モモンとナーベの冒険~10年前の世界で~   作:kirishima13

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第43話 トブの森最深部にて

 蒼の薔薇が立ち去った廃村の中でモモンガたちが話し合っていた。

 内容は今後の方針。『国堕とし』の討伐依頼については失敗となるが仕方がない。それより気になるのはトブの大森林についてだ。

 

「ラナー。さっきあの老人が言っていたトブの大森林に封印された魔物については知っているか?」

「詳しくは分かりませんが……あれは死霊使いリグリットで間違いないと思いますわ。13英雄の一人と言われています。彼女が言うのであればその魔物がいる可能性は高いでしょう」

「13英雄ね……」

 

 13英雄や八欲王は人々の噂や吟遊詩人の詩にまでなっており、モモンガも街で聞いたことがある。有名な偉人という印象だ。

 今現在も生存しているかどうかは疑問ではあったがリグリットがその一人と聞いて少し後悔する。

 

「もう少し詳しく話を聞いてみても良かったかもしれないな……私と同じ存在という可能性はあるのか?見たところそれほど強そうには見えなかったが……」

「モモン様と同じところから来たかは分かりませんが……強さ的には放置しても問題ないでしょう」

「まぁそうだな……。それよりあの長生きしている吸血鬼の知識のほうが惜しかったか……これのどこが駄目だったんだ……」

 

 モモンガは手に握ったままの『嫉妬する者たちのマスク』を見つめる。

 クリスマスぼっちプレイヤーの団結の証とも言えるそれはぼっち同士の友情を育むに相応しい道具(アイテム)だと思ったのだがお気に召さなかったらしい。

 

「いと尊きモモンガ様のお考えがあのような下賤の者に分かるはずがありません!」

「ナーベ様のおっしゃるとおりですわ!」

「僕もそう思います!あ、わん!」

 

 仲間たちが全力で慰めてくれるのはいいが余計に惨めになるのでやめてほしい。それにモモンガが黒と言えばどんなものでも黒と言うような仲間たちに言われても参考にならない。

 モモンガはため息を吐くと思考を切り替える。

 

「……その封印されたという魔物、少し気になるな。まさかと思うがナザリックの関係者が封印されているなんてこともあるかもしれない」

「まさか私の姉妹たちということも……!?あの老婆は近づくなと言っておりましたが……我々には関係ありません!行きましょう!」

 

 どうやらナーベラルは自重をするつもりはないようだ。しかし仲間のことが絡んでいるとなれば当然モモンガも自重など一切するつもりはない。

 

「行ってみるか……トブの大森林の最深部とやらに」

 

 モモンガ達を優秀なアダマンタイト級冒険者と思ってリグリットは忠告したのだろうが、そんなことはモモンガたちには関係がない。

 高らかに出発を宣言するモモンガたちの前では、過去の英雄たちによる封印など風前の灯だった。

 

 

 

 

 

 

 モモンガ達は<転移門(ゲート)>を発動するとリザードマンの村の近くへと移動する。そのまま村には寄ることなく、今までマッピングした中で行っていない地点を確認しつつ、トブの大森林の奥地へと移動していった。

 

 大森林の最深部というので樹木がより密集するようなジャングルを想像していたが、なぜか逆に奥に進むほど木々が少なくなっていた。

 しばらく進むと大森林の中のポッカリと木々が枯れたところへ出る。

 

「ちょ、ちょっと君たち!待って!ちょっと待って!」

 

 どこからともなく声が聞こえてきた。後方のまだ樹木がまばらだがあるあたりから聞こえる気がするが姿は見えない。

 

「……どこだ?」

「モモン様、あそこの木蔭に何かがおりますわ」

 

 ラナーが指さした方向をよく見ると緑色の生物がいる。

 体は小柄で子供と思えるくらいに小さく、髪は樹木の葉のような緑色で衣服の代わりに葉と木の皮を編んだようなものを纏っていた。

 ユグドラシルと同じ見た目であるのならば森精霊とも呼ばれるドライアドという異形種のはずだ。

 今見えているのは分体のようなもので本体の樹木がどこかにあるはずである。

 

「ここに来てから植物系の異形種は初めて見たな……。やあ、こんにちは。私はモモンという。こちらはナーベ、ラナー、クライムだ。我々に何か用かな?」

 

 警戒されないようにこやかに挨拶をする。するとドライアドは嬉しそうに手を振っていた。

 

「あ、どうも!僕はドライアドのピニスン・ポール・ペルリア。君たちは……変な格好してるけど人間……?」

 

 モモンガたちの格好を上から下まで見渡した後ピニスンは質問する。

 確かに見た目だけならば人間と勘違いするのは当然だろう。しかしピニスンが人間でないならばこちらも人間である振りをする必要もない。

 

「いや、我々は人間ではないが……それがどうかしたか?」

「この間人間が通りかかったんだけど……遠くて声がかけられなかったんだよ。聞きたいことがあったんだけどさぁ……」

「ああ……おそらく『蒼の薔薇』のことだろうな」

 

 ピニスンのその言葉にモモンガは心当たりを思い出す。森の奥地に行くなということはその場所を調査したということなのだから間違いはないだろう。

 

「……蒼の薔薇ってなに?薔薇の精霊か何か?」

「知り合いの冒険者チームだ。人間で構成されている……と思う」

 

 一部オークではないかと思うような巨躯の女戦士や最近加入した吸血鬼もいるがほぼ人間といっても間違いはないだろう。

 

「そうなんだ!その人たちにも会いたかったなぁ!まぁいいや!でさ!君たちに聞きたいことがあるんだけどいい?」

 

 人見知りしない物言いのピニスン。この人懐っこさはドライアドの特性なのか、ピニスン本人の性格なのかは分からないが不快に思ったナーベラルが前へと出てきた。

 

「モモン様に何という無礼な口の利き方……殺してもよろしいでしょうか?」

 

 眉間に皺をよせ怒りの表情を浮かべたナーベラルは手を突き出し魔法のターゲティングまで行っている。どう見ても本気だ。

 

「ちょちょちょ!えっ?どういうこと!?やめて!殺さないで!」

 

 ナーベラルから向けられる殺気と魔法の気配に気づいたピニスンは恐怖に泣き叫ぶ。しかしそこに可愛らしい救世主が現れた。

 

「ナーベ様待ってください。殺すのはせめて拷問して情報をすべて吐き出させてからにしましょう」

 

 救世主ではなく拷問官だったようだ。

 

「っていうか!話が終わったら結局僕殺されちゃうんじゃないのそれ!?」

 

 確かにピニスンの話し方は初対面の相手に対するものではないだろう。

 しかしそれはモモンガのような社会人としての常識の中でだ。こんな森の中の生物が丁寧語を使わなかったしてもそれは文化というものだ。

 家に引きこもっていたぼっちが久しぶりに話をしようとしてとっさに言葉が出てこないようなものだ、たぶん、きっと……。

 相手を侮ってそのような話し方をしただけであればモモンガに責めるつもりはない。

 

「待て。彼はただ上位者に会ったことがない、または話し方を知らない原生生物……というだけなのだろう。多少の無礼は仕方あるまい。ピニスンという名だったな。普通に話してもらってかまわないぞ」

「……なんかすっごく失礼なこと言われた気がするけどまぁいいや。君たちは冒険者?」

「まぁそうだな」

「ローファンって人知らない?」

「ローファン?聞いたような気がするな……ちょっと待て思い出す。ええと……ああ、王都でナーベが爆裂魔法を叩き込んだやつがそんな名ではなかったか?」

 

 忘れかけていた記憶を何とか思い出す。王都で御前試合が終わった後なぜかモモンガに弟子になれと言って来た相手がそう名乗っていた。

 

「モモン様に無礼を働き、私が消し炭に変えた虫けらですね!」

「え!?ローファン殺しちゃったの!?」

「ナーベラル、嘘を言うな。死ぬ前にちゃんと治療したぞ」

 

 全身大火傷で死にかけていたが死んではいなかったはずである。治癒魔法で治ったからきっと生きているはずだ。たぶん。

 

「そ、そうなんだ……?生きてるんならその人たちを呼んでくることって出来ない?」

「モモン様を小間使い扱いして命令すると?殺してよろしいでしょうか?」

「ひぃ!命令じゃなくてお願いだよ!お願い!」

「居場所も知らないから呼んでくるのは難しいな……。そもそもなぜ彼が必要なんだ?」

「難しいの?そんなー……。魔樹が復活しようとしてるのにさぁ……」

 

 ピニスンはモモンガの返事を聞いて頭を抱える。一方、モモンガにとっても気になる言葉が出てきた。

 

「……魔樹?」

「うん……ここから先の森……枯れてるでしょう?」

「確かに枯れてるな」

 

 枯れているどころか一部ではもはや更地となってしまっているところさえある。

 

「あれは地下に封印されてる魔樹が復活しようとして養分を奪っているからなんだ。侵食はちょっとずつ広がってる。以前ここに来てくれた冒険者がその一部を倒して封印してくれたんだけどこのままじゃまた復活するかもしれないんだよ」

 

 モモンガの中でピニスンの話とリグリットの話がつながる。封印されている魔物、それが『魔樹』なのだろう。

 

「それでその『魔樹』はあとどのくらいで復活するんだ?」

「分からないけどその頃から結構時間がたってるから心配なんだ。それに約束したんだよ、また復活する頃に倒しに来てくれるって!」

 

 握った拳を上下に振りながらピニスンは力説するが、その約束したローファンとやらはここには来ていない。目の前のドライアドの話が本当かどうかも不明だ。

 

「……そもそもそれは何年位前の話なんだ?」

「えーっとね……太陽がいっぱい回った前!」

「……」

 

 どうやら言語だけでなく数字の知識も原生生物並みだったらしい。俄然話の信憑性が薄くなってきた。モモンガは指を1本立てる。

 

「これは何本だ?」

「一本!」

 

 指を二本立てる。

 

「二本!」

 

 指を三本立てる。

 

「いっぱい!」

「なるほど……」

 

 地球でも3以上の数を必要としない民族などはいたらしい。ピニスンにとっても必要なかったのだろう。

 しかしモモンガにとっては必要なことだ。少なくとも3年以上前であることは間違いないが正確な年数が分からない。

 モモンガはローファンと名乗った老人を思い出す。老い先短く大した力も持たないあの老人に『魔樹』を倒すことが可能なのだろうか。恐らく安心させるために口から出まかせを言ったのか、その時はそう思っていただけなのかどちらかだろう。

 

「それで『魔樹』とはどんな魔物なんだ?名前は?大きさは?攻撃方法は?」

「え?なんで君がそんなこと聞くんだい?」

「戦う前に相手の情報を調べておくのは当たり前だろう」

 

 モモンガの言葉にピニスンは疑問に思う。目の前の4人は確かにピニスンよりも大きく強そうではあるが『魔樹』に比べるとあまりにも小さい。そして昔助けてくれた冒険者たちより人数が少ない。

 

「君たちだけで戦うのかい!?あれと!?」

「いや、いきなり攻撃したりはしないぞ。最初は対話してみようと思う」

「対話って……無理じゃないかな?同じ植物系の生き物なのに僕の仲間も食べられちゃったし」

「肉食なのか……?いや、ドライアドは植物だから草食……?食べるのは植物だけなのか?」

「ううん、確か『魔樹』……名前はザイトルクワエって名前で呼ばれてたんだけどザイトルなんちゃらの一種だって。でっかい口に牙があって動物も食べてたよ。すっごくおっきくて枝を鞭みたいに振り回すんだ!それにでっかい種を飛ばしてきて……ぶるる……思い出したら怖くなってきちゃったよ……」

 

 ピニスンは身振り手振りでザイトルクワエの恐ろしさを表現した後、震えて木陰に隠れてしまった。木陰から顔だけ出している。

 

「大きいのは分かったがザイトルクワエ、だったか?その大きさは何メートルくらいなんだ?」

「えっとね……たくさん!」

「……。あの一番大きな木より大きいか?」

 

 モモンガは10mほどの高さの木を指さす。

 

「うん、あれよりもっともっと大きいよ」

 

 ナザリックでそれほど大きいモンスターというと第4階層守護者のガルガンチュアや第7階層の領域守護者の紅蓮などが思い浮かぶ。

 どちらも植物系のモンスターではない……とはいえモモンガはここまで来た以上ザイトルクワエに会わずに帰る手はないだろう。

 

「ラナー、生命反応は調べているか?」

「あの枯れた場所の地下深くに反応があります。強さまでは私では分かりかねます」

 

 モモンガに言われる前にすでに探知魔法により情報を得ているのはさすがだ。

 

「うーん……場所が分かっているならとりあえず会ってみようか。何かいい道具はあったかな……」

「モモン様、<爆裂(エクスプロージョン)>などで表層をえぐり取ってしまいましょうか?」

 

 相変わらず相手のことを一切心配しないナーベラルの作戦にモモンガはドン引きだ。

 

「い、いや……ナーベラル。最初は敵対行動を避けような、まずは対話だ。ん……とあったな。よし、みなこれを持て」

 

 モモンガはインベントリからシャベルを4つ取り出す。採掘用にと所持していたものだ。消耗品で一定以上使うと確率で壊れるがやむを得ないだろう。

 

(懐かしいな……)

 

 モモンガはユグドラシルでの採取を思い出す。

 討伐以外でも素材採取は頻繁に行っており、鉱物のみならず植物や土類、特殊な水や溶岩など様々なものが武具などの材料として必要であった。当然そのための採取道具もユグドラシルには豊富に存在している。

 

「<完璧なる戦士>! よし……掘るぞ!!」

 

 モモンガは少しでも効率を高めるために戦士化の魔法で筋力を上昇させると意気揚々とシャベルを掲げるのだった。

 


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