やってられるかと逃げ出すこともできなかった日々が終わった、そんな衝動の果てに書き上げたものです。
彼女はその瞬間、死を覚悟した。
騙された、鬼と仲良くしたかった、妹にもう一度、会いたい。様々な想いがわき上がって来ても、どうすることもできない。
逃げることも無理だ。肺が凍りついて、もう立つこともできない。
戦うことも無理。万全の状態でも手も足も出なかった相手に、負傷して全力で戦えない身で何ができるというのか。
せめて、せめて一太刀。必死に刃を向けて、相手を睨むように見つめていると。
「・・・あれ、え、あれ」
なんだか、妙な声が聞こえてきた。誰か来たのか、こんな状況に迷いこむなんてよほど不運の持ち主なのか。一般人だったら護らないと、自分は鬼殺隊の柱だから。
彼女は周りを見回すも、誰の姿もない。
ここにいるのは自分、胡蝶カナエと。
目の前に立つ、自分を殺そうとする鬼、上弦の弐だけ。
「うわぁ、胡蝶カナエのコスプレか。レベル高いなぁ」
また変な言葉が出てきた。意味不明な言葉だが、確実に日本語だ。少し英語が混じっているようだが。誰もいないのに。
待った、とカナエは思いついた。
「それにしても、ここ何処だ。こんな田舎道は通った覚えないけど」
まさかと思い、信じられない顔でゆっくりと相手を見つめると。
「あの、すみません、ここって何処ですか?」
よく解らない顔でそんなバカなことを質問してくる、上弦の鬼がいた。
あっぶねぇぇぇぇ!!
どうなってんだよ、どういうことだよ。誰か説明しろよ、普通は説明があってだろうが、いきなり目の前に胡蝶カナエが倒れていたら、コスプレだと思うじゃんか。そうだろ、解るだろう、解ってくれるよな、だって胡蝶カナエだぜ、本当にリアルだなぁって思うだろうが。そう考えるのが普通だろ、俺がおかしいわけじゃないだろ。誰だってそうだろうが、俺が悪いわけじゃない。
いや、俺が悪いのか、悪かったって言うのか。
言い訳をさせてくれ。いきなり目を開けたら、目の前に胡蝶カナエが倒れていたんだ、コスプレだろ、コスプレだって思うしかないじゃん。
いや、そこはいい。世間じゃ異世界転生とか、マンガやアニメのキャラに憑依って結構あるから、自分がそうなったってだけだと理解しよう。
納得なんてしてないけど。
世界は鬼滅の刃、これもいい。死亡率の高い世界ってだけで、確実に死ぬことはないだろうし。巨人相手とか、魔王相手とか、そんなことがないだけ、死亡率は高くない、そう思い込むぜ、この野郎。
百歩譲ってだ、一万歩ほど譲って、鬼滅の刃の世界に転生したってことは理解してやろう。
けど、なんで童磨?
どうして童磨なの、何でこいつ。鬼だったら他にもいるだろうが、なんだって童磨なのさ。
げ、現実だよな、現実。そうだ、まずは受け入れて。受け入れ、られるか馬鹿野郎。鬼だぞ、鬼、しかも上弦の弐。
上司はあの理不尽パワハラ権化の鬼舞辻無惨。名前を口にしたら死ぬって言う。
「あれ、でも思っただけでもダメじゃなかったか?」
あいつの呪いってもっとエグイものだったはずなのに、思っても呪いが出てこない。
「とにかく現状だ。今がどういった状況かを把握して」
口に出したら落ち着いた。よしこれで。
なんて思っていた時が自分にもありました。
転生特典はありました。どうやら流行中の神様のミスらしいけど、ミスしたのは死亡原因じゃなくて、転生時の説明しませんでした、勝手に転生特典が選択されてしまいました、らしい。
「ク、次にあったら殺してやる」
グッと拳を握った俺の前に、ポンっと音がしてとある剣が出てきて、それはそのまま地面に突き刺さった。
三つの円形の刀身を持つ、この独特の形をした剣って。
「乖離剣エアじゃねぇぇかぁぁぁぁぁ?!」
え、これが俺の転生特典? こんなの使えるの、使っていいの。いやいや、これって英雄王の宝具で、他の英霊でさえ使えないって奴だし、英雄王だって賢王になってからは使えなかったっぽいし。
使えるわけないよなぁ、と思って俺がエアを持ったら。
「使えるよ、こいつ」
まさかの転生特典にて全力で使えますよ、まさかまさかの事態ですよ、本当にこれが使えるってマジか。
こ、怖いものはない。俺自身が怖がられるけど。
「ま、まあ、俺には血鬼術もあるからそっちで」
なんて楽観していた俺ですが、こっちもまさかまさかの事態でした。
「・・・・・・・使えねぇ」
血鬼術、使えなくなってましたわ。うん、どうやっても氷が出てこない、どうやって使ったらいいか解らない。
「なんでだよ、童磨だろ。氷だろ、なんで使えねぇんだよ。他に何かあるだろ、出てくるだろ、ほらほらほら」
なんかないかと悩んでいると、刀が落ちてきました。
「・・・・・・・・流刃若火?」
最古の斬魄刀、来ましたぁ。え、なんで? 氷繋がりで斬魄刀なら、別のがあるでしょうが。なんでこいつ。
「よし、落ち着こう、エアと流刃若火があるなら、鬼滅の刃の世界でも生きていける。そうだ、俺は安全を手に入れた、そうだろう」
フハハハハと笑っている俺の背後で、ズシンって音がして。
なんだろうと振り返った俺は後悔した。
「・・・・・・・デスザウラー?」
おっそろしく巨大な機械の恐竜がいましたとさ。
『前略、転生者様。このたびは、私どもの不手際のために、ご迷惑をおかけしております。つきましては、転生特典をできるだけ増やして、転生者様の安全を確保したく考えております』
ご丁寧に天使から手紙が送られてきました。つらつらと謝罪の文章が並んで行って、最後の俺の転生特典が。
乖離剣エア。
流刃若火。
デスザウラー(念のため、波動砲と超重力砲に光子魚雷と侵食魚雷を装備させてあります、とか)。
サイタマの身体能力。
第四真祖の眷獣と再生能力。
魔王達の魔力(大魔王バーン、アノス・ヴォルディゴート、アインズ・ウール・ゴウン、リムル・テンペスト、ディアブロ)
マクロス・エリュシオン(基地としてお使いください、大丈夫です。製造能力を追加して惑星も想像可能です)
ストレージ(上記の物体的な転生特典がすべて入ります。持ち運びに便利です)
「・・・・・・・・・・・・」
『最後に! 貴方が元日本人ということで、大盤振る舞いで『天照』の力を授けることになりました。では第二の人生、存分に楽しんでください』
「・・・・・・・」
最後まで読んだ俺は、こう思った。
「童磨とか鬼どころじゃなくてさ。ラスボスじゃねぇかぁぁぁぁ!!」
こうして俺の童磨転生してのラスボス生活が始まったのでした。
「待って、天照って太陽神だよな? あれ、俺って鬼だから太陽神の力を使ったら死ぬんじゃ? え、でも第四真祖の再生能力があるから、再生するんだよな。え、でも待って、痛みはそのまま? え、そのままなのか?」
神よ、天使よ、手紙とか用意しているなら、せめて教えてくれ。
俺が不死なのかどうかを。
童磨という鬼がいた。
かつて、その鬼は何人もの人間を喰ったらしい。
ある日、一人の柱と相対し、その美貌に心を奪われた童磨は、鬼として改心して人の味方として鬼と戦ったとか。
「え、そんな話なの?」
「そんな話なんじゃないの?」
「カナエさんの美貌に惚れたってこと?」
「まあ、嬉しいわね」
「・・・・・・・あれ、何でいるの?」
「貴方がさらってきたんじゃないの」
えっと振り返る童磨の後ろ、吸血鬼になったカナエがいましたとさ。
他の作品を放っておいて、まったく違う作品を書き上げる馬鹿、自分の欲望に忠実に生きることにしたサルスベリの、どうしょうもない童磨転生でした。
それではこのあたりで失礼いたします。