モモンとナーベの冒険~10年前の世界で~   作:kirishima13

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第54話 クアゴアの氏族王

 私の名前はペ・リユロ。クアゴアの氏族王である。

 

 我々クアゴアは現在、旧ドワーフ王国の王都にて白き竜王、フロストドラゴンの王たるオラサーダルク様の支配のもと暮らしている。

 しかし竜王からの加護を受けるという名目のもと貢物を捧げているため、我々の生活は非常に苦しい。

 

 そもそも保護と言っているが地の中に生きる我々には天敵は少なく、また天敵と言えるドワーフやサンドワームなどは狭い通路での戦いになるため巨体を持つドラゴンに助勢を願うわけにもいかない。

 

 つまり何が言いたいかというと我々の支配者たる白き竜王はこの都市一番の立派な城を占拠して我々から財を奪う目の上のたん瘤であるということだ。

 

 今日はそんな白き竜王に会いたいという奇特な相手が現れた。漆黒の鎧を着た戦士のようだ。背丈からいってエルフだろうか。

 青色の線を帯びたブルークアゴアの戦士が案内してきた相手を私は玉座を模した椅子に座って迎え入れる。これでも私はクアゴア士族の王である。服も着ずに地面に直接座るような真似はしない。礼節も弁えている。

 

「私が士族王のペ・リユロだ。お前が白き竜王に会いたいと言う者か?」

「そうだ。私はモモンという。ぜひともその竜王に会って話がしたいのだ」

「その前に聞きたいのだが……お前は恐怖を感じないのか?」

「は?」

 

 首をかしげる漆黒の戦士。こいつは一体何なのだろう。たった一人で士族最強の戦士である私、そしてブルークアゴア、レッドクアゴアに取り囲まれた状態で怯みもしない。

 こいつからは戦士としての気配を一切感じないというのに何か薄ら寒いものを感じる。この度胸もなぜか蛮勇という感じはしない。自信に満ち溢れている。

 

 部下の話によると相手は外部からの侵入者である。しかもあらゆる警戒網を無視して都市のど真ん中にいきなり現れたらしい。

 今この場にも精鋭のクアゴアたちが集結しており、相手に対してあらゆる方面から殺気が放たれている。それにも関わらず平然としているのだ。よほどの強者かそれともただの間抜けなのか。

 私は判断に迷う。

 

「いや、何でもない。それで白き竜王に謁見したい理由を聞いても?」

「大したことではない。ちょっとドラゴンの死体が欲しくてな。もし持っていたら分けてもらえないかと思って来ただけだ」

「なん……だと……?すまない、もう一度言ってもらえるか?何か聞き間違えたみたいだ」

「ドラゴンの死体が欲しい。たくさんあると嬉しいのだが……」

 

 どうやら聞き間違いではないらしい。このエルフはあろうことかあの白き竜王に同族の死体を寄こせと言うらしい。頭がどうかしているとしか思えない。

 

 いや、そこまでのことを言うのであればそれが可能なだけの力があるということだろうか。ただ者ではないと思うのだが、いまいちこのエルフの強さが読めない。

 

 もしあの竜王を怒らせても黙らせられるだけの実力があるのであればむしろこいつを利用しない手はないのだが……。そのためにも実力を見極めておきたい。

 私はエルフにばれないよう後ろに立つ部下に目配せをする。部下は事前の打ち合わせどおり爪を振り上げて怒り出した。

 

「貴様!!偉大なる白き竜王様にそのようなことを頼めるか!」

 

 その鋭い爪がエルフの首を捉えた。

 例え金属の鎧を着ていようと鍛え上げたクアゴアの爪は金属さえ斬り裂く。首が落ちて噴水のように血が噴き出す。そう思ったのだが……。

 

「ん?」

 

 エルフは何事もなかったように後ろを振り返った。まるで効いていない。攻撃されたことさえ気にかけていないようだ。何の痛痒も感じていないというのか!

 

「口の利き方が悪かったか?それはすまなかったな。お前たちがそれほど竜王とやらを敬っているとは知らなかったからな。まぁ紹介してくれないのであればしかたがない」

「ま、待て!どうするつもりだ!?」

 

 嫌な予感しかしない。まさか大勢の軍勢でも後ろに控えているのだろうか。確かにそれであればこの自信も納得だ。まさかたった数人でドラゴンの軍団をどうにかできるはずもない。

 そうだ、そんなこと出来るはずがない!そうでないと言ってくれ!

 

「なに、紹介がないのは不安だがアポイントなしで竜王に会ってくるだけだ」

「……」

 

 そんなことになればどうなるだろうか。フロストドラゴンの奴隷たるクアゴアたちはその程度の仕事も出来ないのかと白き竜王の怒りを買うだろう。そしてこのエルフが勝ったとしても協力しなかった我々はどうなるのか……想像するだに恐ろしい。

 

「待て!紹介しないとは言っていない!分かった。だが白き竜王はとても気位の高いお方だ。何の貢物もなしに謁見しては不興を買うだろう。それに我々に対してもただで紹介してくれというのは虫が良すぎる話ではないか?」

 

 ここはともに白き竜王に謁見してどちらか勝てそうな方につくしかないだろう。 

 そしてそこから士族長として何らかの利益を得ておきたい。まずはこのエルフから報酬を約束させるのが先決だ。

 

「それもそうだな。何か欲しいものはあるのか?」

「竜王は宝物に目がない。そして我々は鉱石を欲している。報酬としていただくことはできるのかな?」

 

 クアゴアは血筋による強さや鍛錬による強さの他にも食べた鉱石によって体の強度や爪の鋭さが上がる。それは幼い頃に食べるほど効果があり、鉱石はクアゴアにとって食べ物というだけでなく、生きる力そのものと言えるのだ。

 強者である相手がすんなりと受けるとは思わないが、駄目もとでエルフへ提案を試みる。

 

「鉱石か……ではこれなどはどうだ?」

 

 するとエルフが見たこともない蒼い鉱石を懐から取り出した。

 明らかに懐から出せる大きさではない。魔法だろうか。もしこいつが魔法詠唱者であったら厄介だ。我々は雷の魔法に弱い。

 しかし今は出された鉱石の見分が先だ。持ち上げてみるとズシリと重く食べ応えはありそうに思える。

 

「これは……?」

「ブルークリスタルメタルだ。まぁたいしたものでは……いや、まぁまぁ良い鉱石だとも」

「知らない鉱石だな……少し鑑定させてもらうぞ、おい」

「はっ、私にお任せください。<道具鑑定>」

 

 魔法の使える部下に<道具鑑定>の魔法で鉱石を調べさせる。毒石などを食べさせられてはたまったものではないからな。

 

「どうだ?」

「リユロ様……。こ、これは……アダマンタイトをはるかに超える硬さを持っているようです。このような鉱石があるとは……」

「ふむ……」

 

 毒物でもないようであるし試しに噛みついてみるか。……硬い!

 

「ぐっ……なんだこれは……」

 

 硬すぎる……まったく歯が立たない。ガジガジと噛む位置を変えてみるが一向に歯がとおらない。

 ちらりとエルフを見る。兜をしているが呆れているのだろうか。クアゴアとして歯が立たない金属があるなど誇りが許さない! 絶対に嚙み砕いてみせる!

 

「くそっ!武技<牙強化>!<能力向上>!」

 

 武技を発動して身体能力を向上させる。さらに強化した牙で全力で噛みつくと何とか嚙み砕かれて鉱石が腹へと落ちていった。そして得も言われぬほどの甘美な味わい。噛めば噛むほど力が湧いてくるようである。

 

「お、おおお……」

 

 私の体に変化が起きた。よほど高度な金属であったからなのか成人しているこの体の肌の一部にさらに発光するように蒼色のラインが入り、爪も蒼い光沢を放っている。

 そして全身から湧き上がる力。もしかしたらこの爪ならばあの硬い竜王の鱗でも斬り裂けるのではないだろうか。

 

「ほぉ!体力に変化が出たな!興味深い!先ほど子供も金貨を食べていたがクアゴアは鉱石を食べると体に何らかの変化があるものなのか?」

「あ、ああ……これほどの鉱石は見たことがないがな」

 

 クアゴアの特性を見られた以上話さないわけにもいかないだろう。食した金属によって強さが変化するクアゴアの特性についてエルフに教えてやる。

 それをエルフは本当に嬉しそうに頷いて聞いていた。何がそんなに楽しい?何か邪悪な企みでも考えているのか?

 

「ならばドワーフと争っている理由は鉱石の採掘権をめぐってと言うことだな?」

「ドワーフだと!?」

 

 こいつはドワーフの関係者とでもいうのか。それであれば敵として白き竜王に協力を仰いででも葬ってしまわなければならない。

 

「勘違いしないで欲しいが私はクアゴアとドワーフの争いに介入するつもりはないぞ?どちらも生きるために鉱石が必要だということなんだろう?それであれば争いの理由としても納得できる。ただまぁ……共存を模索するべきだとは思うがな」

「共存など出来るはずがない!やつらはあればあるだけ鉱石を掘りつくす! 我らがどれほど食べるのを我慢して鉱脈を保存しておいてもお構いなしだ!」

 

 クアゴアとて別に鉱石だけを食べるわけではなく洞窟トカゲなども食べるが、鉱石が生きる上で必要不可欠であることは間違いない。それを掘り尽くすドワーフは不倶戴天の敵だ。

 

「ならば別の鉱脈を見つければいいのではないか?」

「別の鉱脈だと?」

「探知系スキルを鍛えれば可能ではないか?ああ、話がそれたな。鉱石はそれでいいのであれば次は竜王への貢物だったか?金貨とかでいいのか?」

 

 エルフはどこから出したのかテーブルに金で出来た小さな円盤を並べていく。その煌びやかな輝きからは相当の上質な金であることが伺われた。子供が食べたというのはこの金のことかもしれない。

 

「そうだな……。だが白き竜王の気分次第でもっと要求されるかもしれない」

「ほほぅ?随分と欲深いことだ……。ふふふっ、その際はさらに別の歓迎をするから安心してくれ」

「……」

 

 今の発言の意味を普通にとるなら追加で貢物を渡すということだろうが……。そう素直には受け取れない。

 どうするべきか。この男を竜王に会わせてもいいのだろうか。いや、会わせるべきなのだろう。この男の強さは先ほど確認させてもらった。もし彼らと竜王が争い双方が傷つけば漁夫の利を得られるかもしれない。

 私は決意を固める。

 

「いいだろう。では明朝、白き竜王に謁見できるように話をつけてこよう」

 

 どちらに転んでも我々クアゴアの有利に働くように動くのだ。事前に念入りに計画を練っておこう。明日は運命の日となることだろう。

 私はエルフが差し出した金の板を袋に入れると、王城へと向かうのだった。

 

 

 


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