モモンとナーベの冒険~10年前の世界で~   作:kirishima13

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第55話 フェオ・ベルカナの悪夢

 ドワーフ国の王城、かつては強大な力と鍛冶の腕を持ったドワーフ王が君臨し栄華を極めた場所は今やフロストドラゴンの居城となっていた。

 全盛期のドワーフの技術で作られた城は頑強であり、扉も巨大で天井も高くドラゴンの巨体でもゆったりと暮らすことが出来る。

 

 フロストドラゴンの王、オラサーダルクは王城の中で特に煌びやかな玉座の間に莫大な量の宝物を積み上げてその巨体でとぐろを巻いていた。

 さらに周囲には侍らせるように3頭の王妃が控えている。

 

「我がフロストドラゴンの王、オラサーダルクである。小さきものよ。話を聞いてやろう」

 

 金貨の山を積んだことによりクアゴアの氏族王に紹介されたモモンガを巨大な竜はじろりと見下ろすと居丈高に問いかける。

 

「……私の名はモモンという。一つ提案があって来たのだ。お前たちドラゴンの死体が欲しい。譲ってくれないか?」

「……」

 

 リユロの渡した貢物の質の高さに上機嫌で喜び、来客に会うことになったオラサーダルクだが、その機嫌は急転直下で転落する。

 

 最初から喧嘩を売る気で歩み寄ろうとすらしないモモンガの直球にリユロは思わず後ずさった。

 この恐ろしき竜王にそのような口を利いたものはこれまで誰もいない。怒りのあまりどのようなことが起こるのかと気が気ではない。

 

「ぶ……無礼者が!身の程を弁えろ!貴様のような下賤な……いや、なんだ?その鎧……だけではないな。お前たちの装備は……。そのような素晴らしい価値のあるものは他に見たことがない。よし、それらをすべて差し出すがいい。そうすれば命だけは助けてやろう」

 

 ドラゴンの宝物に対する嗅覚は非常に鋭い。オラサーダルクは一目見てモモンガたちの装備の価値に気が付いた。自分の座るこの宝物の山が霞んで見えるほどの価値があると。

 

「我々の装備を寄こせと?ふふふっ……それは決闘(PVP)の申し出と受け取ってもいいのか?」

 

 ドラゴンの素材が欲しくて仕方がないモモンガはワクワクしながら問いかける。勝った時の報酬はドラゴンの皮や肉などだ。

 

「……何を言っている?」

「装備はやらん。断ると言っている。文句があるならかかって来い」

 

 モモンガは指を動かしてかかってこいと挑発する。

 あまりの傍若無人さにオラサーダルクはしばし呆然とした後、問答無用で口から白いブレスを吐き出した。氷結のブレスである。

 

 氷点下100℃を下回る極寒のブレスにすべてのものは凍り付き、そこには愚か者の氷の氷像が出来上がる、そう考えたオラサーダルクの予想は外れた。

 そこには依然黒い鎧が凍り付くこともなく立っていたのだ。

 

「なんだと!?」

「フロストドラゴンを相手にするのに氷結属性対策をしてこないわけがないだろう?いくらブレスを吐き出そうと無駄なことだ」

「馬鹿な!そんなことがあるわけが……」

 

 さらにオラサーダルクがどれだけブレスを吐きかけようと、モモンガはもとよりナーベラルたちも一切ダメージは負っていない。

 はるか後方に逃げていたリユロが余波を受けてガタガタと震えていたくらいだ。

 

「さて、予定通り交渉は決裂……おっと予定外に決裂してしまったな。あー、それじゃあ仕方がないな。うん、不本意だが仕方がない。私はPVPの勝利者の権利としてドロップアイテムを回収させてもらうとしよう。……ドラゴンの素材をな」

 

 モモンガは無造作にオラサーダルクへと歩み寄る。氷結のブレスが効かないと分かったオラサーダルクは尻尾を振るって撃ちつけるが、モモンガに当たった瞬間にその衝撃は霧散した。

 

「な、なんだ!?なんだなんだお前は!?」

「私たちか?そうだな……私たちは冒険者だ。未知を既知とするために今から実験を行う。いいから大人しくしていろ。<麻痺>」

「ぐっ」

 

 モモンガが触れたとたん麻痺が発動しオラサーダルクの全身が動かなくなる。

 

「さて、どの程度素材がとれるかな?そうだな……クライム、試しに尻尾のあたりを斬ってみろ」

「分かりました!」

 

 命令されたクライムは嬉々としてナイフを取り出すとしっぽの先を斬り落とす。

そこには何の逡巡もない。気分は料理の食材解体教室といったところだろうか。

 

「ぐあああああああああ!!」

「そう、叫ぶな。これからしばらく付き合ってもらうのだから。ナーベ、回復を」

「はっ!<大治癒>!」

 

 治癒魔法により欠損した尻尾が元に戻る。しかし同時にクライムが手にしていた素材が消え失せてしまった。

 

「むぅ……素材が消えただと……。どうしたものか……。何セットか欲しいのだが……殺してからバラすしかないのか?いや、もう少し試してみるべきだな。とりあえず尻尾のあたりの皮を剥がして今度は(なめ)してみよう」

「はがして鞣す?」

「クライム、こうやるんですよ」

 

 ラナーはオラサーダルクの尻尾にナイフを突き入れると器用に皮膚に沿って切り裂いていく。

 

「や、やめろおおおおおおおおおおお」

「これを剥がして……クライム、こん棒を出して」

「はいっ」

 

 ラナーは鞣しの知識を持っているのだろう。クライムと仲良く皮を叩いて鞣していく。そして皮がもともとの大きさから倍程度まで薄く広がったところでラナーは手を止めた。

 

「このあたりでよろしいでしょうか?ナーベ様お願いします」

「<大治癒>」

「おお!!皮が消えない!」

 

 モモンガは嬉しそうにラナーから渡された皮を手に取る。今度はその皮は失われることなくオラサーダルクの尻尾が復元していた。

 

「なるほど。別種のアイテムと判別された状態ならば復元は可能なのか?それとも別の条件か……では次は血液でやってみよう」

「や、やめ……助け……」

 

 とても楽しそうに悪魔の所業を行おうとするモモンガ一行にオラサーダルクは妃たちに助けを求めようと見つめるが、全員が目を逸らして地に伏せていた。

 服従のポーズである。オラサーダルクの二の舞はごめんだということだろう。

 

「ま、待て。話を!そう話をしよう!」

「安心しろ、殺しはしない」

 

 答えになっていない。まるで自分たちが小動物を弄ぶときのようなその態度にオラサーダルクは絶望するがモモンガたちの実験は続けられていくのだった。

 

 

 

 

 

 

「血液は瓶詰すればいいし、骨や眼球も砕いて瓶詰で行けたな……。途中でどうなるものかと心配したが……」

 

 蘇生と剥ぎ取りを繰り返しているうちに問題が発生したのだ。

 オラサーダルクが治癒を拒否したのだ。治癒魔法に抵抗し、傷が思うように治らず素材の質がどんどん悪くなる。

 

 そんな状態を解決したのが<記憶操作>だった。帝都の宿屋のメイドで試していて本当に良かった。不味い事実はなかったことにすれば良いのだ。

 

「ま、待て。話を!そう話をしよう!」

 

 オラサーダルクが本日何度目かも分からないほど繰り返されたセリフを吐く。

 そう、モモンガが<記憶操作>により素材を剥ぎ始める前まで記憶を消去したのだ。これにより再度治癒を拒否するまでは同じ品質の素材を採取し続けることが出来る。

 

「MPが心もとなくなってきたからとりあえずあと2、3回で終わりにするか。くっ……ヤバいな……他のところまで引っこ抜けそうだ。ナーベそっちを押さえてくれ」

「このあたりですか?」

 

 モモンガが次に引き抜こうとしているのはオラサーダルクの頭蓋骨だ。ドラゴンで最も価値のある部位の一つと言える。

 いつの間にかオラサーダルクの子供たちも騒ぎを聞きつけて集まって来ていたが誰もが青い顔をして震えあがっていた。

 偉大にして最強たる父親がまるで玩具のように扱われているからだろう。

 

「体力に注意しろよ。抜いた瞬間体力が激減するはずだ。0になるまえに処理をしてみる。タイミングを間違えるなよ。念のために《時間停止》も使うからな」

「お任せください!」

「できれば私たち4人で山分けする分は欲しいからな。死なないように注意してくれ。いくぞ、せーの!!」

 

 かつてはドワーフ王が君臨しその技術と財力で栄華を極め、そして現在は竜王の称号まで手に入れたフロストドラゴンの王が支配した地。

 そこは今まさに屠殺場へと変貌していた。

 

 ドワーフのかつての王都、フェオ・ベルカナに訪れた悪夢はまだまだ醒めそうになかった。

 

 

 

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