やはり葉山の親友が武内Pなのは、間違っているだろか 作:阿保パンマン
由比ヶ浜の笑顔に癒されたい
葉山隼人は、周囲の反応に敏感である
それは、周りが求める人物像になりきっていた頃に修得した一つの特技のようなもの
だから、気が付いた
チラチラと視線を送りながら葉山達に何かを話そうとして途中で止める由比ヶ浜の姿に
「・・・・・・」
けれど、声をかけるのを止める
今、それを聞いてしまったら由比ヶ浜は、話せないだろう
そう葉山は、思ったからだ
高校二年生になってからの付き合いだから彼女のことを深くは、知らない
だが、由比ヶ浜が周囲の人間の顔色を伺っていることくらいは理解していた
だから、葉山は、次の休み時間に由比ヶ浜をラインで呼び出した
「隼人君・・どうしたの?」
しばらくすると由比ヶ浜が教室から出てきた
きょとんと首を傾げながら葉山を見る
どうして呼ばれたのか気付いていないようだ
そんな由比ヶ浜を可愛いなと思いながら葉山は、告げる
「結衣、俺達に何か言いたいことがあるんじゃないか?」
「そ、そんなことないよ!?」
あたふたと手を振って否定する由比ヶ浜
何かを隠しているのは火を見るよりも明らかだ
「別に俺に話さなくてもいい」
「え?」
「男子に相談しづらいことなら、優美子か姫菜に相談するだけでも構わない」
葉山は自分の親友がしてくれたように真っ直ぐ由比ヶ浜を見る
愚直なまでに真っ直ぐな想いは、相手の心にちゃんと届くことを葉山は、身をもって知っているから
「ただ・・一人で抱え込むようなことはしないで欲しいんだ」
俺達は、友達なんだから
そう言って葉山は照れくさそうにはにかんだ
「・・・・・」
由比ヶ浜は驚いたように目を見開いて笑った
それは葉山が初めて見た由比ヶ浜の自然な笑顔だった
「あのね・・隼人君。聞いて欲しいことがあるんだ」
此処に親友がいたのなら「良い笑顔です」というだろう
そんなことを考えながら葉山は、由比ヶ浜の話をするのを待った
由比ヶ浜の悩みは、とある人に手作りクッキーをプレゼントしたいという内容だった
「や、やっぱり・・・変かな?」
「俺はいいと思うよ」
「で、でも、あたし・・料理とか下手くそだし」
「なら、練習するか」
「へ?」
キョトンとする由比ヶ浜
「付き合ってくれるの・・?」
「友達が悩んでるんだから当然だろ?・・と言いたい所だが俺は、人に教えられる程、料理が上手い訳じゃないんだ」
笑いながらあっけらかんと答える葉山を見て由比ヶ浜もつられるように吹き出した
「今の流れでそれ言う?」
「はは、悪いな。けど、料理が得意な奴に心当たりがある」
「え?本当!?」
由比ヶ浜の表情は一気に明るくなった
「本当だ。ただ、見た目が結構怖いから心の準備をしておいた方がいいかもな」
「えぇ!?」
由比ヶ浜のあわあわする反応を楽しそうに眺めながら葉山は親友へと電話をかけた
放課後
適当な理由をつけて家庭科室の使用許可をとった葉山は親友の紹介もかねて由比ヶ浜と明日使う食材を買いに行くことにした
「隼人君の親友ってどんな人なの?」
葉山の親友のクラスに向かう途中、由比ヶ浜は葉山に尋ねた
「真っ直ぐな男だよ。曲がることを知らないからさ衝突することもあるんだ・・けど、自分のことを真剣に考えてくれているってことが伝わってくるから・・・凄い嬉しい」
そう言って照れくさそうに親友の良い所を次々と話す葉山
まるで自慢のおもちゃを紹介する子供の様に目をキラキラと輝かせていた
その人のことが本当に好きなんだって伝わってくる
そんな二人の関係を由比ヶ浜は羨ましいと思った
負けていると思ったから
自分の中にある好きって気持ちが二人の友情に・・
「葉山さん」
「!」
葉山が呼ばれて反射的に由比ヶ浜も振り向いた
「ーーー」
其処には熊のような大男が立っていた
「あの・・・」
殺し屋やヤクザを連想させるような鋭い眼光が由比ヶ浜に向けられる
その瞬間、全身が硬直した
まるで本物の石像にでもなったかのように身体どころか声も出せない
人は本当に恐怖した時、なにも出来なくなるんだなぁ~
なんて呑気な現実逃避をしている由比ヶ浜になど構わずに葉山は、その男を小突いた
「ーーは?」
この男は何をやっているんだ?
死にたいのか?と本気で考えた由比ヶ浜であったが男は何もしない
「申し訳ございません」
それどころか、由比ヶ浜に頭を下げて謝った
「・・・・・・へ?」
「悪いな結衣。コイツ、緊張すると眉間に皺が寄る癖があってさ。別に結衣を睨んでいた訳じゃないんだ」
だから、許してくれないか?と葉山に言われて思わず頷いた
すると男は、もう一度、頭を下げた
「すみません」
「あ、こちらこそ驚いちゃってごめんなさい」
由比ヶ浜もつられて頭を下げて謝った
「いえ、慣れていますから」
そう言って男は首を触った
眉がハの字になって落ち込んでいる姿は熊のように見えて少し可愛いかもと由比ヶ浜は思った
「武内、自己紹介したらどうだ?」
助け舟を出すように男ーー武内に投げかける
「そう・・ですね」
こほん、と咳払いをして由比ヶ浜に向き直る
「私は武内と申します。よろしくお願いいたします」
「あ、あたしは由比ヶ浜です。よろしくお願いいたします」
ガチガチに緊張して頭を下げる二人を見ていた葉山は、堪えきれなくなり爆笑していた
「わぁ!凄い!」
「へぇ・・結構、色々あるんだな」
「このスーパーは親子連れの客をターゲットにしていますからね。普通のスーパーに比べて品ぞろえが豊富なんです」
武内の言う通り普通のスーパーに比べて製菓のコーナーが広く設けられている
「うーん・・どんなトッピングがいいかなぁ」
「最初は、あまり凝りすぎない方がいいと思います」
葉山の華麗なトーク回しのおかげで二人は、緊張せずに話しが出来る程度に成長していた
そんな二人の成長に葉山は、うんうんと頷く
嬉しさもあるが少し寂しいと感じた
子供の成長を感じた時の親ってこういう心境なのかな?などとアンニュイな表情を浮かべている馬鹿とは、裏腹に由比ヶ浜と武内は、真剣に話し合っていた
「でも、どうせ渡すなら思い出に残るような奴の方がよくない?」
「いえ、由比ヶ浜さんの気持ちがこもっていれば相手に伝わるかと・・・」
「そう・・かな?」
「武内の言う通りだ。結衣が思っている以上に男は単純な生き物だからな」
馬鹿げた妄想から帰還した葉山は、武内に賛同する
男二人に言われた由比ヶ浜は、納得したように頷いた
次の日
家庭科室にやってきた三人は早速、エプロンに身を包んだ
「由比ヶ浜さんは、あまり料理が得意ではないと葉山さんから聞いております」
「え、えへへ・・・恥ずかしながら」
「?」
キョトンと首をかしげる武内
「料理が得意でないから学ぶ。その心意気を私は、素晴らしいとは思いますが恥ずかしいとは思いません」
「・・・そっか。ありがとう」
「??」
嬉しそうにはにかむ由比ヶ浜を見て武内は再び首をひねった
「相変わらずだな武内は・・」
「武内君のことを好きになった子は苦労しそう」
呆れまじりに肩を叩いてくる葉山と由比ヶ浜の行動を理解できずに武内は少し落ち込んだ
「あの・・・由比ヶ浜さん」
「ん?なに?」
「最初は私と一緒に作ってもらいたいのですが・・」
「え?なんであたし、武内君にお願いされてるの?お願いするのはあたしの方だよ??」
「コイツは、そういう奴なんだ」
葉山の一言で由比ヶ浜は、納得した
「えっと・・どうでしょうか?」
「うん、よろしく」
こうして、クッキー作りがスタートした
パキッと小気味の良い音を立ててクッキーが割れた
バターの香ばしい風味と程良い砂糖の甘みが口いっぱいに広がる
「はぁ・・美味い。武内は本当に料理上手だな」
葉山は幸せそうにクッキーを頬張る
そんな葉山を見て武内は嬉しそうに頬を緩めた
「おぉーっ!ほんとに美味しい!こんなに美味しいクッキー食べたの初めてかも!!」
食べているだけで頬が緩むのを感じながら由比ヶ浜は次のクッキーに手を伸ばす
「良い笑顔です」
そう言って武内は、由比ヶ浜の前に紅茶をおいた
「えへへ、なんだか照れるかも」
「結衣、それは武内の殺し文句だから気をつけろ」
「えぇ!?」
顔を赤らめた由比ヶ浜は武内から距離をとった
「・・・葉山さんの分の紅茶はありません」
「ちょっ、わ、悪かったって!ちょっとした冗談のつもりだったんだ!許してくれ!!」
パンっと手を合わせて謝る葉山を見て武内は溜息を吐いた
「あまり笑えない冗談はやめて下さいね」
そう言って入れた紅茶を自分で飲んだ
「え?俺のは?」
「自分で入れて下さい」
「え!?まだ怒っていたのか!?」
「冗談です」
「なんて質の悪い冗談なんだ」
「先に仕掛けてきたのはそちらです」
「なにを~~!」
二人のやりとりをぽかーんと眺めていた由比ヶ浜がぽつりと呟いた
「隼人君ってこんなに子供っぽかったけ?」
それからしばらくして
「では次は由比ヶ浜1人で作ってみてください」
「うー・・あたし1人であんなに美味しくできるかな・・・」
先まで食べていたクッキーの味を思い出して由比ヶ浜は少し項垂れていた
「美味しく作ろうと思わないでください」
そんな由比ヶ浜に武内は、そう言った
「え、えっと・・やっぱりあたしって料理の才能ってないの・・・かな?」
由比ヶ浜は、感じていた
料理の下手な由比ヶ浜にもわかりやすいように武内が教えてくれているのにも関わらず、何度も失敗を繰り返す自分の情けない姿から・・
悔しい・・・でも、本当のことだから・・何も言い返せない
由比ヶ浜は、自然と手を握り締めていた
「い、いえ、そうではなくて・・大切な人のことを考えて作ってください」
「・・・ふぇ?」
思ってもいなかった言葉を投げかけられて思わず顔をあげる
すると困惑した顔をした武内が首を触っていた
葉山を見ると呆れた顔をして武内を見詰めている
その瞬間、由比ヶ浜は悟った
自分が早とちりしていたことに
「ご、ごめんなさい!」
「いえ、私の方こそすみません。誤解を招くようなことを言ってしまって」
「はい、其処まで」
パンパンと手を叩いて武内と由比ヶ浜の間に入った
「こんなことで時間を割くのは勿体ないだろ?」
「しかし・・・」
武内は納得していないようで葉山を見る
「納得いかないなら行動で示せばいい。違うか?」
「そう・・ですね」
ありがとうございます
そう言って武内は葉山に頭を下げた
「結衣もそれでいいだろ?」
「え、う、うん」
そうしてクッキー作りが再開した
なれない料理に悪戦苦闘する由比ヶ浜
失敗しそうになった時、武内の的確なアドバイスで軌道修正をする
けれど、武内の予想以上に由比ヶ浜は集中していた
けして順調とは、言い難い牛歩の歩みだが
失敗をしても挫けずに着実に前に進む
だからこそ、武内と葉山は確信した
必ず成功すると
そしてーー
「で、できたぁ~~~!!」
其処には先程、武内が作ったものと遜色ないクッキーが並んでいた
「武内君!どうかな!?」
「はい、とても美味しそうです」
「でしょ!自分でも上手くできたと思うんだ!」
にへ~と上機嫌に笑う由比ヶ浜
「だから、武内君と隼人君にあげる」
「え?」
「なんで?」
驚く二人をよそに由比ヶ浜は照れくさそうに頭をかいた
「えっとね・・二人ともあたしの悩みに真剣に向き合ってくれたでしょ?だから、その・・・感謝の気持ちとして渡したいなーって・・」
由比ヶ浜の話を聞いていた二人は顔を見合わせた後、頷いた
「あの・・・迷惑だったかな?」
由比ヶ浜の言葉に葉山と武内は何も答えない
その代わり、並べられていたクッキーに手を伸ばして食べた
「「美味い」」
飾りっけのないシンプルな二人の感想を聞いた由比ヶ浜は笑った
それはーー
その日一番の笑顔だった