今回、真面目に修行回。
きっと真面目な修行回。
たぶん、きっと、そうなるといいなぁと思いつつも、まったく違う話になってしまったのは、きっとサルスベリだからです。
斬魄刀、千本桜。
刀身を散らし漂わせることによって、全包囲への攻撃が可能な刀。その細分化された刃の輝きが、まるで桜のように見えることからその名前が付けられたとか、何とか。
「あんまり、あの漫画って深く読んでないんだよな」
童磨は昔を懐かしく思いながら、夜空を見上げていた。
満点の星空は、彼が生きていた頃よりも鮮やかな星座を描きだし、見る者を魅了するように囁いてくる。澄んだ空気がそうさせるのか、あるいは人工の明かりが一つもないから、夜空の星の輝きがよく見えるのか。
どちらにしろ、見事な星空を童磨を眺めていた。
手足を無くして傷だらけの姿になって。
「・・・・・・綺麗だなぁ」
真っ直ぐ上だけを見上げ、他なんて見ない。自分の体さえ見ないようにして、夜空の星を堪能し続けた。
「ごめんなさい」
隣からカナエの声がするのだが、そちらを見るつもりはない。原因が彼女にあって、周り中の木々が細切れになっていたり、地面とかが畑のように耕されているとかあるが、絶対に隣は見ない。
「本当にごめんなさい」
「あ、うん、大丈夫。俺もカナエさんも吸血鬼だから、不死らしいし」
「ごめんなさい」
「痛覚はあるけど、我慢できないほどじゃないから。これから何かある前に、死なないって解って良かったよ」
具体的には、細切れになったら頭部から再生するって解っただけ、良かった。頭部だけでも、眷獣は召喚できるって把握できたからよかった。
被害は、あっちの方の森が焼け野原になっていたり、砂の山が出来上がったりしているが、童磨は見ない。絶対に見ようとしない。
「・・・・・・これって服も再生しないのかしら?」
できればしてほしいなぁと願う童磨と、その隣で半裸で転がっているカナエは、切実にそう願っていた。
千本桜は、刀身を飛ばすのである。細かく桜のように小さくなった刀身を、まるで桜吹雪のように飛翔させるのである。
元の持ち主でさえ、自分の体の一定範囲では動かさないのだが、初めて持ったカナエが、それを理解できたかというと。
無理だった。
見ていて笑えるくらいに、見事に目標と周辺と自分の体を刻んだ後に、操作を誤って、童磨を細分化の細切れにしてようやく停止したのでした。
「・・・・・・そうよ、あれよ!!」
「え、何、何を思いついたの?」
「エリュシオンの中にでぱーと? というのがあるからそこから持ってくればいいじゃない!」
パンっと音がした。どうやら彼女が両手を打ちつけたらしいのだが、その後に何かを堪えるような苦悶の声がしてくる。
「え、負傷しているの忘れてた? あんなに血だらけだったのに、忘れてたの?」
「そ、その、あれよ。そう! 私は吸血鬼の真祖に近い、というより貴方から直接に血を与えられた吸血鬼だから、真祖みたいなものになっていたから」
「いやそうじゃなくて。え、待って、真祖?」
「私の能力値に真祖って書いてあるのよ」
能力値、ステータスだろうか。さすが転生特典、ステータスを見ることができるなんて。
いや待った、童磨は思いつく。自分は見ることができないのは、何故なのだろう。
『どうせ、無限大なので見る必要ないです』なんて、誰かの声が聞こえた気がしたが、気のせいだろう。きっとそうに違いない。
「とにかく、カナエさんが真祖なら、第五になるのかな」
「貴方以外に真祖っているの?」
彼女に言われて、童磨は思考が固まった。
この世界に真祖は、童磨とカナエの二人。最初の血を分けたカナエが真祖になったなら、その前に真祖になっているのは童磨なので。
となると、第一真祖は童磨となるのだが、能力名は『第四真祖』だから。
「わけわかんねぇ」
「そうよねぇ。あ、再生が終わったみたいだから、とってくるわね」
軽快な足音と同時に、カナエの気配が消えた。
きっとエリュシオンに入ったのだろう、これで洋服関係は解決したことになる。お互いに半裸とか、何の拷問だろうか、特に童磨は男で、カナエは女なのだから、色々と問題が拡大してしまって。
「あれ、待った。なんでカナエさんがエリュシオンに入れたんだ?」
転生特典は持ち主だけのものではないのだろうか。それとも、眷族には使用許可でも出るのだろうか。
具体的な説明が欲しいと考えかけた童磨は、いや止めようと思いとどまった。そんなことを考えたら、きっとお節介焼きの天使とか女神が何かしそうで怖いから。
カナエはゆっくりと、それを引き抜く。
腰に差した鞘から引き抜かれた刀身は、見事な桜色に染まっていた。『与えられた知識』によれば、斬魄刀の千本桜の刀身の色は桜色ではなかったはずなのに、今の千本桜はまるで桜の花びらを固めたような色合いの刃をしていた。
初めて見たはずなのに知っている。初めて握ったはずなのに、使い方が解る。知識として脳裏に刻まれた情報に従って刃を振るえば、千本桜はその刀身を散らして桜の花びらが周囲を漂い始める。
知ってはいる、使うことはできる。もう少し力を込めて、ある言葉を言えば斬魄刀の最終戦術みたいな、『卍解』も使えるだろう。
けれど、知っていて使うことはできても、使いこなすことは出来ていない。体が、魂が、心が知ってはいても、習熟するにはきっと訓練を重ねなければならないのだろう。
「転生特典」
カナエは静かに言葉を紡ぐ。
血を吸われ吸血鬼となって、真祖となってしまった結果、彼のことを深く知ることができた。
外側は童磨だが、中身は別者。見たこともない未来の世界で死んで、転生した結果、童磨の中に入った一般人。
だと思う。そのあたりの記憶は曖昧で、霞がかかったように見えないから、断言はできないが。
中身は一般人でも、彼が持っている能力は破格だ。
一つ一つが簡単に山を消せる。谷を砕くことも、町や村を消滅させることもできる。あるいは、この日本という島国でさえ一撃で削れるだけの力がある。
もしかしたら、あのデスザウラーを使えば、あるいはエリュシオンの主砲を使ったとしたら。
背筋がゾッとした。
考えただけなのに、全身が震えてくる。想像しただけで、怖くて仕方がない。
鬼を倒すために鬼殺隊に入った。鬼と仲良くしたいという思いに、嘘なんてない。あの上弦の弐に殺されかけたとしても、その想いが消えることなく残っているのは、胡蝶・カナエが偏屈だからだろうか。それとも、最後の最後まで残っていた意地みたいなものか。
自分のことなのに、笑えるくらいに解らないこと。それが今は、カナエという最後の人間性を支えている気がした。
今の自分は吸血鬼の真祖、最初の血族の最初の一人。真祖に近い能力値を持つはずが、真祖となってしまった。
絶大な再生能力と、負の生命力をたたえた体は、人間だった頃に比べたら五感が跳ね上がって、身体能力は比べるのが馬鹿らしいほどに、鬼以上の化け物になっていた。
だというのに、あの童磨が持っている能力を考えると怖くなってくる。人外や化け物のような自分が怖くなるくらいに、あの能力はこの世界の理を破壊してしまうほどに圧倒的だ。
けれど、彼の精神は一般人のそれでしかない。
誰かを傷つけることは良しとしない。誰かに暴力を振るって愉悦に浸るような、精神異常者でもない。
でも、彼はきっと自分が、胡蝶・カナエが傷つけられたら迷わずにその能力を振るうだろう。
あの時、乖離剣エアを解放したように。
「強くなりましょう」
剣を振るう。迷いなく、鋭く、意思を乗せて敵を速やかに倒せるように。
彼が戦わないように、彼が悲しまないように、彼が無意識に圧倒的な暴力を振るわないように。
何度、何万回と千本桜を舞わせる。
日が落ちて、月が昇り、周りを鬼が囲もうとも動揺することなく、カナエは千本桜を使い続けた。
気の遠くなるような日々を繰り返し、何度もの夜の闇を桜のような刃と共に通り過ぎる。
修行だけではなく、童磨とも話をした。
色々な話をして、世界中のことを語り合って。
「あら?」
そして、気づく。人間だったなら、流れた月日の重さに気持ちが揺れるのに、今の自分は長いとも、遠いとも感じなくなったことに。
「そう、こう言うことなのね」
永遠の命を得るということが、人間以外の何かになることが、どういうことかを彼女はようやく知ることができた。
手足のように、周囲に漂わせることができるようになった、千本桜と共に。
蟲柱、胡蝶・しのぶは普段の笑顔を張り付けたまま、山を走り抜けていた。
やっと笑顔でいられるようになったのに。他人からは笑顔でいると見えるようになったというのに。
「なんで」
ギリっと唇をかみしめる。そんなことがあるわけがない、そんな馬鹿な話があっていいはずがない。
確かにあの時に、あの場所で彼女は刻みつけられたはずだった。
大量の血痕と、折れた姉の日輪刀。
生きているはずがない、あの出血で助かったわけがない。遺体がなかったのは鬼に食われたからだ。羽織さえ残っていなかったのは、鬼が連れ去ったからだ。追ってが来る前に、ゆっくりと食べられる場所に運ぶために。
苦しい現実と悲しい真実を受け止め、仇を討つと誓って強くなって、やっと鬼の首が斬れない自分が、鬼を殺す毒を開発して、柱となったのに。
「なんで?!」
鬼を倒す、鬼と仲良くする、姉の言っていた笑顔の自分でいられる。そういった毎日を手にしたというのに。
最初は噂だと思った。そんなことないと、他人の空似ではないかと。けれど、噂は徐々に大きくなって、信じられないと否定するしのぶの前に、一つの話が隠から届けられた。
死んだはずの胡蝶・カナエが、桜の花びらと共に鬼を狩っている、と。
嘘だと笑い流した、冗談にしては性質が悪いと苛立ちを浮かべた。
否定して無視して、怒りを向けて耳をふさいだというのに。
噂話は大きくなって、膨れ上がって。ついには、鬼殺隊中から溢れだして。
「間違いなく、あれは胡蝶だった」
風柱の言葉で、しのぶは走り出していた。
嘘だと理性が叫ぶ、幻だと思考が断言する中で、感情と心が生きていたと喜びの声を上げ続けた。今までかぶっていた笑顔の仮面が徐々に消えていき、彼女の感情のままに表情が変わっていく中、彼女は夜の山道を走り続けた。
風柱が最後に見た時、上弦の参に遭遇した時に横から入った影が。
木々の枝を蹴り、地面に降り立ち、話に聞いた場所らしいところに足を踏み入れたしのぶは、ゆっくりと周りを見回して。
「鬼殺隊か?!」
片腕を失い、全身を傷だらけにした上弦の参の姿を見つけた。
「貴様らは何を生み出した?!」
鬼の叫びに、しのぶは意味が解らなかった。彼が何を言っているのか理解できず、問い返そうとして一つの気配に気づく。
「鬼ごっこはもう終わりかしら?」
聞き慣れた声、生まれた時から知っている声に、しのぶの全身は固まった。
「きさ」
上弦の参が顔を上げる。それに釣られるようにしのぶも顔を上げていき。
「散れ、千本桜」
木の枝の上に立ち、桜の花びらを従える姉の姿を見つけた。
桜の花びらに上弦の参は動こうとして、動きを止めて。ゆっくりとその体を細かく砕かれて崩れ落ちて行った。
「ね・・・え・・・さ・・・ん」
しのぶはどうにか声を絞り出す。
あれは、なんだ、と心が叫ぶ。あれは誰だと思考が疑問を浮かべる。
「あら、久し振りね」
それは、嬉しそうに笑っていた。記憶の中にある姉と同じように、思い出の中と同じように暖かい笑顔で。
「しのぶ」
血のように赤い瞳をした、姉のような姿をした
違うんです、ほのぼのとした話を書こうとしたんです。
カナエ、『吸血鬼になっちゃったのよ、しのぶ。永遠にピチピチよ!』
しのぶ、『姉さんが馬鹿になった件について』
とか、和気あいあいしたかったんです。けれど、何度も書き直しても、結局はこうなるんです。
くぅ、ストライク・ザ・ブラッドだけじゃなくて、ヘルシングとか、ヴァン・ヘルシングとか見たのが悪いのか。
終わりのセラフは見てないのに、どうしてこうなったのか。
それでは、今回はこのあたりで。