられたレイナースと獣が静かに睨み合っていた。時間は深夜、観客はモモンガやジルクニフ達を除いて誰もいない。

 

 なぜこのようなことになったか。それは魔物の捕獲依頼を達成したモモンガからジルクニフが報告を受けた時のことだ。

 バジウッドからの報告を受け、ジルクニフが件の獣が捕獲された場所へと行くと冒険者チーム『漆黒』とともに、なぜかロックブルズ家の令嬢レイナースまでその場にいたのだ。

 ロックブルズ家の状況についてはジルクニフも把握しており、この機に自陣に取り込めないかと探していたのだが、まさかこんな状況になっているとは思ってもみなかった。

 

 しかし事情を聞くうちにジルクニフは考えをまとめた。

 狼とレイナースがお互いに決闘を望むのであれば、望みを叶えてやれば良いのではないかと。

 その場を与えてやる代わりに片方、または両方が自分の手の者となるよう誘導すればいいのではないか。そう考え、秘密裏に深夜の闘技場を手配して一人と一匹が睨み合うこととなった。

 

 

 

───レイナースと獣はお互いに裂けるような笑顔を浮かべると咆哮とともに激突する。

 

 

 

「で、殿下殿下! はよぅ! はよぅ私を紹介してくだされ! はよぅ!」

「待て待て、そんなに興奮するな、肩を揺するな!じい!」

 

 レイナースは先手として両手で握りしめた大剣で獣の喉元を目掛けて突きを放つ。しかし獣もさるもの、空中でヒラリと身をかわして逆に爪で斬撃を返してくる。

 

「モモン殿、こちらが先日伝えた帝国主席魔術師のフールーダ・パラダインだ。ナーベ殿とどうしても魔法談議がしたいということで連れてきた」

「はぁ……はぁ……フールーダ・バラダインと申します!ナーベ殿は王都の御前試合で誰もが見たことがない数々の魔法を披露したと聞いたのだが……むぅ?ナーベ殿から魔法を使える気配が一切しないですな?これはどうしたことですかな?」

 

 レイナースは爪の斬撃を大剣で受ける。武技の力も乗っているようで、大剣にずしりと重い衝撃を受けた。しかし実家で寝間着にナイフ一本、さらに背後に家族を庇いながらという状況と違い、今は万全の状態である。ギャリギャリと火花を飛ばしながら爪を捌く。

 

「は?なんですか?あなたは……?」

「ナーベ様、この方は帝国の主席魔術師フールーダ様ですわ。相手がどの位階の魔法まで使えるか分かるという話を聞いたことがあります」

「ふん……そうなの。この程度で主席?ラナーが言うならそうなんでしょうけど……。でも私に気配がしないのが不思議だというのであれば、それはあなたのような羽虫が寄ってこないように隠匿しているからだとなぜ分からないのかしら?」

「魔力隠匿の魔法道具(マジック・アイテム)ですかな!?そ、それはどこの名工が作られたものなのでしょう!?それに御前試合ではどのような魔法を使われたのですかな?ナーベ殿は第何位階の魔法まで使えるので?わしは第6位階までしか使えないのですがそれ以上なのですかな?」

 

 爪を捌かれた狼は一転してその巨体を活かしてレイナースへと覆いかぶさってきた。レイナースは一瞬大剣でそのまま獣を貫こうかと迷うが、とっさに横に飛ぶ。

 先ほどまで自分がいた場所を見ると、立ち上がった狼の下の地面からシューシューと湯気が上がっている。レイナースは思わず呪われた顔を指でなぞる。あのまま剣を突き刺していたら全身を呪いで焼かれていたことだろう。

 

「あなたのような虫けら程度と至高の存在に創造された私を一緒にしないでくれる?あの時使った魔法は<生命の精髄(ライフエッセンス)>、<魔力の精髄(マナエッセンス)>、<爆裂(エクスプロージョン)>、<連鎖する龍雷(チェイン・ドラゴン・ライトニング)>……」

「チチチチチチェイン・ドラゴン・ライトニング!?そ、それは第5位階魔法<龍雷(ドラゴン・ライトニング)>より上位の魔法なのですかな!?第何位階の魔法なのでしょうか!?」

「第7位階よ」

「お、おお……おおおおおおおおおお!ナーベ様あああああ!あなたこそ!あなたこそ深淵の主!」

「ちょっ、近づかないで……殺されたいの?虫けら」

「や、やめろ爺。ナーベ殿の靴を舐めようとするな!」

 

 あの呪われた獣の体に触れるのは不味い。しかし近づかなければ倒せるはずもない。レイナースは込み上げてくる恐怖を振り払う。自分にはもう友人も家族も恋人も何もない。今は幼いころから振り続けてきた剣だけが心の支えなのだ。

 レイナースは覚悟を決めると、一気呵成に攻め込むとともに武技を発動する。<能力向上>と<戦気梱封>。武技により一気に身体能力を強化するとともに、大剣へ魔力の付与を行い臆することなく獣を斬りつける。

 

「クライム!ナーベ様をお守りするのよ!」

「わん! ラナー様!」

「む?君たちはナーベ様の配下の方たちですかな?ふおおおお!そ、その身にまとった魔法道具の輝きはああああああああ!分かりました!まずはあなた様の部下の方たちの靴を舐めて私の気持ちを知っていただきましょうぞ」

「ひぃあああああああああ!」

「やめろ!ラナー様を舐めるな!」

 

 レイナースの放った会心の斬撃を見た獣は大剣を避けるかと思いきや、なんと体で受け止めた。獣の筋肉に覆われた肉体に大剣が深く沈み込むが、そこで逆に筋肉を引き締められて抜けなくなる。

 レイナースは慌ててブチブチと獣の筋肉を千切りながら剣を引き戻すが、その間にすでに獣はその鋭い爪をレイナースに向けて放っていた。

 

「くっ……この方がここまでの魔法狂いとは私も知りませんでした……このラナー一生の不覚ですわ!」

「おい、ニンブル!バジウッド!爺を引きはがせ!」

「はっ!」「参ったなこりゃ……」

 

 レイナースと獣。その戦いはゼロ距離での削り合いとなっていた。

 顔が触れ合うほどの距離で大剣と爪により互いの血肉が削られていく。数秒が数分にも感じられる削り合いの後、一人と一匹はお互いに距離を取るべく後ろに跳ねた。

 レイナースは体のあちこちから血を流しぼろぼろの状態だ。それは獣も同様である。お互いにボタボタを血を落としながらジリジリと間合いをはかる。ここまで傷を負ってしまっては次の一撃がお互いの生死を分けることを理解しているのだ。

 

「離せえ!離さんか!私はナーベ殿に弟子入りするぞ!」

「お断りします」

「おい、じい。やめろと言っているだろう。彼女には断られたんだ。ニンブル、バジウッド。爺を連れていけ!」

「フールーダ様、申し訳ありませんが殿下のご命令です」

「ったく……大人しくしててくだせえよ?フールーダ様」

「ナーベ殿おおおおおおおお!」

 

 先に動いたのは獣だった。何らかの武技を使用しているのだろう、これまで以上のスピードでその巨体がレイナースに迫る。

 一方レイナースは出血と疲労のあまり走り出す力もない。しかしその眼は諦めてはいない。大剣を両手で下段に構えて反撃の一手を受けの姿勢で待つ。

 

 

 

───そして。

 

 

 

 死闘を演じている一人と一匹を一顧だにせず騒いでいるフールーダたちをちらりと見ながら、モモンガが闘技場に降り立った。

 

「さて、そろそろいくか……」

 

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