モモンとナーベの冒険~10年前の世界で~   作:kirishima13

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第6話 冒険者ナーベの旅立ち

 私の名前はナーベラル・ガンマ……いえ、今は冒険者となるべく冒険者組合に向かっている人間の女ナーベ、ということになっている。

 

 モモンガ様より単独任務を仰せつかり、その栄誉はとても喜ばしいと感じるもののモモンガ様はお一人で行動されている。

 何かお困りのことはないだろうか、また私の胸を揉みたいと思っていただいたりしていないだろうか。心配で仕方がなかった。

 

 モモンガ様に治癒せよと命じられた虫けらの捕虜は命令通り指輪に込められた<大治癒(ヒール)>で治癒を施し解放してきた。何やら礼をしたいと言っていたがそれならばその不快な囀りをやめて消えさればいいと思う。

 とは言え、虫けらの相手より冒険者組合へ向かう方が大切だと気を取り直したのだが……。

 

「ここはどこ……?」

 

 虫けらを開放するため大通りを外れたことで道順が分からなくなってしまった。このままではモモンガ様からの任務を達成できない。

 小汚く狭い道を歩きながら大きい通りへと通じる道を探す。すると前方の道をまた虫けらが塞いでいた。本当に虫けらが多い街だ。

 

「いやぁあああ!離してえええ」

「ちょっとお。さっさと黙らせなさいよ。最近は変な冒険者のせいで奴隷狩りにうるさくなっちゃってるんだから。誰かに見られるわけにもいかないのよ、やんなっちゃうわね」

「へい!コッコドールの旦那。おい……黙れ、おらぁ!」

 

 虫けらの男が虫けらの女をガツンと殴り猿轡をはめている。

 周りを見ると同じように猿轡を嵌められた虫けらの女たちが地面に転がされていた。

 私の歩く先を遮っているのはそれらを行っている全身が筋肉で覆われている5人ほどの虫けらたちだ。

 

「どきなさい」

 

 早く冒険者組合に行かなければならないのに……。目の前の集団にそう命じると虫けらの一人がこちらに気づいたようだ。

 

「あ?なんだてめぇは?」

「すげぇ……美人だな」

「ついでにこいつも捕まえちますかい?コッコドールの旦那」

 

 どうやら道を譲る気はないらしい。仕方がないのでその虫けらの手を捩じってやるとポキポキと小気味の良い音がする。そしてそのまま後方へと放り投げ飛ばしててやった。

 

「ぐぎゃあああああ」

「邪魔よ」

 

 それを繰り返すこと5回。デカい虫を駆除してやっと通れる道が出来た。

 

「あ、あなたまさか噂の冒険者組合から依頼された……?ひぃぃ!」

 

 その中のリーダーらしき虫けらの男は背を向けて逃げていった。しかしわざわざ追いかけてまで虫を踏み潰す趣味はない。

 

「あ、あの……ありがとうございます……お名前を教えていただけますか」

 

 捕まりそうになっていた虫けらが礼を言ってくるがまったくもって煩わしい。ふんと鼻を鳴らしてその場を立ち去ろうとすると後方からさらに二人の虫けらが現れる。

 

「なんだこりゃ?俺らが来る前に終わってんじゃねえか、ラキュース」

「そのようね、ガガーラン」

 

 派手な装備に身を包んだ10代と思われる少女と屈強な肉体をもった男のような女。モモンガ様の創造したアンデッドから報告のあった虫けらの中では強いと言っていた冒険者だろうか。

 

「おい、あんたがやったのか……?」

 

 次から次へと現れる虫けらに殺意が沸くが殺しは禁止されている。

 それならばこいつらも痛めつけてさっさと行こう。そう思っていたのだが地面に転がっていた虫ケラが代わりに返事をしていた。

 

「は、はい!私たちが攫われそうになってるところを助けていただきました」

 

 その言葉に二人の虫けらが道を譲るように退いた。

 

「ふんっ」

「お、おい……なんだぁあいつは?」

 

 虫けら同士の会話に興味はない。私は鼻を鳴らすとさっさとその場を立ち去る。

 早くモモンガ様の任務を達成せねばならない。名声を得るために冒険者になるのだ。こんなところで虫けらを踏み潰していて名声が得られるはずもない。

 そう思い足早に移動したのだが……。

 

 

 

 

 

 

 どうやらこの街は本格的に害虫駆除が必要なようだ。

 大通りに出て冒険者組合に向かうまでに同じようなことが3度もあった。その度になぜか礼を言われるというよく分からない状況になっている。

 いったいいつになれば冒険者組合に行くことが出来るのだろうか。そんなことを考えていたが、時間がかかってしまったもののようやく冒険者組合に到着してすることが出来た。

 そして分厚い木の扉に両手をかけて開けると……。

 

 

 

 

「「「……」」」

 

 

 

 

 虫けらどもが黙り込んだ。それでいい。永遠に黙っていれば邪魔にならならないのだ。永遠の沈黙を保つがいい。

 

「綺麗……」

「美しい……」

「どこぞの国の姫か何かか……?」

「南方ではあんな黒髪の人種がいると聞くが……」

「姫だ……」

「姫……」

 

 前言撤回。うるさい黙れ虫けらども。モモンガ様の命令さえなければその囀りを今すぐ止めてやるものを。

 

 一瞬黙り込んだ虫けらどもだが一転、好き好きに騒ぎ出した。

 相手にするだけ時間の無駄だ。私はそれを無視して受付と思われる窓口の前に立ち、そこに座っているの虫けらに用件を言いつける。

 

「冒険者になりにきました」

「へっ……?」

 

 窓口の虫けらは言われたことが理解できなかったのだろうか。仕方ないのでもう一度。

 

「冒険者になりにきました。手続きをしなさい」

「え、えっと……あなた様が……でしょうか」

「そうです」

「あの……冒険者というのは魔物と戦ったりとても危険な仕事でですね……あの……あなた様のような高貴な方がなさることはないかと……」

「そんなことを聞いていません。手続きをするのか、しないのか。答えなさい」

「あ、あの……組合長~~~!」

 

 泣きそうになった虫けらの受付が見つめた先にいたのは……。大柄で髭面の男、あれが虫けらの冒険者組合長だろうか。

 

「お嬢様。私は王都冒険者組合の組合長のカイムという者です」

 

 虫けらに名前なぞ必要ない。すぐに頭の中から虫けらの名前を消去する。

 

「冒険者というのはモンスターと戦えば傷も負うし、時には生きて帰れないほどの危険な仕事を請け負うこともある職業です。だからあなた様のような高貴な身分の方が冒険者になってそんなことにでもなると責任の所在が……ねぇ……」

 

 そう言って虫けらの組合長は助けを求めるような目線を私の後ろに向けた。

 

「そうそう。君みたいな美しいお嬢さんが冒険者なんて危険なことしなくてもいいんだよ。何か依頼があれば我々冒険者に依頼してくれたまえ。ああ、俺はミスリル級冒険者の……」

 

 虫けらに名前なぞ必要ない。すぐに頭の中から虫けらの名前を消去しつつ、肩に置かれそうになった手を取る。

 

「あ……やわらかい手……」

 

 至高の存在に創造されたこの身に触れようとは然るべき罰が必要だろう。

 その手をつかむとそのまま振り向くことなく後方へと虫けらを放り投げた……ところで思い出した。モモンガ様から殺すなと言われていたのだった。

 虫けらは弱い。あの程度でも死んでしまうこともあるかもしれないと振り向くと白目をむいた虫けらが虫けらの信仰系魔法詠唱者に治癒魔法をかけられている。良かった死んでないセーフだ。

 

「ミ、ミスリル級冒険者を片手で投げ飛ばすだと……」

「く、組合長……」

「わ、わかった!こちらへ来てくださいますか?冒険者になりたいのでしたね……とりあえず組合長室で話を聞きましょう」

 

 冒険者になれるのであれば是非もない。私は虫けらの組合長に続き部屋へと入った。

 

 

 

 

 

 

 組合長室にはナザリックとは比べるべくもない虫けらに相応しいみすぼらしい机とソファー、そして何の価値もないような調度品が置かれていた。

 そこに座るように言われ、嫌々ながら腰を掛ける。

 

「まず……よろしければ名前とどちらから来られたのか聞かせていただけますかな?」

「私の?」

「はい……概ねお察ししますがどのような身分の方なのか教えていただけないでしょうか」

 

 家名というフルネームのことだろうか。だが今はただのナーベだ。だが身分については別に言うなとも言われていない。ならば誇りある我が身分を知るが良い。

 

「私の名はナーベ。ナザリックにおける六連星(プレアデス)が三女!ナーベよ!」

「……ナザリック国?ということなのかな……?」

「組合長……プレアデス王家の第三王女様でしょうか?聞いたことのない国ですが……」

「しぃっ……恐らくお忍びなのだろう」

 

 虫けら同士で何やらぼそぼそ話し合っている。早くしてくれないだろうか。

 

「それで冒険者にはなれるの?」

「わ、分かりました。事情がおありなのですね。それで……ナーベ様は先ほどの力を見るに職業は戦士ということでしょうか?」

「いえ、魔法詠唱者(マジック・キャスター)よ」

「は?」

 

 この虫けらは何を言っているのだろうか。どこからどう見ても私は魔力系魔法詠唱者だろう。その無駄についている目玉をくり抜いてやろうか。

 

「いやいやいやいや、うちのミスリル級のエースを片手で一捻りしておいて魔法詠唱者はないでしょう!?」

「あなた……私が至高の御方より授かった能力を否定するというの……?」

 

 殺気を込めて睨みつけてやると虫けらは脂汗を顔にびっしり浮き出して目をそらした。

 

「な、ならばどのような魔法が使えるか教えていただいても?」

「そうね……<魔法の矢(マジック・アロー)>、<火球(ファイアーボール)>、<溺死(ドラウンド)>、<雷撃(ライトニング)>、<飛行(フライ)>、<次元の移動(ディメンショナル・ムーブ)>、<転移(テレポーテーション)>、<爆裂(エクスプロージョン)>、<連鎖する龍鎖(チェイン・ドラゴン・ライトニング)>、それから……」

「ちょちょちょ、ちょっと待ってくれないか。それをすべて使えるというのか?いや、言うのですか?聞いたこともない魔法もあるのですが……」

「組合長……チェイン何とかってなんですか?」

 

 さすがは虫けら。魔法の知識さえないらしい。

 

「<連鎖する龍鎖(チェイン・ドラゴン・ライトニング)>は第7位階の魔力系攻撃魔法よ」

「何を馬鹿な……そのような魔法が存在するはずがないでしょう。は……ははは、冗談がお上手ですね……」

「で、ですよねー。<飛行(フライ)>が使えるってのも少し信じがたいんですけど……」

「使えるわよ。<飛行(フライ)>」

 

 <飛行(フライ)>を唱えて部屋の中を飛び回って見せる。

 

「な……んだと……。しかもその制御……どれほどの熟練を……」

「すごいんですか?」

「すごいとも!この狭い空間で何にもぶつからずにこれほど制御して見せるなど……」

「納得したかしら?」

 

 そのままフワリとソファーに戻る。早く冒険者とやらにしてほしいものである。

 

「いや、疑って申し訳ない。第7位階魔法を使えるなどと冗談を言われるので魔法自体が使えないかと思ってしまった。分かりましたあなた様の冒険者登録を認めましょう。登録料はありますか?」

「お金ね。これでいい?」

 

 無限の背負い袋(インフィニティ・ハヴァザック)に預かっていたユグドラシル金貨をテーブルに放り投げる。

 

「これは……どこの貨幣かね?南方大陸のものなのですかな?ちょっと君」

「はい!」

 

 虫けらの受付は天秤を取り出し他の金貨と重さを比べたりしていたが、やがて納得がいったのか金貨をしまい、銀貨をテーブルに置いた。

 

「こちらがお釣りになります。それからこちらをどうぞ。最初は(カッパー)級からのスタートになります」

 

 冒険者には(ランク)があり、銅、鉄、銀、金、白金、ミスリル、オリハルコン、アダマンタイトの順にランクが上がっていくらしい。

 お釣りの銀貨とともに銅の冒険者プレートというものを渡され、細々とした冒険者の心得とやらを聞かされる。これで手続きは終了のようだ。

 

「それでは仕事を寄こしなさい。一番難しいものがいいわね」

 

 モモンガ様のために名声を得なければならない。そのためには難度の高いものを多くこなす必要があるだろう。

 

「えっと……そう言われましても銅級冒険者の方は、銅級の仕事しか受けられませんので……」

 

 どうやら登録してすぐには難しい仕事は受けられないようだ。

 

「さっさとランクを上げたいのに……くだらない規則ね。まぁいいわ。じゃあその中で一番難しいのを寄こしなさい」

「えっ……えっと……でもこれは……」

 

 虫けらの受付が言いよどんでいる。虫けらのくせに情報を隠そうとでもいうのだろうか。

 

「彼女なら……大丈夫だろう。いや、彼女以外には不可能か……。この仕事は本来冒険者に回したくなかったのだが……」

 

 後ろから再び姿を現した虫けらの組合長が説明をする。

 

 依頼の内容は王都リ・エスティーゼから離れた都市エ・ランテルまでの街道沿いの魔物討伐。期間は5日後までに街道沿いすべての魔物を討伐すること。

 本来は銀級以上の仕事であるが、これは貴族がらみの仕事であり依頼料をとことん出し渋られた結果、誰も引き受けないような金額で無理に押し付けられたものらしい。

 

「だから本来は組合として危険すぎる仕事を銅級にさせるわけにもいかないので断るべきなんだが……そのまま断っても角が立つのでね。依頼を受ける者はいなかったということで伝えよう思っていたのだが、どうしてもというのであればこれを受けてもらえないか?達成できれば銀級へのランクアップを約束しよう」

「分かったわ」

 

 街道沿いの魔物をとにかく殺しまくればいいのだろう。虫けらの組合長から依頼書を受け取り街道の場所を聞くと窓枠に手をかけ飛び降りる。

 

「なっ……」

 

 虫けらが何か言っているが気にしない。ひらりと着地するとすぐに目的地へと向かう。虫けらを守るなどよりよほど私向けの依頼だ。

 私は有象無象を皆殺しにするという依頼を達成すべく出発するのだった。

 

 

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