モモンとナーベの冒険~10年前の世界で~   作:kirishima13

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第46話 休暇

「これからは7日に2日間を休暇とする」

 

 魔樹の森での出来事から数日。

 パワーレベリングは半分成功、半分失敗と言えるものだった。

 ラナー、クライム、ピニスンの現地組は大幅なレベルアップに成功したが、モモンガとナーベラルにはその実感がまったくなかったのだ。

 

(ユグドラシルから来た我々はこれ以上レベルを上げられないのか?いや……私は限界レベルである100レベルだったがナーベラルは63レベル。また余裕はあるはずだが……NPCはギルドの規模によって合計レベルの制限があったからなぁ)

 

 ギルド『アインズ・ウール・ゴウン』の拠点である大墳墓ではNPCのレベル合計は2750までという制限があった。そのためNPCをいくらでも増やせるというわけではなかった。

 

(その制限があるということはギルドがどこかに存在するということ……?うーん分からないな……)

 

 結局自身のレベルアップは諦めて魔樹の見張りは嫌がるピニスンに任せ、モモンガ一行は帝都アーウィンタールへと戻って来ていた。 

 そんな帝都の高級宿でモモンガが決意を込めた宣言。

 

 

───休暇

 

 

 そう、イビルアイを勧誘した際に約束した福利厚生を実施するべき時がきたのだ。

 この休暇は現在のパーティ結成以来初めてのもの。これまで無休で働かせすぎたと反省するモモンガは元の世界では不可能だった週休2日を実現させてみせようと意気込んでいるのだ。

 

「きゅうか?とはなんでしょうか?」

 

 しかし無情にも『休暇』という言葉自体が理解されていなかった。

 ナーベラルの残念な言葉にモモンガはかつてのブラック企業勤務のギルドメンバー『ヘロヘロ』を思い出し天を仰ぐ。

 

『もう休暇という概念さえ思い出せませんよ……ははは』

 

 休暇を取得することさえ当たり前でなくなる。それは社会として異常なことなのだと思う。

 モモンガの勤めていた会社でも休暇取得のハードルは高かった。

 取得申請したときの同僚からの冷たい視線、上司からの嫌味、休日は何をするのかという執拗な詮索。

 そんなブラックな環境を作るまいと思っていたのだが……飲食睡眠不要の疲れ知らずの体であったため、ついうっかり1日も休んでいないことを忘れていた。

 今では後悔しかない。

 

「ナーベラル。休暇とは何もしない1日……いや、違うな。自分の自由にしていい1日のことだ。私はしばらく自由に過ごそうと思う。お前たちも自由にするように」

 

 幸い冒険者としての活動で得たお金はある。

 特にザイトルクワエの頭部から毟り取った薬草は信じられないほどの高額で売れた。

 4人で等分に分けたが普通の家族であれば10年は遊んで暮らせるくらいの金額はあるだろう。

 

「自由ですか?」

「今もかなり自由だと思いますが……?」

「?」

 

 どうやらナーベラルだけでなくラナーとクライムも自由主義革命を経験していないようだ……。

 もっとも自由の概念が出来たのも現実世界では近代に入ってからであるのでそれを笑うことは出来ないが。

 

「ちなみにモモンガ様はどのような休日を過ごされるのでしょうか?」

「私か?そうだな……魔法道具(マジック・アイテム)やスクロールに興味がある。かなり高級品らしいが出来ればそれらを見て回りたいな。持っていないものや知らないものは実験用に買おうと思う。今後にも役に立つだろうし……それらを使った訓練をするのもいいかもしれないな……それから……」

 

 モモンガが今日の予定を考えていたその時……。

 

『ねぇねぇ?今何やってるの?こっちはね!魔樹のせいで荒れてた森に花を植えたんだー。虫も結構帰ってきててね!』

 

 モモンガの頭に突然《伝言》が届いた。

 相手はトブの大森林のピニスンだ。レベルが上がった際、魔法詠唱者としての才能があったのか、《伝言》を覚えたピニスンは暇なのか話し相手が欲しいのか頻繁に《伝言》を送ってくる。

 

『あーピニスンか?悪いが話はあとで……』

『あひゃ!ちょっと!くすぐったいよ!でね、ミミズも帰って来たから根っこがくすぐったくって、あはははは。えーっとなんだっけ……あ、そうだ。花がね……僕に花が咲いて……あ、ちょっとまっ……!』

 

 問答無用で《伝言》を解除する。彼女は放っておけばいつまでも話し続けるのだ。あんな場所で一人ぼっちならそれも仕方ないかもしれないが勘弁してほしい。

 

「いかがなされましたか?モモン様?」

「いやピニスンから《伝言》が来てな……」

「あの雑草からですか。まったく煩わしいですね」

 

 ナーベラルが眉間にしわを寄せながら吐き捨てる。

 

「もしかして……お前のところにも来るのか?」

「はい。ですが何度か話をした後は来なくなりましたね。ラナーやクライムにも来てましたが最近は来ないようです」

 

(……俺のところにはほぼ毎日《伝言》が来るんだけど)

 

 どうやら迷惑《伝言》は全員に行っていたようだが、結局話しやすいモモンガのみに絞られたらしい。

 眠れない夜中はモモンガも暇なのでいい暇つぶし相手になっているのだが昼間は控えるように言っておいた方がいいかもしれない。

 

「まぁアレにも土産を買っていってやるか……肥料とか苗とかがいいか?」

「あの雑草にモモンガ様からの下賜など必要ないかと思いますが……それが休むということなのですか?」

「それは……」

 

 どうなのだろう。

 ナーベラルにあらためて聞かれて考えてみる。

 現実世界では仕事から帰ってきてゲームの中で魔法道具などのアイテムを集めることは確かに休んでいると言えると思う。

 しかしこの世界で生きている自分たちにとっては?それはただの仕事の一環になってしまうのだろうか。

 

「もしよろしければモモンガ様の休日というのを見て参考にさせていただけないでしょうか」

「……ぇ」

 

 『ついてくるの?』とは言えなかった。

 特にナーベラルは本当の意味で休みというものを理解できていないように思える。

 そうであればモモンガが趣味を全開にして楽しんでいる様子を見ることは悪いことではない……と思う。もし意識が改善されれば儲けものだ。

 

「よし、いいだろう……この私が休日の楽しみ方というものを教えてやろう!」

「はっ!」

 

 モモンガは現在のブラック環境を改善するためだと気合を入れるとナーベラルたちを連れて街へと繰り出すのであった。

 

 

 

 

 

 

「主人これをくれ。それからこれもだな」

「え……そ、そんなにたくさんですか?」

 

 帝都にある高級魔法道具店、そこに現れたアダマンタイト級冒険者モモンから次々に入る注文に店員は目を丸くしていた。

 モモンガの選んだ品はこの店で特に性能の良い武具の上から順である。道具店の店主は一流の冒険者は一流の目利きもできるのかと畏怖を感じていた。

 

「えっとお代は金貨550枚になりますが……」

「そうか、これでいいか?」

 

 値切りもせずにモモンガは金貨の山をカウンターに置く。

 相手は帝国でも有名なアダマンタイト級冒険者。金の頓着などするはずもないと分かってはいるが、その堂々した佇まいは周りから見ても惚れ惚れとするものであった。

 もっともモモンガからすれば<全道具鑑定>の魔法を無詠唱で使って欲しいものを選んだだけなのだが……。

 

「あ、ありがとうございます!」

「ちなみにこれ以外にもっと高性能な武具はないのか?」

 

 モモンガレベルになるとこれらの武具は実用性はないもののコレクションとしては集める分には非常に楽しい。しかしより良いものがあればそれも見てみたいのがコレクターとしての性である。

 

「これ以上の物となりますと量産品ではなく一点物になりますので……そういった品はなかなか小売りされることはないのです。個人売買やオークションなどでの取引が主でして……」

 

 ユグドラシルにおいてもゲーム内の店に売っているような品で満足できるのは初級プレイヤーくらいだった。

 本当に有用なアイテムは結局自分の足で探すか、手に入れた他のプレイヤーと交渉して手に入れるしかなかった。

 昔を思い出し、店主の言葉に納得する。

 

「そのオークションに私も参加することは可能なのか?」

「もちろんでございます!もしよろしければ私どものお店で紹介状を書かせていただきますが……」

 

 話を聞くに参加者として紹介された場合、紹介料として落札金額の一部が店に入るらしい。

 金貨の山をポンと払ったことで信用を得たのだろう。モモンガはアダマンタイト級冒険者と言う看板に感謝する。

 

「そうか。ではお願いできるか?」

「はい!ちょうど今夜開催予定のものがありまして……通常では予約なしでの参加は不可能ですがアダマンタイト級冒険者の方でしたらきっと大丈夫です!」

 

 嬉しそうな店主の声にモモンガもまだ見ぬ未知の魔法道具を脳裏に浮かべ期待を募らせる。

 

 

 

 

 

 

 夜まで他の店を回って買い物を続けた後、早速オークション会場へと向かう。

 魔法道具店の店主の紹介もあり、ほぼフリーパスでオークションへの参加は認められた。

 

「10」

「20」

「25」

 

 会場では早速競りが行われているようだ。

 

「おおっ!あの武器はなんだ?曲刀か?ユグドラシルでは見たことがない形だし色もいいな……。魔法も付与しているようだし迷ったらとりあえず買っておけ、だな。100!」

 

 使うかどうかは置いておいてとりあえず買っておくという主義のモモンガは少しでも興味のあるものはすべて落札していくスタイルである。

 

「100、金貨100枚がでました!他におりませんか?おりませんね?ではこちらの商品は41番の方が落札されました!」

 

 帝都一の大きさを誇る商館の中に設けられたオークション会場。

 高級な衣服に身を包んだ貴族や大手商人たちが大勢参加している中で、アダマンタイト級冒険者であるモモンガはひと際目立つ存在である。

 部屋の中だというのに漆黒の全身鎧を着こみ、漆黒の髪の美女や子供や着ぐるみを引き連れているのだから言わずもがなだ。

 

 そんな周りの反応も今は気にならないようでモモンガは商品を落札したことを純粋に楽しんでおり、出品される商品を次々と落札していく。

 

「あとでじっくりと鑑定するのが楽しみだな……。またコレクションが増えるぞ……。ふふふっ、宝物殿があればいいのに……まぁないものはしかたない。だがどこかに飾る場所を作るのもいいな……」

 

 落札したものを今後どのように使うのか想像を膨らませて楽しんでいるモモンガと対照的に周りのオークション参加者たちは憎々し気にモモンガを見つめていた。

 

「くっ……またあいつか!どれだけ資金があるんだよ……」

「おい、あれって『漆黒』じゃないか?」

「アダマンタイトの!?それなら羽振りがいいのも納得だが……ほとんど全部持っていかれたぞ」

「なんと乱暴な……気品も何もない」

「なんであんな奴があれほどの美姫と一緒にいられるんだ」

「なんでも暴力で脅してチームに入れているとか……」

 

 リ・エスティーゼ王国での噂を聞いたのだろう。

 目当ての商品を手に入れられなかった貴族や商人が悪しざまにモモンガについて口にするが、その本人はそんな視線も気にせずに商品案内の冊子を見つめていた。

 

「次の絵画や壺はいらないな……俺ってセンスないし……。おっ、初探索の遺跡からの発掘品か!それにドワーフの工房製の武器……これは買いだな」

 

「120」

「125」

「150」

「くっ……155」

 

 そんな楽しいオークションであるが、ついに最後の商品が出品された。

 おおとりの注目の品というだけあり、今目の前で競われているのは非常に希少とされるドワーフ工房製の剣である。

 魔法の輝きを持った美しい造形をしており、美術品としての価値も桁違いの一品であろう。

 現在モモンガと競いあっているのは肉付きの良い髪の短い商人風の男であった。モモンガが高値を付ける度に粘ってきてなかなか勝負がつかない。

 

「200……ん?あの男の後ろにいるのは……」

「205!」

 

 よくよく見ると男の後ろに人間以外の種族が控えていた。

 人間の国であるバハルス帝国では非常に珍しい。兎の頭をした亜人のようであり、メイド服を着て可愛らしい仕草で商人の後ろに立っていた。

 

「あれはラビットマンですね」

 

 モモンガが知りたいと思った瞬間、後ろで見学していたラナーが教えてくれた。本当にこの幼女は知らないことなどないのかもしれないと感心させられる。

 

「ほぅ?あれは奴隷なのか?」

「いえ、奴隷には見えませんわ。首輪もしておりませんし……。雇っているのかもしれませんね」

「そうか。……ではぜひとも後で詳しく話を聞かなければな。300」

 

 亜人であれば仲間たちのことを知っている可能性もある。

 モモンガが兜の隙間から赤い眼光を送るとなぜかラビットマンは総毛を立てて逃げるようにその場を離れていった。

 

「……くっ」

 

 主人と思われる男もモモンガの提示額に諦めたのか、兎人族を追ってか、その場を離れていく。

 結局は本日の商品で魔法道具のほとんどはモモンガが落札するという結果に終わった。

 

 

 

 

 

 

 オークション会場に設けられたVIP用の控室。そこで肉付きの良い商人……オスクは護衛のラビットマンを問い詰めていた。

 

「おい、護衛対象を置いていくとはどういうことだ!首狩り兎!」

「無事だったんだからいいんじゃないか?」

 

 雇われているとは思えない言葉づかいでオスクの護衛である首狩り兎は可愛らしく首を傾げる。

 服装も仕草も女性そのものであるがこの首狩り兎、実は男である。

 こんな格好をしているが元暗殺者であり、非常に腕が立つということでオスクが高額の報酬で護衛として雇っている。

 相手を油断させるためなどと言っているがオスクは趣味も入っているのではないかと疑っているが、今はそんなことより護衛を放棄したことを問い詰めるのが先である。

 

「こんなことは初めてだろう。どうしたんだ一体」

「それは……」

 

 首狩り兎がオスクの問いに答えようとしたその時……。

 

「ちょっと話を聞かせてもらえるか?」

「なっ!?」

 

 首狩り兎は全身に鳥肌を浮かべながら振り返る。いつの間にか背後を取られていた。こんなことは首狩り兎にとって初めてだった。

 固まって動かなくなっている首狩り兎の代わりにオスクが訪問者へと向き合う。

 首狩り兎の後ろを取りVIPルームへと入って来たのは先ほどまでオークションを競い合っていたアダマンタイト級冒険者モモンであった。

 

「お前はさっきの……ごほんっ。私たちに何か御用ですか?オークションのことで何か話でも?」

「ん?オークション?ああ、あれは……ふふふっ、久しぶりに満足させてもらった。初めまして、私の名はモモンと言うものだ」

 

 名乗らずともここ最近破竹の勢いで大活躍を続けている漆黒の鎧のアダマンタイト級冒険者を知らない者は帝都にはいないだろう。

 ナーベと言う仲間と共に活躍する英雄である。

 正直英雄や強者に憧れがあるオスクとしてはお近づきになりたい相手ではあるが今はオークションで競い負けた悔しさの方が先に立っていた。

 

「欲しいものを全部落札できればそれは楽しいでしょうね……。私はオスクと申します。ところで……最後のドワーフの武具だが……その……譲ってくれないだろうか。ドワーフはめったに帝都に取引に来ない。ここで逃せばもう二度と手に入らないかもしれないのですよ」

「……断る」

 

 駄目もとで交渉してみるが即座に断られる。しかしオスクもそれは予測済みだ。こうした交渉には手慣れていると言ってもいい。

 

「では金は倍額を払おうじゃないですか。あなたのおかげでこちらは欲しいものが一つも手に入らなかったのです。一つくらいは譲ってくれてもよろしいのでは?」

 

 オスクは商人らしく本心を笑顔で隠して交渉を始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 倍の金額という言葉にモモンガの内心は揺れていた。それだけの金があればまた別のものが買えると……。

 

 正直に言って今回の買い物はコレクション魂による衝動買いであり、どうしてもそれが欲しいというわけでもない。

 そしてあれだけ持っていたモモンガの所持金だが、それも現在尽きかけていた。

 まるで給料日前だというのに追加された課金アイテムで散財した時のようだ。こう言った事は後になって後悔するものだ。

 しかし、モモンガはオスクの申し出に一つの疑問が頭をよぎる。

 

「コレクターにとって欲しい欲しくないは金の問題ではないと思うのだが……。2倍も払える資金があるのならなぜあの時入札しなかったのだ?」

「……それでもあなたは上乗せしたでしょう」

「まぁ……そうだな」

 

 コレクターはコレクターを知る。オスクは直感的に分かっていたのだろう。こいつは絶対に落札するまで値を吊り上げ続けると……。

 その場合、モモンガは支払い不能で破産、またはナーベラルたちから借金する必要があっただろうが……。

 

「そうだな……そこのメイド君」

 

 金銭的に乏しいモモンガは心の内では譲ることを考えているが、折角なので条件を付けることにする。

 

「……ん?」

「もし君が私の質問に答えてくれたらその値で譲ろうじゃないか」

 

 金が欲しいというのもあるが、この亜人から情報を聞き出すのが最優先であろう。丁度良いとばかりにモモンガは条件を付け加えた。

 

「……どういうこと?」

 

 首狩り兎は動揺から立ち直ったのか、再び可愛らしい仕草で首を傾げている。

 オスクがメイドに目配せをしている。言わずともわかる『はいと言え、そして商品を譲ってもらえ』だろう。

 

「私はこの国で亜人というものは奴隷以外にはいないと思っていた。しかし君は奴隷ではないようだ。いったいどういった立場なんだ?」

「ああ、そういうことですか。彼……いや、彼女は私に専属で私に雇われているから何も言われることはないのですよ。まぁ珍しいのは認めますがね」

 

 事実首狩り兎は暗殺者として雇われており、奇異の目で見られることはあるが一人にしても平気なほどの強さを持っている。

 

「この国は過ごしやすいか?迫害されたりしないのか?」

「差別はされる。驚かれる。住みやすくはないが迫害はされない」

 

 最低限の言葉で答える首狩り兎。 

 もし下手に手を出そうものなら返り討ちにあうのだろう。迫害しようとした者がいたら逆に命がなくなるかもしれない。

 

「種族はラビットマンであっているのか?どのあたりに住んでいる?」

「種族はラビットマン。大陸の南方」

「なるほど、そのあたりは過ごしやすいのかね?」

「厳しい土地。帝都の方がいい」

「アインズ・ウール・ゴウンやナザリックという言葉に聞き覚えはないか?」

「ない」

 

 残念ながら今回も仲間たちとの情報には繋がらなかった。モモンガは少し落胆するも金が増えることには違いないと気持ちを切り替える。

 

「そうか。いろいろと教えてくれて感謝する。では、この剣はあなたに譲るとしよう」

「おお……」

 

 モモンガから渡されたドワーフの魔法剣を渡されるとオスクは早速鞘を抜いてその刀身の輝きにうっとりとした表情になった。

 同じコレクターとしてその気持ちはモモンガにはよく分かる。

 新しく手に入れたアイテムはじっくり鑑賞してその用途や制作方法や背景について時間をかけて想像を巡らせて楽しむものだ。

 モモンガは手早く金貨を受け取ると一人でじっくりとコレクションを楽しみたいだろう同好の志(オスク)への気遣いとしてその場を足早に去るのだった。

 

 

 

 

 

 

「で、どうして逃げたんだ?」

「今更?まったく……どれだけ前の話してるの?」

 

 オスクは手にした剣を小一時間も見つめ続けてふけっていた妄想からやっと帰って来たところだ。

 首狩り兎の発言ももっともだろう。

 護衛を放棄して逃げたことなどとっくに忘れていてもいいだろうと思っていたがそうはいかないらしい。

 

「それでどうしてなんだ?」

「……あれは超級にヤバい」

 

 首狩り兎はあの漆黒の鎧と目が合った瞬間を思い出して身震いをする。

 

「あの漆黒の男か?確かにアダマンタイト級冒険者であるし、ただ者ではない雰囲気だったが……それほどの強者の気配を感じたのか?」

「逆。まったく強さを感じなかった。でもそれでもヤバい。見つめられた瞬間死が襲って来たかと思った。それにあの黒髪の女、あれも超級にヤバい」

「なるほど……アダマンタイト級冒険者『漆黒』か……。お前が超級にヤバいと評価する人間が二人もいるとはな」

 

 この首狩り兎は暗殺者として最高位の存在である。それが自分では敵わないと認めているのだ。想像を超える強さを持っているのだろう。

 

「あんな人間をプロデュース出来たら最高なんだがな……」

 

 オスクには夢があった。

 自分が戦えない代わりにこういった武具を使って闘技場で戦ってくれる戦士を育て、プロデュースし、そして帝国随一となるという夢が。

 

「二人じゃない四人」

「は?」

「あの子供二人も超級にヤバかった」

「まさか……」

 

 そんなことはないだろうと言いたかったが、首狩り兎が嘘をつくとも考えられられない。あの二人がそこまでに育て上げたということだろうか。

 

「羨ましいな……」

「ん、どういうこと?」

「私のプロデュースしているやつらにはあれほどの強者はいないのだろう?」

 

 オスクの知りうる限りで首狩り兎が超級に強いといったのは先ほどの4人が初めてだ。そして彼は現在闘技場に出場している戦士にそこまでの評価はしてくれなかった。プロデューサーとしてこれほど悔しいことはない。

 

「いや……違うな。今いないなら私もこれから育てれば良いのではないか?どこかにあれらに匹敵するほどの才能を持つ者がいれば……」

 

 人間であっても人間でなくても構わない。オスクは強者を育て戦わせることが楽しいのだ。自分が戦えない分代わりに戦ってもらう。

 オスクはそんな未来を夢見るのだった。

 

 

 





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