モモンとナーベの冒険~10年前の世界で~   作:kirishima13

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第60話 ラナーとクライムの夏休み 1日目

 長期の休暇をもらったラナーとクライムは帝都の街へと繰り出していた。特にクライムは久しぶりの自由行動にはしゃいでいた。

 

 それもそうだろう。

 スラムで死にかけているところをラナーに拾われ、モモンガたちと合流してからは冒険者としての仕事や力をつけるための魔物討伐など想像も出来ないほどの非日常が続いており、久しぶりの日常と言える日なのだ。

 

 軍資金の方も潤沢である。

 ラナーやクライムは遠慮したのだが、モモンガの方針で報酬は山分けとなっており6歳児二人が持つには明らかに過剰なお金を持っていた。

 

 何に使おうかとワクワクしながら歩いていると、周りからジロジロと見られる。

 赤い頭巾と犬の着ぐるみという奇妙な格好で歩いていることもあり若干注目を浴びていた。さらになぜか何人かが尾行までしているのをラナーが魔法により察知する。

 

 モモンガたちと一緒の時にはこのようなことはなかったが、二人きりになったからだろうか。しかし、敵か味方か不明なため一応の警戒をしておくに留めることにする。

 

「ラナー様。あれ買っていいですか?」

 

 クライムが屋台を指さしながら許可を求めてきた。子供っぽい話し方も少しずつではあるが改善されているようだ。丁寧語で話すクライムに一抹の寂しさを感じつつもラナーはクライムと並んで屋台へと並んだ。

 

「ん?チビどもは客なのか?これは1本5銅貨もするんだが……払えんのか?」

 

 ラナーたちの背格好を見て支払いを心配したのか屋台の主人が聞いてくる。確かに屋台にしては中々のお値段である。

 しかし、クライムはこの屋台ごと買ってもまったく問題ないくらいのお金は持っていると知ったらどんな顔をするのだろうかとラナーは笑ってしまう。

 

「とりあえず2本ください!」

「おっ丁度だな。ほらよ」

 

 無限の背負い袋から出した10銅貨渡すと安心した店主は焼き立ての串をクライムへと渡した。

 

「はむはむ……ラナー様も食べますか?美味しいですよ」

 

 クライムはひき肉を固めて串に刺したような食べ物を美味しそうに頬張っている。タレの焦げる香りに食欲をそそられる。

 

「私は結構です。それより食べ過ぎるとまたご飯が食べられなくなってモモン様が悲しみますわよ」

「んぐ……じゃあ1本にしておく……おきます。じゃあ、おじちゃん!同じの50本ください!」

 

 クライムは残った1本を<無限の背負い袋>へしまうと代わりに銀貨の山を取り出し屋台へと置いた。

 

「こりゃまいど!坊主はおかしな格好してるけど金持ちなんだな……」

   

 思わぬ収入に主人も相好を崩して串を焼き始めた。

 焼きたての串が出来上がるたびにクライムは無限の背負い袋に入れていく。美味しかったので持ち帰っておやつにでもするのだろう。

 

 クライムはその後も同じ調子で買い物を続け、焼き菓子を買い占め、肉をパンで挟んだものを詰め込み、果物や飲み物、果てはシチューを鍋ごと購入してついに……。

 

「あっ……ラナー様……」

 

 泣きそうな顔でラナーを見つめるクライム。

 どうやら重量オーバーで入らなくなったらしい。<無限の背負い袋>は500キログラムまでしか入らないとモモンガから言われていたのを失念していたのだろう。

 

「仕方ないわね。それは私に渡しなさい。買い物はこれまでね」

 

 ラナーはクライムから入りきらなかった分の食料を受け取って自分の<無限の背負い袋>へと入れる。ふと見ると自分たちを物陰から取り囲むようにしている視線が増えていた。

 

「ふーん……ちょっと面倒ね。クライム少し歩きましょうか」

「あ、はい」

 

 ラナーはクライムを連れて人通りの少ない道へ少ない道へと歩いていく。感じていた気配がそれとともに移動してきているのを感じる。

 

「4……いえ、5グループくらいかしら?クライムこっちよ」

 

 商業地区を抜け、職人街を横断し、入り組んだ住宅地区の細い道をあちらへこちらへと誘導するように歩いて回る。そうしてしばらく歩き回るうちにラナーの顔が笑顔になる。

 

「ふふ、いくつかぶつかったみたいね」

 

 追っている人間達は全員が同じ所属ではないようだ。

 お互いに牽制しあっており、そのためにラナーたちに手を出してこなかったのだろう。しかし巧みに追跡者を誘導するようにラナーが歩いたことにより、二つのグループを衝突させられた。

 

 金が目当てかそれ以外が目的かは不明であるが、下手に優秀な人間の思考ならばラナーには手に取るように誘導できた。

 そうしてぐるぐると帝都を回っているうちにやがて追跡グループが一つ消え、二つ消える。

 そして最後には目の前に黒いローブで身を包んだ集団が現れた。

 

「……やれ」

「はっ」

 

 黒ずくめは手短にやり取りをするとラナーたちを取り囲んだ。子供と思って侮っているのだろう。相手は武器を抜くことさえしていない。

 

「ラナー様!」

 

 危険を察知したクライムが動こうとするがラナーがそれを手で制する。

 今のクライムの実力では10秒あれば相手が全滅してしまうだろう。それではせっかくの休日だというのにつまらない。

 

「せっかくの休日なのですし、この方たちと遊んで差し上げましょう」

 

 ニコリと楽しそうに笑う顔はかつてのやせ衰えていた時とはまるで違う。

 健康的に輝く金色の髪と青い瞳はまるで黄金の輝きを思わせる太陽のようであった。一瞬、その美しさに呆けてしまったクライムであるが了解したとばかりに頷く。

 

 一方、黒ずくめの男たちはそれを子供特有の危機管理意識のなさだと思いほくそ笑んだ。そして背の高いリーダー格と思われる男へと視線を向けた。

 

「ウィンブルグ様?いかがいたしますか?」

「しっ……ここは穏便にいこう。ははは、そうだよ、お嬢ちゃんたち。おじさんたちは君たちと遊びたいだけなんだ。おいしいお菓子もあるし、楽しいところに連れて行ってあげるよ」

 

 猫なで声をラナーたちへ向けてくる男。ラナーは後ろの黒ずくめが言った名前を即座に頭の中で分析する。ウィンブルグというのはこの国の公爵の名前だ。

 

(ふふふっ、面白くなってきたわね。遊び相手としては合格ね)

 

 帝国に来るにあたりラナーは当然帝国のすべての貴族名を調べ上げている。

 せっかく長期の休暇をもらったのだ。せいぜい楽しませてもらおうとラナーたちはモモンガへ<伝言>を送ると、抵抗することなく男たちの用意した馬車に乗せられるのだった。

 

 

 

 

 

 

 一方、ラナーたちを追っていた追跡者のうちの一人……バジウッドは焦っていた。

 あの子供たちはジルクニフが注目しているアダマンタイト級冒険者の連れである。それをジルクニフに命じられるまま追跡していたところ、あろうことか彼女たちは市場で大金を取り出して食料の買い占めを始めたのだ。

 

(何をやっているんだあいつらは……そんなことをしたら……ほら見ろ……)

 

 バジウッドの危惧していた通り、幼い子供が大金を持っていると気づいたガラの悪い人間たちが彼女たちを追い始める。

 

 しかし、ジルクニフが取り込もうとしている冒険者の連れにそのような目にあわせてしまっては国を出ていかれかねない。

 

 バジウッドは即座に追跡者の追跡を開始し、そのような輩を順次始末していったのだが……。さすがに数が多すぎた。

 さらにその隙をつくように黒ずくめの集団が現れたことには気づいてはいた。

 当然彼らも制圧することが望ましかったが、それ以外の危害を加えようとしている連中を押さえている間になんと保護対象の二人を連れ去られてしまったのだ。

 

 助けを呼ぶなり、抵抗するなりすると思っていたのになぜか子供たちはスタスタと馬車に乗り込んで去ってしまったのだからたまらない。

 

「嘘だろ!まるで自分から馬車に乗ったみたいに見えたが……いや、そんなはずはねーな。くっそ!陛下に連絡する暇がねーぞ!」

 

 バジウッドは悪態を吐き捨てると走って馬車を追いかける。

 しかしバジウッドは気が付いていなかった。さらにもう一組、彼女たちを追って走っていく者がいることを……。

 

 

 

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