モモンとナーベの冒険~10年前の世界で~   作:kirishima13

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第58話 モモンとナーベの夏休み 2日目

 モモンガは帝都で一番の老舗と紹介された書店を訪れていた。

 モモンガは本を欲していた。なぜなら夜の時間に暇を持て余して持て余してしかたがないから。つまり暇つぶしの道具が欲しいのだ。

 

 ということで趣味の範囲の本については一人で物色したかったのだが……そこには当然のようにナーベラルがついてきている。

 

「ふむ……歴史書や自伝なんかが多いようだな。魔導書のようなものは……ないか」

「モモン様、何をお探しでしょうか?私がお役に立てることはございますでしょうか?」

「い、いや、ナーベ。私は私で探すのでお前も自分の欲しいものを探すと良い」

 

 ナーベラルには出来れば購入する本を見られたくはない。

 ラナーもそうなのだが、なぜかモモンガのことを絶対の知恵者のように思っている。娯楽本などを購入するのを見られた日には落胆されるに違いない。

 

「それにしても何というか……娯楽本は少ないな」

 

 帝都の一番の書店と言うこともあり、壁一面に非常に多くの書籍が並んでいるが、専門書や歴史書などがほとんどだった。

 羊皮紙で作られているため、本そのものが高価と言うこともあり実用書や高価でも買える富裕層向けの本が中心なのだろう。

 

「ん、これなんかはどうだ?」

 

 棚を見ていたモモンガは絵の多く載っている美術書のようなものを発見する。植物の図鑑のようなものから風景画をまとめたものまで様々なものがあるようだ。

 図鑑などはモモンガの知らないこの世界の知識がまとめられており、現実世界とも異なった内容は想像力を掻き立てられ、見ていて飽きることはない。

 

 しばらくパラパラといくつかの本を見ながら最後に手に取った本の中身を見て、モモンガはきょろきょろと周りを見回した後、慌てて本を閉じた。

 

「こ、これは……春画か!?」

 

 春画……つまり女の人の裸がたくさん載っている本であった。

 モモンガはアンデッドであるため色々と失っており、それに合わせて性欲もすべて無くなってしまったかと言うと……なぜか微妙に残っているような気もする。

 そして人間、鈴木悟の残滓であろうそれが手に取った本を購入するかどうか迷わせた。

 

「これをいただくわ!」

「ひっ……」

 

 まさか見られたのかとビクビクしながら振り向くとナーベラルが目を輝かせながらカウンターに本を積んでいた。

 

 自分のことはさておき、この世界に興味のなさそうなナーベラルがどんな本を欲しがったのだろうと興味がそそられる。

 手にしていた本をそっと本棚に戻すとモモンガはナーベラルが買おうとしている本を覗いてみた。

 

(……『漆黒の戦士と呪われた姫君』?)

 

 タイトルを読んで何となく嫌な予感がする。

 さらにそのタイトルの下に描かれたイラストを見て愕然とした。

 そこにはモモンガに似た全身鎧の戦士と先日呪いを解除したレイナースに似ている顔の半分を髪で隠した女性のイラストが描かれていた。思わずモモンガはナーベラルに聞く。

 

「なぁナーベ。それは……なんだ?」

「あ、モモンさー……ん。見てください!モモンさーんが描かれた絵本ですよ!もちろんその素晴らしさは本物には及びませんが私はこれが欲しいと思いました!」

「そ、そうか」

 

 頭の中にはなぜこんな本が売り出されているのかという疑問でいっぱいだ。

 しかし、普段にない良い笑顔を浮かべるナーベラルに思わずモモンガは沈黙してしまう。

 

「いや、待て。そもそも著作権はどうなっているんだ……。ナーベ、これはどこにあったのだ?」

「はい、あの辺りの本棚にありました」

 

 モモンガが指を差されたコーナーを見るとそこは平置きされたこれまたどこかで見たようなイラストの本が高く積まれていた。

 

「……『帝国の英雄、漆黒の美姫と魔物兵団』?」

 

 どう見てもナーベラルを参考にしたとしか思えないイラストと内容である。しかも漆黒の戦士の本が1冊しかないにも関わらず漆黒の美姫シリーズは10種類も置いてあった。

 

「いったい誰が書いたんだ……というかいつの間に帝国の英雄になっているんだ……。まだ冒険者として仕事を始めて1年もたっていないぞ……。中身は気になるが……。内容次第では著者に文句を言わないといけないな。でも購入するならついでに……」

 

 ナーベラルがカウンターに積んだ本の中に自分が欲しい本もついでとばかりに混ぜておく。これならば娯楽本を自然に購入できるだろうとモモンガはほくそ笑んだ。

 

「主人、これをすべてもらおう……ナーベ、代金は私が払っておくからいいぞ。……むっ!?」

 

 モモンガが見られる前にさっさと会計を済ませようとしたその時……周辺の空間にひびが入るようなエフェクトが生じた。

 

「モモン様!?いかがなされましたか!?」

「私の攻性防壁に反応があった。誰かが私を覗き見ようとしたらしい。あまり見られていないと思うが……。見られていたとしたら……許せんな」

 

 モモンガはちらりと山と盛られた本に混ぜられた1冊を見やる。これを見られていたとしたら本当に許しがたい。

 

 

 

───さらに次の瞬間

 

 

 

 書店の棚がガタガタと揺れ始め、遠くから爆発音が聞こえてきた。周囲の通行人がそれに驚いたのか悲鳴を上げている人間もいる。

 

「犯人は意外と近くにいたようだな。恐らく反撃設定しておいた<爆裂(エクスプロージョン)>が発動したのだろう。ナーベ、行くぞ」

「はっ!」

 

 

 

 

 

 

 法国の特殊部隊『漆黒聖典』。

 それは6柱の大いなる神に合わせて編成された6つある聖典部隊の中でも特に戦闘に特化した特殊部隊である。

 

 それ故にその信仰心は他の追随を許さず、信仰のためにはどんな非道なことでも迷いなく行うことが出来る。

 

 その狂信者と言える漆黒聖典の内、帝都を見渡せる丘の木の上に二人の隊員が潜んでいた。

 

「<占星千里>、漆黒の様子はどうだ?」

「昨日に続けて帝都を散策しているみたいよ、<巨盾万壁>。あの二人の子供は今日も別行動ですね」

 

 本名ではなく異名で呼び合う二人。

 一人は占星千里と呼ばれる少女でモモンガの元の世界の女子高生のような恰好をしていた。

 一方、もう一人の巨盾万壁と呼ばれた男は巨大な2つの盾をもつ巨漢であり、隠れ潜んでいなければ非常に目立つことだろう。

 

「本当にあれらが陽光聖典を全滅させたのか?俺はまったく強さを感じなかったぞ」

「でも……実績は本物ですよ。能力隠蔽の魔法道具か何かを使っているのではないですか?」

「まぁ実力についてはそれで良いとして……それより信仰心の方はどうなんだろうな?いまいち奴らの行動の目的が分からない。亜人や異形種を殺すのを止めに来たかと思えば、冒険者組合の依頼で魔物を狩りまくっている。地位や名誉が欲しいのかと思えば王国でも帝国でも仕官を断ってるし……なんなんだよあれは。占星千里、お前はあいつらの強さを看破出来たりしないのか?」

「いえ、それは……私でも見破るのは難しいのではないですか?あなたの戦士としての勘でさえ感じ取れないほどなんですよ?」

「ったくよー。巫女姫をさっさと稼働させりゃいいのに本国は何やってるんだか……」

「……あの子はまだ9歳ですよ。せめて10歳までは人間として生かすと神官長たちが決めたんじゃないですか」

「それはそうだが……神への信仰の……それこそ人類のためだぜ。さっさと便利な魔法道具(マジック・アイテム)にならないもんかね。それさえ出来りゃあれも看破できるんじゃねえか?」

「そうかも知れませんが……ん、建物の中に入りましたね。あれは……書店でしょうか」

「おっ、もしかして聖書でも買ったりするのか?だったらいいんだがなぁ。占星千里、分かってるな?」

「はい。何を買おうとしているのか、何を考えているのか、それを探らせてもらいましょう。<千里眼(クレアボヤンス)>!あ……ああ……これは……これは!?」

「どうした?まさか春画でも買ってたか?ははは、んなわけないか」

「逃げてください!来ます!武技を発動してください!」

「は?何を言って……な、何だと!?」

 

 次の瞬間、占星千里は後悔した。

 あれは人が手を出して良い存在ではなかったのだ。きっと自分たちが探ってくるということもすべて見通していてからかっていたのだろう。

 自分の放った魔法に対して抵抗する恐ろしいほどの力を感じる。

 

 そして占星千里は身を焦がす爆風に四肢が引きちぎられるのを感じながら意識を失うのだった。

 

 

 

 

 

 帝都が大騒ぎになってしまったためモモンガは仕方なく本の購入は諦めて書店を出る。

 さすがにこの状況で買い物を続けるわけにはいかないだろう。まずはモモンガを探ろうとした相手を確認するのが先決である。

 

 恐らく煙が上がっている場所が<爆裂>が発動した地点だろう。そこへと移動しようしたその時……背後から肩を掴まれた。

 

「失礼!」

「ん?君は確か……ニンブル殿だったか?」

 

 そこにはなぜかジルクニフの配下である四騎士の一人、ニンブルが立っていた。

 

「モモン殿。失礼ですがちょっとお話を伺いたいのですが……」

 

 モモンガはその言葉に周りを見る。

 大騒ぎがパニックへと発展していた。

 それはそうだろう。帝都ではあれほどの大魔法など見たこともない一般市民ばかりなのだ。町の近郊で巨大な爆発とともに町全体が揺れたのだからたまらない。

 

「ひょっとして……私たちのせいだと思っているのか?」

「……違うのですか?」

 

 ニンブルにジト目で睨まれる。事実モモンガのせいではある。もし街中に相手がいた場合はさらに大惨事になっていたことだろう。

 そうでなくてよかったと思いつつモモンガは考える。

 

(<爆裂>は私のせいだとして……私が悪いのか?無粋な覗き見をしてきた連中が悪いのではないか?そもそもユグドラシルでは<爆裂>程度で相手が懲りるようなことはなかったのだし……)

 

「攻撃されたから反撃しただけだ。どこの誰かは分からないが私を魔法で覗き見ようとした者がいる」

「至高の御方のことを探ろうなど無礼も甚だしい!万死に値します!」

 

 どう考えても自分に非などないと正当防衛を主張するためにも正直に状況を話すことにする。その言葉に堂々と追従するナーベラル。

 

(お前は頼むから黙っていてくれ……)

 

 二人の自信の満ちた態度にニンブルは怯んだ。そう、ニンブルもそのモモンガを探ろうとしていた一人なのだから……。

 

 

 

 モモンガが帝都に戻ってきたと聞いたジルクニフにより動向を探るように命令を受けて後を付けていたのだ。

 

『もしどこぞの馬鹿が絡んで怒らせでもしたら大惨事になる』

 

 ジルクニフの言葉である。

 そのためニンブルは絡んでくるような輩を排除ししつつ、追跡を続けていたところにこの大爆発が発生したという次第である。

 それが自分以外の追跡者の末路であったと知りニンブルの背中に嫌な汗が流れた。

 

「そ、そうなのですか……。それなら仕方がない……かもしれませんね。あの……現場に同行してもよろしいですか?」

「それはいいが……随分都合よく現れたものだな」

「えー、そ、それはですね……陛下に言われたというか……そ、そう!陛下に本を買ってくるように言われてですね!別にモモン殿たちを探っていたわけではないですよ!たまたま!たまたま本を買いに来たらすごい音がしたので出て来たのです!」

「なぜ皇帝陛下の側近がわざわざ町の本屋に買いに来るんだ?」

 

 言外に『持って来させればいいのに』というニュアンスが匂わされている。

 ニンブルは冷や汗をかきつつ、助けを求めるように周りを見るとカウンターに積まれたある本に目を止めた。

 

「それは……そう!これ!このモモン殿の活躍を物語にした本が発売されたと聞きましてね!これの作成には我々も協力していまして!モモン殿の雄姿が今後とも語り継がれるようにと……」

 

(こいつらか!)

 

「よし!その話はあとで詳しく聞かせてもらおう!」

 

 こんな恥ずかしい本を今後もバラまかれてはたまらない。モモンガは絶対に発売中止にしようと決意しつつ、次の行動に移る。

 

「まぁ話はあとだ。ニンブル殿が来たいというのであれば一緒に誰が覗き見ていたか調べに行くとするか」

 

 モモンガのその言葉に、ニンブルは覗き見をしていた相手が帝国関係者でないことを……特にいつか失態を演じた某主席宮廷魔術師でないことを神に祈るのだった。

 

 

 

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