モモンとナーベの冒険~10年前の世界で~ 作:kirishima13
「お前たち準備はいいか?」
「はっ!」
「よし、行くぞ。<
モモンガたちはフェオ・ライゾの入り口を出ると《全体飛行》により上空へと浮かび上がる。
(はぁ……出てくるの大変だったなぁ……)
我も我もとナーベラルに挑んでくる酒豪たちを振り切って出てきたのだ。目的はもちろんドラゴンの素材である。
周りを見ると首を見上げなければ見えなかったアゼルリシア山脈の山頂が眼下に広がっている。モモンガはさらに雲の上まで浮かび上がったのだが……。
「むっ……雲が邪魔だな……」
遥か遠方まで見渡せていた景色が下に広がる雲霞で遮られてしまった。ならば、とモモンガは魔法を発動させる。
「<
気象を操る魔法により雲を消し飛ばす。一面雲しか見えていなかった景色が見る見る雲一つない晴天へと変わった。
「ふむ、これでよく見えるな。ラナー、これでいいか?」
「はい、モモン様。北北西へまっすぐお願いいたします」
手元の地図とコンパスを見つめながらラナーに指示を出させる。
元王都へと向かうため聞き取りをする際、ラナーにも一緒に地図を見ながらドワーフたちの話を聞いてもらったのだが、モモンガには内容の半分も理解できなかった。そのため
彼女ならば持ち前の頭脳でドワーフからの情報を元に王都の位置を特定していることだろう。
(うん……これは適材適所だ。けして俺の頭がからっぽだからではない……たぶんきっと……)
通常であれば地下の踏破困難なダンジョンを通らなければたどり着けないと言われたのだがラナーは空から行くことを提案した。
GPSもないというのにドワーフたちからの話から正確な位置を把握する能力には驚嘆しか感じない。
「そこの峰の……南側あたりですね」
ラナーは
それらがない状態で方角や距離を瞬時に計算して的確な指示を出すラナーは規格外というしかないだろう。
上空を山脈を見下ろしながら数時間進んだところでモモンガ達はついに山の中に降り立った。
周りを見るも山肌しか見えるものはなく、建物や入口のようなものは見当たらない。
「ここでいいのか?王都は地下だという話だがどこにも入口はないぞ……」
「モモン様、入り口がなければ作ればよろしいかと具申いたします」
モモンガの前に跪くラナーにモモンガは首を傾げる。
「入り口を……作る?」
「はい。下には空洞が広がっていると思いますのでモモン様が魔法を叩き込めば入り口ができますわ。この辺りを魔法で吹き飛ばせばよろしいかと……」
「はぁ!?」
ラナーのあまりと言えばあまりな提案にいったい誰がこんなことを考えたのかと横を見るとナーベラルが誇らしげに頷いていた。
(おまえか!?)
「……ナーベラル。何か意見があるのか?」
「はっ!どうやらフロストドラゴン配下のクアゴアは太陽光の下では目が見えない種族らしいのです。そのため先制攻撃として天井を吹き飛ばし、日光下で優位に交渉を進めるのがよろしいかと思います!」
考えなしで突っ走ったのだと思ったナーベラルの提案だったが、モモンガはなるほどと納得する。
確かに戦闘を前提とするのであれば相手に不利な環境下で先制攻撃することは非常に有効だ。相手の目が見えなくなるということは完全に無力化できる可能性さえある。戦略としては高得点を与えてもいいくらいだ。
ただし……そこに重大な問題点がなければ。
「ナーベラル。それでは初見で敵対してしまうではないか……。もしかしたらクアゴアやフロストドラゴンと友好的な関係を結べる可能性もあるのだ。まずは友好的に接してみよう。もちろんドラゴンの素材は欲しいが……それも相手の出方次第だな」
いきなり殺して剥ぎ取りをすれば話は早いが彼らが仲間たちの情報を持っていないとは限らない。
「さすがはモモンガ様! 深淵なるお考えを察することが出来なかったこの身を恥じ入るばかりです!」
「……気にするな。お前の提案は一案としては有効だ。やむを得ない場合はこの辺りを吹き飛ばすことも考えよう。それでラナー。入り口の予測はつくか?」
「申し訳ございません。ある程度の予測は付きますが発見までに時間がかかるかと……誤差も含めてここから直下あたりにあることは間違いないかと思うのですが……」
「そうか……ならば簡単だ。掘ろう」
「……え?」
ラナーが珍しく困惑した表情をしたのを面白く思いながら、モモンガはインベントリからシャベルを4つ取り出した。
ザイトルクワエを掘り出したのと同じもので攻撃力はほぼない道具だが採掘性能は良いし、アイテムとしては上級に属している。
「ほ、掘るのですか……?」
「ああ。ユグドラシルでも地中にアイテムなどが埋まっていることは多々あった。採掘スキルが高い方が効率は良かったがスキルがなければ掘れないというわけでもない。生産系の『あまのまひとつ』さんなんかはよく採掘にいっていたものだ」
「あまのまひとつ様が!」
ユグドラシルの運営はむしろ地中深くや崖の途中に隠しダンジョンの入り口を作るなどという理不尽なことをしてくるくらいだった。
しかも遠方からのあらゆるスキルや魔法での探知が不能というおまけ付きで。あの労力を考えれば直下に少し穴を掘るくらい造作もない。
「よし!掘るぞ!!」
♦
数日後、数百メートルは掘り進めただろうか。
掘った土はインベントリに放り込んでいる。大容量が入るインベントリも限界があるため、いっぱいになるたびに地上部へと捨てに行くこと数度。
そろそろまたインベントリが一杯になるのではと思ったその時、シャベルが地面の底を突き抜けた。
「おっと……<
反射的に<飛行>の魔法を唱えて周りを見るとナーベラルたちも<飛行>を使って周りに浮かんでいた。滑落対策が万全に機能していることに安堵する。
「ここがドワーフの王都フェオ・ベルカナか……」
ドワーフの都市フェオ・ライゾよりやや暗いものの同じように光るコケの効果なのかぼんやりと周りが見える。
都市フェオ・ライゾの倍以上の広さがあり、低い建物だけではなく5階建てくらいはあるのではないかという高層建築も複数見られた。
しかし何よりも目を見張るのは岩壁に埋もれるように建てられた巨大な城であろう。魔法道具で明かりを取っているのか、周囲が薄暗い中でそこだけがひと際光輝いて見える。
城の塀や柱にはドワーフが彫ったと思われる重厚な意匠が凝らされており、芸術品としての価値も高いだろう。
「地下遺跡、いや地底城か……。何というか……こういった景色を見ると『冒険をしている』という気分になるな」
「それはモモンガ様たち至高の御方がされておられたというアレですか!?」
この世界における冒険者の冒険とモモンガたちの行っていた冒険はナーベラルの中でも異なるものと区別されていた。つまり純粋に未知を既知にするという意味での冒険のことである。
「ああ、凍った城や砂漠の地下迷宮なんかもあったな。あの時は弐式炎雷さんのおかげで何とかクリアできたんだったっけ」
「弐式炎雷様が!詳しく!詳しくお教えいただけますか!」
自分の創造主の話と分かりナーベラルがグイグイ迫ってくる。
仲間たちとの思い出を語るのはモモンガとしてもやぶさかではないが今は他にやることがあった。
「分かった、分かったからあとでな。今はここでの交渉が先だ」
何とかナーベラルを抑えつつ、モモンガたちはそのまま<飛行>でゆっくりと広場のような場所に降り立った。
地下水を利用しているのか噴水のようなものまであり、周りには全身が毛で覆われた亜人が集まっている。
背丈はドワーフたちとそうは変わらないが衣服を着ているものは少ない。口の先が尖っており、細長い尻尾に長い爪を持った彼らはモグラの亜人といった容姿だ。彼らがドワーフから聞いたクアゴアなのだろう。
「なんだ!?」
「お、お前らどこから現れた!?」
「ドワーフ!?いや、エルフ!?エルフなのか!?」
突如上空から現れたモモンガたちにクアゴアたちが遠巻きに指差してくる。
ふと見ると、子供と思われる小さい者を連れたクアゴアが足早に離れていくのが見えた。突然空から侵入者が来たのだ。驚くのも無理はないだろう。
「あー諸君。我々はドワーフでもエルフでもない。話がしたくて来た旅人だ。君たちの代表と話をさせてもらえないだろうか」
別にあえてクアゴアと敵対したいわけではない。モモンガは出来るだけ穏便に対処しようと出来るだけ優しく話しかける。
地下と言うこともあって思ったよりも大きく声が響き渡ったが、クアゴアたちからの返事はなく、場は静寂に包まれてしまった。
「あー……良ければ案内をしてもらえないかな?案内してくれたら……そうだな。この金貨を進呈しようじゃないか!」
敵対しているドワーフ国で流通している金貨では不味かろうとユグドラシル金貨を1枚出すとざわりと周りのクアゴアたちが騒ぎたった。
「
「金だぞ……」
「そ、それくれるの!?」
周りの大人のクアゴアが戸惑っている中、小さい子供と思われるクアゴアがモモンガの下へと寄ってくる。表情は毛に覆われて分からないがその視線はユグドラシル金貨へと注がれていた。
「ああ、いいとも。このあたりの代表のところに案内してくれれば君にあげよう」
「じゃあ案内する!」
「そうかそうか!ではこれは君のものだ!」
モモンガは子供のクアゴアに金貨を手渡した。
金貨は子供が持って帰るかどこかにしまうのだろうとモモンガが思っていたところ、小さなクアゴアは迷わずそれを口へと入れてしまう。
そしてゴリゴリと言う音が聞こえてきた。
「おいしい!」
(ぇ……食べるの!?)
金貨が食べられた。金貨は食べ物ではないと思っていたモモンガは目を見張る。
(……これは子供が何でも口に入れるというあの現象なのか!?吐き出させた方がいいのか!?)
子供がモノを喉に詰めて亡くなるという事故も聞いたことがある。
背中を叩いて吐き出させる必要があるのだろうかとモモンガがあまりの事態に呆然としていると、母親と思われるクアゴアが子供を叩いた。
「ちゃんと洗ってから食べないと駄目でしょ!」
(そういう問題なの!?)
「モモン様。彼らはどうやら金属を捕食する種族のようですね」
「そ、そのようだな……」
まさか手間賃として渡した金貨が食べられるとは思ってもみなかった。美味しいと言っていたということは味があるのだろうか。疑問は尽きない。
あまりの事態に戸惑いつつしばらく待っていると親子のクアゴアが戻って来た。
一緒にいるのは他のクアゴアより二回りは大きく体に赤いラインが入っている個体だ。もしかしたら兵士か警備員なのかもしれない。
「お前か?士族長に会いたいというのは」
「ああ、そうだ。私はモモンと言う。よろしく頼む」
あいさつ代わりに金貨を一枚指ではじくとクアゴア兵がつかみ取ってジロジロ見た後、ひと噛みすると頷いた。
食べるというよりは真贋を確認したという様子だ。気が付くと周りに複数の屈強なクアゴアたちに囲まれていた。警戒を解いたわけではないらしい。
「こっちだ」
どうやら案内はしてくれるらしい。大勢のクアゴアに囲まれたまま引き連れられて案内されたのは上空から見えた一番大きな建物だった。
「入れ。士族長がお会いになるということだ。入ることを許可する」
「分かった。ナーベたちはこのあたりで待っていてもらおうか。私が行ってこよう。ああ、ナーベ。護衛は不要だぞ?その必要もなさそうだからな」
会社の代表がぞろぞろと連れてこられた不要な相手まで一緒に会うようなことはないだろう。
見たところ体力も魔力もたいしたことがないようであるし何かあっても対処は容易そうだ。ここは社会の常識として代表者には必要最低限の人間で会うべきだろう。
ナーベラルは不服そうにしているが口に出すことはない。
機先を制しておいて正解だった。もしここでクアゴアたちと揉めても面倒であるし、あくまで目的はドラゴンの素材である。彼らを殺しても何の得もない。
そう思って一人で入ろうとするとクアゴアたちが動揺していた。
「ほ、本当に一人で士族長と会うというのか?」
「?」
クアゴアの表情は分からないが何やら驚いているらしい。何か驚くようなことをしただろうか。
(もしかしてクアゴアは複数で行動する種族だとか?だとしたらナーベラルあたりを秘書代わりに連れて行った方がいいかもしれないが……)
「……エルフとはいえその勇気に敬意を表する」
なぜか敬意を表されてしまった。
新入社員でもあるまいし一人で営業やプレゼンを行うことなど当たり前なのだが……。
モモンガは疑問に思いつつも屈強なクアゴアたちに囲まれながら士族長へ会うため部屋へと入るのだった。