やはり葉山の親友が武内Pなのは、間違っているだろか 作:阿保パンマン
普段、あまり使われていない学校の自販機の横にあるベンチに並んで座る3人組
武内、葉山、由比ヶ浜である
「成程・・結衣は、想い人にクッキーを渡そうとした所、依頼主と間違えられて奉仕部に巻き込まれてしまったと」
「う、うん」
しゅんっと落ち込む由比ヶ浜
「け、けど!ちゃんとクッキーは渡せたよ!」
「でも、それって依頼の報酬としてだろ?」
「うぅ・・そうです」
「そうなると相手に貴方の想いが伝わっていない可能性がありますね」
「そうだな」
「うー・・やっぱりかー」
「なら、雪乃ちゃんに頼ってみるか?」
「え?隼人君、ゆきのんっと友達なの?」
「友達というか・・腐れ縁かな?」
「へー、そうなんだ」
「前々から思ってたけど結衣はコミュ力が高いな。昨日初めて雪乃ちゃんに会ったのにあだ名で呼べるなんて」
「そうかなー」
「そうだよ。武内もそう思うよな?」
「・・・・・・」
「武内?」
葉山が武内の肩を叩くとビクッと身体を震わせて顔を上げた
どうやら今まで本当に気付いていなかったらしい
「大丈夫か?」
「いえ、少し考え事をしていただけです」
葉山がそれを聞き出すよりも前にチャイムが鳴った
「ヤバい、もうこんな時間か!」
「早く教室に戻ろう!」
「そうですね」
そして三人は急いで教室に戻った
「ふぅ」
どうにか先生が来る前に間に合った武内は他のクラスである二人が間に合っていることを祈りながら授業の準備をする
武内は授業中に私語はせずに授業内容にのみ耳を傾ける模範的な生徒であった
だが、今日は他のことを考えていた
それは由比ヶ浜結衣のこと
本人はクッキーを渡せたということで満足しているように見えるがそれは違うと思った
それは自分だけでなく葉山も感じていただろう
だからこそ、由比ヶ浜を焚きつけるような言動をしていたと武内は考える
だが、行き過ぎた協力は由比ヶ浜の邪魔にしかならない
けれど、このまま放っておけないのも事実だ
由比ヶ浜は、比企谷に何かお礼をして欲しい訳ではない
彼女が一番欲しいのはクッキーの感想なのだから
そんないじらしい彼女の気持ちを叶えてやりたいと思うのは自分が彼女の頑張りを間近で見ていたからだろう
つまりエゴだ
自分のやるべきことは決まった
あとは行動するのみ
悩むほどのことではなかったなと自笑しながら武内は自分の伝えたいことを考え始めた
比企谷八幡は絶体絶命の危機に瀕していた
理由は見当もつかない
友達のいない所謂ボッチな彼は
昼休みになると教室を抜け出し孤独なグルメを嗜んでいた
比企谷の前に立つ大男が現れるまでは
(ちょ、マジでヤバいって・・この人、眼力だけで人殺せちゃいそうだし、え?俺なんか悪いことしたけ?あ、存在していることが罪でしたね。すいません)
一人でテンパっている比企谷をよそに男は話し掛けてきた
「あの・・」
「ひゃいっ」
身体に響くようなバリトンボイス
それに対するは裏声
この時点で恥ずかしさが有頂天に達した比企谷は、もう一思いに殺してなどと考えていた
「私は武内と申します」
「は、はぁ」
自分の失敗をなかったかのように振る舞ってくれている彼は実は良い奴なんじゃないか?などと現実逃避をする比企谷
「貴方が比企谷八幡さんでよろしいでしょうか?」
「え?」
どうして自分の名前を知っているんだ?
そんな疑問から比企谷の警戒心は武内に対して強まった
「あの・・・どうして俺の名前を?」
「・・・由比ヶ浜結衣さんを知っていますか?」
「あ、はい」
「彼女から聞きました」
それを聞いた瞬間ーー
先日、由比ヶ浜からクッキーをもらったことを思い出した
(そういえば、あのクッキー・・好き人に渡したかったんだよな。本人は何故かテンパって誤魔化していたけど・・)
結局、依頼は有耶無耶になって協力してくれた報酬に比企谷がもらう形になった所まで思い出して固まった
(え?嘘?まさか由比ヶ浜の好き奴ってコイツなのか!?)
それが本当だとしたら現代版の美女と野獣である
しかし、それ以外に目の前の男との関りが見えてこない
残念なことに比企谷の交流関係は真っ白
漂白剤も真っ青な驚きの白さである
(もし、コイツも由比ヶ浜が好きで先日の件を目撃していたとしたら・・・\(^o^)/オワタ)
180㎝を超える筋肉質の男に勝てる訳がない
比企谷は本気で死を覚悟した
「あの・・隣に座ってもよろしいでしょうか?
「へ?」
あまりの突拍子のなさにキョトンとする比企谷
律儀に比企谷の返事を待つ武内
「あ、ど、どうぞ」
先に折れたのは比企谷であった
だって恐いんだもん
「失礼します」
比企谷から少し離れたところに武内は座った
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
沈黙が重い
一秒をこんなに長く感じたのは生まれて初めてかもしれない
などと気を逸らさなければ胃が死んでしまう程、比企谷は追い詰められていた
「あ、あのー・・」
「由比ヶ浜さんから貰ったクッキー美味しかったですか?」
「へ?あ、ま、まぁ・・・」
アレを手作りだと聞いた時の衝撃は今でも忘れない
それくらい比企谷にとってあのクッキーは美味しかった
「出来れば貴方の素直な感想を彼女に伝えてくれませんか?」
武内の熱の籠った瞳が比企谷を見詰める
この男の言葉に裏表がない
そう感じる程、真っ直ぐした目をしていた
だからだろうか?
捻くれた考えの一つも浮かばないのは・・・
「・・・どうして?」
出てきたのは、純粋な疑問
その問いを待っていたように武内は薄く笑う
「由比ヶ浜さんが喜ぶからです」
それは慈愛を感じさせるような優しい笑みだった
「・・・俺なんかの感想で・・ですか?」
「いいえ、貴方の感想だからです」
力強く断言すると武内は立ち上がり、頭を下げて去っていった
その場に残された比企谷は、ぼーっと彼が去っていくのを眺めていた
「貴方の感想だからです・・・か」
武内から告げられた言葉は比企谷の心に重く突き刺さっていた
何故なのか
その理由から目を背けることは今の自分には出来そうにない
そんならしくないことを考えながら空を見上げた
今日は雲一つない快晴だ
休み時間に利用していたベンチに座り葉山と由比ヶ浜は話していた
「雪乃ちゃんに頼めば3割くらいの確率で奉仕部に入部できると思うけど」
「めっちゃ低い!?」
「まぁ、1年前に比べれば随分マシになったと思うよ」
「隼人君・・ゆきのんに何したし」
「はは・・まぁ、色々とね」
ジト目で葉山を睨むが笑って誤魔化す
由比ヶ浜も必要以上には、踏み込んでこない
葉山にとっては、もう過去の出来事
だから、話してしまってもいいと考えてもいるが、自分から黒歴史をひけらかす趣味はないので話を戻す
「で?どうする?」
「うーん・・遠慮しとく」
「いいのか?」
葉山の問いにしっかりと頷いて答える
「ヒッキーとは関係なしにさ。面白そうだなぁーって思ったの
。だから、自分で入部届を出したいんだ」
そう言って笑う由比ヶ浜を見て嬉しくもあり寂しくもあった
これが娘の成長を喜ぶ父親の気持ちかな?
なんて馬鹿げた感傷に浸りながら葉山は由比ヶ浜のことを見送った
その日の放課後
比企谷は奉仕部に向かっていた
その足取りは、いつもより重い
原因はわかっている
昼の件だ
ただ、踏み出すことに躊躇している
比企谷にとって由比ヶ浜は天敵のような存在だから
彼女の行動や言動から期待しそうになる
自分に好意があるんじゃないかって
そうやって自分勝手に期待して数え切れないほどの傷を負ってきたというのに・・
「っ」
自然と拳を握り締めていた
もし、クッキーの感想を告げて由比ヶ浜が喜んだら・・・
「・・・・・・はぁ」
悩むくらいなら止めてしまえばいい
諦めれば由比ヶ浜に期待することも失望することもない
そう思う
それが正しい選択だ
だがーー
「!」
目の前を歩く由比ヶ浜を見つけた時、比企谷は少しだけ歩く速度を上げていた
「・・・・・・」
これが答えなんだろう
どれだけ考えを巡らせて否定しようと身体は正直に動く
そんな自分の間抜けさに気付いた彼は、諦めたように深い溜息を吐いた
そしてーー
「由比ヶ浜!」
大声を出して呼び止めた
廊下に他の生徒の姿がいたのなら絶対に出来ないことだ
随分とらしくないことをしたものだと自分自身に呆れ果てていた
「え?ヒッキー?」
振り返った由比ヶ浜は驚いたような顔をしていた
比企谷自身も自分らしくないと思っていたのだから当然だろう
そうだ
俺は、こんなキャラじゃない
けど・・少しくらい自分に素直になってもいいと比企谷は思った
『由比ヶ浜さんが喜ぶからです』
きっと、あの男の真っ直ぐさに当てられたのだろう
比企谷は苦笑を浮かべて前へと踏み出した
「ゆ・・由比ヶ浜」
「は、はい」
緊張から声が上ずりそうになる
それが相手にも伝わっているのか由比ヶ浜は自分の髪を触ったり視線がキョロキョロと落ち着きなく動いていた
それが小動物を連想させて肩の力が少しだけ抜けるのを感じる
心の中で由比ヶ浜に礼を告げると比企谷は、ゆっくりと口を開いた
「あの・・さ、あのクッキー・・・美味かった」
あれだけ勇気を振り絞って取った行動から出てきた言葉は、それだけ
自分の気の利かなさに比企谷は絶望した
これでまた一つトラウマが増えるかもしれない
そんな考えを振り払うように由比ヶ浜は比企谷に詰め寄った
「え、お、ちょっ」
あと一歩踏み込めばキスできる距離に美少女がいる状況にテンパらない程、比企谷は鉄の心を持っていない
そんな比企谷の心境など知らない由比ヶ浜は目を輝かせていた
「ねぇねぇ!本当に美味しかった?」
「お、おう・・・美味しかった・・です」
「そっか・・そっかぁ!」
「ーーーー」
気の利いたことは、何も言えていないのに・・
ただ、美味しかったと言っただけなのに・・
目の前の少女は笑った
花のように美しく温かな笑顔で・・・
「・・・・・ぁ」
ぽたり、ぽたりと水面に落ちる水滴の様に彼の心を波打つ
それが何なのかわからない
けれど、嫌じゃない
比企谷は、それを受け入れた
同時に心に明かりが灯る
それはーー
まるで優しい春の日差しに似ていた