やはり葉山の親友が武内Pなのは、間違っているだろか 作:阿保パンマン
それから一週間ほど、三浦たちは戸塚の練習に付き合った
それは戸塚のプレーの長所と短所、癖などから適切な練習を記載したノートの作成に時間がかかったからである
奉仕部は欲しいものを与えるのではなく、欲しいものを手に入れる手段を与えることが目的の為、長期間の依頼は殆どない
つまり、今回のような依頼はイレギュラーだ
しかし、依頼を達成することは、できた
戸塚は実力と共に自信を身につけて今ではテニス部のキャプテンとして奮闘している
それ以降、武内と葉山は、特に奉仕部と関わることもなく、普段通りの日常に戻った
そしてーー
あっという間に試験期間と職場見学が過ぎていき、6月も半ば
葉山と武内は男二人で東京BAYららぽーとに来ていた
休日ということもあり周りは家族連れやカップルの姿が目に付く
野郎二人で歩いている組み合わせなど殆どいない
そんな灰色だか薔薇色だかわからない青春を謳歌してる二人だが目的がなく来た訳ではない
ちゃんとした理由がある
6月18日が誕生日の由比ヶ浜にプレゼントを買う為だ
「由比ヶ浜さん・・何をプレゼントされたら喜ぶでしょう?」
「女子の感性は女子にしかわからないからな・・・」
「三浦さんは・・・」
「用事があるって断られたよ」
「・・・でしたね」
途方に暮れている男二人の姿は傍目から見て涙がにじみ出る程、憐れであった
「あれ?隼人じゃん」
そんな憐れな二人組に声をかけたのは、どこか雪ノ下の面影を感じる美女であった
「あ、陽乃さん」
「こんな所で会うなんて偶然だね。何?買い物?」
「あぁ、友達の誕生日プレゼントを買いに来たんだ」
「そっちの彼は・・・隼人のボディーガード?」
「いえ・・葉山さんの友人です」
「そんなのわかってるよー」
けらけらと笑いながら武内の背中を叩く陽乃
自分がからかわれていることに気付いた武内は首に手を当てて困った顔をしていた
「陽乃さん。あんまりからかわないでやってくれ武内が困ってるだろ」
「へぇ・・もしかして君が隼人を変えた子なのかな?」
「・・・いえ、自分は何もしていません」
そう告げると陽乃の関心が武内から薄れて行った
けれど、それを表には出さずに笑っている
雪ノ下陽乃の一端が垣間見えた
「葉山さん自身が変わろうと決意したからこそ今の葉山さんがあるんですから」
「ーーーーふーん」
この男は嘘を言っていない
本当に葉山自身が変わろうと決意したから今があるんだと本気で思っている
だからこそ、男の言葉に騙された
そしてーー間違いない
つまらなかった葉山隼人という人物を変えた魔法使いは、この男だと陽乃は確信した
「君、名前は?」
「葉山さんの友人の武内です」
「私は雪ノ下陽乃」
そう言って春乃は手を差し出した
その手を武内が握る
「これからよろしくね」
「はい。よろしくお願いします」
二人は固い握手を交わした
固く・・固く・・・
まるで肉食獣が獲物に食らいついた時のように・・・
「え?雪ノ下さんって雪ノ下さんのお姉さんだったんですか?」
「本当に気付いてなかったんだな」
まぁ、雪乃ちゃんと雰囲気が全然違うから気付かなくても仕方ないか
正直、俺も初めて二人に会った時は信じられなかったし・・と葉山は思う
「というかどっちも苗字だとわかり辛いんだけど・・・」
「それは・・話の内容から読み取ってください」
「はいはい」
それから由比ヶ浜の誕生日プレゼントを探していると雪ノ下と比企谷の姿を目撃した
「あれは・・・」
「嘘・・だろ?」
二人の顔が強張る
由比ヶ浜の気持ちを知っている二人にとって正直、認めたくない光景であった
「これは・・由比ヶ浜さんに報告した方がいいんでしょうか?」
「いや、色恋沙汰に俺達みたいな外野が騒ぐと碌なことにならない。ここは何も見なかったことにするべきだ」
「し、しかし、どうせ知ることになるなら早い方が傷は浅く済むかと・・・」
「う、た、確かに・・」
どちらも由比ヶ浜のことを思っての発言であるからこそ中々、決められない
二人で顔を合わせて悩んでいる所に声をかけられた
「葉山君に武内君、こんな所で何をしているの?」
「「あ」」
この展開にデジャブを感じながらも、二人は目線で合図を交わした
「俺達は結衣の誕生日プレゼントを買いに来たんだよ」
「お二人はーーデートですか?」
直球すぎるだろぉぉおっ!!と心の中でツッコミを入れた葉山の相方は石像のように固まっていた
どうやら言うつもりは、なかったらしい
「武内君」
とびっきりの笑顔をした雪ノ下が武内の名前を呼ぶ
何故だろう?
その笑顔に恐怖を感じるのは・・・
「貴方で今日・・二度目なの」
それが何を指しているのか女心のわからない武内にも理解できた
葉山が目線で助けを求めるも比企谷は目をつぶり首を横に振る
諦めろ
「貴方の矮小な脳みそでもわかる様に説明してあげるわ」
更に深い笑みを浮かべる
その姿は天使のように見える悪魔であった
それから雪ノ下と比企谷が恋人どころか友達ですらない赤の他人に等しい同級生であることを論理的に語られた
武内以上に外野の比企谷が目も当てられない程、ボロボロになっている
そんな惨劇を生み出した張本人はスッキリしたのか晴れやかな顔をしていた
「私と比企谷君のプレゼントは今、伝えた通りよ」
「・・・ありがとう。参考になったよ」
先程の惨劇を間近で見ていた葉山は生まれたての小鹿のように足がプルプルと震えている
それでも雪ノ下と普通に話している葉山のコミュ力は流石の一言に尽きる
「ねぇ・・一つ良いかしら?」
「何かな?」
「貴方は他人ごと世界を変えられると思う?」
唐突に
そんな荒唐無稽な問いを雪ノ下は投げかけてきた
からかっているのかと思い葉山は雪ノ下に目線を向ける
「・・・・・」
そこには真剣な眼差しで葉山を見詰める一人の少女がいた
雪ノ下は本気で聞いている
だからーー
「出来る」
断言した
それが葉山隼人の本心だから
「・・・理由を聞いてもいいかしら?」
「自分が変われば、世界が変わることを知っているから」
葉山は再び断言する
その言葉に雪ノ下は目を見開いて驚いた
けれど、すぐに何か納得した様に小さく頷いた
「・・・そうね。だから、今の私達の関係がある」
「・・・あぁ、そうだ」
雪ノ下は、チラリと武内を見る
自分が抱いている感情が何なのか理解している
だからこそ、認められない
そんな自分自身の可愛げのなさに苦笑する
「そろそろ、帰るわ」
「一人で大丈夫か?」
一人で帰ろうとする雪ノ下に葉山は声をかけた
「あら?もしかして私に気があるのかしら?」
「気になりはするさ。雪乃ちゃんは方向音痴だからね」
「帰り道がわからない程、酷くはないわ」
「そうかな?」
「そうよ」
そうして二人は笑った
可笑しかったから
どこか似ている自分たちが昔よりも軽口を言い合える関係になれたことが
「・・またね、葉山君」
「あぁ、また」
短い別れの言葉を告げ、雪ノ下は歩き出した
その様子を葉山は眺める
変な方向に進まないか少し心配だったから
けれど、雪ノ下は迷うことなく確かな足取りで進み続ける
どうやら強がりを言っていた訳ではないようだ
「通った道なら迷わない・・か」
誰に向けるでもなく葉山は呟いた
その表情は、どこか不安げであった