モモンとナーベの冒険~10年前の世界で~   作:kirishima13

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第67話 大侵攻前夜

「というわけで、モモン様の狙い通り漆黒聖典から第九席次が離反しました。巫女姫を失ったことでスレイン法国も混乱しているようです」

「そ、そうか……」

 

 ラナーからの報告を聞きながらモモンガは首を傾げる。

 

(巫女姫?何を言っているんだ?狙い通りって別に何も狙っていないんだが……法国に仲間たちがいるとは思えないしなぁ。ソウルイーターも仲間たちと関係なかったし……)

 

 ビーストマン国のソウルイーターについては早々に片付けてきた。召喚されたモンスターであればもしやと思っていたがどうやら自然発生した個体たちであったようだ。

 

「モモンガ様謹製のアンデッドと比べるまでもありませんでしたね」

「まぁな……」

 

 ナーベラルの言う通りスキルによる強化がされるモモンガの中位アンデッド作成によるものよりかなり弱かったのも自然発生したものと判断した理由の一つだ。

 もしプレイヤーによる召喚であれば何らかの強化がなされている可能性が高い。つまるところ仲間の情報なしということである。

 

「さてどうしたものか……」

 

 人間の国にも仲間たちの情報もなく、手掛かりと思えたアンデッドも空振り。人間の宗教国家は異形を排斥しようとし、豚鬼たちの情報によると亜人たちはアベリオン丘陵で人間の支配域に一斉蜂起しようとしている。

 

「あの……モモンガ様はどちらにつくのですか……」

 

 珍しく着ぐるみ姿のクライムがモモンガに話しかけてきた。その瞳は何かを心配しているようであるが、それはおそらく人間たちを心配しているわけではないだろう。迫害される亜人たちをかつての自分に重ねているのだろう。

 

「……お前たちは人間が嫌いか?」

 

 3人の仲間たちが頷く。

 

「そうか」

 

(亜人たちの側につき、人間を打倒することは容易い……。だけどそれでいいのか?いつか会うかもしれない仲間たちにそれが俺たちの居場所だと胸を張って言えるだろうか……)

 

 モモンガは考える。この世界に本当に自分たちの居場所などあるのだろうかと。

 

(いや……違うな……。居場所とは探すものではない。かつてナザリックを手に入れた時もみんなで考えたはずだ。居場所とは探すのではなく……)

 

 モモンガは熟考した後、3人の顔を見ながら一つの結論を出すのだった。

 

 

 

 

 

 

「ビーストマン国のソウルイーターについては我々が始末してきた」

「……」

 

 モモンガが今いるのは大侵攻へと備えて数々の亜人たちが集結している集落である。広大な丘陵の中、見渡す限り数々の亜人たちが集結している。

 豚鬼たちに繋ぎを取ってもらい、紹介してもらったのだ。

 

 蛇身人(スネークマン)鉄鼠人(アーマット)洞下人(ケイブン)獣身四足獣(ゾーオスティア)。さらにはモモンガの知らない種族もいることもあり、実に興味をそそられる顔ぶれである。

  しかしそこにはただ1種族、『人間』という種族だけはいない。

 

「何を馬鹿な!信じられるか!」

「これがビーストマン国の都市長からの書簡だ。ソウルイーターの死体もある。見るか?」

 

 実験用にでも使えるだろうとソウルイーターの死体は1体は回収しておいたのだ。

 インベントリからソウルイーターが広場に出されると悲鳴が上がった。小さな都市であれば1体で滅ぼすとも言われる災害級のアンデッドである。その恐ろしいまでの凶悪さを知っている者たちだろう。

 

「ソウルイーターは倒れた。これでビーストマンがこの地に流入するのは収まるのではないか?」

 

 そもそも痩せた土地に多くの亜人が集まりすぎたのが原因の大侵攻である。この土地で生きていけるのであれば人間の土地に攻め込む危険を冒す必要もないだろう。

 

「……だいたいおまえは何なんだ!?その連れているちっこいのは人間じゃねえのか!?」

 

 獣身四足獣の族長がモモンガたちをその鋭い爪で指さす。漆黒の鎧の下は人間だと言いたいのだろう。しかし、モモンガはもはや姿を隠す気はない。

 

「私たちは人間ではないと言っている。仕方ない……良いだろう、私はこういうものだ」

 

 モモンガはおもむろに兜を外す。その下から現れたのは白磁のごとき白骨。その眼窩には眼球はなく、炎の如き赤い光が輝く。

 さらに先ほどまでは感じなかったその全身からは見るだけで恐怖を引き起こすような漆黒のオーラが立ち上っていた。

 

「あ、アンデッド!?」

「アンデッドだ!」

 

 亜人たちたちの中から恐怖の叫び声が次々と上がる。しかしその声をかき消すように厳かな声が場を鎮めた。

 

「私はアンデッドではない!スケール族だ!」

「……は?」

「私は偉大なるスケール族の魔法戦士モモンである。お前たちは偉大なスケール族を知らないのか?」

「ス、スケール族?なんだそれは?スケルトンじゃないのか?」

「スケルトンと一緒にされるのはスケール族への侮辱だ。この場に信仰系魔法詠唱者はいるか?アンデッド反応を感知してみるがいい」

 

 そのあまりの自信のある様子にしぶしぶながらいくつかの部族から信仰系魔法詠唱者が連れて来られる。

 

「……アンデッド感知に反応ありません」

「どうだ?分かったか?私の連れている子供たちもスケール族だ。年を得れば私のように立派な白き肉体になるだろう」

 

 ラナーやクライムたちに関しては寿命を迎えれば真っ白な骨だけになるので嘘は言っていない。

 モモンガの言葉を信じたのか、アンデッドだと恐れる声は小さくなり、代わりに期待に満ちた目で見られるようになった。

 

「それでソウルイーターを倒したスケール族の戦士よ。我々に力を貸してくれるのか」

「……力を貸す?」

「人間の街を奪うのに力を貸してくれ!このままでは我々は永遠に土地を求め争い合うことになる!」

「……ビーストマンの流入が止まれば土地問題は解決するんじゃないのか?」

「……無理だ。この乾いた大地でこれまでに食料を消費しすぎた。これ以上は耐えられない……それに人間は我々を殺しすぎた……」

 

 亜人たちの目に宿るのは恨みや憎しみを含んだ負の感情。親や兄弟、恋人を殺されたのか。その感情はもはや爆発する先を探しているのだろう。

 

「そうか……それで……勝てるのか?」

「勝つしか道はない!!」

 

 苦渋の決断なのだろうし、口減らしの意味もあるのだろう。このまま不満を抱え、この乾いた大地に留まっても未来はない。

 亜人たちの代表は厳しい顔でそう断言するのだった。

 

 

 

 

 

 

 ローブル聖王国。

 リ・エスティーゼ王国の南西、アベリオン丘陵の西にある人間の国家である。

 その国家の中枢と言える王城の会議室にて十数人の人間たちが真剣な顔をして議論を重ねていた。

 

「亜人たちの集結はそれほどなのか……」

「はい、その数50万を超えるかと……」

 

 斥候に出した兵士からの報告を聞いた国王は思わず天を仰ぐ。絶望的な数である。人間に比べ身体能力が高い亜人は1対1では勝つことは困難である。それが50万。人間の兵力で撃退するにはその倍以上の兵力が必要な計算だ。

 

「他国への救助要請は?」

「時間がありません。この国から一番近いスレイン法国からは共闘の約束を取り付けました……轡を並べることなく独自に動くそうです」

「……それでも何もないよりましか」

 

 国王は居並ぶ重鎮たちの中の一人の男に声をかける。『九色』と呼ばれるローブル聖王国が誇る才人の一人だ。

 

「……時にパベル。子供は元気か」

「どうしたのです陛下?うちの子ですか?元気すぎて困っているくらいですよ」

「……今7歳だったか。可愛い盛りだな」

「はい」

「私の子供も今年で14歳だ。まだこれからいくらでも幸せをつかむことが出来る歳だろう」

「ええ、そのためにも命を賭してでも侵攻を防がなければ……」

「そのとおりだ!子供や老人たちは南部へと避難させろ!最悪の場合、この王冠を使う!」

「まさか……陛下」

「ああ、最終聖戦(ラスト・ホーリーウォー)の儀式の準備を進めろ!」

 

 

 

 

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