我が名、嘴平伊之助が子分・嘴平一子!   作:悪魔さん

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本作も残りわずか。
今回は短めに終わらせます。


第二十一話 童磨散る

 嘴平一家と、上弦の弐の死闘。

 親分子分の完璧と言える連携に、上弦随一の凶悪な血鬼術の使い手である童磨は、非常に手古摺っていた。

(うーん、これは参った……)

 顔には出さずとも、童磨は考えあぐねていた。

 

 伊之助と一子は、鉄壁の布陣で臨んでいた。

 血鬼術で冷気や氷の刃で翻弄しようとすると、伊之助が皮膚感覚で感じ取ってしまい、一子が離れたところから雷撃を放って相殺してしまう。近づいて金色の扇で斬撃を仕掛けても、鬼の中でも最上位の頑丈さが売りである一子が身体を張り、その隙に伊之助が斬りかかってしまう。

 逆に伊之助たちが攻勢に出れば、あまりに速く、あまりに鋭く、あまりに一体となった連撃が襲い掛かる。しかも床に足をつけると雷撃が伝導してくるため、氷の足場を作って空中から攻めるしかない。

 しのぶや一子との一騎打ちは余裕綽々だったが、伊之助が殴り込んで一気に戦況が変わった。

 

 ――まさか琴葉の子供が乱入しただけで、こうなるなんて。

 

 そんなことを思いながら、童磨は呆れた笑みを浮かべた。

(スゴい……師範を圧倒した上弦の弐と渡り合ってる……!)

 負傷したしのぶを介抱するカナヲは、二人の奮闘ぶりに圧倒されていた。

 すると、しのぶが咳き込んで血を吐き出しつつ、カナヲに声をかけた。

「カナヲ……」

「! 師範っ」

「今から言うことをよく聞いて……」

「……?」

 しのぶがボソボソとカナヲに耳打ちする。

 それを見ていた童磨は、そろそろ勝負を仕掛けると察し、扇を構えた。

「そろそろ勝負を付けないと怒られるからなぁ。君達の相手は()()()()にしてもらうよ」

 童磨は自らを模した氷の分身を十体作り出す。

 〝結晶ノ御子〟だ。

 下手をすれば鬼殺隊を全滅できる、文字通りの殺戮兵器。たった二人――実際は負傷したしのぶと介抱しているカナヲを含めて四人だが――を仕留めるためにしては過剰すぎる。それぐらい実力を警戒しているという意味でもある。

 だが、一子はそんな小賢しいマネを真っ向からブチ壊した。

「〝全集中〟!!」

「ん?」

「〝天満〟!! 〝大自在天神〟!!」

 

 ガガガガガガッ!!

 

 全集中の呼吸で肉体と血鬼術を強化した一子が、棍棒を振るって扇状に広がる無数の雷撃を放つ。

 横に広がる雷撃の雨に、次々と分身が砕かれていった。

「え、ちょっ、待って待って!! それ反則過ぎないかい!?」

 人形に攻撃しても童磨自身は傷つかないが、戦略的に仕留めるつもりだった童磨はまさかの展開に驚愕。

 初見殺しの反則級の血鬼術の使い手ですら、思わず反則と言ってしまった。それぐらい驚くべき事態なのだ。

 その時だった。

 

 ――ビュッ!

 

(日輪刀!?)

 童磨の目と鼻の先に、二振りの日輪刀が迫った。

 しのぶとカナヲの日輪刀だ。

 童磨は扇で容易く弾き返したが……。

「よくやった二人とも!」

「!?」

「〝奥義 嘴平神楽・降三世〟!!」

 跳躍した一子が脳天目掛けて振り下ろし、童磨を床が大きく抉れるくらいに叩きつけた。

 しのぶが日輪刀を投擲したのは、気を逸らすための囮なのだ。

 鬼殺隊士が刀を投げることはないという先入観が、僅かながら隙を与えた。それが童磨の命取りとなった。

「くっ……!」

「〝全集中〟!!」

「っ!!」

 童磨は上弦特有の凄まじい回復力で起き上がるが、その時には一子が棘を生やした棍棒を両手持ちで構えて迫っていた。

 

「〝()(らい)(てん)(じん)〟!!!」

 

 ドゴォンッ!!

 

 童磨に全身全霊の一撃を与える。

 渾身の一撃は上弦の肉体に凄まじい衝撃を与え、全身の骨が砕け、筋が裂けた。付随効果の雷撃も相まって、童磨は流血と共に白目を剥き、得物の鉄扇を落とした。

 あまりの衝撃に意識が飛んだのだ!

「親分!! 今だぁぁぁ!!」

 一子は叫ぶ。

 災厄との戦いで見出した、絶好の好機。これを逃せば、次はない。

 伊之助は迷わず特攻。二刀を構えた。

「〝獣の呼吸 陸ノ牙〟!!」

 二刀を童磨の頸に噛み合わせるように挟み込む。

 そして、全力で鋸のように動かし、童磨の頸を削っていき……!

「〝(らん)(ぐい)()み〟ィィィィ!!!」

 

 ザンッ! ゴトッ……

 

 上弦の弐の――童磨の頸が刎ねられ、床へ転がった。

「………え、うっそぉ」

 意識を取り戻した童磨は、頸が斬られていることに気づき、ぱちりと瞬きした。

 自身より弱いはずの、柱でもない隊士に、頸を斬られた。上弦の弐という、絶対的強者ゆえに信じがたい事実だ。

 ――こんな雑魚に負けるなんて。

「ハァ……ハァ……ハァ……」

 ゆっくりと振り返り、童磨の頸を見据える伊之助。

 身体は……再生しない。するはずもなかった。

 なぜなら、彼は何処までも空虚だから。

「あ~~、やっぱり駄目だ。何も感じない」

「……」

「死ぬことが怖くもないし、負けたことが悔しくもない。ずうっとこうだったなぁ、俺は」

 結局、人間の感情は自分にとって夢幻に過ぎなかった――童磨はそう独白した。

 強い虚無性を孕んだ性質である彼にとって、全てに何も感じないのだ。

 人に尽くし世の中に貢献して生きてきたと()()()()()()()男に、一子は言葉を投げかけた。

「……童磨。お前とは違う形で会いたかった」

「……え?」

 憐れんだ眼差しで告げる一子に、童磨は瞠目した。

「お前が親分の母上と共にいる時間が長ければ、こうはならなかったのかもな」

「……え? 何言ってるの君? 俺が琴葉に――」

「お前が自分の話をしていれば、時間が掛かっても折り合いはついたはずだろう」

 一子の言葉に、童磨はなぜか押し黙ってしまった。

 童磨は誰かのために生き、鬼になり、教祖として信者と向き合った。だが一度たりとも自分自身の話を信者にしたかと言えば、した憶えはなかった。

 気づけば、あれほど憎しみに満ちた眼差しだった伊之助も、涙を堪えていた。

 ボロボロと頸も肉体も灰と化していく中、童磨は笑った。

 

「……そうだね、琴葉になら言ってみてもよかったかもしれないなぁ」

 

 それが、上弦の弐の最期の言葉だった。

 

「……世界は残酷ですね、親分」

「……ああ」

 仇は取った。

 しかし、少しでも何かが違えば、生きながら空っぽである童磨も変われたのではないかと思えた。

 達成感よりも虚しさが上回った復讐劇は、幕を閉じた。

「……親分、まだ本丸があります」

「ああ……終わらせようぜ」

 猪頭を被り直し、気合を入れる。

 無惨の戦力は、無惨を含めて三人。戦力の一角を切り崩せば、あとは任せられる。

 今はまず、体力の回復に励むべきだ。

「……大事はないか」

「ええ……感謝します、伊之助君、一子さん」

「……因縁でもあったのか?」

「私の姉を殺した鬼ですから」

 しのぶは不器用に笑う。

 彼女の姉・胡蝶カナエは童磨によって葬られた。

 頸を斬れないしのぶは、鬼殺しの毒の研究に全てを費やすようになり、決戦に備え自身を毒の塊に変えてわざと喰われる形の玉砕を狙っていた。

 だが、一子が乱入したことでその目論見は崩れ、しのぶの命は救われた。生きて仇を取れるなんて、夢にも思わなかった。

「……これからどうする。御陀仏無惨に喰われに行くとか言わないだろうな」

「そうだぞ!! そういうことすっとカナヲ泣くぞ!!!」

「わかってますよ。これでも医者です、自力で解毒しますよ。……とはいえ、この状態では、戦闘はかなり難しいですね……」

 致命傷にまでは至らずとも、深手を負ったしのぶ。

 カナヲの介抱でどうにか出血を抑えたが、それでも油断できない。

「……伊之助君、一子さん、カナヲ」

「「「!」」」

 しのぶは三人を呼び、思いを託した。

「私はここまでかもしれません。生死というわけではなく、戦闘の可否に関してです。……ですので、私に代わって鬼舞辻無惨を討ってください」

「任せろ!! 山の王だからな!!」

「無論、御陀仏無惨は必ず倒す!!」

「……はい!」

 三人の返事を聞き、しのぶは満足気に微笑み、気を失った。

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