モモンとナーベの冒険~10年前の世界で~   作:kirishima13

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第4話 目指すは虫けらの街

 私の名前はナーベラル・ガンマ。

 現在はモモンガ様とともに冒険者ナーベとして王都リ・エスティーゼへ侵入を果たしている。

 

 虫けらの街へ向かうに当たってモモンガ様は我々の名前を変えることになされた。他のプレイヤー達を警戒してのアンダーカバーとして動くとのことだ。そこで新たに賜ったのが冒険者ナーベという名前だ。モモンガ様はモモン様と名乗るらしい。

 本心を言えば虫けらたちなど気にせずに皆殺しにしてしまえばよいと思う。先日もモモンガ様との逢瀬を邪魔され、怒りに任せて虫けらを殺そうとしたのだがモモンガ様は虫けらにさえ温情を与える慈悲深き御方。

 あの虫けらを許してしまわれた。なんと慈悲深いことだろう。

 

 しかしだからと言って虫けらごときがモモンガ様に近づくなどおこがましいにもほどがある。

 王都へ向かうことしばらくその入り口には鎧を着た虫けらがおり、街の中に入るとそこにもあそこにも虫けらだらけだ。

 

「美しい……貴族……いや、王族か?」

「どこの国の姫だ……?」

「いや、恰好からして冒険者……?」

「それにしても美しい……おい、ちょっと声かけてみろよ」

 

 虫けらたちが我々を見て(さえず)っている。この街には虫けらしかいないだろうか。きょろきょろと周りを見回していると一匹の虫けらが近づいてきた。

 

「君この街ははじめてかい?どこから来たの?もしよかったら俺が街を案内してやろうか?へへっ」

 

 酒臭い息を吐きかけながら私の体に触れようとする虫けら。それもモモンガ様から触れていたただいた胸に手を伸ばしてきた。万死に値する。

 魔法で焼き殺してやりたい衝動にかられるもモモンガ様から出来るだけ殺すなとの厳命を受けている身だ。

 モモンガ様の命令は絶対。そのため私は虫けらを相手にすることなく……。

 

 

 

 そのまま避けることなくその足を踏み潰した。

 

 

 

 ポキポキという心地の良い音がする。虫けらにしては上出来の踏み心地だろう。

 

「うぎゃああああああああ!あ、足がああああああああああああ」

 

 虫けらは転げまわりながら道の端で蹲る。それを見た他の虫けらどもも道を開けた。最初からそうしていればいいものを手間をかけさせてくれる。

 

「さぁ、モモンガ様。道が空いたようです。どうぞお通りください」

「あー、ナーベ。ちょーっとこっちに来ようか!」

 

 モモンガ様が私の手を引いて路地へと引っ張られる。何かご不快にするようなことでもしてしまったのだろうか。やはりあの程度の罰では生ぬるかっただろうか。

 

「ナーベ。私が何を言いたいか分かるか?」

 

 その声からは不満の様子を感じ取れる。やはり何か不手際を犯したのだろう。そこでモモンガ様からの命令を思い出す。『出来るだけ』殺さないように。なるほど……。

 

「モモンガ様。やはり今の虫けらは殺した方がよろしかったのですね!」

「違う!そうじゃない!聞かせてくれナーベ。なぜあの男の足をつぶした?それから私のことはモモンと呼ぶように」

「失礼しました、モモン様。あの虫けらですがモモン様の行く道をふさいでおりました」

「そ、それだけ?」

「いえ、それからこれはモモン様には取るに足らないことでしょうがあの男は私の胸に手を伸ばし触れようと……」

「なん……だと。そ、そうか。それはいけないな、うん、セクハラだものな。女性の胸を揉もうなど……まぁ殺したいというのもわからないでもない……その、すまなかったな」

 

 モモンガ様が頭を下げる。なんという恐れ多いことだろう。私の愚かな発言のせいでご自分のことと勘違いされてしまった。慌てて私は弁明する。

 

「そ、そのモモンガ様のことではありません!虫けらの分際で私の胸を触ろうとしたことが許せないのです!虫けらの分際で!」

「虫けら……胸を触る虫けら……くぅ……わ、分かったナーベ。まぁ、今のは仕方ない……仕方ないことだったな。次から気を付けよう。なっ?」

「はっ!かしこまりましたモモンガ様!」

「モモンな、ナーベラル。この格好の時は私のことはモモンと呼ぶように」

「はい!モモン様!」

「呼び捨てでいい。冒険者仲間なのに様付けはおかしいだろう」

「そ、そんな……至高の御方を呼び捨てにするなど恐れ多い」

 

 モモンガ様は我々NPCを創造された創造主の中でも頂点に位置される方。呼び捨てにするなど許されるはずがない。

 

「で、では……モモンさー……んと」

 

 唇を噛みしめながら代替案を提示する。これでも不敬にすぎるだろうが命令とあれば従わざるを得ない。そんな苦渋の決断だったのだが……。

 

「さんもいらん。モモンと呼べ」

「それは……不敬です!モモンガ様を仮の名とは言え呼び捨てにするなど出来るはずがありません」

「いいから。呼び捨てにしていいから」

 

 モモンガ様に決定を翻意していただくことは難しいようだ。

 そんなこと……至高の御方を呼び捨てにするなど姉妹たちはもとより守護者をはじめ創造された仲間たちが絶対に許すはずがない。

 絶対に許せない……。しかしそれが命令だとモモンガ様はおっしゃられている。

 

 モモンガ様の期待に応えられない不甲斐なさと悔しさに唇を噛みしめると目がかすんできた。それでも命令は命令だ……従わなければ……。モモンガ様を呼び捨てにしなければ……偉大なる御方を呼び捨てに……。

 震える声で命令を実行しようとするも……。

 

「ぐすっ……モ……モモ……」

「な、なぜ泣く!?泣くほど嫌なの!?」

「いえ!ご命令ならば!モ……モモ……うぐっ……」

「ナーベ!なんか顔がすごいことになってるから!女の子がしちゃダメな顔してるから!もういい!もうモモンさんでいいから!」

 

 不甲斐ない私が悪いのにモモンガ様は許してくださる。なんとお優しい方なのだろうか。

 

「はい!わかりました!モモンさー……ん」

「言い方ぁ……まぁいいか。さぁ、ナーベ冒険者組合に行くぞ」

 

 モモンガ様はこんな不甲斐ない私を許してくださった。本当に慈悲深い御方だ。こんな御方にお仕えできるなどなんと幸福なことなのだろうか。

 

「はいっ!」

 

 返事とともにモモンガ様の前へと回る。

 そう、立ちはだかる有象無象の虫けらどもを踏み潰すために。お任せくださいモモンガ様。モモンガ様の御身はこのナーベラルがお守りしてご覧にいれます。

 私は虫けらを蹴散らすべく虫けらの王都の中と歩みを進めた。

 

 


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