モモンとナーベの冒険~10年前の世界で~   作:kirishima13

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第57話 モモンとナーベの夏休み 1日目

 モモンガたちはドワーフ国からバハルス帝国の帝都アーウィンタールへと帰って来た。既にドワーフ国に向かってから半年が経過している。

 

 そんな帝都の高級宿の一室でモモンガはインベントリから出した剣をうっとりと見つめた。ドワーフの鍛冶職人が鍛造した一品である。

 アダマンタイト鉱石にドラゴンの骨を加えて加工したそれはまるで水晶のように翠色の透過した非常に美しい輝きを放っている。

 能力的にはモモンガにとってそれほど価値のあるものではないが、コレクターとして見ると至高の逸品であった。

 

「やっぱり武器はロマンがあるよなぁ……こっちの鎧も……」

 

 取り出したのはフロストドラゴンの鱗を使ったドラゴンメイルだ。白い鱗がキラキラと輝いていてこれもまた美しい。

 

「やはりドラゴンはいい……。でも途中からあいつは治癒を拒否しだしたから結局記憶操作を何度もやり直すことになってしまったな。直前に記憶を戻すと言っても結構MPを消費して思ったほど素材を取れなかったし……。他のドラゴンは逆らってこなかったから素材を剝ぎ取れなかったんだよな……」

 

 また気が向いたらまた彼に会いに行ってみるのもいいかもしれない。あ、そういえば最後剥ぎ取ってから記憶を消し忘れてたな……。

 まぁ彼が元気になっていることを期待することにしよう。

 

「しかしまたナーベラルたちを働かせすぎてしまった……」

 

 つい楽しくて時間を忘れ素材採取に鍛冶修行にと楽しんでしまったのだが、彼女たちにもつきあわせてしまった。

 文句ひとつ言わずモモンガのいう通りに売買や交渉などで働いてくれて助かったのだが、どうも彼女たちに仕事をしてもらっているということを忘れてしまう。

 

「クライムとラナーは子供だしな……」

 

 

 

───そこで

 

 

 

「これより1カ月を休暇とする。この休暇中に仕事は禁止だ。分かったな?これはフリじゃないからな。しっかりと体を休めるんだぞ。自分のやりたいことをやればいいんだ。仕事も仕事の準備も不要だからな?分かったな?何度も言うがフリじゃないからな」

 

 帝都の高級宿でモモンガは決意を込めた声で告げた。

 今でも週2日の休暇を与えているのだが、なぜかナーベラルも子供たちも休まないのだ。何かと仕事を見つけてはせかせか働いている。

 モモンガとしては自分が手本とばかりに休日を満喫している様子を見せているつもりだが……それを見ても『分かっております』と取り合ってくれない。

 

(……社畜か!)

 

 これはいけないということで、モモンガは長期休暇を与えることにした。

 夏休みなどモモンガが社会人になった時点でなくなってしまったものだが、子供に夏休みは必要だろう。

 それこそ友達でも作って子供の頃しか味わえない夏の思い出を作って欲しい。

 

(俺はそんな思い出は作れなかったからな……。さて……その間俺は何をしようか……。この世界にある娯楽とかか? ゲームショップはないとしても娯楽本とかあれば読みたいな。手持ちの本も読みつくしてしまったし……。飲み食いできないから食べ物関係は楽しめないんだよな……本当にこの体はメリットとデメリットがある……)

 

 

 チラリとナーベラルたちを見る。

 読書を薦めてみようかと思うが、付いて来られておかしな趣味の本を買っているところを見られるのは避けたい。

 

(ライトノベルでさえ見られて馬鹿にされることもあるからな……)

 

 『挿絵が入っているから』といい歳をした大人が子供向けの本を読んでいると思われ軽蔑されることもあるのだ。

 これは絶対に一人で行動する必要があるだろう。

 

「というわけで私はこれから単独行動をする。では解散!」

「お待ちください!モモンガ様!」

 

 子供たちは休みに何をするか楽しそうに話しながら部屋から出て行ったがそのまま解散とはいかなかった。ナーベラルである。

 

「モモンガ様がお一人でお出かけになっては私が盾になって死ぬことができません!私も同行します!」

「休暇だと言っただろう。お前ものんびりお前のしたいことをするといい」

「したい……ことですか」

 

 ナーベラルは自分のしたいことを考えるが、『至高の存在のために働く』という以外にしたいことなど何一つなかった。

 しかし主人である至高の御方はそういったことを聞きたいわけではないようなので今まで我慢していた希望を一つ言うことにする。

 

「では休暇中はメイドに戻りたく思います」

「ぇ……」

「私はこの世界に来てからまったくメイドとしての仕事をさせていただいておりません!衣装やお食事の準備などの身の回りのお世話もさせていただいておりませんん!ぜひ私にメイドとしての仕事を!」

「そんなにメイドの仕事したかったの……?」

「はいっ!」

 

 ナーベラルが装備変更能力を発動すると冒険者風の服装から元のメイド服へと衣装が変わる。

 やはり創造主から与えられたこの装備が一番しっくりくるのだろう。顔が心なしか嬉しそうである。

 

「休暇中は私がメイドとして身の回りのお世話をさせていただきたく存じます。何なりとお命じください」

 

 優雅な礼をするナーベラルはどこからどう見ても完璧なメイドであった。しかし一人で行動したかったモモンガは言葉に詰まる。

 

「いや、あのな……私が行ってみたいところは完全に個人の趣味の世界であって一緒にいて楽しいものではないと思うぞ」

「モモンガ様の向かう場所こそ私の向かう場所です! ご一緒いたします!」

「あ……はい……」

 

 モモンガの説得は一瞬で撃沈し、メイド姿の美姫と漆黒の戦士が帝都アーウィンタールへと繰り出すことになるのだった。

 

 

 

 

 

 

 帝都を二人で歩くモモンガとナーベラル。ぴったりと寄り添う二人に好奇の視線が突き刺さる。

 

「見て、ナーベ様とモモン様よ」

「なんでナーベ様はメイド服を着ているのかしら」

「でもとってもお似合いね」

 

 帝都のアダマンタイト級冒険者として活躍を続けたモモンガたちは知らない人間がいないほど知名度が上がっていた。

 漆黒の鎧の偉丈夫と美しい黒髪をした美姫はただでさえ注目を浴びるというのに今日のナーベラルはメイド服姿である。騒ぎにならない方がおかしいというものだろう。

 

「おい、そこのお前」

 

 そう───騒ぎにならないはずがなかった。

 

「聞いているのか!そこのお前!」

「ん?私のことを呼んだのか?」

「そうだ!冒険者モモン!お前は美姫になんて恰好をさせているんだ!」

 

 目の前に現れたのは身を飾る立派な服装からして貴族と思われる青年だ。こういう輩はたまに……いや、結構頻繁に現れる。

 

「彼女が望んで着ている服だ。私に言われても困る」

「ふざけるな!メイドの服なんて着せやがって!まぁ……似合ってはいるが……聞いているぞ!お前は暴力で無理やりナーベさんを連れまわしているらしいとな!」

 

 王国でのモモンガの評判が帝都にまで届いてしまっている。

 その結果、ナーベさんを解放しろというナンパ紛いの言いがかりをつけてくる人間は後を絶たない。

 そういった輩にはお話をして分からない場合は少々乱暴にお引き取り願っている。それが良くなかったらしい。

 安易に暴力に訴えたことでさらに噂に信憑性を与えてしまっていた。

 

「私はそんなことはしていない。私と彼女に対等な仲間として接している」

「そんなわけはない!彼女の目を見れば分かる!」

 

 そう言われてモモンガがナーベラルを見ると……まさに虫を見るような目で睨んでいた、言いがかりをつけてきた男の方を……。

 

「さっきまでは機嫌がよさそうだったんだがな……」

 

 久しぶりのメイド服に珍しく楽し気な表情をしていたのに男のせいで台無しである。それはもう親の仇を見るように憎々し気に睨もうというものだ。

 

「ほら見たことか。ナーベさん、あなたはこんな男といるべきではありません。この私と共に来ませんか?ぜひ私の開催する舞踏会へ招待させてください。美しいドレスも仕立てます。あなたのように美しい方であればメイド服よりドレスの方が似合いそうだ」

 

 やはりただのナンパのようだ。

 こういった誘いは依頼を通してのものも多かったものだ。

 護衛依頼を装ったパーティーへの参加の誘いなどナーベラル単独で名指しの依頼をもらうことも多い。

 簡単な割にとても高額の報酬が約束されており、モモンガとしてはどうするか迷ったがこれまで一つも受けたことはなかった。

 

(弐式炎雷さんから預かってる大事な娘さんだからな……)

 

 

 やはりそれは正解だったようだ。今はもうナーベラルは爆発寸前といった様子である。メイド服を卑下するような発言がよくなかったのだろう。

 

「とにかく断る。さぁいこうかナーベ」

 

 このままでは彼の命が危ない。

 男の命を守るため、ナーベの手を取ってさっさと場を離れようとする。

 

 ここで大抵は男が逆上して肩を掴んできて結局ナーベラルに物理的に排除されることが多いのだが……。

 

 今回は肩を掴まれもしなければ前に回り込まれて行き先を塞がれもしなかった。気になって振り返るとそこには誰もいなくなっている。

 

「……?」

 

 誰もいない……と思いきや以前ジルクニフと一緒にいた男がちらりと見えた気がしたが……気のせいだろうか。

 

 しばらく周囲を見回しても何も起こる気配はない。

 気にしても仕方ないので一向になくならない好奇の視線を一切無視してナーベラルが満足するまで自由に散策することにした。

 

「ナーベはどこか行きたいところはあるか?」

 

 一人での行動は不可能であるというのであればせめて二人で楽しめるような場所に行きたいものだ。

 

「モモン様の行きたい場所こそ私の行くべき場所です」

「そ、そうか……」

 

 行き先をナーベラルに丸投げするという方法は無駄らしい。ならばモモンガがリードすることになるが、モモンガの行きたい場所が本当にナーベラルの楽しめる場所なのか一抹の不安があった。

 

「私は珍しい魔法道具があったら見てみたい。この町ではいくつかそういった商品を出している市があるらしい。そちらに行ってみないか?」

 

 モモンガが向かうのは帝都の北側にある広場だ。そこには商売人だけでなく、冒険者やワーカーなどの一般人も不要になったアイテムや遺跡などで見つけたアイテムなど様々なものを売っているらしい。

 

 

 

 

 

 

「これは……市というよりバザーといったところか」

 

 市に着いてみると大勢の人間が広場のあちこちで床に敷いたゴザやマットの上に様々な商品を置いていた。さらには商売人や客を目当てにした食べ物の屋台も並んでいる。

 

「なかなか旨そうだな……」

 

 ジュージューという肉の焼ける音やタレの焦げる香りに食べられもしないのにモモンガはボソっと呟いてしまう。

 

「モモン様!手に入れてまいりました!」

 

 振り返るとナーベラルが串焼きを数本差し出している。さすがの身体能力と言うべきかさすがの忠誠心と言うべきか、言葉にして数秒後には串焼きを手に入れてきたようだ。仕事が早い。

 

「私は食べられないのだが……いや食べないと不自然か……」

 

 二人で散策していてナーベラルだけが食べ歩きをしていては不自然だろう。モモンガは串の一本を手に取る。

 

(ん、やはり良い匂いだな……まだジュージューと言ってるし……この甘い香りの赤いタレはなんなんだ?トマトか?唐辛子か?まぁ食べてもわからないんだが……)

 

 仕方なしに兜の隙間から串を差し入れてかぶりつく。もちもちとした食感は鶏肉に近いものだろうか。香りは感じることが出来るもののやはり味は感じない。顎の下の隙間から落ちてきた肉片を手で受け止める。

 

(これはどうしようか……インベントリに死蔵してしまうか)

 

 食べかけのものを取っておいても誰かにあげることも出来ないが、捨てるという選択肢はモモンガのもったいない精神が許さない。

 ふと見るとナーベラルが残りの串焼きを手に持ったままモモンガの串焼きを見つめていた。

 

「ナーベ。どうした?食べないのか?」

「モモンガ様、お持ちの串焼きはもうよろしいのでしょうか?」

「ああ……まぁ食感と香りは楽しめたからな」

「では私がいただいてもよろしいですか?」

「ん?頼めるのか?」

 

 どうやらナーベラルが処分してくれるらしい。悪いが頼むことにしよう。そう思っていたのだが……。

 

 ナーベラルはモモンガの手から肉片と食べかけの串焼きを強奪するとヒョイヒョイとそれを口に入れてしまった。

 

「ちょっ」

「ああ……モモンガ様から御下賜されたと思うととてもおいしゅうございます」

「ぇぇー……」

 

 ナーベラルは手に残った串ではなくモモンガの食べかけの串焼きが食べたかったらしい。

 モグモグと嬉しそうに頬を膨らませて噛みしめている。

 至高の存在の口にしたものを食べる、それがナザリックのしもべとして重要だとでもいうのだろうか。

 

「残った串はあの(クライム)にでもあげましょう」

 

 ナーベラルは残った串を無限の背負い袋へと収納する。クライムは余りものでも喜んで食べるだろうが……モモンガとしては微妙な気分である。

 

「まぁいいか……うん……いいことにしよう。私は何も見なかった……。それより商品を見て回ろう。この店の商品なんかなかなか面白いそうじゃないか」

 

 今見たことを忘却の彼方へと放り投げ、商品の物色へと話を戻す。

 冒険者向けの商品にはモモンガの知らない魔法が込められたスクロールやスタッフ、ワンドなどもあって大変に興味深い。

 

 それ以外にも冷蔵庫としか思えない形状と機能を有した魔法道具や扇風機のようなものもあり、何度も触って構造を詳しく聞いたりして店主を困らせてしまう。

 

(こういった休日も悪くないな……)

 

 モモンガがそんなことを思ったその時、ナーベラルが眉間へと指を当てた。

 

「ナーベ、どうかしたのか?」

「ラナーから《伝言》が入りました。虫けらどもと遊んでくるので今日は帰れないかもしれないとのことです」

「帰れない?虫けら……?ああ人間のことか。そうか、友達でも出来たのかな」

 

 ナーベラルは人間のことを虫に例える癖がある。 

 モモンガが子供のころは家に泊りがけで遊びに行くような友人はいなかったが要領のいいラナーのことだ、帝都で友人を作って家に招待されるということもありえるだろう。

 

「ふふっ、休日を満喫しているようで何よりだ。ちゃんと保護者に心配しないように連絡してくるのも好ポイントだな」

「では許可してもよろしいのですか?」

「ああ、好きに楽しんで来いと伝えておいてくれ」

 

 モモンガが許可を出すとナーベラルはラナーに《伝言》を送りなおしているようだ。途中で『誘拐』とか『殲滅』とか言う言葉が聞こえたような気がするがきっと気のせいだろう。

 モモンガは子供たちの成長を喜ばしく思いつつ散策を続けるのだった。

 

 

 

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