モモンとナーベの冒険~10年前の世界で~   作:kirishima13

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第48話 第41回下僕会議

 モモンガが部屋で七転八倒することとなる夜。

 ナーベラルの部屋にはラナーとクライムが訪れていた。珍しくナーベラルが喜色を表しながら会議の開催を宣言する。

 

「今日は記念すべき41回目の会議です!」

 

 至高の存在である主人(モモンガ)の意を汲むために開かれているこの会議もついに40回台へと突入していた。

 しかしラナーはその言葉に首を傾げる。40回記念であれば分かるが41回記念とは何のことだろうか。

 

「記念すべき……ですか?」

「至高の御方々の人数は41人!同じ数であるこの数字はこの世界で最も尊い数と言えるわ!」

「なるほど!もしモモンガ様が世界を統一なされたら6大神などという有象無象の神を排して真なる神々の数として知らしめなければなりませんね!」

「もちろんです!モモンガ様たち至高の御方々を差し置いて神を自称しようなど無礼千万よ!」

 

 すでに3人の中ではモモンガは神認定されている。 

 モモンガがいたら大反対をするところであるが、残念ながらこの場にそれを止める者はいない。

 彼女たちの中でこの世界の神を入れ替えることが決定した瞬間である。

 

「今日の議題はモモンガ様が提案された『休日』というものについてよ。現在の時刻は20時31分30秒、モモンガ様が定められたあなたたちの就寝時間まで28分30秒しかありません。手短に進めましょう。モモンガ様は今日一日を通して私どもに休日とは何かを示していただいたのだけれど……あなたたちには何か分かった?」

 

 実際ナーベラルは今日一日モモンガと行動を共にしたが『休日』について真に理解できたかと言われれば否である。

 至高の存在のために働くことが喜びだというのに『自由にしてよい』と言われ、見本も見せてもらったらその理解には程遠かった。慙愧の念に耐えない。

 

「えっと……何かすっごいたくさん買い物してた!」

 

 無邪気にクライムが発言するが、ナーベラルはそれに頷く。

 確かにたくさん買い物をしていた。しかしそれはナーベラルでも分かることだ。どうやらクライムには期待できそうにない、とナーベラルはラナーに目を向ける。

 

「クライム、確かにそうだけれど……でもそれは表面上のことだけなのよ」

 

 やはりラナーには何らかの考えがあるようだ。

 しばらく一緒に過ごして分かっていることがある。ラナーの知識は主人(モモンガ)の役に立つということである。

 ナーベラルでは考えつかないようなことも理解している。ならばその知識を活用しない手はない。

 

「至高の御方たるモモンガ様のことです。そこに深淵なるお考えがあるのでしょう。ラナー、あなたにはそれが分かったというの?私の見たところ今後の旅に備えて武具やアイテムを買い集めているように見えたのだけれど……。」

「確かにどこにも休む要素がありませんでしたわ。私の考えなどモモン様の足元にも及びませんが……しかし、あれが『休日』だけを意味するとは思えません。おそらくモモン様はあのドワーフの商人を通して何かさせようと策謀されているのではないでしょうか?」

 

 ラナーをしてもモモンガの行動は理解の範疇外である。

 しかし予測することはできる。あの超高位たる存在がただ楽しむだけのために、その日のうちにオークションに赴くなどありえないだろう。

 しかも有り金をすべて使い果たすほどのペースでだ。それこそ狂的なまでのアイテムの収集癖でもない限りはありえない。

 ラナーにとってモモンガの行動は何らかの策謀としか思えなかった。

 

(これがただの何も考えていない愚か者だというのなら理解できますが……あの超常の存在たる御方がそんなはずがないですわね……)

 

 休みと言いつつ朝から晩まで武具やアイテムを買いあさるという行為に何らかの意味を見出すのは困難だ。

 もしラナーが本当に『休む』というのであれば部屋でのんびりお茶を飲んだり、買い物するにしてももっと時間をかけて楽しむだろう。

 

「ラナー。モモンガ様はドワーフを何かに利用しようとしているというの?」

「モモンガ様は今、安住の地やお仲間の情報を探しておられます。ですので今度はアゼルリシア山脈の探索へ向かうべく準備を整えていたのではないでしょうか?」

「なるほど……」

 

 ナーベラルの胸にラナーの言葉はストンと落ちて来た。

 至高の存在たるモモンガ様が動くのであれば常人では計り知れない狙いや策謀があって然るべきであり、ラナーの考えに納得がいく。

 

「ドワーフ国の位置情報は私も持っておりません。ですのであのドワーフの商品を買い占めたことでつながりを作ったのではないでしょうか?」

「だとするとモモンガ様が進むべき道を示してくださったということ……ね。分かったわ!休日の使い方としては明日1日を使ってそのドワーフを生け捕りにしましょう!」

 

 モモンガの配下として主人に先んじて雑務をこなすことは当然の行いである。

 ドワーフが必要であるというのであれば無理やりにでも捕らえて情報を吐かせる必要がある。

 

「……生け捕りはともかくとして交渉期間として明日1日使ってでも連れてくるべきですね」

「それが休日ってやつなの?わん」

 

 クライムも休日という概念については知らない。

 しかしラナーのためになるのならと真剣に話は聞いていた。そんな飼い主の顔を伺うようなクライムのトドにラナーは相好を崩す。

 

「そうだと思いますがナーベ様いかがでしょうか?」

「分かりました、結論をいいます。モモンガ様は我々に道を示してくださいました。『休日』とは次の任務のための準備期間のことなのでしょう。1日たりとも無駄にせずモモンガ様や至高の御方々のために尽くす時間、それこそが休日と言うものなのです!」

「はい!明日は1日有効に休日を使いますわ」

「わん!」

 

 モモンガの下僕3人は目の奥に炎を宿らせ、初めての休日を迎えようとしていた。

 

 

 


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