モモンとナーベの冒険~10年前の世界で~ 作:kirishima13
ナーベラルが離れていったのを確認したモモンガはザイトルクワエと向き合う。地中から完全に地上へと全身を現したザイトルクワエは2メートルそこそこのモモンガと比べると象と蟻どころの差ではないだろう。
「ほぉ……でかいな」
全長100メートルはあるだろうか。これだけの巨体となるとレイドボスを思い起こさせる。しかしモモンガからすれば生命力は多いものの先ほどの攻撃も大したことはなかった。ならば魔法詠唱者としてではない戦い方を試そうと拳を握りしめる。
「まずは戦士化状態で行ってみるか。<
100レベルの戦士の能力を得たモモンガは駆けだすと触手を避けながらザイトルクワエへと向かいザイトルクワエに昔取った杵柄と体重を乗せて正拳を叩き込む。
「むっ……あまり効かないな」
闇闘技場で得た体重の乗った見事な正拳だったが、それでも相手を数メートル後退させる程度で終わってしまう。ダメージは多少あるのだろうが、それでも完璧なる戦士はスキルも職業補正も何もない劣化戦士の腕力でしかない。このまま殴り続けてては何日もかかってしまうだろう。
「100レベルと言っても補正無し特殊技能なしではこんなものか……だが、ステータス減少のパッシブスキルは効いたようだな」
殴られたことによるダメージは少ないようだがモモンガとの接触は
今の接触でザイトルクワエは能力に大幅な減退が生じたはずだ。ザイトルクワエは叫びながら触手をモモンガに向けてくる。
「もう少しいけるか?<
モモンガは触手を掴むととも負のエネルギーを流し込み、同時にザイトルクワエの足を思いきり蹴り払うとそのままその巨体を投げ飛ばした。
枯れた木々が巨体にぶつかりなぎ倒されていく。
「なにあれ!?なんなのあれ!?なんであんなでっかい相手を投げ飛ばせるの?」
「黙りなさい。まだモモン様の偉業はこれからです」
「おかしいよ!こんなの絶対におかしい!」
うるさい声のする方を見ると空中でナーベラルがラナー、クライムと一緒にピニスンを保護していた。ピニスンが大騒ぎしており遠く離れたモモンガにまで声が聞こえて来る。
「拳闘としての技は派手だがやはりダメージはほとんどないか……やめだ。<完璧なる戦士>解除……」
相手が武術や武技を使ってくるわけでもないなら時間の無駄だ。モモンガは戦士化とともに魔法の鎧も解除すると元の姿へと戻る。本来のナザリックの支配者たる超越者の姿である。
「あ……やっぱり人間じゃなったんだ!」
アンデッドを見た反応からすると、ピニスンにそれほど忌避の感情はないようだ。騒ぎ立ててはいるがあれはもともとそういう性格なのだろう。森精霊とは仲良くやっていけるかもしれないとモモンガは安堵する。
「さて、とりあえず体力を半分以下までは一気に削るか!<
モモンガが発動したのは第10位階魔法。天から真っ赤に灼熱した巨大な隕石がザイトルクワエへと降り注ぐ。
「グオオオオオオオオオオオ」
「森が!森が焼けちゃうよ!ぎゃあああああああああああ!!」
モモンガは出来るだけ森精霊の本体に被害が及ばないように加減はしているのだがピニスンには分かるはずもなく大騒ぎしている。
「植物系モンスターだけあって火属性の攻撃はよく効くようだな。だがまだ生命力が残っているな、<
続いて発動したのも第10位階の魔法だ。炎属性対個人への最高位の攻撃魔法によりザイトルクワエは紅蓮の炎に包まれ暴れながら触手を振り回す。
「燃えた!!ザイトルクワエが燃えちゃってるよ!なんなの!?なにをやってるの!?火が!火がああああああああ!」
「確かに触手が邪魔だな。<
火の付いた触手が振り回されて周囲が延焼していく。さすがに不味いと思ったのかモモンガは第10位階の魔法<現断>によって現れた不可視の斬撃によりザイトルクワエのすべての触手を斬り払う。
「もう原形とどめてないんだけど……あれはさすがに……」
触手が動かなくなったことで延焼の心配はなくなったが先に葉っぱを付けたただの巨大な棒のようになってしまった魔樹にピニスンは同情を感じてしまう。
「たしかにちょっと削りすぎたな……このままでは死んでしまうではないか。<大治癒>!」
「あの……なんであの人ザイトルクワエを回復してるの……わけがわからないよ……」
「ギギ!?」
傷つけられては治癒されるという事態に自我のほとんどないザイトルクワエでさえも戸惑っているようだ。しかし現実は無情である。
「……ステータスは限界まで下げておくか」
モモンガは倒れてもはや動けないザイトルクワエに乗りあげるとその手を幹に触れさせ負のエネルギーを限界まで注ぎ込む。
「……」
「よし、完全に沈黙したな……念のために拘束しておくか。<
巨大な肋骨が地面から3つ現れるとザイトルクワエの頭、胴、脚に骨が食い込んで拘束する。
「よし……ナーベラル。もう戻ってきていいぞ」
もはやザイトルクワエは種弾を撃つことも出来なければ触手で攻撃することも出来ない。
そこには全身の枝や根を切り払われ、ステータスを限界まで下げられた上に、巨大な骨に全身を拘束された巨木があった。
ここまで準備が出来ればやることは一つだ。
「さぁ、パワーレベリングの時間だ!」
身動き一つ取れないそれを前にモモンガは高らかにパワーレベリングの宣言をするのだった。
♦
モモンガの言葉にナーベラルがラナー達とともに空から降りてくる。
クライムは着ぐるみの中央に大きな穴が開いてしまっているが中の体はすでに回復しており、蘇生後の弱体化状態も多少は回復して一人で歩けるようだ。
「さて、お話の通じない相手であるようだし、ちょうどいい生贄……いや、練習相手だ。ここで一気にレベルを上げるとしよう。ナーベラルよりもレベルは高そうだし今回はナーベラルも一緒にやってみるといい。当然私も参加する」
「はっ!モモンガ様!ご期待にそえるよう頑張ります!」
ナーベラルの宣言後、始まるのは拘束され身動きが取れない相手が複数でタコ殴りされる姿だった。
傍目に見るとまさに鬼畜の所業である。
モモンガまで一緒になって経験値が稼げないかと殴ったり回復させたりと非道の限りを嬉々として繰り返していると後ろから甲高い声が響いてきた。
森精霊のピニスンである。
「あの……あのさー!君たちが強いのは分かったし、魔樹を倒してくれたのも感謝するんだけどさ!なんでまた回復させてんの!?っていうか何してんの!?」
「ん?何って……殺してしまうなんてもったいな……かわいそうじゃないか、なぁ?」
「可哀そうと思ってる相手をそんなボコボコにしないよ!!」
「安心しろ、終わったらちゃんと埋めてから帰るから。また使うかもしれないし……殺したりしないから」
「ぇ……」
ピニスンにとってそれは聞き捨てならない言葉だ。
いきなり来た頭のおかしな人たちが魔樹を復活させてしまったときは絶望したが、結果としては魔樹を倒すことには成功している。
やっと平和な森に戻ると思っていたのに……。
「それじゃあ、またいつか復活しちゃうじゃないのさ!そしたら僕殺されちゃうよ!お願いだからやめて!」
「いや、そんなこと言われても……」
せっかく見つけたレベリング用のサンドバッグだ。
またクライムのジョブ
しかしピニスンの言い分も分からないでもない。モモンガは腕を組んでしばし考えをまとめると一つの提案をすることにした。
「では……復活しても君が殺されないくらい強くなればいいんじゃないか?」
「……え?いや、でも僕はかなり弱いよ。うん、自慢じゃないけどゴブリン並みにすっごく弱いね!自慢じゃないけど!」
「そうかそうか。ではお前も彼女たちに加わると良い」
「えっ!?ちょっ!?」
モモンガはピニスンの手を引くと武器を持たせてナーベラルたちの下へと引きずっていく。
その態度にさすがのピニスンも何をさせられるか分かったようだ。
「待って!待って!待って!やだよ!僕にこの手を汚せというのかー!ザイトルクワエに恨まれるじゃんかー!」
「大丈夫大丈夫!もし復活しても君が何とか出来るくらいに強くしてやろう。安心したまえ」
「モモン様、魔樹と呼ばれる魔物からどんな病気でも治る薬草が取れると聞いたことがあります。取ってもよろしいですか?」
「なんだと、ラナー!?よし!毟れ!」
「はい!」
「いやああああああああああああ!」
こうして嬉々としてザイトルクワエの頭部から素材のはぎ取りを始めるラナー。そして泣き叫びながら魔樹を殴るピニスン。
魔樹の森の騒ぎはこうしてしばらく続くのだった。