鉄血のオルフェンズ 残華   作:イング・ディライド

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嵐の前の動乱

 面も角も綺麗に整えられた正八面体の形をした岩石の塊が、暗礁宙域を抜けて突然開けた視界の中にぽっかりと浮かぶ。三百年、あるいはさらに昔にシルクロードとして栄えた道にその面影はなく、人の気配が消え失せた代わりに厄祭戦のときに撒き散らされた無数のスペース・デブリがビフレスト要塞の動力たるエイハブリアクターの重力に引かれて周囲を賑わわせていた。

 形状も大きさも一貫性のない瓦礫の渦に取り囲まれた虚空の中心に鎮座する人工物然とした要塞の姿は、砂漠の中に佇むピラミッドのような違和感と威圧感を放っている。その光景には、生まれてこのかた様々な場所へ行き、他人よりは多く宇宙の顔を知っていると自負するライドですら、背筋に水滴を垂らされたような悪寒を抱かずにはいられなかった。

 

「ひとまず、先んじることはできたようですね」

 

 言葉とは裏腹に、ジュリエッタの声音は固い。順調にことが運ぶ状態すらも、自身が誰かの手の上で踊らされているという感覚を拭い去るには足らない。もちろんこの場合、脚本を書いているのはラスタルではなくマクギリスだろう。ガエリオやライドたちもそれを理解しているから、ジュリエッタを冷やかすようなことはしなかった。

 

「内部の状況を探りたい。クジャン二尉、ジュリス特務三佐、バドイ・ロウ、頼んでいいか」

 

 月外縁軌道統制統合艦隊、もといアリアンロッド艦隊から離れて数時間、輸送機の中で気を揉む以外にやることのなかったガエリオの声は指示を出せることに喜びを感じているものだ。

 ビフレスト要塞の中にヘルビムが眠っているのであればモビルスーツでの接近はご法度となるため、エイハブリアクターを動力としない輸送機備え付けの小型艇での潜入となる。その大役に選ばれたのは火星支部からアリアンロッド艦隊を経由してこの混成部隊に合流したセヴェナ・クジャン、白兵戦への理解もあり政治的判断も可能なジュリエッタ、そして万が一に備えた多芸が強みのロウ。

 周辺警戒の名目で輸送機に居残るライドと那弥木、ガエリオは互いを信用しきっていなければこそ、要塞へ突入することは控えていた。

 

「聞きたいことがある」

 

 口火を切ったのは一切の反応を示さないレーダーやセンサーの類いとにらみ会うのにも飽き、渋面を隠そうともしないガエリオだった。

 

「マクギリス・ファリドのことをどう感じた? 」

 

 輸送機のコクピットとアガレスのコクピット、モニターを介したやり取りを鬱陶しがるようにボリボリと頭をかき、ライドはしばしの沈黙を返す。

 

「とても素直な人間、だろうな」

「素直、ですか」

 

 驚く那弥木に反してガエリオは小さく頷く。

 

「純粋、と言うべきか。己の欲望に対して。普通なら人道や倫理から断念せざるを得ない手段でも、それが最適と判断すれば躊躇なくラインを踏み越える。そして奴の考える最適はいつだって最短経路だ。まともな感覚のままでは後手後手に回るしかない」

「だから納得しろと? 」

「いや、ただ理解してもらいたいだけだ。過去のことも、これからのことも」

 

 そしてまた、静寂が訪れる。ねっとりと絡みつくように包み込んでくる鈍色は、沈黙を続ければその重苦しい空気どころかライドたちの存在そのものまで呑み込んでしまいそうに思えた。

 

「私には分かりません」

 

 耐えかねた那弥木の口をついて出た言葉に、特に意味があった訳ではなかった。ただこの険悪極まる雰囲気に投じる一石としては明らかにミスだった、と思える一言。

 しかし、二人はさほど気に留めた様子もなかった。むしろ変質した沈黙は続きを促しているように感じた。

 

「戦うための正義とか、信念とか私には分かりません。もちろん鉄華団も、そしてギャラルホルンも」

 

 相変わらず、輸送機のレーダーにも積み込まれたアガレスのものにもレギンレイズのものにだって目立った反応はない。話を遮られないのは都合が良かった。この際だから吐き出しておきたいことも、聞いておきたいこともたくさんあった。ガエリオに対しても、ライドに対しても。

 

「鉄華団が滅びた後も戦い続けられる理由はなんなんです? ギャラルホルンが自身を圧倒的正義だと信じられる理由はなんなんですか? 」

 

「「子どもじみた意地だよ」」

 

 じっくりと考えたようでいて、さほど質問から時間を空けず、二人の声が重なった。当人たちも驚いてモニター越しに顔を見合わせ、侮蔑と嫌悪と自嘲が混ざった顔をした。

 やがてライドの方から口を開く。

 

「ギャラルホルンを滅ぼすだのラスタル・エリオンを殺すだの、世界を壊すなんてのも本気じゃない。結局のところ、鉄華団が存在したという事実を …… 『家族』が戦った軌跡を、風化させたくなかっただけ。たかが『歴史上の事件』で終わらせたくなかっただけなんだよ」

 

 そして、引き継ぐようにガエリオが言う。

 

「厄祭戦を終結させし者。いま現在最も力を持つ者。秩序を守る者。長い歴史の中でおだてられ、恐れられたから『力で屈服させる』やり方が正しいと信じるようになった。そうなれば、それを維持すると同時に増長が膨れ上がる。最も力が強い者が正義なのだと」

 

 心底忌み嫌うように顔を歪めるガエリオの様子に那弥木は目を丸くした。ここしばらく共に行動していたが、彼がそうも感情を表に出すことはなかったからだ。

 

「ああ。力の強さは、正義そのものだよ」

「誰です? 」

 

 突如回線に割り込んできた声に思わず叫んだ那弥木だったが、その問いは聞くまでもないものだ。今ここにやってくる者など限られている。

 それでも声の主は律儀に答えた。

 

「マクギリス・ファリド」

 

 とたん、コクピットのモニターからけたたましい警告音が響いた。無線越しにアガレスのコクピットと輸送機のコクピットからも耳障りな音がして、那弥木は慌ててパイロットスーツのヘルメットをかぶった。コクピットの機器と接続されたヘルメットのスピーカーから、耳を痛めない程度に補正をかけられた音声が聞こえてくる。しかし大音量を聞いて耳がおかしくなった後であれば、直接頭に響くような聞こえ方をするので不快度は大して変わらない。

 

「悪い、ハッチ開くのは待ってられない」

 

 ようやく耳鳴りが落ち着いてきた那弥木に、今度は身体全体を振動させる爆音が襲った。アガレスがハッチを破壊して発艦したのだと理解するまでに数秒を要し、耳鳴りが収まるまでにさらに数秒。

 半開き、ではなく半壊したハッチの向こう、文字通りの底無しの闇で既にアガレスは敵と切り結んでいた。

 

「よくもまあ、ぬけぬけと顔を出せたものだな。モビルアーマーがそんなに大切か? 」

「タブリスもヘルビムも、手段にしか過ぎない。目的は別にある」

 

 マクギリスが乗る、アガレスと対峙する機体は見たことのない機種だった。グリムゲルデやヘルムヴィーゲのようなヴァルキュリア・フレームの機体に似たシルエットを持ちながら、全体のバランスを考慮していない非対称の追加装甲。どうやらスラスターを噴かした高速移動のときに動きを不規則に乱して狙いを絞らせないためのものらしい。

 

 がん、と。

 質量と質量がぶつかり合う炸裂音。金属が擦れ会う耳障りな音がそれに上乗せされて、神経を苛立たせた。

 

「なるほどな。自分の命でさえ駒にできる男の言いそうなことだ。まあ、お互い、その程度じゃあ満足なんてできないだろうさ」

「初めて会った時から、君に語った言葉に嘘など混ぜてはいない。偽りない私の本心を、君はよく知っているはずだ」

 

 アガレスの脚部、こちらは明らかに後付けと分かるものの上手く調和している、大型のスラスターがいっそう力強い炎を吐き出す。

 

「オレを捨てたのは別にどうだっていいさ。初めから覚悟していたことだ、それにもともとこの命に大した価値はない。だがな――」

 

 マクギリスの乗機が動きを止めた。もちろん戦意がないことを示すものではなく、アガレス同様に次の一撃に向けた『溜め』である。青白い燐光が舞うさまは、後光が差した仏のような神々しさすらあった。

 そして、互いが牽制し合う永遠にも似た一瞬の後、二匹の獣が爆ぜた。

 

「アルミリアを、どうした!? 」

 

 アガレスの右腕を、振り回すのではなく、突き出す。爆発的な推進力を最も活かした一撃。鈍く光る爪に反射する恒星の輝きが瞬きするほどの間もなく流れていく。

 

「無粋だな。他人の家庭の事情に首を突っ込むのは感心しない」

 

 背骨に沿うようにしてマウントされていた身の丈を越えるメイスを振りかざし、まるでバットのように振り回す。

 

「なっ …… 」

 

 火薬での爆発にも似た暴力的なまでの音が響く。

 ひと目見ただけで誰もがその莫大なエネルギーに怯え、避けるか受け流すか、真正面から受けようとはしなかった一撃。それを初めて、受け止められた。

 全身に広がっていく衝撃を遥かに上回る驚愕に、僅かな間思考が止まる。

 メイスは拳を受け止めた部分が大きくひしゃげてしまったが、しっかりと芯で捉えられたアガレスの腕も衝撃で歪んでしまった。

 

「なるほど、"スルース"。悪くないな」

「悪趣味な名前だな、マクギリス」

 

 アガレスの背後に、ようやく発艦したレギンレイズがひっつく。恐怖からだろうか、自分でも無意識のうちにライドに背中を預けるような形を取ってしまったことは那弥木に多少の罪悪感を抱かせたが、それでも離れることはできなかった。

 そんな部下の様子を知ってか、ガエリオはマクギリスに対して普段よりも饒舌に喋っていた。

 

「これが私のもとで見つけられたことは必然だと思っている。神々から土人形へ渡された、神の血を引く戦乙女。私にぴったりだとは思わないか? 」

「それが運命だと言うのなら、半神半人の戦乙女も落ちたものだ」

 

 マクギリスがふっと口元を緩めるのが音だけでも伝わってくる。余裕綽々といったその態度には、ライドもガエリオも慣れている。それでもアガレスに睨まれ、レギンレイズに退路を塞がれてなお、となれば背筋を這う悪寒は増していくばかりだった。

 

「邪魔はしてくれるなよ」

 

 悪い方向へばかり向かう思考を吹っ切るようにして、短い言葉と共にライドが飛び出す。最近ようやく要領を得てきた那弥木の援護射撃がスルースの逃げ道を塞ぐ。最も強度の高い箇所を破損したメイスではアガレスの一撃を受け止められるはずもない。

 獲った――。

 ライドの確信は、しかしあっさりと裏切られる。

 

「今すぐに、ここから離れてください!! 」

 

 気付けば、小型艇がビフレスト要塞から脱出していた。

 脱兎のごとく、大した馬力もないエンジンをフル稼働させての最大船速。鬼気迫る様子のジュリエッタが叫んだ直後のことだ。

 

 真空中にざわざわという音が伝播した気がして。

 ふっとビフレスト要塞へ目を向けると、『何か』が蠢いていた。

 建造にあたって基礎になった小惑星そのままの、岩石剥き出しの無表情な表面がみるみるうちに薄桃色へ染まっていく。

 すっかり元の色が分からなくなり不謹慎にも肉の塊を連想した那弥木の前で、それは内側から弾けた。

 

「前菜は充分楽しんで頂けたかな。ここからがメインディッシュだ」

 

 桜吹雪が舞うように、薄桃色に染まった岩塊や瓦礫が弾丸のように飛び散っていく。傍らを通り過ぎていくそれに目をやって、ライドは愕然とした。

 瓦礫そのものに色がついている訳ではなかった。瓦礫に、薄桃色をしたものがぴったりと張り付いていたのだ。音速を越えようかという速度でまっすぐ飛び去る足場にしっかりと爪を食い込ませて、精一杯に身を縮めて。

 それは、ライドが知っているものによく似ていた。

 そして、信じたくない確信を裏付けるように。

 

「――!! 」

 

 動物の鳴き声のようにも思えたし、出来損ないの機械音のようにも感じられた。激しい爆発音にも負けず明瞭に耳を打った『声』を追いかけるように、藍色の虚空を光の奔流が切り裂いた。

 モビルスーツの表面を覆うナノラミネートアーマーに効果はないと分かっていても、本能的にひやりとさせられるビームの矢。

 掻き分けられた砂ぼこりの中から異形の機体が姿を現す。

 

「ヘルビム…… !!」

 

 憎々しげに呟くガエリオの視線の先でスルースがつんと澄ましたポーズを取った。ライドがふと索敵レーダーに目をやると、思っていた以上にビフレスト要塞との距離が縮まっていたことに気付く。

 嵌められたのだ。

 

「こんなに面倒なやり方をしなくても済んだものを …… 道楽にもほとほと呆れ果てるな」

「いいタイミングです、ラバナ隊長」

「隊長ってのはいい加減やめろ」

 

 さらにラム・ラバナが増援を引き連れてきたのだった。モビルスーツがおよそ一個中隊くらいの規模だろうか。アガレスのコンピュータが機種を判別してモニターに映し出す。厄祭戦時のものらしいが、現代では見ない機体だった。

 

「ガエリオ・ボードウィン。撤退を進言する」

「しんがりを任せる。フォカロルも出そう」

「助かる」

 

 いくらガンダムといえど多勢に無勢、ガエリオの決断は早かった。

 日頃口喧嘩ばかりしている二人が必要最低限の言葉で意思を通わせ、てきぱきと後退を始める。

 帰艦するなりキマリスヴィダールで出撃したジュリエッタが直掩に回るのを見て、那弥木も輸送機に近付く。

 

「撤退、それもいい。地球内縁軌道上のギャラルホルン駐屯地までまともに人が住んでいるところはない。ヘルビムが本気で動き出すまでにはそれなりに時間がある」

 

 マクギリスの挑発を背に受けながら振り返ることはなく、黙々と四方からのプルーマを捌きながらギャラルホルンの部隊が戦場を離れる。その行為自体が屈辱的ではあったが、背に腹は変えられなかった。

 

「もう一度聞く。アルミリアをどうした? 」

「答える必要はない」

 

 凄みをきかせたライドの言葉にも怯む様子はなく、その答えにガエリオも奥歯に力を込める。

 

「ガエリオ、俺はギャラルホルンを倒し世界を覆しうる力を得た。勘づいてはいるだろうが、俺の目的は新たなる『王』の選定だ。そして俺は本気でそこを目指す」

「選定だと? 審判が競技に参加する資格を持つとでもいうのか」

「選ぶのは俺じゃない。天使と、悪魔たちだ」

 

 問答は終わりだった。

 小刻みに速度を上げていた輸送機が最終加速を終えて全速力に達し、四機のモビルスーツを船体のフックに引っかけてあっという間に戦場から遠ざかる。

 

 天使。モビルアーマー。

 悪魔。ガンダム・フレーム。

 

 アグニカ・レコードに記されたそれらが一斉に牙を取り戻すなら、国という枠組みそのものがなくなってしまうかもしれない。人は群れることで危機から逃れるが、危機が迫れば疑心暗鬼にならざるをえない。そうなったときに待ち構える未来は『バトルロワイヤル』などという気楽なものではない。

 

 ライドの頭は既に目の前の屈辱など忘れ、思い付く限りの最悪な未来に対処するための方法を模索していた。

 

 

 

※※

 

 

 

 火星から地球への一か月の旅路は、自分の心臓がこわばって動かなくなるかと思うほどの緊張感があった。八年前の騒乱にも勝るほどの陰謀が世界を揺るがす中で変装も何もせず民間機に乗る火星自治政府の議長を護衛するとなれば、勝手に思いが引き締まるというもの。

 せめて、手配すればすぐに出してもらえたはずの政府所有機にもう少し多めに護衛をつければユージンの心労もいくらかは軽減されたかもしれないが、クーデリアがそれを許さないことは目に見えていた。

 『革命の乙女』ではなく、『クーデリア・藍那・バーンスタイン』個人として行かなければ意味がないのだ。

 

 とうに見慣れているはずの船外に広がる宇宙の風景にも僅かに目を輝かせている、凛とした横顔の中に幼さにも似た面影を感じるのは自分だけなのだろうか。

 こうと決めたら梃子でも動かず、利益よりも仲間を優先し、大人の理屈を痛いほど理解していながら子どもの理屈を押し通そうとする。

 まるでオルガじゃないか。

 脈絡もなく頭に降って沸いた名前に苦笑いして、手元のモニターでコーヒーを頼んだ。

 地球~火星間の航路のうち大半は電波が入らないため、いくらか残っていた仕事を片付けることもできず溜まっているであろうメールを見ることもできない。ならば開き直ってゆったりと過ごそう、というのだ。

 うっすらと立ち上る湯気と香りで心を落ち着けつつ、傍らにあった地球観光のパンフレットを開く。

 

 ずん、と。

 複数方向からの突き上げるような力を受けて、身体を固定していたシートベルトがちぎれそうになった。かろうじて座席から飛び出すのを防いでくれたはいいものの、アザが残るほどに食い込んでくる感触はきっと勘違いではない。

 

 どうやら急減速したらしい、と見当をつけたユージンはベルトを外しコクピットへ向かう。乗務員たちが困惑して動けないうちに乗り込むと、半月前に顔を合わせた操縦士二人が忙しなく計器をいじっていた。日頃の訓練の甲斐もあって、二度めともなれば一切の戸惑いが見られない洗練された動き。

 口を挟むのを諦めて周囲を見回すユージンの視界に入ったのは、船体上面を映したカメラだった。

 一面、燃えるようなオレンジ色。

 四本のアームが伸び、シャトルをがっちりと掴んでいる。

 

「抵抗するなよ。別に危害を加えようって訳じゃない」

 

 ぎり、と奥歯に力が入る。

 しかし続けられた言葉はユージンの覚悟と予想を裏切った。

 

「宣戦布告、だよ」

 

 誰が、何に、いつ、どんな理由で。

 矢継ぎ早に頭に浮かぶ疑問は口に出さず、代わりにゆっくりと長い息を吐く。

 狙いはクーデリアではない。

 立場上、それさえ確認できればユージンはもう『運悪く乗り合わせた一般市民』に過ぎない。

 だから次いで告げられた情報もどこか他人事のように落ち着いた心で聞いていられた。

 

「マクギリス・ファリド率いる『エインヘリアル』は、ギャラルホルン、火星自治政府、アーブラウ、SAU、アフリカンユニオン、オセアニア連邦へ向けて戦争を仕掛ける。今から二日後にクリュセ、ニューヨーク、ロンドン、カイロ、シドニーへ同時に攻撃を行う。以上だ」

 

 全世界に喧嘩を吹っ掛けるのと同義。

 しかし、ユージンにはそれほど緊張がなかった。

 実感がない訳でも、達観している訳でもない。

 ただ、自分には関係ないのだと思っていれば、どんなことにも感情が動かなくなるだけのことだった。

 

「聞いているんだろ? ユージン・セブンスターク。俺が預かった伝言は『革命の乙女』じゃなくあんたに向けたものだぜ」

 

 シャトルが減速しきったのを確認して、オレンジの機体は変形を始めた。腹の部分に覆われていたカメラの視界が開けて全体像が露になる。

 その姿に、ユージンは言葉を失った。

 

「俺たちが起こす戦争に、お前たち鉄華団は無関係ではいられない」

「ざけんな …… っ」

 

 フラウロスのパイロット、ジョナサン・ハイリンカーの言葉に目を丸くするシャトルのパイロットの視線も忘れ、ユージンは数年ぶりになるだろう口汚い罵倒を漏らした。

 

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