モモンとナーベの冒険~10年前の世界で~   作:kirishima13

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第61話 ラナーとクライムの夏休み 2日目

「ついたぞ。降りろ」

 

 馬車に乗っていたのは10時間ほどだろうか。既に日付は変わって深夜になっていた。

 ラナーは馬車の進む方向や振動から分かる速度、時間から脳内の地図で現在位置は把握している。ここは帝都郊外の墓地のはずだ。

 男たちに言われるがまま素直に馬車から降りる。

 

「ここはどこですか?」

「お前たちが気にすることはない」

「あら?美味しい御菓子をご用意いただけるのではなくて?」

 

 惚けたラナーの言葉に男の顔が歪む。いくら幼いと言ってもまさかここまで来て誘拐されたと気付いていないとは思ってもみなかったのだろう。

 ラナーを無視するように男は墓石の一つを動かすと下から階段が現れた。

 

「こっちだ」

「ここで何をしているんですの?」

「あとでわかる」

「ふふふっ、きっと楽しい遊びをなさっているのでしょうね。中には何人くらいいるのですか?」

「……」

「30?40人くらい?そう、40人くらいですか」

 

 男の顔が固まった。

 表情を読まれた……いや、こんな子供にそんなことは不可能だろうと思うものの男はラナーに不気味なものを感じ始めていた。

 

「私たちは無事に帰れますか?無理?そうですか。ふふっ、なるほど分かりました」

「うるさい!黙って歩け!」

 

 男は薄気味の悪いガキだと思うが力づくであればどうにでもなるだろうと気を取り直す。

 ラナーたちは男に案内されるまま暗い階段を降りると広い廊下が続いていた。

 周囲には燭台に蝋燭が灯されて明かりを取っているが決して明るいものではなく、ゆらゆらと動く自分たちの影が不気味にたゆたっている。

 

「ここに入ってろ」

 

 連れていかれたのは何もない広い部屋である。当然そこには御菓子もお茶も遊ぶための玩具もなく、それどころか椅子やテーブルさえなかった。

 押し込められるように中に入ると後ろで扉が締められる。

 

 しかし、何もないといったのには語弊がある。そこには10人ほどの子供たちがいたのだから……。その誰もが不安そうな顔をしていた。

 

「そこのあなた」

 

 ラナーはツカツカと中に入っていくと物怖じすることもなく、一番年上と思われる少年を指さす。

 

「あなたはここがどこで何をしている場所なのかご存じかしら?」

「し、知らない!俺何もしらない!」

 

 怯えたように答える少年。しかしラナーはその表情が嘘であることを一目で看破する。

 

「知っているのね。ここから出された子供たちはどうなるの?」

「そ、それは……」

 

 ラナーは少年の瞳の中の恐怖を読み取った。そこに見えるのは暴力を振るわれるとか怒られるとかその程度の恐怖ではない。命の危険を恐れる生物としての恐怖の目。

 

「……殺されるのね」

「ひっ……」

「でもそれは何のため?連れていかれるとき何か言ってなかった?」

「じゃ、邪神に捧げるって……」

「邪神?邪神ね……はぁ……何ともつまらない理由ですわ」

 

 どうやらただのカルト教団の生贄に選ばれただけのようだ。もう少し規模の大きい組織であればモモンガ様のお役に立てたのにとラナーは落胆する。

 

「それでも暇つぶしくらいにはなるかしらね」

 

 ラナーが頬に手を当てながら首を傾げていると、『グーッ』という音が部屋に鳴り響く。クライムのお腹が鳴ったのだ。

 

「ふふふっ、そういえばもう夕方かしら?」

 

 お昼に串焼きを食べていたが移動で結構時間が経過している。時間的には夕食を抜いてしまったことになるだろう。

 

「食事にしましょうか。クライム」

「はい!」

 

 ラナーは<無限の背負い袋>からテーブルと椅子を取り出す。さらにテーブルクロスを取り出すと、その上にグラスや皿を並べていく。

 続いてクライムの<無限の背負い袋>からは帝都で袋がパンパンになるまで買った食料を取り出した。サラダに果実水、肉料理に、白パン。すべてが出来立てのように湯気を上げている。

 

 その様子を捕らわれていた子供たちは呆然として見ていたが、ラナーは気にすることなく椅子に腰かけると指を胸の前で組み合わせる。

 

「至高なる神モモンガ様、今日この命がある事に、糧を与えてくださることに感謝いたします」

「感謝いたします!」

 

 二人は食前に自らが崇める神へと祈りを捧げる。目の前でやると止められるので本人のいないところでナーベラルとともにやっている祈りである。

 

 祈りを終えて二人で食事を食べていると、背後からお腹の鳴る大きな音がしてきた。それも一つだけではなく複数である。ふと見るとお腹を空かせた子供たちが羨ましそうにテーブルを見つめていた。

 それに気づいたクライムが申し訳なさそうにラナーを見つめる。

 

「ラナー様……」

「……下等生物などに分けてさしあげる必要はないと思いますけど?」

「でも……」

「はぁ……仕方ないわね。この料理はあなたが買ったものなのだから好きにすればいいわ」

 

 ラナーの言葉にクライムは嬉しそうに顔を綻ばせる。

 食うや食わずの生活をしていたクライムには空腹の子供たちの前での食事は心苦しかったのだろう。

 

 クライムが食事を差し出すと嬉しそうに子供たちが群がってきた。

 しかし子供たちがテーブルの近くに来たことにより人間以外の種族が一人だけ後ろに隠れていたことに気が付く。

 さらにその亜人の子供だけは子供たちの輪に入っておらず、テーブルにも近づいて来ない。

 

「あれは……?」

「おい!何をしている!」

 

 亜人の子供に声をかけようとしたところ、騒ぎに気付いたのだろう。中へと入ってきた男が部屋の様子に驚く。

 それはそうだろう。ただ監禁するためだけの何もない部屋に突如として立派なテーブルや椅子が並んでおり、そこで食事までとっているのだから。

 

「どどどどどういうことだ!?部屋を間違えてねえよな!?」

「あら、(わたくし)たちは食事をしていただけよ。何もおかしなことはなくってよ?」

「お、おい。こいつ何言ってるんだ?誰が用意したんだこんなもの!?」

「分からねえ。ウィンブルグ様の指示かもしれない。聞いてくる!お前ら!とにかく静かにしてろよ!」

 

 慌てて男たちが部屋から駆け出していく。その間に食事は終わったのでテーブルや椅子は<無限の背負い袋>に戻して食休みをしていると、誘拐の際にいた背の高い男が入って来た。

 

「おい、さっき言ってたものはどこだ?どこにもテーブルなんてないが?」

「へ?いや、確かにさっきまでありましたが……」

「この私に虚偽の報告をしたと?その場合粛清対象になるが……」

 

 男の目が黒ずくめたちを睨みつける。

 後ろ暗いことをしている組織がゆえの常識というのか。密告されないよう裏切者に対する報復でも行っているのだろう。もしそうならばいい見世物が見られるかもしれないとラナーはほくそ笑む。

 

「し、信じてください!俺たちは嘘なんかついていません!おい、あのテーブルはどこに隠した!」

「あら、何のことかしら?ねぇ、クライム。テーブルなんて知りませんわよね?」

「うん!串焼きもシチューも全然知らない!……ゲップ」

 

 ニヤニヤと惚けるラナーとクリームシチューの臭いのするゲップをするクライム。

 うまく内部分裂が見られれば面白いと思っていたのだが、さすがにクライムのゲップのせいで男は気が付いたようだ。

 

「ふーむ……。収納の魔法道具か何かを持っているのか?こんな子供が持っているとは思えないが……。後で調べることにしよう。それより……子供たち、時間だ」

 

 ニヤリと笑う男を見て子供たちは恐怖の表情でビクリと身を縮める。これまでも同じようなことが繰り返されてきたのだろう。

 

「祝福の時間だ。この中から二人、幸せになる権利を与えよう。さあ、希望者はいるか?」

 

 『祝福』。きっと碌なものではないものの比喩だろう。

 子供たちの皆が皆震えて声も出せないようだ。歳が上で体の大きい子供ほど後ろで目立たないようにしており、それどころか小さな子供を前に押し出そうとしているほどだ。

 押し出されそうな小さな子供は涙目になりながらも、さらに亜人の子供を押し出そうとする。

 

「クライム、見ましたか?まったく人間とは醜いものですわね」

「はい……」

 

 弱い者がさらに弱い者を犠牲にしようとするその醜い様子にクライムは弱弱しい声でつぶやく。

 かつて自分もあのように世の中からはじき出されたことを思い出したのだろう。弱く愚かな存在であるくせにさらに弱い存在を叩く、それがラナーの考える人間だ。

 弱いものを利用するだけならばまだ分かる。だがあれは何の考えもなしに異物を排除しようとしているのだ。だからこそ食事の時もあの亜人は一人でいて輪に入ってこなかったのだろう。

 ラナーはそんな一団の中、一歩前に出る。

 

「ふふふっ、その幸せになる権利とやらは私とこのクライムがいただきましょうか」

「ほぅ?自分から名乗り出るとは信仰心が高いことだな」

「ええ、私の信仰している存在は本当の意味でこの世界で至高なる存在ですから」

 

 ラナーの語るその存在が男の信仰する存在と違うと分かったのだろう。ウィンブルグと呼ばれる男は眉にしわを寄せると部下たちに命じてラナーとクライムを廊下へと連れ出した。

 

「こっちだ」

 

 狭く暗い廊下を男たちに連れられて右へ左へと歩いていく。やがて廊下から洞窟を思わせる通路へと入っていくと、そこに作られた祭壇のある広間へと出た。

 

「ふーん……まぁこういう趣向も美の一つとしてあることは認めますがセンスは皆無ですわね」

 

 床に転がった子供のものと思われる無数の骨。そして大きな石でできた台と巨大な肉切り包丁。石には赤黒い跡が所々に残っている。

 

 その向こう側にある祭壇には髑髏が置かれ、その眼窩に蠟燭が部屋を不気味に照らしていた。よく見るとその周りが様々な動物の骨と思われるもので飾り付けられている。

 

「お前たちは邪神様への貢物とされる。感謝するがいい」

「邪神?それがあなたたちの信仰する神なのですか?その神の名前を教えていただいても?」

 

 絶対の神たるモモンガ様を差し置いて邪神を名乗るとは何と愚かなのだろう。

 ラナーは笑いをこらえながら邪神の名前を聞こうとするが、ウィンブルグの部下と思われるその男にはその態度が気に入らなかったようだ。

 

「様をつけんか!この生贄風情が!」

 

 激高した男がラナーを殴りつける。クライムが前に出ようとするがラナーはそれを手で制した。

 この程度の打撃で傷つくほどもはやか弱い存在ではない。むしろ虫けらを弄んでいる気分である。

 

「様をつけないくらいで怒るとは随分矮小で卑屈な神のようね。本当の神というのはその程度の些事には動じることもなく泰然とされているものよ」

 

 ラナーは自分の知っている(モモンガ)を思い浮かべる。

 ラナーさえ知りえない高度な知識を有し、自分がいかに侮辱されようと下等生物程度を相手に感情を乱されることもない。保護したものには絶大な慈悲を与え、敵対する者には死すら生ぬるい天罰を与える。

 目の前の男が信仰する矮小な神など吹けば飛ぶほどの偉大な御方だ。

 

「黙れ!今すぐ殺してやってもいいんだぞ!」

 

 元々殺すつもりで連れてきておいてそのようなことを言う男をラナーが笑うと、さらに激昂した男がラナーの頭をガツンと殴る。

 しかしラナーは気にすることなく質問をする。

 

「そのあなたたちの言う邪神とやらに私たちを捧げて何がしたいのかしら?」

「黙れと言っているだろうが!」

「あら、どうせ殺すのでしょう?では死ぬ前にそのくらい教えてくれてもいいのではなくて?」

「てめぇ!」

 

 さらに殴りつけようとした男をウィンブルグが止める。さすがに本当に生贄にする前に殺されてはたまらないと思ったのだろう。

 

「おい、儀式の前に殺すんじゃない。いいか、お前の魂は邪神へと捧げられてかの地で魂は救済され幸せを得るのだ。そしてその代わりに我々は別の奇跡を得ることになる」

 

 ウィンブルグの言葉にラナーは首を傾げる。どう見てもここにいる男たちにその奇跡とやらを起こす力があるようには思えない。

 レベルにして10以下だろう。そんな彼らが生贄を捧げて何かが起こるとは思えなかった。いつかモモンガから聞いた話によると人の死を捧げて発動する魔法はあるが、それに見合ったレベルや能力がなければ発動することはできないという。

 

「奇跡ね……それはもしかして魔法のことをいっているの?何という魔法なのかしら?」

「魔法などという(まじない)い師の使うインチキと一緒にするな。奇跡とは永遠の命のことだ。我らが信仰する邪神様は……」

 

 恍惚とした表情で語り始める貴族風の男。

 自分に酔いしれているところを悪いが、『魔法でない』と言い切った時点でラナーにとっては取るに足らない話になってしまった。

 もし未知の魔法ということであれば何らかの役にも立つだろうが、どうやらただ根拠もなく奇跡が起こると思っている愚か者たちだったらしい。

 

「あなたがこの教団のトップなのかしら?」

「いや、私は幹部の一人だ。それがどうした」

「トップの人は人間?」

「どういう意味だ?」

「ああ、もういいわ。だいたい分かったから」

 

 ラナーの感知魔法にはアンデッドの反応がある。さらに生贄という死者を捧げるという儀式。アンデッドの関係している秘密結社と言えば予想が付く。

 

 『ズーラーノーン』。アンデッドを使う犯罪組織だ。恐らくアンデッドにするための素体にするか、アンデッドになるための儀式に使うかと言ったところだろうか。

 

「これはあの御方の役に立つかしら?いえ、あの御方以外を、それも邪神なんて信仰している時点で不敬ですわね。面倒だし潰しておこうかしら」

「何を言っている、気でも触れたのか……。まぁいい。さっさと台へ寝かせろ」

 

 ぶつぶつと呟くラナーを気がふれておかしくなったと思ったのか、男は無理やりラナーの体を持ち上げると台に押さえつけ、牛刀を思わせる刃物を振り上げた。

 

「邪神様、貢物をお受け取りください!」

 

 ウィンブルグの合図に大男が巨大な刃物を持ち上げてそれを石の台に叩き下ろす。ラナーの首が切断され、噴水のようにあふれ出た血が男たちの頭から降り注いだ。

 

「ははははははー!どうぞ!どうぞお受け取りください!この赤く迸る命の輝きを!」

 

 発狂したように男たちは両手を天に掲げて踊り狂い出す。

 むせ返るような血の臭いと室内に焚かれた香により男たちは全能の邪神の祝福を全身で感じる。より多くの血を捧げれば永遠の命は自分たちの物であると。

 

「生贄を受け取りに邪神とやらが出てくる可能性も考えてたんですが……そのようなことはないようですわね」

 

 笑い、狂い、踊る男たちに向けてあり得ない声が聞こえた。それは首を斬られたはずの幼女のものだ。

 何事かと声の下先へ振り向くとそこには先ほど首を斬られたはずのラナーがクライムと共に入口に立っている。ラナーの首には傷一つなく、それどころか殴られて流していた血さえ流れていない。

 

「な、なに!?どうして……」

 

 それに気づいた大男が慌てて石の台を見ると貴族風の男、ウィンブルグが首を斬り裂かれて横たわっていた。

 

「初歩的な幻術よ。簡単に殺すつもりはなかったのだけれど……あんなにあっさり殺してしまうなんてあなたたち意外と優しいのね」

 

 言外に私はそれほど優しくはないという想いがあるのを男たちは感じ取る。目の前の幼女が化け物に見えた瞬間であった。

 

「代わりにあなたたちには恐怖と痛みを与えましょう。クライム、出口は押さえておいてね」

「あ、はいっ!」

 

 無邪気な声で返事をするクライムとは対照的に、男たちの感情は先ほどまでの興奮から一気に背筋に氷を突き立てられたような恐怖へと変貌するのだった。

 

 

 

 

 

 

 満足するまで遊んだ後、ラナーとクライムは秘密結社のアジトから子供たちを地上の墓地へと連れ出していた。

 いまだに階段の下から恐怖に怯える悲鳴が聞こえてくるが気にする素振りすらない。

 

 ラナーとしては人間の子供など見捨てても良かったのだが、クライムが渋ったのだ。

 そこで子供たちを保護しようとしたのだが……その際にその豚のような顔を忌避したのか、子供たちの中に亜人の子供に手を差し出そうとする者はいなかった。

 しかしクライムは迷うことなく亜人の子供の手を握り、一緒に階段を上っている。

 

(人間の基準で言えばこの亜人の子供は醜いのでしょうけど……心は人間のほうがよっぽど醜いわね……。それに比べてクライムは……)

 

 無垢な心を持ったまま成長しているクライムにラナーはつい顔がほころんでしまう。そのクライムが救うと決めたのであればこの亜人の子供は助けてあげよう。まずは状況を確認してからであるが……。

 

「あなたはどこから来たのかしら?」

「……」

「あなたの種族は何というの?」

「……」

 

 クライムと繋いだままの手は離さないものの喋ろうとはしなかった。人間を信用できないだけの何かがあったのだろう。

 

「……私たちは、ラナーとクライムは人間ではないわ」

「ぇ……」

「私たちは()()らとは違います。だから話してくださらないかしら?」

 

 無邪気に喜んでいる人間の子供たちを蔑んだ目で見ていると、亜人の子供がポツリと言葉を発した。

 

「私は……ミル。種族は豚鬼(オーク)のミル」

「ミルね。私はラナー、彼はクライム。あなたはどうしてバハルス帝国へ来たのかしら?」

「……ばはるすていこく?」

「ええ、ここは人間の国。バハルス帝国よ。知らなかったの?」

「知らない……。私は村がスレイン法国の人間に襲われて……それで捕まって……」

 

 その時のことを思い出したのかミルの両目からポロポロと涙がこぼれた。

 それをハンカチで拭いてあげながらラナーは次の言葉を待つ。優しさからではない。

 『スレイン法国』。それはモモンガの潜在的な敵国だと認識している。生の情報は貴重である。

 

「ゆっくりでいいわ。話してみて」

「あの……もともと私たちが住んでいたところに別の亜人が増えてきて……暮らしが厳しくなったからお引越しをしたの……」

「それで?あなたはもともとどこにいたの?」

「……アベリオン丘陵」

 

 アベリオン丘陵。

 多くの亜人が群雄割拠しているという話を聞く土地だ。緑は少なく、荒れ果てた大地が広がっており、豚鬼や牛頭人、蛇身人など様々な亜人が住んでいるという土地のことだ。肉食の種族については人間を食料にしているという話も読んだことがあった。

 

「捕まったあと馬車に乗せられて……奴隷にするって言われて連れていかれたの……」

「奴隷として彼らに売られたの?」

 

 いまだに恐怖の悲鳴が聞こえてくる地下への階段を見る。しかしオークの少女は首を振った。

 

「んーん。その途中で女の人が逃がしてくれた……」

「女の人が?それは人間?名前は?」

 

 亜人を助けるために逃がす人間なんて変わっている。

 スレイン法国だけでなく、リ・エスティーゼ王国やバハルス帝国でさえ亜人は忌避されている。その女にラナーは興味を覚えた。

 オークの子供がその名前を告げる。

 

「……クレマンティーヌって言ってた」

 

 

 

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