モモンとナーベの冒険~10年前の世界で~   作:kirishima13

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第39話 暗殺

───帝都アーウィンタール

 

 帝城の晩餐室に4人の人物が着席していた。現皇帝、皇后、そして第一皇子に第三皇子。それぞれ後ろには護衛兼給仕が控えている。第三皇子のジルクニフの後ろに控えているのはニンブルである。

 

 ジルクニフは第三皇子として皇帝に食事の席に招かれたが、そのような機会はこれまでにめったになかったことだ。多少緊張感を含んだ顔つきになってしまうのもやむを得ないだろう。

 

「どうしたの?ジル。何か気になる事でも?」

 

 普段はジルクニフなど歯牙にもかけない皇后が珍しく優しく話しかけてくる。

 

「いえ、ここに来るのは久しぶりなので少し緊張してしまったようです」

「ははは、我々は家族じゃないか。そんなに緊張することはないぞ」

 

 いつもはジルクニフを見下す様にしている第一皇子が打って変わったように優しさを持った対応をしてくる。

 

「ところでジル。おまえは第二皇子を討ったそうだな」

 

 しかしそこで雰囲気が一変する。それまで黙っていた皇帝がそこで初めて声を発したのだ。その声は威厳に満ちており、威圧する風格さえ感じさせる。

 

「はい、そのとおりです。父上」

「あれはランカスター侯と繋がり帝国の臣民を非道な方法で害していた。それはお前の揃えた証拠で疑いようはない。今回のことはあれ自身が招いたこと。息子を一人失ったことは残念だが……帝国の礎となったと思うことにしよう。お前たちもそれでよいな?」

「思うところがないわけではありませんが……納得しておりますわ」

「弟があれ以上の非道を行う前に止めてくれてむしろ礼を言うよジル」

 

 皇后と第一皇子が柄にもなくジルクニフを認めているような発言をする……といっても第一皇子は皇位継承のライバルが一人減ったと本心で喜んでいる可能性が高そうだ。

 

「そのような慈悲深い言葉をいただきありがたく思います。騎士としての職務を全うしただけとは言え、私も実の兄を手にかけたことには心を痛めておりましたので……」

「ふむ、ではこの件についてはもういいだろう。さて、久しぶりの家族の団欒だ。今夜は珍しい料理も用意した。晩餐を楽しもうではないか」

 

 皇帝の血で繋がり合った獣たちが食事前の祈りを神に捧げる。その様子は神への感謝というより貢物を捧げる前の祈りにも似ていた。

 

「いと尊き4大神よ……我らに生きる糧を与えた賜うたことを感謝いたします」

「「「感謝いたします」」」

 

 ジルクニフはスープの香りを嗅ぐと手元に置かれた指輪を2つその指にはめる。一つは毒感知の魔法が付与された指輪、もう一つは毒物無効の魔法が付与された指輪だ。帝室では代々毒殺を防ぐためにこのような処置が取られていた。

 

 指輪に反応がないことを確認するとジルクニフはスープをスプーンですくい口に含んだ。

 

(辛い……)

 

 それが一口目に感じた感想だ。おそらく南方にある国の香辛料をふんだんに使った料理なのだろう。しかしよく味わうと辛みの中に苦みと旨味が含まれており、なかなかの珍味である。

 

「これは初めて食べました……」

 

 周りを見ると皇帝、皇后、第一皇子も満足そうにスープに手を付けていた。しかし次の瞬間……うめき声が食堂に響きわたる。

 

「うっ……うぐぅ!?」

 

 ジルクニフは突然口を押さえると俯いた。その表情は非常に険しいものであり、何事か非常事態が起こったのは間違いない。

 

「で、殿下!?」

 

 後ろに控えていたニンブルが思わず声をかける。通常御側付きが主人の許可なく声を上げることなどあってはならない。しかし胸を口を押えて苦悶の表情をしている主人に起こった異常に戸惑っているように見えた。

 その様子を見ながら皇后は笑い出したいのを必死でこらえる。

 

「ジル!?ジルクニフ!?どうなさったの!?」

 

 皇后は心から心配しているような声を出すが、それはすべて演技であった。そう、この晩餐会はジルクニフを毒殺するために設けられたものなのだ。

 

「おい、ジル!大丈夫か!?しっかりしろ!」

 

 心底驚いた表情をして弟を心配しているような声を出している第一皇子も共犯である。今回用意した料理にはすべて毒が入れられているのだ。スープにワイン、メインディッシュからデザートに至るまですべてである。

 

 しかし、それを食べている皇后と第一皇子はまるで平気そうな顔をしている。なぜなら彼女たちのそれぞれの指にはめられた毒無効の指輪は本物であるからだ。

 一方、毒感知の指輪は偽物である。効果のない見た目だけ同じものにすり替えていた。そのため毒が入れられているというのに反応は見られない。

 そしてジルクニフの毒無効の指輪はというと……。

 

「う……ぐうう」

 

 呻くジルクニフ。

 皇后たちはジルクニフの毒無効の指輪のみ、同じように効果のないものにすり替えていたのだ。そしてジルクニフさえ死んでしまえばあとはいくらでも隙を見つけて指輪を元に戻しておけばよい。

 

「ふっ……ふふふふふ」

 

 あとはジルクニフの持病であったとでもでっち上げれば良い。完璧な策略だと皇后は思わず声を漏らす。

 皇后は本当にジルクニフが憎くて憎くてたまらなかったのだ。血筋が良い自分が生んだ子供が皇帝になるべきであるのに……息子を殺したジルクニフは許されざる大罪を犯した。

 息子たちがジルクニフよりやや劣っていたのは分かっている。そして彼らが良くない人間たちと繋がっていたことも。

 それは彼女が甘やかして育てたせいだが息子の仇を討てたことを彼女は単純に喜んでいた。笑うなというのが無理な話だ。しかし……。

 

「うまい!いやぁ美味しいですねこのスープ。思わず唸る美味しさですね!辛いだけかと思いましたがよく味わうと深いコクがありますね。野菜の旨味ともよく合って絶品ですね」

 

 死んだかと思っていたジルクニフがすくっと起き上がりスープの感想を語る。まさか生きているとは思わなかった皇后は呆然として固まってしまった。

 

「え……」

「どうされましたか?義母上?」

「そ、そんな……ジル、なんで……」

「うぐっ……」

 

 驚きよろける皇后の横で今度は皇帝が胸を押さえながら立ち上がった。その表情は先ほどのジルクニフとは比べ物にならないほど苦しげなもの。顔色は真っ白であり目を剝いている。

 

「ぐっ……ぐっ……ぐうううううう」

 

 皇帝は胸を押さえて数歩歩くとそのまま床に倒れ伏す。そしてそのまま動かなくなってしまった。

 

「ち、父上!?」

 

 あわててジルクニフは皇帝に駆け寄ると大声を出した。

 

「だ、誰か!神官を呼べ!父が……皇帝陛下が倒れたぞ!」

 

 ジルクニフの声に皇帝の給仕をしていた護衛が慌てて扉から飛び出していった。一方それを見ていた皇后は焦りを覚える。

 

(な……なんでジルクニフが生きているの!?なんであの人が倒れたの!?)

 

 ジルクニフが生きていた……だとすると優秀なジルクニフのことだ。皇后はジルクニフが毒や指輪のことに気が付いていた場合どう動くかを考える。

 おそらく指輪を調べようと言い出すだろう。それは非常にまずい。その焦りが皇后の判断を誤らせる。

 

「ど、毒よ!! ジルが陛下に毒を盛ったに違いないわ!」

「そ、そうだ!お前がまさか毒で父上を暗殺しようなどと!そんな恐れ多いことをして命があると思うなよ!」

 

 第一皇子も慌てて皇后に同調するようにジルクニフを犯人扱いする。しかし、ジルクニフは冷静であった。

 

「毒?父が倒れたのは毒なのですか?なぜ毒だと分かるのですか?」

「料理にあなたが毒を盛ったのでしょう!?」

「料理に?なぜ料理に毒が入っていると分かるのですか?」

 

 ジルクニフの指摘に皇后は顔を青くする。焦りのためか話せば話すほど言い訳が苦しくなってゆく。

 

「詳しく聞かせてもらいましょうか?今の話は私も私の側近も聞いています。ニンブル!人を呼べ!」

「はっ!」

 

 ニンブルが緊急用の警笛を鳴らして人を呼ぶ。これは不味い。来た人物が皇后の派閥の人物であれば何とでもなるがそれ以外の可能性もある。むしろジルクニフの表情からすると皇后の派閥ではないのだろう。

 

「さあ、話していただきましょうか?なぜ毒が入っていたと知っていたのですか?父が倒れましたが怪我なのか、病気なのか、毒か呪いか私にはさっぱり分からなかったのですが……?」

「も、もしかして……あなたが指輪を……」

 

 動転した皇后は第一皇子を見つめる。皇后は第一皇子に指輪をすり替えるように命じていた。ジルクニフには毒無効の効果がない指輪を渡す手筈だが、それを間違えて皇帝に渡したのではないかと疑ったのだ。

 

「ち、違う!母上!私は言われた通りジルの指輪をすり替えた!!」

「馬鹿!何を言ってるの!?」

「あ……」

 

 皇后の言葉に第一皇子は思わず口を滑らせる。自供したようなものだが皇后は諦めない。一転してそれさえもジルクニフへと擦り付けることにする。

 

「まぁいいわ!ジル!あなたが陛下の毒無効の指輪をすり替えたのね!?」

「さて、何のことですか?」

「いいえ、そうに違いないわ!皇后の権限によりあなたを皇帝殺害の罪で有罪とします!リチャード!来なさい!」

 

 皇后は念のために外に控えさせていた近衛である第一騎士団の団長の名を叫ぶ。この場にジルクニフの護衛はニンブルしかいない。精鋭である第一騎士団の近衛兵たちであれば勝てない道理はない。

 そしてジルクニフと一緒に目撃者の首さえはねてしまえば罪をジルクニフに被せることはわけもないだろう。そんな皇后の期待通り扉が開いて一人の騎士が入ってきた。

 

「あなたが呼んだのはコレのことかしら?」

 

 騎士装備に身を包んだレイナースが皇后へ向かって首を放り投げる。そこには恐怖に歪んだ表情のリチャードの顔があった。

 

「ひぃ!?」

「部下を盾にして逃げ出すわ、命乞いをして泣き出すわ……騎士としての誇りもないこんな人に一時でも心を許していたとは情けない限りですわ。殿下、この機会を与えてくださったこと感謝いたします」

 

 新たにジルクニフの側近となったレイナースがやれやれと首を振った後、ジルクニフに騎士の礼をする。

 

「ったくおっそろしい女だな……あれでもそこらの冒険者じゃ歯が立たないくらいの精鋭なんだぜ?」

 

 レイナースに続いて部屋に入ってきたのは血塗れのバジウッドだ。二人で第一騎士団の近衛を始末してきたのだろう。

 

「そうかしら?地元の銀級冒険者にも劣ると思いますけれど?」

「いや、あんな鬼気迫る恐ろしい顔で追い回されちゃ実力もなにも……」

「はぁ!?」

「いや、何でもねえ……殿下、これをどうぞ!」

 

 レイナースの形相に恐怖を感じたバジウッドは話を変えるようにジルクニフに剣を放り投げ、ジルクニフはそれを受け取る。

 

「さて、義母上に兄上。もう自供したようなものですが第8騎士団長として皇帝殺害容疑でお二人を取り調べさせてもらう」

「な、何を言っているの!?毒を入れたのはあなたなのでしょう!」

「そうだ!母上が毒を父に毒を盛るはずがないだろう!」

「ではそのあたりから調べましょうか。フールーダ!」

「はっ!」

 

 ジルクニフの合図で扉から帝国魔法省の人間たちとともに帝国の重鎮フールーダ・パラダインが入ってくる。ジルクニフが事前に手を回しておいたのだ。

 

「ではまずは料理に毒物が本当に入っているかどうか調べてくれ」

「かしこまりました」

 

 魔法省の職員たちが次々に料理に<毒物感知>の魔法をかけていくとそれぞれに陽性の反応が見られた。結果は当然黒である。

 

「ふむ、どうやら料理、飲み物すべての毒物が入っていたようですな」

「フールーダ……あなたは私の味方なのよね?ね?ジルクニフがやったのでしょう?そうおっしゃいなさいな」

 

 ジルクニフの分析を無視して往生際悪く皇后が縋るようにフールーダに声をかけるがフールーダは冷淡な目を向けるのみだ。

 

「私は中立の立場でいるつもりでおる。嘘偽りなど言わないことを魔法の神ナーベ様に誓おう」

 

 魔法の神ナーベと言う謎の言葉に皇后は戸惑う。しかしフールーダが味方をしてくれないという事実に顔を真っ青にして震えだした。

 

「毒が入っていたことは証明されたな。さて、義母上と兄上はなぜそれを知っていたのか。そしてなぜ毒が入っていたにも関わらず毒感知の指輪が反応しなかったのか」

「殿下、この指輪は何の魔法付与もされておりません」

 

 料理に続いて<道具鑑定>を指輪に唱えていた魔法省の職員たちが次々と証拠を突き付けていく。

 

「毒無効化の指輪は陛下のものだけで魔法効果のないもののようです」

「では何者かが毒を料理に混ぜ、父上の毒無効の指輪をすり替えて殺害したということなのでしょうね?母上?兄上、心当たりがあるのでは?」

「知らない!私はやっていないわ」

「おまえこそ怪しいぞジル!犯人はこいつだ!早く捕らえろ!」

 

 皇后と第一皇子が喚き散らすも、誰も相手にはしない。既に勝負は決しているのだ。負け馬に乗るような真似は誰もしたくないだろう。

 

「ではこういうのはどうでしょう。毒を入れたのが誰か、指輪を用意したのが誰か、魔法により強制的に取り調べるというのは?もちろん私も取り調べを受けよう。これこそ公正な真実が分かるというものだ」

「そ……そんなこと王族にするなんて認められるわけがないでしょう!」

「そ、そうだそうだ!きっとイカサマをするんだろう!」

「ふんっ、見苦しいな……。それ以外でこの場を収めることなどできんぞ? もう良い。フールーダ遠慮はいらん! やれ!」

「かしこまりました。<支配(ドミネート)>」

 

 フールーダの精神支配の魔法が皇后、第一皇子、ジルクニフの3人にかかりその瞳に靄がかかる。これで3人ともフールーダからの命令には逆らえない。

 

「料理に毒物を入れるように手配した者は手を挙げよ」

 

 フールーダの質問に皇后が手を挙げる。

 

「指輪を用意したものは手を挙げよ」

 

 次の質問に第一皇子が手を挙げる。

 

「支配を解除しました。さてはっきりしましたな……」

 

 その場にいるすべての者が冷ややかな目で皇后と第一皇子を見つめていた。この国の皇帝の殺害を自供したのだ。まさに国賊。国民のすべてが彼らを許さないだろう。

 

「違うわ!魔法で無理やり手をあげさせられたのよ!」

「ただ手を挙げろとは言っておりませんぞ?毒と指輪を用意した者でなければ手は上がりませぬ」

「ふざけるな!すべてジルの策謀だろうが!そもそもジルクニフが死ぬはずだったんだ!なんで父のところに効果のない指輪が行っているんだ!」

 

 もはや自供としか思えない発言をする第一皇子に皇后は顔をさらに青くする。これで皇后は第一皇子ともども死刑は免れないだろう。

 

「さて、真実は明るみになった!皇帝陛下殺害の罪によりその首もらい受ける!」

 

 ジルクニフはテーブルを蹴って躍り出ると皇后と第一皇子の首を容赦することなく斬り落とした。二人の首から溢れる血がジルクニフを真っ赤に染めていく。今後、『鮮血帝』と恐れられる新たなバハルス帝国皇帝が誕生した瞬間であった。

 

 

 

 

 

 こうして歴代最高と謳われることになる皇帝ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクスが誕生した。 

 前皇帝の葬儀が国を挙げて行われた後、正式にジルクニフが皇帝として国民に迎えられる。民衆は諸手を挙げて歓迎したが、一部の貴族たちは顔を青くした。悪事を働いていた者たちはなおさらである。

 その予感通りジルクニフは敵対貴族たちの罪を洗い出し粛清する。

 

 そして血の粛清が終わりひと段落した頃……皇帝の私室で二人の人物が向かい合っていた。皇帝ジルクニフと帝国主席魔術師フールーダだ。

 

「ふぅ……思ったよりうまくいったな。助かったぞ、じい」

「あの時もう少し気づくのが遅ければ死んでいたのは殿下……いえ、陛下でしたな」

 

 話の内容は前皇帝が毒殺されたときのことだ。世間には皇后により皇帝が毒殺されたとされているが、事実とは異なっている。

 皇后と第一皇子が晩餐会へと誘い込み、毒物を混ぜた料理を食べさせて殺害しようとした相手はジルクニフだった。しかし実行の直前フールーダに気づかれることになる。つまりフールーダが第一皇子派閥であったのならば、殺されていたのはジルクニフだったことだろう。

 

 しかしフールーダはジルクニフについた。そして皇族用に用意された指輪に魔法が付与されていないものが混ざっていることを発見し、それをジルクニフは逆に利用することしたのだ。

 

 もし事実をありのままに告発したとしてもただの管理ミスという形で皇后たちには何の痛痒も与えられなかっただろう。そのため第一皇子がすり替えた指輪をジルクニフがさらにすり替えたのだ。

 

「ですがまさか皇帝陛下を殺すとは……皇后を直接殺すものかと思っておりました」

「何を言っている。父上を殺したのは義母上でないか」

「ははっ、そうでしたな」

「まぁ国力向上のための施策を何も持たない父には早めに退場してもらわなければこの国が終わるとは思っていたがな。まだ今であれば間に合う」

「やはり実力主義の強者を手に入れられたのがよろしかったですな」

「ああ、特にレイナースを敵対勢力からこちらに引き込めたのは大きかった。あれがあちら側にいたとしたらと思うと頭が痛くなる」

 

 レイナースは個人的な恨みもあってか一人で第一騎士団の近衛騎士の大半を打倒していた。ジルクニフの側近の中でも群を抜いた実力者だ。彼女が敵対していた場合、計画は大幅な修正を強いられただろう。

 

「彼女は今後どうするので?粛清した彼女の両親の領地を与えるのですかな?領民たちは彼女を慕っていると陛下も言っておったと聞きましたし……」

「いや、私は領民たちの意見なぞ知らんぞ?」

「はぁ?」

 

 フールーダはジルクニフの言葉にあっけにとられる。レイナースを説得する際に決め手となったのは、領民たちが彼女を慕っているといったジルクニフの言葉だ。まさかそれが何の根拠もないものだとは思わなかった。

 

「そう言った方がレイナースを御しやすいと思ったからな。親しく思っていたあらゆる人間に裏切られた彼女には特に効いたことだろう。実際には領民の中にも呪いを怖がっていたやつがいたかもしれないし、そうではないかもしれない」

「それが陛下の嘘だとバレたら不味いのでは?」

「ははははは、そのあたりの手抜かりはないさ。ロックブルズ領……いや、元ロックブルズ領の者たちにはレイナースが己の身も顧みず呪われた獣に一騎打ちを挑んで打倒したと伝えてある。あの地ではレイナースは英雄扱いだ。私の言ったことは結果的には本当になったというわけさ」

「ふふっ、ふはははは。さすがでございますな、陛下。ではその陛下の優秀な頭脳で私との約束も本当にしていただけるのですな?」

 

 フールーダにギラリと鋭い目つきで見つめられジルクニフの背中に嫌な汗が流れる。

 

「ナーベ殿のことなら約束通り会わせてやったではないか」

「ですが……まだ魔法談議が出来ておりません!」

「それは爺が足を舐めようとするからだろう。なぜあのようなことをした……」

「私の忠誠を示すためでしたが……いけませんでしたか?」

「あの拒絶を見て駄目だと思わないじいを私は尊敬するよ……。まぁ彼らの動向は今後も注視していくつもりだ。だから爺もあまり無理強いするようなことはしてくれるなよ?あの様子ではこの国から出ていかれかねんぞ」

「むぅ……分かりました……仕方ありませんな」

「私としても彼らとは友好的な関係を築きたいと思っているから、くれぐれも失礼な行動は慎んでくれ。この国にいる限りまたいつか機会を作ってやる」

「かしこまりました。期待しておりますぞ、陛下」

 

 これで帝国はジルクニフの統治の下、改革を進め国力を向上させていくことが出来ることだろう。いずれリ・エスティーゼ王国をも取り込み豊かな国を築いていきたいとジルクニフは考えている。

 そのためにもフールーダの協力は今後も必要不可欠である。

 

 しかし本人は分かったと言っているものの、闘技場で変態行為に出た彼に一抹の不安を覚えるジルクニフであった。

 

 


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