モモンとナーベの冒険~10年前の世界で~   作:kirishima13

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第51話 アルハラの国

 リザードマンの新集落ではゼンベルの希望によりドラゴンタスクが住民に加わることとなった。

 族長たるゼンベルは新しい文化を面白がっており、その言葉は絶対だ。

 そんな彼らも嬉々として新しい技術を受け入れている。もともと仲間入りの希望は内部にあり不満も高まっていたらしい。

 

 そんなゼンベルは集落に戻るかと思い、モモンガ達は旅を再開するために《転移門》で元の場所に戻ってきたのだが……。

 

 

「お前はまだついて来るのだな……」

「おうよ!ドワーフ国ってのは行ったことはないからな!」

 

 旅人らしく旅を続けるらしい。

 確かに武者修行のために旅に出たというのに弱くなって帰ってきたら本末転倒だろう。主にモモンガのせいであるが……。

 

「ところでゼンベルは今までどのような国に行ってきたんだ?」

 

 ゼンベルの行ったところに興味もあるが、それよりも仲間たちの手がかりがあるかもしれないとの期待もある。

 

「そうだなぁ。フロッグマンの集落に……トロルの集落……。どっちも好戦的なやつらでよ、いい特訓になったぜ」

「それ以外は?人間の国には行ったりしていないのか?」

「ん?行ったぞ。でもよぉ……人間が一番狂暴だったぜ?話も聞かずにいきなり剣で斬りかかられたからな!」

 

 どうやら人間はエルフやドワーフは受け入れるがリザードマンは受け入れられないらしい。

 モモンガにはリザードマンだからと襲い掛かるその人間たちの気持ちはいまいち理解できないが、この世界ではそういうものだと諦めるしかないようだ。

 その後も色々と話を聞くも残念ながら仲間たちの情報はなかった。

 

 

 

 

 

 

「でよぉ……まだドワーフの国ってのにはつかないのか?」

「いやもうすぐじゃ。こんな早く着くとは思わんかったがの。やっと帰って来れたわ。いやぁ、帰ったらやっと酒が飲めるぞ」

 

 ドワーフの商人はそんなことを言っているがこれまでも野営の度に帝都で買ってきた酒をちびちびやっていたことをモモンガは知っている。

 それでも足りないということは、やはりドワーフが酒好きというのは間違いないようだ。

 

 帝都を出てすでに2週間ほどが経過している。

 ドワーフの商人の歩くペースに合わせたのとモモンガがのんびり野営を楽しんでいたせいではあるが、それでもドワーフの商人曰く、魔物から隠れながらの往路に比べて半分以下の旅程で到着したらしい。

 

 魔物を気にすることなく夜はベッド付きの家屋で眠れる旅は快適そのものであり、名残惜しいそうだ。

 

 商人の指を差す方向をよく見ると山の切れ目から中に空洞が続いていた。

 

「この洞窟の中にドワーフの王都があるのか?」

「いや、フェオ・ライゾという都市じゃ。王都はもっと離れたところにあったが100年以上前の魔神襲来でダメになってしまったわい。今はフロストドラゴンたちの巣窟と聞いておる。ここと他にフェオ・ジュラという都市があるだけじゃ」

「そちらの方がいい武具などが手に入ったりするか?」

「そうとも限らん。都市ごとに自慢の職人が腕を振るっておるからの。まずはフェオ・ライゾで見てからフェオ・ジュラに行ってみればいいじゃろう」

「それは……そうだな」

 

 正直ドワーフの都市に来たのはナーベラルたちが勝手に進めてしまったことなのだが、新たな素材や技術などを見てみたい気持ちはある。

 

 心配なのは資金だ。これについては酒が高く売れるのを期待するしかない。

 

 目の前に欲しいものがあるのに金がない場合、部下に借金をするという最悪の上司の汚名を被ることだろう。

 戦々恐々としながらモモンガは商人の後ろについて洞窟へと入っていく。

 

「……結構暗いな」

「そうか?土の種族であるわしらはこのくらい問題ないがの」

「まぁ私も問題はないが……」

 

 岩屋の割れ目から中に入ると壁がうっすらと光っていた。何らかの工夫で光量を確保しているのだろう。

 だがそれでも薄暗く、普通の人間は足元が危うくなるところだろうが暗視(ダークヴィジョン)のスキルを持っているモモンガには問題ない。

 

 モモンガはちらりとナーベラルたちを見る。

 

 暗視能力のない3人は辛いかもしれない。

 

「もし暗かったら指輪の一つをこれと交換しておくといい」

 

 モモンガは暗視効果の付与された指輪を3人へと渡す。

 

「お主そんな貴重な魔法道具(マジックアイテム)をポンポンいつもどこから出しておるんじゃ……?」

「ん?まぁインベントリ……いや、収納の出来る魔法道具のようなものだ」

「それは伝説の……まぁ、今更じゃな。そろそろ着くぞい」

 

 家を出したりしまったりすることに比べれば何でもないと思いなおしたのだろう。

 ドワーフの商人の案内に従ってしばらく洞窟を進むと広大な空間が現れた。

 

 ドワーフの地下都市である。

 

 そこは道はすべて石畳で舗装されており、地面が露出しているところは一つもない。 

 街に木々が全くない代わりに所々に見事な彫像がいくつも立っていた。

 

 一つの岩から削り出されたと思われるそれらは一つ一つがまるで本物のような躍動感があり、芸術を理解しないモモンガをしても一級品だと分かる。

 

 建物も人間の街とは全く異なり、木造の建物は皆無であり、どれも岩を組み合わせたり、くりぬいたりして作られた無骨なものが多い。

 

 しかし扉などは見事な金属細工が施されており、窓も色とりどりのガラスで町全体が色彩を強調するような工夫がなされていた。

 自然の美しさとは違う、自然では決して超えられない人工ならではの美しさがそこにあった。

 

 

 モモンガは街の造りを見て感動を覚える。

 

 ナザリック地下大墳墓も地下の遺跡を改造して作ったものだが、それはあくまでもシステムを利用したものだ。

 だがここは1から素材を切り出し、一つ一つ人の手で作ったのだろう。手作りならではのナザリックとは違う独特の趣がそこにはあった。

 

「これは素晴らしいな!で、まずは入国の手続きがあればしたいのだがそこまでの案内も頼めるか?」

 

 ドワーフの商人と一緒に来たもののビザもパスポートも持っていない。別れるにしても入国の許可をもらわないわけにはいかないだろう。

 

「それならこっちじゃ」

 

 移動しながら聞いた商人の話によるとドワーフ国には王都があった頃には国王がいたらしい。

 だが王が亡くなり、それを継ぐ世継ぎもいなかったため、現在は各部門ごとの代表が集まった摂政会で国の方針を決めている。

 

 商業組合長がその摂政会の一員であるということでまずはそこへ紹介してくれるということになった。

 アポイントなしで当日訪れていいのかと疑問に思うが、ドワーフとはあまり身分を気にしない大らかな種族なのかもしれない。

 

「組合長!客を連れて来たぞ!」

 

 扉の前で大声で叫び、扉が壊れるのではないかという勢いで扉を叩く。そんな叩き方でいいのかと思っていると中から怒鳴り声が返ってきた。

 

「やかましい!そんなに叩かんでも聞こえとるわい!」

 

 文化の違いかと思っていたがやはりうるさかったようだ。

 中から赤ら顔のドワーフが顔を出すが、その顔は怒りに染まってはいなかった。微妙に酒臭いところを見ると怒っているのではなく昼間から飲んでいたのだろう。

 

「わはは、まだ耄碌しておらんかったか」

「なんじゃお前か。随分早く帰ってきたのう。じゃが無事に帰ってきて安心したわい。それでわしらの武具は売れたのか?」

「おうともさ、商品の売り上げならほれ!」

 

 先ほどの無礼など気にすることなく肩を叩き合うと商人は自慢げにカバンをパンと叩き、中身を組合長へと見せる。

 そこにはカバンいっぱいに購入した帝都の酒などが入っていた。

 

「おほっ、よし!早速わしに売ってくれ!」

「客がいると言っておるだろう」

「……客?そちらのおぬしら……変な格好をしておるのう」

「おう、帝都から護衛をしてもらった冒険者じゃ。かなりの手練れじゃぞ」

 

 変な格好とはこれまた無礼な発言であるが、目の前の顔ぶれを見ればやむを得ない。

 

 ドワーフの商人の後ろにはドワーフの倍ほどもある漆黒の全身鎧を着た巨漢。

 黒髪の人間に、赤い頭巾をかぶった幼女。

 そして獣の皮に身を包んだ童子に屈強な体をしたリザードマン。

 

 なんだこの取り合わせはと組合長が驚くのも無理はないだろう。

 

「おぬしらは帝都の人間なのか?いや、人間でないのも交じっておるようじゃが……」

「お初にお目にかかる。私は冒険者のモモンと言う。こちらは仲間のナーベ、ラナー、クライムだ。こちらで作られた武具に感銘を受けてな。ここまでついてきたというわけだ」

「わしらの商品を買ってくれたお得意さんじゃ!」

「これはあいさつ代わりだ。受け取ってくれ」

 

 インベントリからそれを取り出す時、『つまらないものですが』と言いかけるがモモンガはすんでのところで我慢する。

 実際ビジネスマナーとして『つまらないもの』という表現はNGではないが曲解されがちだ。言わないで置くのが無難だろう。

 

「おい、それはわしも知らない酒なんじゃが……」

 

 ドワーフの商人は見たこともない酒が差し出されたことに目を見張る。

 目を見張るような意匠を凝らした瓶には青く透き通るような色の液体が入っていた。

 

「それはそうだ。ここで帝都で買える程度の酒を渡してもな……。私の持っていた酒で良さそうなものを出させてもらった」

 

 会社の同僚への土産なら旅行先で買った安物の菓子で十分だろうが、取引先に持っていくのにそんなものを手渡す人間はいないだろう。

 

 モモンガがテーブルに置いたのはユグドラシル産のアイテムである。

 

 ユグドラシルにおける酒類は調合の材料としても用いるが、単独で使用すれば凍結ダメージ軽減などの効果があり、飲みすぎると酩酊状態や視界や操作性が悪くなるという特徴がある。

 

 今出した酒はレアアイテムではないが度数が90度を超えると設定されている。

 強い酒を好むドワーフには喜ばれるのではと考えたのだが……。

 

「よし!それじゃ早速一杯行くかのう!おまえはもう帰ってもいいぞ!」

「ふざけるな!わしの連れてきた客だぞ!わしにも飲ませんかい!」

 

 どうやら手土産の酒をその場で飲むらしい。

 だが、モモンガとしては酒を勧められても飲むことが出来ないのでこの場は残念ながら撤退するしかない。

 ビジネスマナーとしてはここで一緒に飲むことも悪くはないのだがこのアンデッドの体が恨めしい。

 

「それは二人でゆっくり飲んでくれ。私は商業組合で取引でもしてくるとしよう」

「待て待て客人!酒だけもらって手ぶらで返せるかい!わしの秘蔵の酒を出してやるから飲んでいけ!」

 

 案の定酒を勧められる。

 ごそごそと奥から壺に入った酒を持ってくる商業組合長。

 

 モモンガとしてはドワーフがどのような酒を造るのか非常に興味深い。

 それは麦から作るのか、それとも果物から作るのか、このあたりで取れる原料はなんなのか。

 モモンガの興味は尽きないが残念ながらアンデッドの体がそれを許さない。ここは正直に答えるしかない。

 

「すまない……私は酒が飲めないんだ」

 

 酒どころか水を飲むことさえできない体なのだがそこまで言う必要はないだろう。

 

「なんじゃと!わしの酒が飲めんというのか!」

 

 そのかつて会社員の時に言われたセリフに懐かしさを覚える。

 

「まったく酒が飲めんなんて、それは人生の9割を損しているようなもんじゃぞ!」

 

 そんな事を言われてもモモンガが酒を飲めば全部顎の下から零れ落ちて地面の養分となるだけだ。9割どころか全損である。

 

「飲めんものは仕方ないが……これから取引で酒を渡すんじゃろう?どこでも返杯されるはずじゃ。それを全部断っておったらあまり信用されんぞ?」

「そうじゃそうじゃ。飲まず嫌いかもしれんじゃろう。ドワーフの酒は口から火が出るくらいうまいぞ。飲んでみい」

 

(……それってアルハラでは?)

 

 アルコールハラスメントで無理やり酒を飲ませることはれっきとした犯罪だ。

 しかし、そんなことを言うわけにもいかず奥から酒壺を持ってきた商業組合長がグラスになみなみと注いでドワーフの酒を渡してきた。

 

 モモンガは会社の飲み会に無理やり連れだされたときを思い出す。あの時もたいして強くもない酒を無理やり飲まされたものだ、早く帰ってユグドラシルをやりかったというのに……。

 

(あの時も『乾杯は杯を乾かすという意味だ』とか言って無理やり飲まされたんだよなぁ……)

 

 結局無理やり酒を勧める上司に逆らうわけにもいかず二日酔いになるものは当時でも後を絶たなかった。

 

「しかしだな……」

 

 香しい匂いの琥珀色の液体を見ながらモモンガは考える。

 無理やり飲ませるのは言語道断だとは思うが飲みニケーションは人と交流するうえで有効なことは間違いない。

 

 酒好きのドワーフと付き合っていくには必須スキルと言えるだろう。なので彼らと酒を酌み交わすことは必要だとは思う……が……しかし、誰がそれをやるというのか。

 

 まずモモンガは飲むことが物理的に不可能なので論外だ。

 ラナーとクライムは未成年である。魔法道具を使えば効果で酔わないかもしれないが未成年の彼らに後でどんな悪影響があるか分からない。この世界の飲酒可能年齢は分からないが飲ませるわけにはいかないだろう。

 

 ちらりとナーベラルを見る。

 彼女は二十歳を超えているのだろうか。設定を思い出すが年齢のことまで思い出せない。

 そもそも二重の影(ドッペルゲンガー)なので年齢も関係ないと言えば関係ない。何より飲んでもモモンガのように下から駄々洩れということにはならないだろう。

 

「私の出番ですね?モモンガ様」

 

 ちらちらと見ていたモモンガの視線に気づいたのかナーベラルが自身に満ちた表情で颯爽と前に出る。

 

「……いけるのか!?ナーベラル!」

「お任せください!ナザリックの名に恥じない働きをしてご覧に入れます!」

 

 ナーベラルはモモンガへ差し出されたグラスを持ち上げると一気にあおる。

 その凛とした表情は酔いや気分の悪さなどは感じられない。

 

「ほう!あんたはいける口かい!」

「ふんっ、まぁまぁの味ね」

 

 人間に厳しいナーベラルがまぁまぁと評価するのであれば酒として相当の上物なのだろう。飲めない自分の体が本当に恨めしい。

 ナーベラルの飲みっぷりに満足したのか商業組合長の相好が崩れる。

 

「今度はそっちの番よ」

「おうとも。おお……こいつは綺麗な色をしてるな……この酒はどうやって作ったんだ?」

 

 モモンガが渡した酒瓶を開けグラスに注ぐと綺麗なコバルトブルーの液体がグラスを満たす。

 

「よく分からないがヘルヘイム産の何かの草から作っていたはずだ……」

 

 そもそもモモンガには生産系能力がなく、アンデッドであるがゆえに飲食によるバフ効果が発生しないのでそのあたりの原材料はうろ覚えだ。

 

「とりあえずいただくぞ。……かぁあああああああああああ!!」

 

 一口飲んでそのあまりの度数に商業組合長は叫び声をあげる。口から火が出るほどの度数に体がカッと熱くなるがそれだけではない。

 口の中に芳醇な香りと爽やかな甘さが広がる。さらには何故か体の中から力が湧き上がるような気までしてくる。酒精も強く頭がクラクラしてくるくらいだった。

 様々な酒を嗜んできた商業組合長をしてこのような酒は今まで一度も飲んだことはない。

 

「どれわしもいただくぞい。かぁ!こりゃすごい酒じゃわい。魂が揺さぶられるというかのう。かなりキツい酒じゃが……しかしうまい!」

「ふふんっ」

 

 モモンガの酒が褒められて嬉しいのだろう。ポニーテールを揺らしながらナーベラルもグラスに注いでそれを一気に胃に落とす。

 

「あ……おいおい、それ一気にいくんかい!?」

「すごい姉ちゃんじゃわい。相当酒に強いんじゃのう」

 

 ドワーフでさえ強いと感じる酒を一気に煽るナーベラルのグラスにドワーフたちは嬉しそうに酒を注いでいく。

 どうやらここはナーベラルに任せてもよさそうだ。

 

「では私は商業組合へ行ってくる。ナーベ、ここは任せてもいいな?」

「はっ!すべてこの私にお任せください!」

「そうか。よし、ナーベ。ナザリックの威を示すがいい」

 

 モモンガの言葉にナーベラルの瞳に火が宿る。

 その様子に一抹の不安を覚えるが、ドッペルゲンガーは毒物無効なのだし酒を飲んで死ぬということはないだろう。

 モモンガはナーベラルを商業組合長の家に置き、商業組合へと向かうのだった。

 

 

 

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