鬼舞辻無惨の根城・無限城に突入した鬼殺隊。
戦力は散り散りとなり、苦戦が強いられるかと思われたが、それは今までの鬼殺隊ならの話。
今の鬼殺隊は、嘴平一子と元上弦の参という巨大な戦力を有し、無惨達に猛威を振るっていた。
「〝万雷太鼓〟!」
棍棒を振るい、次々と異形の鬼達を撃破していく一子。
親分と慕う伊之助の暴走ぶりに負けず劣らずの進撃で、次々と部屋ごと敵を破壊していく。
「む……?」
ふと、襖や障子だらけの空間に、異彩を放つ重厚な扉が視界に入った。
その扉からは、強い気配を感じる。おそらく、敵方の大物――上弦の鬼がいる。
(親分には御陀仏無惨の頸を捧げるからな……その邪魔となる存在は消しておくか)
棍棒に雷を纏わせ、渾身のフルスイングで〝鳴神〟を炸裂。
雷撃は矢のように飛び、扉を豪快に破壊した。
「どこだ、上弦の鬼!」
「一子、さん……!?」
棍棒片手に殴り込む一子の目の前には、吐血して膝をつく蟲柱・胡蝶しのぶの姿が。
その先には、上半分が黒焦げになった謎の物体が。
「……蟲柱か? 大丈夫か?」
「ええ……おかげで助かりました」
「親分も世話になってるからな。――それで、お前は何者だ」
一子はしのぶからもう一人の方へ目を向ける。
いつの間にか黒焦げの部分は消えており、目の前には頭の上に血を被ったような模様がある白橡色の長髪の男がいた。虹色の瞳にはそれぞれ「上弦」「弐」の文字が刻まれており、鬼の中の最上位・上弦の弐であるのがすぐにわかった。
「上弦の弐……願ってもない相手だな」
「えっと、もしかして君……猗窩座殿に負けた鬼だよね?」
「猗窩座ではなく、狛治だ。口の利き方に気をつけろ」
棍棒を構える一子に、上弦の弐・童磨は興味深そうに見つめた。
この鬼の娘が、俺の一番の親友を――
「いやぁ、俺は悲しいよ」
「悲しい?」
「一番の友人だったのに、俺やあの方を裏切ったんだ。悲しくないわけがないだろう? 本当に……悲しい」
一子の前で、童磨は涙を流し大仰に悲しんでみせる。
が、一子はそれが上辺だけのものだと見抜いていた。
「何も感じないなら、無理に泣かなくてもいいだろう」
「……え?」
「顔色も仕草も何一つ変わってない。鬼という点では俺も同じだから、自分が鬼だからという言葉は通じないぞ」
童磨は、何も感じない。
高すぎる知性ゆえか、それとも他の原因があるのか、彼は生まれつき共感性はおろか感情や情緒が完全に欠落しており、あらゆる物事に対して何も感じることがないために喜怒哀楽があるように振舞っていた。
それを同族に見抜かれるなど、何という皮肉だろうか。
「……だが俺はお前を詮索する気はない。生きてれば色々あるからな」
「……そっか」
「お前達が常夜に君臨する時代はもう終わりだ。せめてもの手向けに、全力でお前を倒す!」
雷撃を纏わせた棍棒を構えると、一子は霹靂一閃すら上回る速さで殴りかかった。
童磨は紙一重で躱したために掠る程度で済んだが、その衝撃は凄まじく、足場の一部が崩れてしまった。童磨自身も、掠ったからか耳が抉れてしまっているが、上弦の再生力ですぐ元通りになる。
「速いね君。そこの柱の女の子の倍以上はあるかな? 鬼だからだろうけど」
「さすがに真面には食らわないか」
落雷の如き高速にも対応できる童磨に、一子は顔を顰める。
その隙に童磨は扇子を振るって冷気を発生させ、〝
一子は棍棒を豪快に何度も振るい、その風圧で押し返す。凍える風はうまい具合にしのぶを回避した。
「おっ、やるね。じゃあ次はどうかな? 〝
続いて、童磨は蓮を模した氷の蔓を四方八方から伸ばす。
蛇のように踊りながら襲いかかるそれを、一子は躱したり棍棒で弾いたりして捌いていく。
「棍棒は刀よりも隙が大きいし、格好も戦いづらそうに思ってたけど、意外と器用だね!」
「それは褒め言葉と受け取ろう」
すると一子は全身に雷撃を纏わせ、攻勢に出た。
(接近戦の対策かな?)
全身を雷が覆えば、触れただけで感電する。
接近戦に持ち込んで短期決戦を仕掛けるつもりだと見抜き、童磨はすかさず〝
「そんな子供騙しが……!」
一子は両手持ちで棍棒を振るい、一撃で冷気の煙幕を薙ぎ払った。
「おぉー! すごいや、力押しか。でも……一手足りないなぁ」
「っ!?」
一子はふと、童磨を模した氷人形に挟まれていることに気づいた。
〝
「危ない!!」
「〝
しのぶが叫ぶと共に、童磨は扇子を振るうと共に細かな蓮華の花弁状の氷を発生させた。
広範囲の切り裂き攻撃――ましてや四方を囲まれた状態で放たれれば、いかに異常な耐久性が取り柄の一子とて無事では済まない。全身をズタズタに引き裂かれるだろう。
が、一子は怯むことなく全集中の呼吸を発動。棍棒に纏わせる雷撃を強化させた。
「〝全集中
地面に棍棒を突き刺し、雷撃を周囲に走らせる。
〝雷棍棒・電界〟の強化版だ。自信を中心に四方へと放たれる雷撃は、次々と分身体を貫いて破壊し、童磨自身も感電させた。
「ゲホッ!」
口から黒い煙を吐き出す童磨。
今なら仕留められる! ――そう判断した一子は跳び上がり、棍棒を振り上げた。
「〝嘴平神楽・霹靂神〟!!」
ドォン!! バリバリッ!! ゴロゴロゴロ……!!
雷撃を纏わせた棍棒を、童磨の脳天目掛け振り下ろす。
直撃と共に落雷の轟音が部屋に響き、衝撃の余波で壁に亀裂が生じた。
頸を刎ねずとも、これにはさすがの上弦もタダでは済むまい……そう判断した時だった。
ズバッ!!
「ぐっ!?」
一子の身体が切り裂かれ、血が滲み出た。
傷口を押さえながら一子が振り返ると、その先には童磨がいた。
「いやぁ、スゴいね……雷は効くなー」
常に朗らかに笑っていた童磨だが、一子の雷撃は効いているのか、真顔に近い表情を浮かべえていた。
「くっ……中々しぶといな……」
「でもこれ以上君と戦う義理はないから、後ろのしのぶちゃんごと始末してあげるよ」
「……フフッ……」
本気を出した童磨に、一子は肩を震わせて笑った。
気でも触れたかと首を傾げながら童磨は尋ねると……。
「嘴平一家を舐めるなよ。〝花形〟の登場だ」
ドゴォン!!
「どぉありゃアアアア!!! 天空より出でし伊之助様のお通りじゃあアアア!!!」
「「「!?」」」
「親分っ!!!」
突如として天井がぶち破られ、そこから伊之助が降ってきた。
凄まじい精度を誇る触覚で、一子と鬼の居場所を探し当てたようだ。
「師範っ!」
「カナヲ……!」
それと共に、開いた穴から側頭部の片側のみで結んだ髪を垂らした剣士が降り立った。
どうやら師範を捜索している最中に伊之助と合流したようだ。
「大丈夫ですか!?」
「ええ……一子さんが駆けつけたおかげで何とか」
嘴平一家と胡蝶姉妹――一対一がいつの間にか四対一となり、童磨は「御馳走も多いけど邪魔者も増えちゃったな」と暢気に笑っている。
そんな彼が目に留まったのか、伊之助が猪頭越しに童磨を見た。
「んんー? んんんー? 弐!! テメェ上弦の弐だな、バレてるぜ!! テメェが上から二番目だってことを俺は知ってる! テメェを倒せば俺は柱だぜ!!」
「別に上弦の弐だってことは隠してないけど……面白い子が来たなァ……」
今までに会ったことのない鬼殺隊士に、童磨は若干引いた。
「俺が柱になったら呼び名は野獣柱……いや猪柱か!? 一子、どっちが良いと思う!?」
「語呂を考えて、
「悪くねェな!」
伊之助と一子は、それぞれ得物を構え、童磨を睨んだ。
「行くぜ! 柱への道を駆け上がるぞ!」
「はい!」
伊之助と一子は同時に駆け、童磨相手に接近戦を仕掛けた。
「うりゃああああ!」
伊之助は関節を全て外した腕を伸ばし、〝
一瞬で関節を外した伊之助に、しのぶとカナヲだけでなく、童磨もギョッとした。
「親分、俺の雷を!」
そこへ、一子が伊之助の日輪刀に触れ、雷を注ぎ込んだ。
雷は日輪刀だけでなく伊之助の体にも伝導し、伊之助の身体からバリバリと稲妻が迸った。
「グワハハハハ!! 俺様はこいつの雷を何千回と浴びてるからな!! この程度の感電は屁でもねェぜ!!! まさに雷獣ってわけだァ!!!」
「カッコいいです、親分!!」
伊之助は誰よりも一子の雷撃を浴びているため、その影響で体が感電に対する耐久性が常人を遥かに上回っている。ゆえにこんなデタラメな戦法を可能とし、度肝を抜く攻め方もできる。
一瞬で関節は外せるわ、二人仲良く雷を纏うわ……あまりにも衝撃的な光景を目にしたしのぶとカナヲは目を丸くしながら立ち尽くし、対峙する童磨も「メチャクチャだね……」と嫌な汗を流した。
「さあ、御陀仏無惨の頸を取るための踏み台になりやがれ!!」
「消し炭にしてやる!!」
己を鼓舞し、嘴平一家は斬撃と打撃、雷撃を畳み掛けるように浴びせ始めた。
(っ……面倒だなぁ)
猛攻を仕掛ける嘴平一家に、童磨は二対の扇で捌くが、撃ち合う度に自身へ流れる雷撃に顔を歪めた。
二対一でも、童磨は鬼としての理不尽な肉体と凶悪な異能で屠ってきたが、これほどまでに戦いにくいことはなかった。
決して慢心も油断もしていない。個々の実力ならば、明らかに童磨が上なのは明白だ。しかし一子と伊之助は互いに命を預け合い、主従関係を主軸とした絆による連携で、童磨と互角に渡り合っている。それどころか雷撃を纏うという小細工で徐々に押し始めている。
童磨は〝
まさに一進一退。異次元の戦いをする三人に、しのぶは歯痒かった。自分が鬼の頸を斬れるほどの技量があれば……!
「うをっ!」
「隙ありっ」
「甘い!」
ふと、戦局に動きができた。
一瞬の隙を突いた童磨が伊之助の猪頭を飛ばし、それに気を取られた伊之助の頸を刎ねようとしたのだ。が、一子が口から雷撃を吐いて童磨を感電させ、辛くも難を逃れた。
「親分、大丈夫ですか?」
「っぶね……おい、それ返せ!!」
「いやいや、返すわけないじゃん。これも君の戦法の一手なら、封じるに越したことはない」
猪頭を拾った童磨は、伊之助の素顔を見て何かを思い出したのか、「君のその顔、どこかで見たことあるなぁ」と笑った。
「あ? 何言ってやがるてめェ……俺はてめェのことなんて知らねェよ」
「親分、奴の挑発です。冷静に……」
「わかってるよ」
一子に諭され、苛立ちつつも伊之助は冷静に振る舞う。
戦いで冷静さを欠くことは、死に直結する。ゆえに相手の挑発に乗らず、感情は押し殺さねばならない。
すると童磨は不意に自身の指を頭に突き刺し、脳味噌を弄り出した。いきなりの奇怪な行動にギョッとする伊之助。一子も驚きを隠せず、しのぶとカナヲもドン引きしている。
そんな中、童磨はそうだ! と思い出したのか伊之助に向けて告げた。
「思い出したよ。確か十数年前かな……」
童磨は、ある昔話を始めた。
童磨は表向き、万世極楽教という宗教団体の教祖を務めており、駆け込み寺の主という顔もあった。
そんなある日、赤子を連れた一人の女性が救いを求めてやって来た。女性の名前は嘴平琴葉、赤子の名前は伊之助と言い、琴葉は夫の酷い暴力に耐えきれず赤子と共に逃げてきたという。
何と、童磨は伊之助とその母を保護し、共に過ごしていた時期があったのだ!
「あの子は頭は鈍かったけど、いつも赤ん坊の君を抱きながら元気よく歌っていて面白かったよ。寿命が来るまでは食べないであげようと思ったくらいにね。けど、頭は鈍いくせに勘が鋭くてね……」
琴葉はある日、童磨が信者の女の人を喰ってるところを――見てはいけないものを見てしまった。
人ではないと思うや否や、次に狙われるのは自分たちだと察してすぐに逃げ出し、追いかけた童磨は彼女を始末した。
ただ、その時一緒だったはずの赤子の伊之助は崖の上から川へと投げ落とされており、童磨はもう死んでると今日まで思ってたらしい。
「まさか赤子の時の君が川に落ちて生き残ってたなんて、運命としか言えないよね。大丈夫。琴葉はちゃんと骨の髄まで俺の中にいるよ」
「この腐れ外道……!!」
「っ……!!」
伊之助の壮絶な過去を知り、彼の母を喰らった元凶に憎悪が湧くしのぶとカナヲ。
だが、彼女たちよりもすさまじい怒りと憎しみを持ったのは、他でもない伊之助と一子だった。
「親分……本当に奇跡ですね、この巡り合わせは」
「そうだな、一子……」
凄まじい怒気を放ちながら、童磨を睨みつける伊之助と一子。
空気を震わせる程の迫力に、カナヲは思わず後退った。
「俺の母親を殺した鬼が……」
「親分の母上の仇が……」
鬼の形相で二人は立ち上がり、咆哮した。
「「目の前に居るなんてなァア!!」」
「……いや、君の方は関係なくない?」
かつてない激昂ぶりを見せる嘴平一家だが、その場にいなかった一子もキレたことに童磨は思わずそう呟いてしまうのだった。
次で童磨戦は終了なので、あとは無惨ですね。
今回の決戦は狛治がお労しい兄上のところに行ってるので、サクサク進みます。
ちなみに無惨は炭治郎・義勇・杏寿郎が、黒死牟は悲鳴嶼・獪岳・不死川兄弟・狛治・無一郎が、鳴女は伊黒・甘露寺・善逸が相手してます。他は原作通りです。