モモンとナーベの冒険~10年前の世界で~   作:kirishima13

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第41話 スカウト

 バハルス帝国の辺境の廃村。そこで3者が対峙していた。

 

 一つはリ・エスティーゼ王国を中心に活動する冒険者チーム『蒼の薔薇』。

 

 一つはバハルス帝国に拠点を置いた新進気鋭の冒険者チーム『漆黒』。

 

 そしてもう一つは伝説の吸血鬼『国堕とし』である。

 

 『漆黒』と『国堕とし』の交渉に割り込んできたのは『蒼の薔薇』の現リーダーであるリグリットである。

 

「まず聞きたいんだけどね、あんたたちは国堕としを討伐しに来たってわけじゃないんだね?もしそうだったら邪魔をしたあたしらが悪者になっちまう」

「まぁ……そうだな。我々は彼女と話をしに来ただけだ。だがお前たちが彼女を討伐するというのであれば……」

 

 リグリットからキーノを守るようにモモンガはその前に立ちはだかる。

 

「彼女の味方をさせてもらおう」

「ぇ……」

 

 モモンガの意外な言葉にキーノは思わずその顔を上げる。これまで成り行きで共同戦線を張ったことはあったが心から味方となってくれる者などいなかった。

 初めての味方になってくれるかもしれない相手なのかと少し胸が熱くなる。

 

「まったく……リザードマンに味方するわ、吸血鬼に味方するわ……あんたたちはどういう冒険者なんだい」

 

 呆れたように首を振るリグリット。しかし呆れたいのはモモンガの方である。

 

「冒険者が亜人やアンデッドの味方をすることはそんなにおかしいのか?私にとって冒険者とは世界各地を冒険し、未知を既知とする者たちのことだ。そんな私が異形種への偏見を憂えて何がおかしい?私からも質問させてもらおう。そちらは何が目的でここへ来たのだ」

「そうだね……はっきり言おう。あたしはもうすぐ冒険者引退を考えている」

「「「「ええ!?」」」」

 

 蒼の薔薇の面々が顔を見合わせる。リグリットが引退するつもりであることは聞いていたがそんなに急だとは思っていなかった。

 

「私の穴が埋められるくらい頼りになるやつを仲間にしたいと思ってたんだけどね。『漆黒』には逃げられるし、ガゼフやブレインにも断られるし……」

 

 どうやらあの御前試合の出場者をスカウトをしようとしていたらしい。モモンガ達は試合後逃げるように王都を離れたのでスカウトできるはずもなかっただろうが……。

 

「そこに国堕としの情報だろう?これは勧誘するしかないとおもったね。どうだい国堕とし?あたしたちの冒険者パーティに入らないかい?」

「それは……」

 

 キーノはちらりとモモンガを見つめる。期待するような眼差しだ。

 一方、モモンガとしてはその答えは予想外であった。先ほどまで一人で寂しく廃墟で時間をつぶしている寂しがりだと思っていたのだが……。

 

「なんだ……。ぼっちの割にスカウトされるとは人気者じゃないか」

「おい!いい加減ぼっちと言うのをやめろ!」

「なんだい随分仲がいいことだね」

「「良くない」」

 

 モモンガとキーノが声を揃えて否定する様子を見てリグリットは天を仰ぐ。

 気が合っているとしか思えない。どうやら自分たちは一歩遅かったらしい。しかしそれでも簡単に諦める気にはなれない。かの国堕としと言えば魔神を弑したほどの実力者だ。今後蒼の薔薇の支柱となりえるのは間違いない。

 

「あたしたちには国堕とし、あんたが必要なんだよ」

「そ、そうは言われても……」

 

 キーノにとってどちらの勧誘もありがたかった。しかしそれを素直に受けるわけにはいかない理由がある。

 

 キーノは生きとし生けるものの敵、アンデッドだ。

 時に冒険者を差し向けられて命を狙われるなど危険は免れない。また、神官などのアンデッドを感知できる人間に出会えば迫害を受けることは確実である。

 

「申し出はありがたいが私は誰かと一緒にいるわけにはいかない理由が2つほどある。一つは私がアンデッドであるからだ。私と一緒に人の街に入ろうものならすぐさま討伐隊が送られてくるだろう。この紅い目と牙を見れば一目で分かる。神官もすぐに見抜くだろう。私などと一緒にいない方がお前たちのためだ……」

 

 寂し気にキーノは背を向ける。

 あらためて言葉にしてみるとこんな境遇の自分を仲間にしたいと思う者はいないだろう。彼らもきっとそこまで考えて誘ってくれたわけではないだろう。そう思っていたのだが……。

 

「安心しな。こっちのメンバーも碌なもんじゃないからさ」

「ちょっと!リグリット様。それは酷いわ」

「そうだぜババア。俺たちのどこが碌でもないんだよ」

「名誉棄損」

「謝罪と賠償を要求する」

 

 蒼の薔薇の面々が抗議の声を上げる中、リグリットはその苦情を気にする素振りさえ見せずに笑い飛ばす。

 

「ははははは、ほらね?うるさい連中だろ?あんたも安心するように先にこっちのメンバーの紹介でもしておこうか。こいつがリーダー候補のラキュースだ。貴族の令嬢だというのに英雄に憧れて家を飛び出して冒険者になった碌でなしさ。それにこの子はちょっと特殊な趣味を……」

「やめてください!リグリット様!」

「そうかい?趣味は人それぞれだと思うけどね。それからこっちのデカいのがガガーラン。性欲旺盛で童貞と見たら宿に連れ込んで食っちまう若い男の敵みたいなやつだ」

「ふざけんな!むしろ俺に童貞を奪ってもらって感謝してるはずだ!」

「そう思ってるのはあんただけだと思うけどね……。それで残りの二人はこの間あたしらを殺そうと襲ってきた元暗殺者さ。しかも一人はショタ好き、もう一人は女が好きってもうまごうことなき変態だよね」

「性癖バラすなババア」

「殺すぞババア」

「とまあ何ていうか常識がない連中ばかりでね。こいつらに比べりゃあんたが吸血鬼だってことなんて些細なことだろ」

「そういう……ものか……?」

 

 キーノは何かとんでもなく面倒なことを頼まれているような気がしてきた。しかし誰かに頼りにされるというのは意外と悪い気分ではない。

 

「あとあんたの心配についても想定済みさ。ガガーラン、あれを出しな」

「ん?あれはラキュースに預けてあるよな」

「ぇ……、この仮面とフードのこと?これを彼女に?あの……これは……」

 

 なぜかラキュースが持っていた荷物から戸惑いながら赤い宝玉のついた真っ白な仮面と真っ赤なフードを取り出す。

 

「ラキュース、なんか目が泳いでるけどどうかしたのかい?」

「い、いえ!何でもないわ!どうぞ、リグリット様!」

「そうかい?この仮面は生体反応の探知を阻害する効果があってね。あんたがアンデッドだからって誰にも気づかれることはなくなるよ。それに顔を隠してしまえば目の色も牙も関係ないだろう?」

 

 リグリットの言葉にキーノは納得する。確かに言うだけはあって考えた上で勧誘をしてきているようだ。一方モモンガはと言うと……。

 

「なかなか面白い魔法道具(マジック・アイテム)を持っているな。鑑定させてもらっても?駄目?ちっ……。このまま彼女にはそちらに行ってもらって別に構わないのだが……もしそいつらの寿命が尽きてまだその気があるのならいつでも受け入れようではないか。いや、やはり我々のチームが劣っているようで不快だな……。よし!いいだろう、私のチームメンバーを紹介しよう!」

 

 モモンガの言葉にナーベラル、ラナー、クライムの3人が躍り出る。

 

「私の名はナーベ。偉大なる至高の存在たるモモンさー……んの下僕です。ちなみに私は虫けらたる人間が大嫌いです」

「私は偉大なるモモン様の奴隷ラナーです。ちなみに私も愚かな人間たちが大嫌いですわ」

「ペットのクライムです……意地悪な人間は大嫌いですわん!」

「……とこのように非常に冗談!冗談が好きな愉快な仲間たちなんだ、はははは……は」

 

 ナザリックの下僕としての自己紹介であったら高得点だったかもしれないが、この場では赤点をつけるしかない自己紹介である。

 自慢げに紹介してしまった自分が恥ずかしいが……モモンガは何とかフォローしようとあがくしかない。

 

「我々のパーティーはこのようにとてもアットホームで楽しい職場環境なのだ。福利厚生も充実して……充実して……ないか?そういえば……休みとか取ってないな……」

 

 モモンガは内心で冷や汗をかく。

 睡眠も疲労の無効の肉体に合わせてこれまで休みらしい休みもなしに連日フル稼働で働き続けていた。ナーベラルたちもそれに合わせて働き続けていたはずだ。これはいけない。

 

「そうだな。今後はきちんと休暇も取れるようにして福利厚生を充実させていくと約束しよう!」

「福利厚生……とはなんでしょうか?モモンさー……ん」

 

 意外にもナーベラルから質問が飛んで来た。

 

「何というか……部下たちの慰労のための活動をいろいろとするというか……」

「ですとあの者にもあの時のようにモモン様のご寵愛を授けるというのですか!あの時のように!」

「……あの時?」

 

 モモンガがナーベに何か福利厚生としてご褒美的なものをあげた記憶はない。思い出そうと首を捻るがまったく思い出せない。

 

「いったい何のことだ?」

「私の働きを労いそして森の中で胸を揉んでくださったではないですか!」

「……胸を!?」

 

 ナーベラルの告発にキーノは自分の薄い胸を思わず腕で隠す。蒼の薔薇の面々も思い思いに胸を隠していた。

 

「ち、違う!っていうかなんであんたまで胸を隠しているんだ婆さん!」

「ま、まぁあたしたちの仲間になるっていうんなら少しくらいなら考えなくはないよ?」

 

 頬を染めてそんなことを言うリグリットにモモンガは怖気を感じる。なぜ進んで熟女を遥かに超えたような老婆の胸を揉まなければならないのか。

 

「だから違うと言っているだろう!私は誰彼構わず胸を揉むようなことはしない!」

「なるほど、私だからこそ胸を揉んでいただけたということなのですね!?」

「ナーベラル!いや、まぁあれには必要な理由があったんだが……。ここで詳しく言えないがやむにやまれぬ事情が……まぁ……そんなわけで!私たちはまぁ人間嫌いという点を除けばそう悪い待遇ではないと約束しよう!」

 

 誤魔化すようにそう言われても胸を揉んだという前科が消えるわけではない。

 キーノはモモンガを半目で睨んでいる。これは不味い。

 モモンガはより親近感を持たれるための伝家の宝刀を抜くことにした。

 

「よし!ではこちらのパーティに入るのであれば特典をつけよう。こちらにも生命感知を防ぐ指輪がある。それからさらに顔を隠すためにこれを進呈しよう!」

 

 モモンガが取り出したのは『嫉妬する者たちのマスク』通称『嫉妬マスク』である。

 泣き笑いのようなその表情はまさにリア充たちに対する嫉妬と怨念に満ちた顔をよく表していた。

 

「このマスクこそ世のぼっちのためと言えるようなマスクだ。クリスマスという恋人たちが語らうイベントの期間に一定時間以上一人でいた者に渡されるマスクでな、このマスクを持っているというだけで共感を覚えて仲間になり、共に手を取り合って幸せに浸っている恋人たちを襲撃しては英気を養ったものだ。どうだ?ぼっちの君に相応しいと……」

「よし、『蒼の薔薇』のリグリットとか言ったな。お前たちの仲間になるという話を聞こうじゃないか」

 

 モモンガの話を遮りキーノは決断した。あの黒い鎧のパーティはもう駄目だ。

 

「だがお前たちの強さを確かめてからだからな。それがもう一つの条件だ。あまり実力差があるようなら抜けさせてもらう」

「へっ、上等だぜ。なぁラキュース」

「ええ!異論はないわ。よろしくね『国堕とし』さん」

「負けない」

「ぼこぼこにする」

「じゃ、行くとするかね。それじゃあね『漆黒』。あ、そうそう一つ言い忘れていたよ。トブの大森林の奥地は危険だから行くんじゃないよ。あたしらには見つけられなかったけどとんでもない化け物が封印されてるらしいからね」

 

 別れを告げて蒼の薔薇はキーノとともに廃村を離れていく。

 

 

───そして残されたモモンガたちはというと……

 

 

「これは……このマスクはいいものなんだ。クリスマスでもギルドに残っていた仲間たちとともにゲーム内のリア充どもを血祭りにあげるのが楽しくてな……本当に楽しかったんだ……」

「モモン様!至高の御方々を差し置いて幸せになるようなものたちなど皆殺しにして当然です!ぜひその嫉妬マスクをつけて血祭りにしてやりましょう」

「ナーベ様のおっしゃる通りですわ!人間たちを不幸のどん底に突き落としてやりましょう!」

「モモン様とお仲間様が言うなら間違いないです!あ、わん!」

 

 廃村に取り残されて言い訳がましくなおも嫉妬マスクの素晴らしさを語るモモンガだが、ナーベラルたちの慰めともいえない慰めにさらに心を削られるのであった。

 

 

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