モモンとナーベの冒険~10年前の世界で~ 作:kirishima13
第49話 アゼルリシア山脈を目指して
モモンガの休日宣言から二日後。モモンガの休日は終わった。
完全に魔法道具集めという趣味に浸かり、その後の宿屋での出来事もあって散財してしまったが十分に満喫出来たといえるだろう。
一方、ナーベラルたちはというとモモンガに付いて来ていた一日目は別として、二日目には各々出かけていたのできっと良いリフレッシュになったのではないだろうかとモモンガは予想する。
上司として部下の福利厚生も用意できたのであれば僥倖だ。
休日も終わったことだし、そろそろ次の行き先でも決めて通常業務に戻ろうかと思っていたのだが……。
なぜか宿のロビーにドワーフの商人が連れて来られており、次の行き先がいつの間にかドワーフ国となっていた。
(……どうしてこうなった?)
モモンガとしては特にまだ次の行先など考えていなかった。そもそも一部回収できたものとは言え、趣味でと賠償金で散財してしまったのだ。
そのため、帝国で冒険者として依頼でも受けながら各地を回る程度に思っていたのだ。今目の前にある現実はまさに青天の霹靂である。
しかし、ナーベラルを含めた3人はまるで頼まれた仕事をやり遂げた新入社員のように目をキラキラさせて褒めてほしそうな顔をしていた。
(どうする? ……どうしたらいいんだ?私の考えと違うと言うのは簡単だが……)
「おぬしか、わしの持ってきた武具をすべて買ってくれたというのは。感謝するぞ」
何と答えたものか思案に暮れている中、話しかけてきたのは背が低くずんぐりむっくりした男。
顔の下半分が髭で覆われており胸の中ほどまで伸びている。ドワーフという種族だ。
この世界でも同じなのかは不明だが、ユグドラシルでは鉱山のある山に住み着いているとされる人族の一種であり、種族としては鍛冶スキルに大きな補正がかかり、ドワーフではないと取得できない
モモンガがオークションで手に入れたものはユグドラシルの魔法道具と比べると実用的な価値はないに等しい。
しかしこの世界においては上位に属するものだということは、様々な素材を手に入れられる可能性もある。
ならばドワーフの国に行ってみるのもいいのではないだろうか。何よりキラキラとした目で見つめてくる部下たちの期待を裏切るわけにもいかない。
「あ、ああ……私が落札させてもらった。冒険者をしているモモンという。よろしく頼む……それで……どう……なんだ?」
なんでドワーフの国に行くことになったのか、どうして彼はここにいるのか。
それを聞くわけにもいかないので曖昧な問いになってしまうのも仕方ないだろう。しかしその言葉をドワーフは道中への心配と取ったようで……。
「ああ、このお嬢さんから聞いておるぞ。ドワーフ国への案内なら任せてくれ。わしとしてもアダマンタイト級の冒険者が護衛についてくれるとなれば心強いわい」
どうやら護衛を引き受ける代わりに案内を頼んだらしい。
アダマンタイト級の冒険者への護衛依頼となれば破格の金額になる。ドワーフが喜んで引き受けたのも頷ける話だ。
「あー……聞きたいんだが、君の国にはもっといろいろと珍しい武具があったり、素材があったりするのか?」
「もちろんじゃ。わしらの国はかつて13英雄にも謳われたドワーフ王がおった国じゃからな。鉱物もミスリルにオリハルコン、アダマンタイトまで採れるわい。魔化の技術もあるからの」
挙げられたのはモモンガにとっては特に珍しくもない素材だが、技術面も含めるとコレクター魂を揺さぶられる。しかし残念ながらモモンガには先立つのものが乏しかった。
「そうか……それなら金を用意しておかなければならないが……」
モモンガは先の衝動買いを後悔する。
もしドワーフ国のことを知っていれば、卸先であるバハルス帝国で購入するより現地で購入した方がよほど安上がりだっただろう。
輸送の手間についてもモモンガであれば転移門で一瞬である。
(昔もこんなことあったけどなぁ……)
ユグドラシルにおいても衝動買いした後に、もっと安い値段で売っているところを見て後悔したことは数知れない。
モモンガが金について悩んでいるのを見かねてかドワーフの商人が提案をする。
「もし荷物に余裕があるのなら金よりも酒や肴を持って行った方が喜ばれるし得だと思うぞ」
「……酒!? 肴!?」
意外な言葉にモモンガの頭にクエスチョンが浮かぶ。それを見てドワーフの商人は笑いながら自分のカバンを開けて見せた。
「おう、ほれ見てみい」
ドワーフの商人が背中から降ろした大きなカバンには所せましと様々な酒や保存食が詰め込まれていた。
「ドワーフは酒に目がないでな。金より酒じゃ。帰るときには持てるだけ酒と肴を買っていくのよ。まぁ半分は帰る途中に飲んじまうんだがな、わはははははは。あんたも酒を向こうで換金した方がいい武具を手に入れられるだろうて」
「なるほどな……」
モモンガのインベントリであれば、ドワーフのカバンなど比較にならないほど大量に物が入る。
手持ちの金のすべてを酒や肴に替えてしまっても何も問題ないだろう。
モモンガは大いに頷くとドワーフの提案通り、出発前に大量の酒を買うべく帝都内を駆けまわるのだった。
♦
帝都を出て数週間。モモンガはドワーフ国への旅を満喫していた。
アゼルリシア山脈への道のりはうっそうとした森林地帯であり、そこにはモモンガの見たことのない植物やモンスターが多く生息している。
道中、モンスターが襲い掛かってくれば嬉々として撃退し、素材をはぎ取り、珍しい植物を見つければ採取して鑑定しては一喜一憂する。
未知を既知とするまさに冒険者としての冒険だ。
さらにドワーフ流の野営術。
鍛冶にも使われるという熱を発する鉱石を使った野営はとても興味深く新鮮であった。拠点作成アイテムを所持しているというのにほとんど野宿を続けるほどである。
「今日も野営するのか? あのすごい建物を出す魔道具でいいんでないかのぅ……」
当初拠点作成アイテムに目が飛び出るくらい驚いていたドワーフの商人であったが、今はもう慣れたものである。
寝心地の良いベッドの感触が忘れられないのかモモンガの方をチラチラと見て催促してくる。
「あと数日で到着してしまうのだろう? せっかくだからキャンプをもう少しだけ楽しんでだな……」
モモンガとしては、現実で出来なかったキャンプが純粋に楽しいので野宿を続けたかった。
食事を取ることは出来ないが川で水を汲んできて、火をおこし、食事の準備をするという作業は実験としても楽しい。
(俺が作るとなぜか消し炭になってしまうんだがな……。ナーベラルも同じだったがラナーとクライムは普通に料理が出来る……。料理スキルの有無でも関係しているのか……?)
疑問は尽きないが、今はキャンプを楽しむのが優先だ。
シートを木々に括り付けて簡易のテントを作ってゆく。魔法を使えば一瞬で終えてしまえることだが、人の手でやると実に味があった。
「おぬしが夜中騒がしいから個室でゆっくりしたいわい」
着々と準備を進めるモモンガに催促を諦めたのかドワーフの商人はため息を吐く。
「……それは悪かったな……まぁ確かにそれもそうか」
モモンガは基本夜の間、暇である。
そのため見張りと称して周りを散策したり、ピニスンと<伝言>でおしゃべりしたりしていたのだが少しうるさかったらしい。
それに疲労無効の能力のない彼にとって野宿は疲れるものなのだろう。
「仕方ないな……分かった。たまにはグリーンシークレットハウスで休むとしよう」
モモンガの言葉に喜色満面でキャンプの準備の片づけをするドワーフの商人とともに撤収を終える。
そしてモモンガはインベントリから拠点作成用の魔法道具<グリーンシークレットハウス>を取り出して設置し、皆で中に入ろうとした───その時……。
「なんだこりゃ……なんでこんなところに建物があるんだ?」
そこに現れたのはなぜか左腕だけが太く、屈強な肉体を持つ巨体のリザードマンだった。