とある愛人の食事情   作:狂言巡

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人間が死にます。


ドーナツ

 皿の上で、ドーナツにかかったチョコや蜂蜜が、艶々と照明の光を反射している。手を合せて食前の挨拶をしたドロップはまず、自分で淹れたカフェオレをストローで吸う。コーヒーの味がたっぷりのミルクでまろやかになっているが、ガムシロップを入れていないから飲み込んだ後に苦みが微かに残る。

 まず手に取ったのはオールドファッション。リング状にした生地をただ揚げただけのように、装飾は何もない。トングで掴んだ時やこうして紙ナプキン越しに触れた感触は結構硬いが、齧り付いた表面はしっかりした歯応えがありつつも、噛む事はそう難しくなかった。その断面からほろほろ崩れていく。かりっとした外側とほわっとした内側のギャップ。油っぽいしつこさはないが、少なすぎてぼそぼそになっている事もない。

 砂糖は控えめで、素朴だが小麦の味が強い。甘すぎないというのが曲者だ。飽きないから、舌が疲れないからどんどん食べられていってしまう。気が付けば少しばかりの口の渇きと僅かな後味を残して、左程大きくないそれは姿を消していた。

 カフェオレで口を潤してから、次はチョコレート。オールドファッションに比べれば硬さはないが、ミルクチョコレートがしっかり沁み込んだドーナツは咀嚼するごとに濃厚な味が伝わってくる。食べ終えれば先程より口内の水分が奪われない代わり、べったりとチョコレートの後味が残っている。その後味をカフェオレの冷たさと苦みで洗い流す。

 最後にハニーディップ。他の二つより薄い色をしていて、生地もふっくらと膨らんでいる。表面にかかっているのはその物ではないと思うが、蜂蜜を使用したものだろう。弾力のある生地に前歯を埋め、そのまま齧り取る。最初に感じたのは舌が溶けるような蜂蜜の甘みだった。まろやかでコクがあり、それでいて品がある。甘いが、甘ったるい印象ではない。優しい味だが甘すぎない。花のような香りが僅かに鼻に抜ける。

 生地は先程食べた二つとも違ってふわふわだが、噛むたびにもちもちとした感触が生まれ、適度な噛み応えがある。小麦と蜂蜜が合わさった後味で、口の中が少しべとついている。溶けて氷が減ったカフェオレをストローで吸うと、それが喉の奥へ消えていった。

 

「リンドウさん、おすみですか?」

「ええ」

 

 ノックして扉を開けると、床も天井も血だらけだった。学校の怪談を思い出す。血染めの云々みたいな。結構汚したなぁ、はあ、殺し合わせたらこうなった?

 

「お疲れ様です。エビチリパイ温めましょうか?」

「帰ってからでいいわ」

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