モモンとナーベの冒険~10年前の世界で~ 作:kirishima13
モモンガたちが到着したその場所、<爆裂>が発動したと思われる箇所の周辺は折れたりなぎ倒された木々が散乱していた。よく見ると木々に血や肉片がこびりついている。
元々は木々の生い茂る丘の上であったのだろうがもはやその面影はなく、凄惨な光景がそこには横たわっていた。
「こ、これは……これほどの威力の魔法が存在するのか……」
ニンブルはその様子に絶句する。
爆心地と思われる部分にはクレーター状に大きな窪みが出来ており、そこから周囲に血や肉片、そしてそこから飛び出す骨が散らばっていた。
ニンブルは職業柄、敵を剣で斬り殺すことはある。しかし、このような惨状を作り出すことは不可能だ。あらためて魔法と言うものの恐ろしさを思い知る。
そしてその原因と思われる人物はというと……。
「しまったな……<爆裂>程度でこうなってしまったのか。これでは話が聞けないではないか」
「罪を償うこともなく死ぬとはまったくもって不敬ですね!」
モモンガとナーベラルのまるで世間話をするような態度の会話にニンブルは怖気を感じる。もしや人の命を何とも思っていないのではないかと勘繰ってしまうほど無味乾燥な日常会話のような態度だ。
「む、あそこに盾が落ちているぞ……」
モモンガが指さした先に巨大な盾が置かれていた。爆発のあった場所に何故か置かれている焼け焦げた盾。違和感しか感じない。
「タワーシールド……でしょうか?帝国でこれだけの巨大な盾を使っているとなると……」
ニンブルは最近加入した帝国4騎士の一人を思い出す。
2つの大盾を使う騎士だが隠密行動を得意とするような者ではない。それに彼が動いていたのであればニンブルに知らされないということもないだろう。いや、そうであってもらわなくては困る。
「心当たりがあるのか?」
「い、いえ。彼がこのような場所にいるはずがありませんので……」
ニンブルは祈る気持ちで盾をどける。
すると下から現れたのは見たこともない男だった。ニンブルは思わず安堵の溜息をもらす。
髪はチリチリに焼け焦げており、全身も火傷だらけだがわずかにうめき声をあげている。なんとか生きているようだ。
片手で大盾を持ち、もう一つの手には何かを大事そうに抱え込んでいた。
「知らない男ですね。私が調べても?」
「ああ、別にかまわない。何か分かったら教えてくれ」
ニンブルは男が握っている手を開かせて中を確認する。
握られていたのは聖印と呼ばれる飾りであった。帝国においても教会関係者は信仰する神ごとに決まった聖印を首から下げている。つまり一般人ではなく教会関係者の可能性が高いということだ。
「これは……聖印のようですね。ですが私は見たことがないものです。少なくとも4大神のものではありませんね」
「4大神というとこのあたりの宗教だったか?そうするとこの男は別の神を崇める異端ということになるのか」
「そうかもしれませんが……4大神以外にも従属神などの細かい派閥もあるのでなんとも……彼をこちらで預かってもよろしいですか?」
「かまわないが……まず治してからだな。このままでは話が出来ない。ナーベ」
「はっ!《大治癒》! 《死者蘇生》!」
「なっ……蘇生魔法……!?」
治癒魔法は以前闘技場で見たニンブルであるが、蘇生魔法まであっさりと使われたことには驚きを隠しきれない。
それは主席宮廷魔術師であるフールーダでさえ使えない高位の神聖魔法であり、帝国ではただの一人も使い手がいない大魔法であるからだ。
バラバラの肉片だったものがまるで時間が巻き戻るように人間の形へと戻っていく。
「これで話をすることが出来るだろう。では話を……いや待て、ラナーから《伝言》が入った。なんだと……?」
「あの……ラナーというと一緒にいたあの赤い頭巾の女の子でしょうか?」
「ああ。今、法国の聖典と思われる者達と対峙しているらしい……。なぜだ……友達と遊んでいるのではなかったのか……」
モモンガの頭は混乱する。
なぜ夏休み中の二人がそんなことになっているのか。あまりにもモモンガの頭の中での想像とかけ離れた報告である。
「ともあれ聖典というのは以前あった連中の仲間か……すぐに向かった方がよさそうだな」
モモンガはトブの大森林で対峙した集団を思い出す。
人類以外は問答無用で殺害すると明言するような相手だ。ラナーたちが不覚を取るとは思わないが万が一はあり得る。
モモンガは蘇生直後で未だうめき声をあげている二人を見つめた。
彼らをここに放置するというわけにもいかない。帝国の衛兵に渡すにしても相手はかなりの実力者に思える。逃げられたりでもしたら面倒なことこの上ない。
「仕方がないな。<
モモンガの創造系魔法により黒々とした巨大な塔が出現する。王都を出る際に野営用に使おうとして失敗した魔法である。
「なっ……これは……」
「彼らはここに放り込んでおこう」
突如出現した巨大な塔にニンブルは言葉を失うが、モモンガは無造作に二人を持ち上げると入り口を開けて中に放り投げた。
この要塞はなぜか『作成者以外扉の開け閉めが出来ない』という仕様になってしまっているのは実験済みである。
破壊できるだけの力があれば外に出ることは出来るだろうが<爆裂>程度で死傷する相手には無理な話だろう。留置場代わりに丁度いい。
「ここに閉じ込めておけば逃げ出すことは出来ないと思う。私は仲間に呼ばれたのでそちらへ行くがニンブル殿はどうする?」
不審者の所在も気になるところであるがニンブルの任務はあくまで漆黒の動向調査である。
ここで不審者の尋問をすることよりも明らかに異常な力を持つ『漆黒』のほうを追跡することをジルクニフも望むだろう。
「私も同行させていただきます。彼らについては……他のものに任せましょう」
ニンブルは急ぎ帝城へ使いを飛ばすとモモンガたちに同行するのだった。