モモンとナーベの冒険~10年前の世界で~ 作:kirishima13
モモンガは堪えようもない羞恥心に苛まれていた。原因は先ほど男との不幸な遭遇だ。
(あああああああ!!ここってやはりゲームじゃなく現実なのか!?そこで俺はナーベラルの胸を揉みしだいた挙句にそれを通行人に見られただと……!?)
まごうことなき変質者である。通報されたら痴漢、いや強制わいせつ行為として有罪確定だろう。私はやってないなどとは口が裂けても言えない。
「あああああ……」
ごまかす様に毅然とした態度で目撃者の男から情報を得たつもりだが、今になって考えるに恥ずかしすぎる。後からお巡りさんが逮捕に来るということはないだろうか。
悶絶しながら苦悩しているとふいにその気持ちが軽くなった。
(なんだ突然……これは……精神の鎮静化?もしかして精神攻撃と判定された?)
ユグドラシルでは痛みや恐怖、混乱など攻撃を受けた場合は精神攻撃として判定されて視界制限や酩酊などが再現されてキャラクターの操作性が著しく悪くなる。
対してモモンガはアンデッドの種族特性として精神耐性を有しており、それら精神攻撃は無効化されるのだ。先ほどの苦悩が精神攻撃と判定されたのであれば自動的にそれが軽減されたのも納得である。
「モモンガ様!先ほどの続きは!続きはいかがいたしましょうか!?」
なぜか鼻息を荒くしたナーベラルが先ほどの行動について咎めてくる。それにより再びモモンガの精神がじわじわと攻撃される。
(胸を揉まれて喜んでる……?いやそんなわけはないだろう……。それにまた見られでもしたら今度こそ言い訳出来ない)
「あ、あれはもういいのだ。お前は十分役に立ってくれた」
「はっ……そうですか……」
なぜか少し残念そうな顔をするナーベラル。
ナーベラルはモモンガに上位者としての態度を望んでいるように思えた。会社では下っ端サラリーマンでしかなかったモモンガに上位者としてロールは厳しいが、やるしかないと気合を入れる。
「それでナーベラルよ。お前は私の仲間……ということでいいのだな?」
「仲間など恐れ多い!私はモモンガ様のしもべ!どのような要求にでも応えて見せます!」
(ええー……)
しもべと聞いてモモンガはどん引きする。話ができて意志を持ったNPCの美女をしもべにするとかギルドメンバーだったペロロンチーノなら喜んだだろうか。
反逆されないだけいいとも言えるがあまりといえばあまりの扱い。その忠誠心がモモンガには重すぎる。
「わ、分かった……。お前がそれでいいならそれでいこう……。それにしてもこの格好は目立ちすぎるかもしれないな……」
あらためてモモンガは自分の格好を見つめる。先ほどの若者は無地でみすぼらしい服を着ていた。
それに比べてモモンガはというと、派手すぎるローブに胸骨の中央に赤く輝く宝玉、そして何より骸骨の肉体。目立つことこの上ない。
「そうでしょうか。モモンガ様に相応しい素晴らしい恰好かと愚考いたします。むしろ神々しくいつまでも見つめていたいほどお似合いです」
ナーベラルは目をキラキラさせてモモンガを見つめてくるが、先ほどの若者の反応からするとアンデッドは普通に町中を歩いているものではないのだろう。
それにメイドがこんな外を歩いているのも目立ちすぎるのではないだろうか。
「<
モモンガが発動したのは第7位階魔法<上位道具創造>、創造系の魔法で道具類を作成するものだ。
魔法で全身鎧を作成するとさっそくそれを身にまとう。ただしこれにはデメリットが存在する。この鎧を着ている限りモモンガの魔法に制限が加わり5つまでしか使用できない。
この魔法を使わず幻術でごまかすことも出来るが探知系の能力持ちには通用しないだろう。ナーベラルの姉であるルプスレギナなどは完全不可知化まで見破る能力を持っていた。この世界にそういった存在がいないとは限らない。
(石橋は叩け……だったか?)
ギルドメンバーだった『ぷにっと萌え』から聞いたうろ覚えのことわざだ。意味はたしか慎重に行動しろということだったはずだ。
(なんで石の橋を叩くと慎重なんだ?)
頭を振って疑問をどこかへとやるとモモンガはこれからすることを考える。
ひとまずこの格好であればアンデッドとバレることはないだろう。自分の格好を見回して納得するとモモンガはナーベラルには一つのローブを渡す。
「これは……?」
「ナーベラル。目立たないように街中ではこれを着るがいい。頭のブリムも外せ。これは即時装備変更の能力が付与されているからすぐに戦闘用装備へ変更できるはずだ」
「はっ!かしこまりました!」
「それから指の装備枠もずいぶん空いているな。疲労空腹無効効果を付与した
アイテムボックスから取り出した指輪を順にナーベラルの指にはめていく。
(むっ……全部装備できるだと!?)
ユグドラシルでは通常両手に1つずつまでしか指輪の装備枠はなかった。モモンガは課金により10本すべてに指輪に装備可能としてたが、この世界ではその制限はないらしい。
(まぁ現実世界だというのであれば装備できない方がおかしな話だから……か?)
どうやらこの世界はユグドラシルとの異なる部分が多々ありそうだ。しかしこれだけ指輪を装備していればもしもの際の対応もある程度は可能だろう。
「これほどの貴重なアイテムを御下賜いただけるとは……」
なぜかナーベラルが感動してないているが、これらのアイテムは特に貴重というわけではない。モモンガはとりあえず手に入れたアイテムは必要なものから不要なものまで取っておくタイプであり、これらはインベントリの肥やしとなっていたものだ。それらが役に立つ機会ができてむしろ嬉しいくらいである。
装備変更と今後の予定を考えながらモモンガは一つの
選んだのは
モモンガは不可視化した集眼の屍をブレインと言う男が示した方角に飛ばし、しばらく待つと集眼の屍から報告が入る。
「あの男が言ったことは正しかったようだな。人間の町があるようだ。集眼の屍の報告によると王都に我々に匹敵するほどの人間はいない」
「当然のことでございます」
ナーベラルは胸を張って頷いているが、モモンガとしては驚きである。報告によると40レベルを超えるような人間さえ発見できていないというのだ。
モモンガは100レベル、ナーベラルでも63レベルであり、40レベル以下の人間などユグドラシルでは初心者の中の初心者でありモモンガに傷一つつけることができないだろう。
だが油断するのは愚か者の所業だ。集眼の屍でも見つけられない隠密に特化した100レベルプレイヤーがいる可能性もある。
(可能性は低いだろうけどな……)
人間の街で特にレベルが高いと思われる人間でもレベル20~30台と思われる老婆と派手な装備をした冒険者の少女たちくらいだった。その他に大した相手はいなく、最初に出会った若者以下の存在ばかりである。
「しかし気になることを言っていたな。冒険者……ね。それから御前試合か……」
ブレインと名乗った若者から聞いた『冒険者』という言葉を反芻しつつ、かつて仲間たちと世界を冒険した日々が思い出す。
仲間たちと時に笑い、時に喧嘩をしつつ、冒険を終えたらナザリックへと帰って冒険話からくだらない世間話など取り留めもなく話をした。
楽しかった……。
当時はそれは当たり前の光景であったが今では光り輝く思い出だ。それに比べて今の自分たちには帰る家さえない状態である。ギルドメンバーから預かったナーベラルも一緒にいる。
ならば自分たちの居場所を探すために冒険をしよう。そして自分たちを……異形種でも気兼ねなく暮らせる場所を探そう、そしてもしいるのであれば仲間たちを探そう。
「よし!ナーベラル。まずは王都に行き冒険者となり仲間たちの情報を探ろう。お前も姉妹たちと会いたいだろう。彼女たちがこの世界に来ていないとも限らない」
「なるほど!さすがモモンガ様!私なぞのことまで考えていただけるとは……」
ギルドメンバーにログアウトの瞬間までログインしていた者がいたのかは不明だが可能性は捨てたくない。
それに他のNPCやギルド拠点がどこに行ったのかも気になる。インベントリのアイテムはそのままにここに飛ばされたということは拠点だけどこかに飛ばされている可能性もあるだろう。
仲間の情報を集め、かつてのギルド拠点を探す。それが不可能であれば安心して暮らせる居場所を探す。それを目標とすることにする。
「ナーベラル。人間の街に入る前にお前に言っておくことがある」
「なんでございましょうか?」
モモンガが努めて出した重い声にナーベラルは不安そうな顔をするがこれは言っておかなければならないことだ。
「まず人間を虫けらと呼ぶのはよそうか……」
「なぜでございましょう?取るに足らない虫けらを虫けらと呼んで……」
「ナーベラル……まだ私がしゃべっているところだ」
「も、申し訳ございません!」
まるで叱られた幼子のようにシュンとするナーベラル。少々罪悪感にかられるがこのまま王都に出向いて殺戮パーティーなどを開かれてはたまらない。
どうにもナーベラルは人を見たら殺しても構わないと思っている節がある。追ってまで殺しはしない気がするが目の前に立っていたら問答無用で殺しそうだ。
「人間だからと言って侮ることは厳に禁じる。仲良くしろとは言わないが、いきなり殺そうとするようなことはよせ」
「かしこまりました!」
元気よく返事をするがナーベラル。本当にわかっているか一抹の不安を覚えるが、他のこまごまとした注意にも同じ返事をするので良しとすることにしよう。
目指すは人間の都、王都リ・エスティーゼだ。