モモンとナーベの冒険~10年前の世界で~ 作:kirishima13
モモンガは商人から紹介された商業組合前へと来ていた。石造りの比較的大きな建物で周りには出入りしているドワーフが多いようだ。
よそ者が珍しいのかジロジロと見られるがその瞳に敵意のようなものがない。どうやらリ・エスティーゼ王国のように貴族だからどうこうという者達はいないらしい。
なお、ナーベラルはドワーフと飲みニケーション中であり、子供たちは宿屋に置いてきた。二人で市内の散策をするらしい。
ゼンベルは武術の道場があると聞いて道場破りをすると行ってしまった。旅人と言っていたがやっていることは未知を既知とする冒険者のようだ。
モモンガ自身もドワーフの商業組合にどのような商品が並んでいるのか期待に胸が膨らむ。未知のものであり少々の不安と多くの期待を持ちながらその扉を開けた。
「いらっしゃい」
中には大きな受付カウンターがあり顎髭がないドワーフが座っていた。
やや天井が低いことやカウンターが金属製か木製かといった違いはあるが人間の建物とそう大きな差はないように思える。
座っているドワーフは恐らく女性だろう……と見当をつける。女性でもひげが生えているので顎髭のありなしで男女を見分けるしかないと聞いた。
「すまない、お嬢さん。私は商業組合長の紹介で来たモモンというのだが……」
「ああ、あんたが噂になってた客人だね。いらっしゃいお客さん。商業組合にようこそ。一杯どうだい?」
どうやら紹介以前にモモンガたちは噂になっていたらしい。詳しく聞くとドワーフの商人が知り合いに話して回っており、人の来訪などめったにないとういうことで興味を持たれているようだ。
(しかし、挨拶代わりに酒を勧めてくるのはどうにかならないのか……)
「いや、遠慮しておこう。ここで商品の売り買いが出来ると聞いたのだが、こちらの品を出させてもらってもいいか?」
「はいよ。買取だね。随分酒を買い込んでいたって聞いてるよ」
どんな噂をされていたのかと思っていたが酒の話だったらしい。目が酒を売れと物語っている。
「……良ければ売ったお金で魔法道具なども買い取らせてほしいのだが?」
「じゃああとでまとめて清算させてもらおうかね、それより酒はあるのかい?」
「……分かった」
ここではすべてに酒が優先されるらしい。
モモンガはインベントリから帝都で購入してきた酒を取り出すとカウンターに順番に並べていく。
麦酒に葡萄酒、果実酒や芋酒など次々に並べるとすぐにカウンターがいっぱいになってしまった。
「ちょ、ちょっと!こんなにたくさんあんたどこから出してるんだい!?」
「ん?インベントリ……んんっ
「魔法の鞄!?」
魔法の鞄とは中の空間を拡張する魔法付与がされた鞄であり、商人としては垂涎の逸品である。
これから商売を広げていこうとするドワーフ国としては喉から手が出るほど欲しいものだ。
「そ、それを売ってもらうわけにはいかないのかい!?」
とてつもない勢いで顔を寄せてくる。
魔法の鞄というものはドワーフ国でもまだ開発されていない貴重なものであるらしい。
「すまないが私も一つしか持っていない。それにどこで作られたかもしらないんだ」
「そ、そうかい、残念だねぇ……」
インベントリを渡すことはできないし、無限の背負い袋も誰彼構わず渡すのは不味いだろう。
モモンガは適当に誤魔化して酒の売買へと話を戻し、ドワーフはモモンガが取り出す酒類や野菜類に値付けを行い交渉を進めた。
「本当にどれだけ入ってるんだい……。その鞄は……って!こ、これは!?」
ドワーフはモモンガが最後に取り出したものに目を見張った。それはピニスンからもらった果物類だ。
バナナのようなものにマンゴーのようなもの、ココナツのようなもの等様々である。『ようなもの』というのはモモンガが食べられないので本当に味が同じなのか保証が出来ないからだ。
モモンガとしてはまったく使い道がなかったのだが、ラナーがぜひ持っていくべきだと言っていたので出してみたのだが……。
「すまないが鑑定させてもらってもいいかい?」
「別にいいが……それがどうかしたのか?」
ピニスンの果物は見たところ大きめの果物類のようにしか見えない。
クライムたちは美味しそうに食べていたがモモンガは食べられないので特に気にもしていなかった。
「<
モモンガの質問に答えることなくドワーフは魔法を発動する。そしてその表情の変化は顕著だった。
「ほぅ……これは甘い果物のようだね……」
「どうした?気になるな……では私も……<
鑑定魔法で果物の何が分かるというのだろうか。
ドワーフの嬉しそうな様子に興味が出たモモンガも鑑定を試みる。
「むっ……?糖分の割合のような……糖度というやつか……?」
頭の中に果物に関する情報が入ってくるが、だから何だというのだろうか。特にバフの効果があるというわけでもない。
(まぁ甘い果物の方が美味しいから喜んでいるのか?)
「これはいいね!十分酒の素材になるよ!」
「……そっち!?」
どうやらそのまま食べるという発想はないらしい。
確かに糖分のあるものはたいていが酒の原料にはなる。買い取るというのであれば何に使われようがいいのだが、釈然としないものを感じる。
「じゃあ、全部合わせてこのくらいの金額でどうだい?」
ドワーフから提示されたのはモモンガが予想していた金額を遥かに超えるものだった。金欠の今これは本当にありがたい。思わず心の中でガッツポーズをする。
ついでに出した果物類が帝都で買い付けた酒類すべてより高額というのにいささか納得いかないが、これだけあれば十分にドワーフ製の魔法道具購入の資金となりえるだろう。
(今度ピニスンに頼んでいくらかもぎ取ってくるか……)
「分かった。では次は君たちの商品を見せてくれるか?<
「あいよ。じゃあ、まずは目録を見て選んでくれるかい?」
ドワーフが分厚い本を持ってくるとモモンガの前で開く。ドワーフの文字は読めないため翻訳のモノクルをかけて順番に中を確認していく。
「火属性付与の魔化された剣に麻痺の状態異常耐性向上の指輪……それから……」
モモンガは興味を覚えた魔法道具を次から次へと物色していく。たとえ使い道がなくてもコレクションとして十分に価値がある。
機嫌よくページを捲りながら注文をしているとモモンガも知らない金属名の武具が書かれていた。
「……この金属はアダマンタイトより硬いのか?どういった効果がある?どこで採掘できるんだ?」
この都市まで連れてきてくれたドワーフの話ではここでの最高の金属はアダマンタイトだという話だった。しかし、さらに高度な金属があるのであれば是非コレクションに加えたい。
「それは単体の金属を魔化したものじゃないよ。金属の配合を変えた合金製のものさ。硬さはやや劣るけど柔軟性があって壊れにくく強靭で長持ちする」
「ほほぅ?」
モモンガは彼女が語る金属の説明に目を輝かせる。
現実でも金属単体ではなく炭素などを加えて性質を変えていた。金属とは硬ければ硬いほど割れやすくなる。線ではなく点の構造にすれば粘性が出て割れないというが合金とすることでより強靭にする技術の一つなのだろう。
「なかなかに面白い。もし注文すればここに書かれた合金製の商品はすべて作れるのか?」
「どれだい?ああ……そこに書かれてるものは昔……それこそドワーフ王が健在であったころならば可能だったもしれないものさ。けど今は素材がほとんどないから難しいかもね……」
「……希少金属の鉱山でも枯れたのか?」
何を混ぜた合金なのかは分からないがそれがもし七色鉱などの希少金属であればこの鉱山全体を調査してみる必要があるだろう。
「いや、当時でも採れる金属は今と同じだったはずだよ。技術は随分失われたけどね……それより金属以外の素材が不足しているんだよ。このあたりも少し物騒になったからね」
「……物騒?」
「クアゴアだよ……」
「クアゴア?」
「あたしらドワーフの天敵のような亜人さ。あたしらと同じ地下に住む土の種族で問答無用で襲ってくるんだ。まぁこっちも見かけたら倒してるから同じだけどね」
敵対種族が近くにいたのではおいそれと採取にもいけないというのは納得のいく話だ。しかし諦めきれないのがコレクターのつらいところ。
「それで素材があまり採れないのか? 例えばどのような素材が必要なんだ?」
「ちょっとこれを見てもらえるかい?」
ドワーフが奥の棚から大事そうに持ってきたのはアダマンタイトと思われる非常に頑丈そうな錠が掛けられた箱だった。ガチャリと鍵を開けた中をモモンガは覗き込む。
中にはキラキラと七色に輝く小さな欠片が入っていたが、よく見ると金属ではないようだ。
「これは……?鱗か?」
「ドラゴンの鱗だよ」
「ほぅ!?ドラゴン!」
「こういった上位種族の素体は金属に混ぜて魔化すると特殊な変化をするからね。これはかつてドラゴンの死体を見つけた時に手に入れたものだけど……今はそれも難しくなってしまってね……」
ドワーフ国ではアダマンタイト以上の金属は手に入らない。そこで登場するのが他の触媒になるのだが、その中でもドラゴンの素材は貴重である。
彼らにはドラゴンを倒すなどは不可能であるし、たまたま落ちているドラゴンの鱗や死体を探すのが関の山だ。
しかしそんなドラゴンも今ではドワーフの王都をねぐらとしてめったに外に出てこなくなってしまった。偶然死体を手に入れるという機会もなくなったと言うことだろう。
さらにクアゴアに対する警備に人を割かれて洞窟の外への探索もなかなか行けないらしい。
「なるほど……ドラゴン……ドラゴンかぁ……」
モモンガはドワーフの元王都がフロストドラゴンに支配されているという話を聞き胸が高鳴る。
(ドラゴンといえば皮、鱗、肉、血、眼球から骨まですべてが使える素材の宝庫じゃないか……もし敵対してくれればそのすべてが私のものに……)
垂涎の的とはまさにこのことだろう。殺せばそのすべての素材が手に入るのだ。
死体から骨だけを手に入れるなどと言わず全身余すところなくだ。実に美味しい話である。
さらにモモンガには鍛冶技術がないので彼らに任せることになってしまうが、その加工技術もぜひ見てみたい。万が一モモンガが鍛冶技術を取得できれば自分で魔法道具を作れる可能性もある。
「もしそれらの素材を手に入れたら制作を依頼できるのだな?」
「あ、ああそうだけど……まさかあんた……」
「それは重畳。ではまた来るので今注文した分を清算しておいてくれたまえ。私はちょっと用事が出来たので失礼する」
「なっ……」
モモンガは返事を待たずに踵を返す。
成り行きと趣味の延長線上で来たドワーフの都市だが思わぬ収穫がありそうだ。モモンガは頭の中で皮算用をしつつほくそ笑む。
「さてドラゴン素材か……いいだろう、手に入れてみせようじゃないか。ふふっ……ふははははははっ」
♦
その後、集合場所に決めていた宿に戻ってみるとナーベラルはまだ帰っていなかった。
ラナーとクライムはドワーフの街で買って来た道具や食べ物を楽しそうに整理していた。二人とも食事も済ませてきたということなので出発は明日にする。
戻って来ていないナーベラルに知らせに行くかと宿を出ようとするも、恐らく今も飲みニケーション中なのだろうと思い踵を返す。
飲めないモモンガが言っても邪魔にしかならないだろうと思い、モモンガは部屋に戻ると戦利品の整理を始めるのだった。
───翌朝
朝になったがまだナーベラルは帰ってこない。
さすがに心配になったモモンガは商業組合長の家へと向かう。するとそこには人だかりが出来ていた。
「……なんだ?何かあったのか?」
近くのドワーフに声をかけるとそのドワーフは顔を青くして首を振りながら答えてくれた。
「ドワーフ殺しじゃ……あれはまさにドワーフ殺しじゃ……」
「ドワーフ殺し!?」
(……まさかまたつい殺ってしまったのか!?酔った勢いで!?やはり酒など飲ませるべきではなかったのか!?)
その不穏な言葉の響きに出もしない冷や汗をかきつつ、モモンガのないはずの胃がキリキリと痛む。
ナーベラルに任せたモモンガも犯罪共助とかになるのだろうか。
(……それともまさか噂のクアゴアが出たのか?むしろそっちであってくれ!)
信じてもいない神に祈りながらさらに近づいていくと地面に多くのドワーフが地面に倒れ伏していた。
「なんなんだこれは……」
ドワーフたちの顔色は髭でよく分からないが皆青白いように見える。
ふと見るとあのゼンベルというリザードマンまで倒れていた。ドワーフ殺しどころかリザードマン殺し事件の発生だ。
「おい!ゼンベル!?しっかりしろ!」
やはりナーベラルが……いや、ゼンベルの場合はモモンガに殺された後遺症ということも考えられる。心配になってゼンベルを揺さぶっているとその眼が薄く開いた。
「お、おい……うぷっ……やめろ揺らすなぁ……」
よかった、どうやら生きているらしい。しかし立って歩ける状態ではないようだ。怪我をしているのか、それとも状態異常であるのか。
モモンガが回復手段を悩んでいると……。
「おまえんところの女は化け物かよ……」
「くぅ……わしらドワーフが束になってもかなわないとは……」
「屈辱じゃあ……王都が奪われたこと以上の屈辱じゃあ……」
「ドワーフ殺し……あれこそ伝説のドワーフ殺しじゃ……」
どうやらゼンベルの周りに倒れているドワーフたちも死んではいないらしい。ほっと一安心したところでその原因が酒場の中から姿を現した。
「モモン様!お喜びください!御覧の通りドワーフどもにナザリックの威を示してみせました!」
ナーベラルが嬉しそうにポニーテールを揺らして酒瓶をトロフィーのように掲げて走ってくる。
飲みにケーションでドワーフたちとの交流を深めて良好な関係を築いて欲しかったというのに……何かがおかしい。
(ナーベラル……そうじゃない……そうじゃないぞ……)
モモンガが頭を抱える中、後に『ドワーフ殺し』という二つ名を戴く酒豪伝説が誕生した瞬間であった。