モモンとナーベの冒険~10年前の世界で~ 作:kirishima13
第62話 合流
ラナーは子供たちを連れて街まで戻ることにした。
このまま放置というのも後で問題になるだろう。モモンガ様にとっては些事だろうし、今はモモンガ様も休日を満喫していることだろう。
戻ってから指示を仰ぐべきかもしれないとラナーは考える。
誘拐犯が使っていただろう馬車もあるし、帰りの道のりも覚えている。馬術についても馬を魔法で操れば特に問題はないだろう。そう計画していたのだが……。
「……これはお前たちがやったのか?」
馬車への子供たちの振り分けや段取りについて考えていると墓地の階段の下から一人の男が現れた。
体中に刺青が彫られており、さらにジャラジャラと鎖が巻かれている。奇抜な恰好。これまで見た男とは明らかに様子が違う。
現れた男の言う『これ』というのは彼が階段の下からひきずってきた発狂して縄に縛られている邪神教団の人間達のことだろう。地下で幻覚を見せ続けていたというのにわざわざ連れてきたらしい。
「お前はその歳でこの男たちにこれほど高位の術をかけたのか?神人……?神人なのだろうな……。そうとしか思えん。人間に新たな神人が生まれていたとは素晴らしい。これから鍛え上げれば立派な信徒となるだろう」
満面の笑みを受かべながらラナーに向けてパチパチと拍手をする男。顔は笑っているもののその眼は注意深くラナーたちを監視していることが分かる。
「我々はお前たちを見極めるためにずっと見ていた。そしてお前たちは合格だ。邪神を崇める異教徒を排したのだから」
「……我々?あなたはどこのどなたなのかしら?」
「あなたなら言わずとも我々が何者なのか分かっているのでは?あなたの仲間の方々も私の同僚が勧誘に伺っているはずですから」
「……」
(……勧誘?合格?)
ラナーは脳裏にモモンガとナーベラルが勧誘されている様子を思い浮かべる。
勧誘の瞬間、その場には血の雨が降り注ぐのを幻視する。主人たちがこのような人間の勧誘を受けるはずもなく、逆に不興をかって酷い目にあっている姿しか想像できない。
「だが最後に少し信仰心を試させてもらおうか……。そこの亜人。それはこちらで保護させてくれないか?」
「……亜人?」
ラナーはいまだにクライムと手を繋いでいる豚鬼の子供を見る。彼女は目の前の男と決して目を合わせようとせず、俯いたまま震えていた。
「そう怖がらなくても悪いようにはしない。この俺が我が神の名にかけて約束しよう」
胸元から何かを取り出した男の言葉にラナーは逡巡する。
相手の実力が未知数なのだ。先ほどから隙を見ては情報系魔法をかけようとしているのだがうまくいかない。何らかの探知防御を行っているのだろう。
誘いに乗ったふりをしてさらに情報を引き出そうとした、その時……。
「い、いやああああああああああ!」
豚鬼の少女が叫び出した。彼女の指が男が取り出したものを指さして震えている。
「ねぇ、あなたどうしたの?」
「だ、だってあの首飾り……集落のみんなを殺した人たちと同じ……」
ラナーがよく目を凝らして男が取り出したものを見る。それは首飾り……いや、教会関係者が神への忠誠を誓うための聖印であった。
ラナーはその形を過去に読んだ書物のものと照合する。
結果は闇の神に対する聖印。そして闇の神を信仰するのはスレイン法国しかなく、その中でこのような場に現れるのは特殊部隊『漆黒聖典』またはその関係者しかありえないだろう。
つまりこの亜人の少女の集落を襲ったのは彼ら漆黒聖典ということ。
「……その亜人を渡してもらおうか?」
「……」
亜人の少女の叫びを無視して男はラナーへと引き渡しを要求する。ここまで分かってしまえばもはや敵対するしか道はない。
「ふぅ……もう少し休みに遊べるかもしれないと思いましたがここまでみたいですね……」
「何を言っている……?」
「分かりました。あなたたちに従いましょう。ですがその子をどうするつもりなのか教えてもらえますか?」
「気になるか?はぁ……まぁどうせ後でわかることだ。良いだろう。亜人は子供でもやがて大人になれば人間を食らい殺す生物となる。今のうちに駆除しておかなければならない。あのバカ女が逃がしたりしなければこんなことをしなくてもよかったんだがな……。あいつがいなければ私の席次も上がるものを……」
悪態をつきながら地面を蹴りつける男を見ながらラナーは考える。
バカ女と言うのはおそらく豚鬼の少女が言っていた逃がしてくれたクレマンティーヌという女のことだろう。その女に目の前の男はライバル意識を持っているようだ。そのあたりを突けば時間を稼げるかもしれない。
「私たちは人間を食べたりしない!!」
「……だそうですけど?人に無害な亜人のようです。どうもその女の人の方が正しい情報を持っていたようですね。あなたより彼女の方が優秀ということの証明なのではなくて?」
「そんなはずがない!あんな……あんな血筋だけで優遇されているような……いや、そんな話はいい!その亜人は今は弱いから逃げるためにそんなことを言っているだけだ。所詮は亜人、将来きっと人間を殺す」
それは人間も同じではないかとラナーは思うが愚かな生物ゆえにその矛盾に気づかないのが目の前の男か。その無言を反抗と取ったのか男は不満げに漏らす。
「お前も私の国に来て洗礼を受ければ変わるさ。亜人や異形は悪、アンデッドは滅ぼすべきもの。これは神の決めた定めなのだ」
よほどその洗礼というものに自信があるのか恍惚とした表情で語る。
法国にとって神とは六大神以外ありえないものだが、ラナーにはそれが彼女の主人と同等の存在ではないかと考えている。
そして法国に今なおも神、主人と同等の力を持った者がいるのであれば亜人などとうに殲滅されていることだろう。
つまり……法国に神はいない、それがラナーの出した結論である。
「……それは聞き捨てならないな」
その神はラナーの期待を裏切らない。
ラナーが密かに送った《伝言》。
予想通りの時間とタイミング。
まさに狙ったかのように現れてすべてを蹂躙して死すらを超越した恐怖を与える存在。天から啓示を与える神のごとき荘厳な声とともに