残ってるネタ、無惨とか童磨とかですし。
今年最後の投稿です。
竈門禰豆子の日光克服から、産屋敷家の勅令で始まった柱稽古。
基礎体力や柔軟性の向上、太刀筋の矯正や無限打ち込みなど、下手な鬼を狩るよりも過酷な修練に、炭治郎ら隊士たちは血反吐を吐く思いで食らいついていた。
風柱と衝突したり水柱がひと悶着起こしたりと、あらゆる意味で衝撃の出来事が続いたが、それは嘴平一子にとっては些細なことで、正直伊之助以外に興味はなかった。
そんな中、一子は産屋敷邸に訪れ、人知れず泊まりたいと嘆願した。
「理由を聞いていいかな?」
「単純な話。御陀仏無惨の力を少しでも削ぎ、親分のケガを一つでも減らすためだ」
未だに無惨のことをうろ覚えしている一子に、耀哉は相変わらずの微笑みを浮かべ、傍に控えた奥方達は吹き出しそうになるのを堪えた。
「奴はおそらく、お前たちを自らの手で殺すことにこだわるだろう。それを利用し、やってきたところを血祭りにあげる」
「単純明快だね。でも君だけの手で殺せるほど、鬼舞辻は甘くないよ」
「承知している。だが消耗はさせられるだろう? 上限に差異があるだけで、物事には必ず限りがある。体力が無限であるなら、焦る必要もないはずだ」
それが、一子の見解だった。
本当に無限の体力であるのなら、単身で真っ正面から殴り込んでも勝機は十分ある。無惨はそんな人喰い鬼どもの頂点であり最強の存在であるのなら、とっとと正面突破すればいい。それをしないというのは、無惨自身が臆病な面もあるが、やはり何らかの限界があるということなのだろう。
そう考えれば、本来なら愚策と言える長期戦の方が、存外有利に戦えるのかもしれない。現に一子という強力な手札がある以上、正気さえあれば多少無理をする価値はある。
「それに、お前の声は人を容易く扇動できる。士気を上げるのも立派な戦術だ、その一声で如何なる窮地でも隊士たちが奮い立つ」
「……!!」
「囮は俺が担う。一騎打ち……それか二対一までなら問題ない」
一子は口角を上げて宣言する。
彼女の雷撃は上弦にも相当なダメージを与えるため、無惨にも有効なのは想像に難くない。仮に大した効果は得られずとも、蓄積していけば影響は出るだろう。
それに、狛治もとい元上弦の参・猗窩座との死闘を経験して、一子はさらに強くなった。柱稽古の間は日暮れから翌朝まで休みなしで狛治と組手しており、動きのキレも増し磨きも上げた。無惨の撃破は不可能であっても、足止めや時間稼ぎには十分だろう。
「俺はお前らの悲願に興味はないが……ここまで付き合ったんだ、最後まで戦う」
「そうか……とても義理堅い子なんだね、君は」
「親分限定だがな」
一子の伊之助への揺るがぬ忠誠心に、耀哉は表情を綻ばせた。
*
三日後。
産屋敷邸でその時を一子は待ち構えていた。
(親分には叱られてしまうかもな)
息を殺し、その時を待ち構える。
実を言うと、昨日の夜に一子は悲鳴嶼と共に産屋敷邸へ呼び出され、数日以内に鬼舞辻が襲撃してくる」と伝えられたのだ。その際に無惨の注意を自分に向け、一瞬の隙を突いて鬼殺隊に協力する鬼・珠世が開発した薬を打ち込み、決戦を挑むという作戦が伝えられたのだ。
そして、彼の言葉通り、あの男が洋装で外套を羽織りながら余裕綽々といった様子で現れた。
「……初めましてだね、鬼舞辻……無惨……」
「……何とも醜悪な姿だな、うぶ――」
「〝万雷太鼓〟!!」
ガンッ!!
「や゛っ!?」
何といきなり雷の如き速さで一子が特攻、無惨の頭を豪快にフルスイング。
意識が完全に病魔に侵された鬼狩りの首領に向いていた鬼の首領は、モロに直撃を受けてしまい、壁を突き破っていった。
綺麗に決まった不意打ちに、産屋敷家は勿論、隠れていた悲鳴嶼や珠世も唖然とした。
「……お前が御陀仏無惨か? 成程、死人みたいに青白い顔だな」
棍棒で肩を叩きながら、一子は無惨が吹き飛んでいった方向へ目を向ける。
すると凄まじい速さで肉の触手が襲い掛かり、一子の腹に直撃したが、彼女の肉体の異常な耐久性を無残が把握しているわけもなく……。
「捕まえたぞ」
バリバリィ!!
「ぐわっ!!」
一子は触手を鷲掴み、放電。
高圧電気が無惨を襲い、内部にまで損傷を与えていく。
「……どうだ、いい寝覚めだろう」
放電を止めると、無惨は口から黒い煙を出しながらも睨め付けた。
ただ、放電のせいでせっかくの洋装もあっという間にボロボロになり、局部以外が露出するというかなり際どい出で立ちに変貌。遠くから見守っていた珠世は吹き出しそうになった。
「貴様……猗窩座を寝返らせた小娘か!!」
「嘴平一子だ。狛治が世話になったようだな」
雷撃を纏う忠義の鬼と、長きに渡り常世に君臨する鬼の始祖が、様々な感情を孕んだ目で見つめ合う。
だが、一子の雷撃で際どい出で立ちになった無惨の姿がどうしても気になり、別の意味で腹が痛くなりそうだ。
「御陀仏無惨、年貢の納め時だ。千年に及ぶ悪行の数々は、この嘴平一家が成敗してくれる! 禰豆子には指一本触れさせない!」
「鬼舞辻だっ!! ――禰豆子の隠し場所に随分と自信があるようだな」
「当然だ、俺ですら知らないからな」
ニッと不敵に笑う一子に、無惨は「誇れることではないだろう」と呆れ返った。
「御陀仏無惨、貴様は何が目的だ。人の命をあんなに奪ってでも成し遂げねばならないことは何だ」
「……下らぬ問答だな……一言で言えば不滅だ。私は永遠になる」
「不滅?
驚く一子に、無惨はさらに驚いた。
不滅や不変、永遠というモノに、不死身であるはずの鬼が「どうでもいい」と言っているのだ。不死身であることを誇り人間を侮蔑する鬼は無数にいるのに、目の前の鬼女は全く正反対のことを言っている。
――どういうことだ? 何が言いたいんだこの女は!?
冷静を装いつつも、無惨は混乱していた。
そんな彼に答えるように、一子は口を開いた。
「大事なのは、
人は、生きる上で色んなものを背負う。
誇りや責務、大切な人や居場所……それらを背負ってこの世に生まれ、生きていき、そして死ぬ。
一子は伊之助と出会い、その恩義に報いることを信念とし、伊之助への誓いを背負って生きている。一子の原動力と言える感情なのだ。
「……下らないな。そんなものに何の価値もない」
「価値があるかどうかは、背負った当人が決めるものだ。臆病者の貴様の物差しで測れるほど、単純なモノじゃない」
一子はそう言って触手を引き千切り、雷撃を飛ばす。
しかし、そこは鬼の首魁。無惨は紙一重で躱し、触手を増やして一子を八つ裂きにせんと高速で繰り出す。
だが、それすらも一子は上回る。
「的を増やすだけだぞ!! 〝全集中〟――〝天満大自在天神〟!!!」
一子は棍棒に雷撃を纏わせて振るい、無数の雷撃を飛ばした。
祟り神で神仏習合した雷神の名を冠する技は、鬼にも有効な雷撃を扇状に拡散させ、躱しきれない無惨は見事なくらい受けまくった。
肉体を徹底的に鍛え上げ、感覚を研ぎ澄ませていた狛治より弱いんじゃないか? ――一子は内心、無惨が本当に強いのか怪しく感じてしまう。
そして、その隙を突いて、悲鳴嶼が躍り出た。
「南無阿弥陀仏!!」
念仏を唱え、分厚い手斧と大きな棘鉄球が長大な鎖で繋がれた日輪刀――果たして日輪刀と言えるのだろうか――を振るうと、超重量も相まって無惨の体を大きく抉った。
「柱か!!」
息を潜めていた敵がまだいたことに、無惨は歯噛みする。
さらにそこへ、無惨の目に肉の種子が飛び込み、瞬く間に無数の棘が突き出た。
――一体、誰の血鬼術だ……!?
一子に集中してしまった無惨は、一体何事か判らないまま、吸収して体勢を立て直そうとしたが……。
「珠世!?」
何とここで、無惨と浅からぬ因縁がある珠世が決死の特攻。
腕を深々と無惨の肉体に埋めた。
「吸収しましたね無惨、私の拳を! 拳の中に、何が入っていたと思いますか?」
「!?」
「鬼を人間に戻す薬ですよ! どうですか、効いてきましたか?」
「そんなものできるは――っ!?」
刹那、無惨は触手を使って珠世の腕を切断した。
その直後、彼の頭上から雷を纏った棍棒が振り下ろされた。
珠世の腕を吸収した隙を突き、渾身の振り下ろしを一子が仕掛けたのだ。
「くっ!」
「ちっ……」
振り下ろしが不発し、一子は舌打ちする。
それと同時に、四方から怒りの形相で柱たちと炭治郎が斬り込んできた!!
「お館様ァ!!」
「無惨だ!! 鬼舞辻無惨だ!! 頸を斬っても死なない!!」
不俱戴天の仇の名に、一瞬強張ったかと思えば、一気に怒気と殺意に満ちた。
それぞれが一太刀で鬼を屠る技を放つが、それと同時に足下に障子が現れ、無惨も含めて全員が落ちた。
「っ!! みんな――」
「お館様は、そちらへ!!」
思わず手を伸ばす耀哉だが、炎柱の杏寿郎が笑顔を向けた。
自分達の心配は無用だと、口角を上げている。
「これで私を追い詰めたつもりか? 貴様らがこれから行くのは地獄だ!! 目障りな鬼狩りども、今宵皆殺しにしてやろう!!」
「地獄に行くのは貴様だ、御陀仏無惨!! 我ら嘴平一家が、千年に及ぶ因縁に終止符を打つ!!」
「鬼舞辻だと言っているだろう!!!」
無惨の怒りの叫びと共に、鬼狩りたちは鬼の始祖の根城――無限城へと突入したのだった。
【大正コソコソ噂話】
ちなみに寝返った狛治さんや鬼になった獪岳は、伊之助達と一緒に突入しています。
天元様は原作通りなので、原作の面子に加えて健在の杏寿郎もいるので、原作よりかは楽かな?